古の鉄の巨人を駆る他世界への介入者
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貴方はそこにいるんですか?
キョウスケはエクナに聖剣の二太刀を食らわせた後に部屋を出て早速準備をする事とした。相手は神殺しの力を持つ人間、それだけに用心するに越した事はない。キョウスケは様々な世界を行き来する関係上、様々な力の耐性を付けているがその中には神殺しの力の耐性も含まれている。その影響か、神の中でもダントツの神殺し耐性を誇っている。だからキョウスケはもう死ぬ事は許さない事になっている。永遠に神として生きていくしかないのだ。
「さて、神殺しの力を持つ人間。俺が出るほどの力とやらを見せて貰おう」
そう呟いてキョウスケは神殺しがいる世界へと転移した。
「着いたか」
キョウスケが目を開くと、そこはキョウスケが人間として生きていた時代と全く同じだった。車が走り、家が木のように大量にある。キョウスケは妙に懐かしい気分になった、何度もこのような世界には来ているが何故か懐かしいと感じた。
「ふぅ……そして何故俺は視線を集める」
キョウスケは取り合えず歩き始めると、周囲の人から視線を集めまくっていた。キョウスケは特別目立つような服装はしていないのだが、周囲の人たちの視線を集めている。女性、男性、様々な人達の目を引いていた。恐らく容姿の関係だと思われる、キョウスケはあまり気にしない方が得策と考えて無視して歩き続けた。
周囲は道路がそこいらじゅうにある良く見る風景といった感じだ。現代人としては極普通の風景だろう。そしてその一角にキョウスケは神殺しの力を感じ取った。そこへ一歩踏み入れれば田舎の道と言うものを連想させるほど自然が多くあった。そしてその奥へ進んでいくと墓地があり、そこから神殺しの力を感じ取った。
「此処か…」
キョウスケは墓地に入るにはこの服装だと不味いかと思ったが、急に服装を変えては怪しまれると思ってそのまま入る事にした。そこは普通の墓地だった。墓石が立ち並び線香の匂いが鼻につく、キョウスケも神として手を合わせた。そして神殺しの力が感じる方へと向かっていくと一つの墓地から強い力を感じた。
「これ…は…残留した力か。それにしても強い、さっきまで此処に居たのか。力の持ち主はここの関係者…っ!!」
キョウスケは墓石に刻まれている名前を確認すると目を大きく見開いた。ダラリと大きな汗を流し、身体がほんの少し震えていた。何故?ここまでキョウスケが驚いているのか、それは墓石に刻まれている何原因があった。
南武 恭介
と掘り込まれていたのだ。ここは自分の墓、エクナのミスによって死んでしまった自分の墓だと理解してしまった。唯それだけなのに、恐ろしかった。自分が死んでいると実感出来てしまったのだ。神になってから不死となってから感じる事が無かった己が感じる死の恐ろしさ。冗談にも程がある、何故こんな事で…恐れるのか…?
「落ち着け…落ち着くんだ…此処は…俺の墓…唯それだけの事だ、落ち着け…」
キョウスケは悪い冗談から覚めたいかの如く大きく深呼吸をして落ち着く、そして何故懐かしく感じるのか理解出来た。ここは自分が産まれた世界だ、ここで自分は育ち、生きて死んだ世界だ。それなら懐かしいと思ってもおかしくない。キョウスケは何故か花を作り出し、それを供えることにした。そして手を合わせた。
「(何を俺はやっているんだ…。この世界で死んでいる俺は俺だ、その俺は死んだ後に転生し神となって今此処に居る。なら、俺の祈りは何処に行くんだ、俺自身へと向く事になるのか?良く解らんものだ、元人間となった神の心とやらは…)」
キョウスケはそのような事を考えながら祈り続けた、何故かは解らないが祈りを続けた。神としてではなく、この世界で生きた元人間として。そんな祈っている最中、足音が聞こえた。それと水の音も聞こえた事からして墓参りに来たものだろうか。その音はキョウスケの後ろで、止まった。
「あの…どなたでしょうか…?」
「……何、少し世話になった奴の墓参りだ。妙な縁でね、少しばかり祈りたくなってな」
