女王の決断
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第四章
「そしてフランス王に先立たれスコットランドに戻っています」
「はい、ですから」
「メアリー女王の復位は最早イングランドの後背にフランスの影を置くことになります」
「出来るものではないですね」
「そうしたことも考えますと」
それではと言ってだ、そして。
大臣達はだ、こう言った。
「一刻も早く死刑を執行しましょう」
「一日でも多く放置しているとそれだけ陰謀の危険がついて回ります」
「早くことを収めましょう」
「それがイングランドの為です」
「ジェームス様もそう望まれています」
ここで再びスコットランド王の名前が出た、現スコットランド王でありメアリー女王の子息である彼のことがだ。
「メアリー女王の処刑を」
「息子だというのにですか」
女王はその言葉を聞いて不機嫌を露わにさせた。
そのうえでだ、こう言うのだった。
「母親の処刑を」
「メアリー女王が処刑されればジェームス様は王位を安泰に出来ます」
「それにやはりジェームス様はプロテスタントですから」
最早スコットランドの主流となっている、というのだ。
「メアリー様がいなくなって悪いことはありません」
「ですから」
「そうですか、それにですね」
女王は言葉を続ける、スコットランド王が母親であるメアリー女王の処刑を望む理由は。
「私には夫も子もいません」
「そのこともですが」
「あの」
「そのことはまずはいいです」
何も言わない、それはいいとしての言葉だった。女王は周りの勧め懇願と言ってもいいそれにも関わらず結婚をしていないのだ。
だから夫も子もいない、即ち。
「私の次のイングランド王は」
「はい、ジェームス様ですね」
「あの方になりますね」
「王位継承権から言っても」
「そうなりますね」
「そうです」
女王はここでも難しい顔で述べる。
「本来ならば彼女の筈ですが」
「ですからメアリー女王は」
「もう」
「わかっているのです、ですから」
それでだと答えるしかなかった、今は女王も。
それでだ、こう言ったのだった。
「次のイングランド王は彼になるでしょう」
「そのこともありますから」
「ジェームス様も支持されています」
「それにサインもされていますし」
他ならぬ女王自身がだというのだ。
「もう他に手はありません」
「それ以外には」
「それでもまだ早いのです」
あくまでだ、女王は苦渋に満ちた顔で言うのだった。
「執行には」
「そう仰って十九年ですが」
「それでもなのですか」
「彼女が鳥であれば」
遂にだ、こうも言った女王だった。
「既に逃げているでしょうが」
「しかし女王は人でなければなれません」
「それだけは」
「そうですね、では」
項垂れることはなかった、女王としての誇りがそれを許さない。
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