女王の決断
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第二章
「その時ではありません」
「そう仰りもう十九年ですが」
「それでもですか」
「メアリー女王を処刑されないのですか」
「何があろうとも」
「それにです」
大臣の一人がだ、ここで言うことは。
「メアリー女王はスコットランドからも見放されています」
「既にスコットランドには王がいますね」
「はい、ジェームス様が」
他ならぬメアリー女王の息子だ、彼が既に王位にあるというのだ。
しかもだ、そのメアリー女王自身はというと。
「二度目の夫君ダーンリー様を暗殺されているではありませんか」
「当時の浮気相手であり三度目の夫君であるボスウェル卿と」
「それにより支持を失っています」
「しかもダーンリー様はイングランド王家の縁戚でした」
旧教徒だったがそうだったのだ、無論女王の縁戚でもあった。
「そうした方ですから」
「ですからもう」
「ここは処刑しましょう」
「これ以上あの方を生きさせたままだと危険です」
「例えスペインやフランスの存在があっても」
こう言う彼等だった、それでだった。
メアリー女王のサインをあくまで主張する、そして言うのだった。
「もう議会でも議決済みです」
「国民達も支持しています」
「ですからもう」
「ここは」
「サインですか」
苦い顔でだ、また言う女王だった。
「どうしてもですか」
「お願いします」
「どうか」
女王の前にあるサインを見ながら女王に願う、だがそれでも女王はサインはおろかペンさえ手にしようとしない。
そうした攻防が続いた、だが。
遂にだ、女王はこう言ったのだった。
「最早ですね」
「はい、そうです」
「もうです」
「このことは覆りません」
「延ばすことは出来ません」
どうしてもだというのだ、そしてだった。
女王もだ、遂にだった。
ペンを手に取った、愛用の羽根のペンだ。そこにインクを付けてから言った。
「わかりました」
「ではですね」
「今から」
「それしかないのですから」
こう言ってだ、遂にだった。
死刑執行のサインをした、だがサインをしてもだった。
苦渋に満ちた顔でだ、大臣に言った。
「サインはしました、しかし」
「執行自体はですか」
「まだですか」
「待つのです」
女王としての権威を出してだ、大臣達に言ったのである。
「よいですね」
「そうですか」
「それはまだ、ですか」
「サインをされましたが」
「それでも」
「まだです」
苦い顔で述べた言葉だった。
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