声からして女性だ、キョウスケは立ち上がりながら振り返った。移動しようとした時、女性の顔を見た。その時、キョウスケは本能的に時を止めてしまった。キョウスケはそのまま女性の顔を凝視した。否せざる終えなかった、その女性は日本人らしい黒髪をしている、肩ほどまでに伸ばされていた。肌の色は色白でとても美しい、顔つきは可憐というよりも凛々しくが幼さが残るという印象を受けた。キョウスケは彼女に覚えがあった、否忘れる事など出来る訳が無かった。生前、この世界で人間として生を受け、幼い頃に出会い、笑顔で笑いあったあの頃、お互いを意識し、交際し、将来を共にする事さえお互いに決め合っていた仲だった青年期。自分の初恋の相手であり、自分が始めて家族以外で愛した女性、『加賀見 千夏』だった。
キョウスケは正気に戻ると、自分が時を止めていると認識、落ち着いてから時を動かした。
「あ、ああ…ま、まさか……恭介…君なの…?」
「人違いだな、俺は南武 恭介ではない」
「そ、そうか…そうだよね…彼はもう死んだし…」
千夏はキョウスケに謝ってから、自分も花を供え、線香に火を付けた。
「恭介君、事故で亡くなったんです。道路を渡っている時に躓いちゃって、そこへトラックの荷台にあった荷物が落ちて来て……」
「…そうか」
キョウスケは自分の死に様がそのようなものであると聞いて、顔を背けた。本当はエクナがカッターを落としてそれが直撃して、死んだとはいえないからだ。この世界ではそのように死んだ事になっているのだろう。千夏はキョウスケの墓を丁寧に拭き始めた。
「ここには良く来るのか」
「ええ、週3で来ています。お花とかは月1,2で変えてますけど、基本週3でここへ。それをもう恭介君が死んでから6年も続けてます」
「6…年…」
キョウスケは自分が押しつぶされそうな感覚に襲われてきた。自分が何も考えず舞い上がって転生してる時に、千夏は自分の死に悲しんで、6年も此処に通い続けている。自分が、彼女の人生を狂わせてしまった。転生と聞き、他の世界にいけると聞いて、大切な人を捨ててしまった。
「神様って…居ると思います……?」
千夏からの質問、正直返答に困る質問だ。正直に言えば神は居る、世界は神が管理している。だが彼女の愛しい人を殺したのはその神、そして自分もその神となっている。どう答えたら良いのか。
「………さぁ、人によるのではないか。神がいると信じる人がいる。居ないと信じる者がいる。都合の良い時だけ神を信じる奴が居る。人それぞれだから一概に居るとは言えないな」
「…私は居ないと思います」
「っ!?」
キョウスケは神力を何時でも発動出来るようにする、神はいないという言葉、その言葉に神殺しの力を異様なほど感じたからだ。
「私の家は神に仕える家系、私も神様を信じていた。神を信じていたらそれだけ報われる、そう両親に言われたから、神は私たちを助けてくれると。そのためには、私たちが心から神を信じなければならないと。ですが」
女は神を恨んだ、女の家は神に仕える家系だった。
「神よ、何故あの人の命を奪ったのですか!?あの人が何をしたって言うんですか!?」
運が無かった、仕方が無い、事故だった、と余人は語る。
「運が無かったって何?事故って何?仕方が無いって何!?神に仕えない人間は用が無いって言うの!?存在価値さえ無いって言うの!?」
千夏は声を上げて叫んだ、恋人のいきなり過ぎる死。それが引き金だった、神は自分に仕えない人間には興味がないという思いを抱かせてしまった瞬間だった。キョウスケは迷った、神殺しを持ってしまった彼女は神に狙われる身、そして自分はその力を回収する為に来た者。だが彼女にそんな力を持たせてしまったのは自分。
「嫌、私は嫌だ、そんな神がいるなんて耐えなれない!だから私は神をその座から引き摺り落としてやる!」
「…」
だが、彼女をどうするというのだ?このまま放っておくとでも言うのか?そんな事は許されない。これは最高神からの厳命、それを破る等神である自分は出来ない。ならば従うしかない…。自分が愛した人と、戦うしかない…。
「(俺は…俺は…どうしたらいいんだ…)」
キョウスケはまだ彼女を愛している、だが最高神たるエクナ、愛する妻の事を裏切るなど自分にはとても出来ない。キョウスケは揺れる、愛する二人の女の間で。
一人は、人間、どこにでもいる人間ではあるが自分が心から愛し、将来を誓い合い、自分の馬鹿な考えで人生を狂わせてしまった。
一人は、最高神。全ての神の頂点に立つ存在、自分が死ぬ原因を作り、彼女から引き離した、だが自分はその彼女の夫で、エクナを愛してる。
「(…俺は…)」
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