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“死なない”では無く“死ねない”男

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話数その14 当たり前がない

 レーティング・ゲーム開始の合図はもう鳴った筈なのに、グレモリー達は今だ本陣に居た。否、それはフェニックス達も同様で、両陣営とも動きらしい動きを見せない。 どうやら作戦会議を開いているようだ。


 (……早うせいっての……本陣まで行って喧嘩すりゃいいだけだろうが…)


 それが出来ないから、グレモリー達は作戦を立てているのである。というか、それが出来るのは少なくとも(この場では)晋ぐらいであろう。


 レーティング・ゲームは、極端にいえばチェスを模しているゲームであり、短期決戦の場合もあるにはあるが、大概の場合は時間を使う。

 ……しかし兵藤ですら、分からなくとも必死で作戦の為に置かれているチェスの盤面を見ているのいうのに、晋は相変わらず虚空を見つめて首を回している。形だけでも参加しているのだから、作戦会議にも顔ぐらい出した方がいいと思う。

 作戦会議の結果出た答えは、『兵士』は出来れば早急に撃破する事。そして拠点として体育館を取る事だった。

 まず体育館奪取を確実にする為にも、木場と塔城が旧校舎と新校舎の間にある森へトラップを仕掛けに行く。 そしてトラップを仕掛け終わった後に、姫島が森の周囲と空にフェニックス眷属にのみに反応する幻術を仕掛ける……という手はずとなった。


 それぞれが感想や意見など言う中で、晋は早いとこゲームを始めて欲しかったうえ他人の動向なんぞ興味なかったので、


 「……どうでもいいが、早くしやがれ無駄乳」


 とだけ言っておいた。 後から二種類の憤怒の声が聞こえてきたことも付け加えておく。

















 トラップを仕掛け終わったらしい木場と塔城、姫島が戻ってくるのを待ち、そろった所で一同皆玄関に集っていた。


「言い忘れていたけど―――灰原晋」
「……んあ?」
「今回、貴方は好きに行動していいわよ」
「……あら、そ」


 それだけ答えると、晋はダラリと手を下げて前を見やった……コレは彼なりの“構え”なのだろう。オカルト研究部メンバーも、何時でも駆けだせるように構えている。


「さあ! 敵は不死身のフェニックス家の中でも有望視されている『ライザー・フェニックス』よ!! 勝ち星が多い相手だろうとも関係ないわ! 自信ごと跡形もなく消し飛ばしてあげましょう!!」
「「「「「はい!!」」」」」
「……るせぇぁ……」


 グレモリーの檄飛ばしを合図に、それぞれ駈け出して行く。 ……が、晋はダラリと手を提げたまま動かない。


「……何をしているの? 灰原晋」
「……好きに動いていいって言ったろ? だからじっとしている……」
「は?」
「……基本、俺動きたくねぇし……思いついた事無駄になるが、別にかまわね―――」
「前言撤回! イッセーと小猫について行きなさい!!」
「……え~…?」
「でないと約束の件、反故にするわよ!?」
「……はいはい…分かりやしたよ~…」


 渋々と言った感じでようやく晋も駈け出して行く。 グレモリーは、晋の扱い辛さに改めてため息を吐くのだった。












「……で、こっちに来たんですか」
「好きに行動していいって言われて、その答えが“動かない”って……前代未聞じゃねぇか」
「……そうか……?」


 こそこそと、晋と兵藤と塔城は話す。
 今三人が居る場所は、体育館のステージ袖の裏であり、此処でフェニックス達を待ち伏せしているのだ。

 しかし、幾ら待てども一向に姿を現さない。


「……イッセー先輩、灰原さん、敵の気配です」


 塔城の一言と共に、体育館の電灯が一斉についていく。どうやら、向こうは彼らよりも早く待ち伏せをしていたらしい。大方隠れている場所が遠すぎて奇襲出来ず、姿を現したのだろう。


「そこにいるのは分かっているわ! グレモリーの下僕達!」
(……俺は違ぇよ……)


 聞こえてくる女の子の声に(晋がどうでもいい突っ込みを入れつつ)、三人はやむを得ず姿を現す。
 そこに居たのは、4人の女の子……棍を持っているのが一人、とチャイナ服を着ているのが一人、そして体操着姿の双子だった。

「ミラよ、属性は『兵士』」
「私は『戦車』の雪蘭」
「『兵士』のイルで~す!」
「同じくネルで~す♪」
「……塔城小猫、『戦車』」
「俺は『兵士』の兵藤一誠だ!」
「……灰原晋。唯の巻き込まれだ……」


 それぞれに名乗りを上げ、武器を構える。 兵藤は真っ赤な籠手を出現させ、塔城は拳を前に出し、晋は薄く光るメイスと鉈を持ったまま手を下げた。


「……『戦車』は私がやります、イッセー先輩と灰原さんは『兵士』をお願いします」
「灰原、俺はあの棍の子にリベンジしたい……きついと思うが、双子を頼む!」
「……へ~い……」
「緊張感を持てよ!?」


 本当に緊張感の無いやり取りの後、兵藤と塔城はそれぞれの敵に向かっていく。晋は兵藤に言われたとおり、イルとネルの双子を相手する為に前に立った。


「うわ~…お兄さん顔怖いねぇ~♪」
「しかも顔色悪いね~、死人みたいだよ?」
「……やかまし」
「しかも弱い人間なんてね~、運ないね!」
「……あ?」


 イルとネルは好きな人にはたまらない、小悪魔的な笑みを浮かべた後、バッグにから大きめのチェーンソーを取り出してエンジンをかけ、刃を回転させる。


「それじゃ、ライザー様のために~♪」
「大人しく解体されて下さ~い♪」
「「バ~ラバラ♪ バ~ラバラ♪」」


 先程と変わらない笑み浮かべながら、チェーンソーを振り回して近寄ってくる双子を見た晋は、何故か武器を終ってしまう。


「……ほっ…」


 そして、双子に向かって何かを投げつけた。投げつけられたそれは爆散し、双子の体勢を崩す。


「わわっ!?」
「きゃあっ!?」


 少量だがダメージも負ったらしい双子は、再びチェーンソーを構え、晋を睨みつける。


「人間のくせに……よくもやってくれたね!」
「もう容赦しないんだから!」


 そう言って駆け出そうとした双子の顔に、何かがべチャッ、と張り着く。邪魔だと払いのけようとしたその物体を見て、双子の表情が凍った。なぜならその物体は―――


「コレ……何?」
「……肝臓…?」


 よく見ると、周りにいくつもの臓器やら肉片やらが転がっているのが分かる。 そして再び晋の方を見た二人の顔は、次第に青ざめて行った。


「……バラバラとか言ってたからよ……耐性あると思ったが…そうでもないんだな……」


 なぜなら晋の手に持つ物体、それには大量の臓器が固められており、中にはまだ動いている物もあったからだ。そしてなにより―――


「……ほっ…」


 その臓物を、晋自身が“自分の腹”からとめどなく引きずり出しているというその異常さが、恐怖をより増進させていた。


「……それじゃ、思いついた事の一つ目、行きますか」



 
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