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“死なない”では無く“死ねない”男

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話数その13 教えはない

(……あいつ等が修行に要する時間は十日間……その間俺はどうするかね……つかの間の休息を楽しむか、それとも“アレ”や“ソレ”の事を調べておくか……ん~…)


 悩む晋の耳に、呼び鈴の音が聞こえてきた。宅配便だろうか……いや、彼の親はすでに故人なのでありえず、知り合いや友達も居ない。ましてや、彼自身は通販など利用しない。 ではいったい誰なのかと疑問に思うが、晋はある人物をもう既に思い浮かべており、渋々と言った感じでドアを開けた。


「……やっぱりお前か」
「やっぱりとは人聞きが悪いねぇ、別にいいだろう? お前さんも儂のおかげで助かっておる所もあるし……なぁ」
「……へぇへぇ」


 そこに居たのは、口元を布で隠して目元をフードで見えづらくした格好の男だった。大きなバッグを背負っており、中には鉄やら布やら色んなものが入っている。


「……言っとくがよ…最初のころと違って、今は別に武器に困っちゃいねぇよ……」
「それは百も承知さ」
「……さいですかい」
「さいだ」


 男はバッグを置いて許可もとらずに玄関に腰掛ける。慣れているのか晋は文句を言わず、少し離れてしゃがみ込んだ。


「お前さんとの付き合いも、もうかなりの年数になるねぇ」
「……その言い方だと、俺が年寄りみたいじゃねぇか……」
「カカッ! 確かになぁ」
「……笑うとこか?」


 それから暫くは他愛のない会話を交わしていた二人だったが、晋はいきなりポケットに手を突っ込み、一万円札を何枚か取り出した。


「……やっぱ幾つか武器をくれ、試したい事がある……」
「やっぱり武器が足りなかったのを思い出したのか?」
「……んにゃ、お気に入りの奴で試したくない……ってのがある」
「そうかいそうかい」


 晋は、剣やら銃やら薬やらを幾つか買い、男は晋から渡された金を受け取って、品物とお釣りを渡した。


「まいどあり、毎回悪いねぇ」
「……なら、そう言う表情しろっての……」
「そりゃ無理だね、カカッ!」


 男は笑い声と共に立ち上がり、去り際にこんな事を言った。


「速いとこ彼女ぐらい見つけろや、それじゃあな」


 その言葉と共に男の姿はかき消える。 晋は玄関に転がったままの武器類を神器に仕舞い込みながら、考えていた。


(……あのジジイは……確か、俺がこの体になった時から武器類提供してくれているが……一体何者なんだろうなぁ……?)


 正体を知らないが、相手は自分の事を知っている……晋にとっての男の第一印象はそんな感じだった。だからこそ晋は、男の事について気になったりもするようだ。


(……まぁ、いいか。レシーングゲームとやらが終わってから後でゆっくり考えりゃいい)


 作業を終えた晋はため息を吐きながら、今晩はビーフジャーキーとカップラーメンにでもするか、と夜のコンビニへ出かけるのだった。








 時が経つのは速いもの……それが嫌な物が後日にあるのならば、なおさら早く感じられる。


「……くぁぁ……」


 晋は、今まさにそれを体感していた。―――ちなみに場所はオカルト研究部、時刻は深夜である。

 晋は蒼錆色のパーカー、アルジェントはシスター服を着ているが、それ以外の者達は以外は制服を着用している。
 皆が準備運動などしている中で、晋は欠伸をして呑気に“インスタントラーメン大集合”という、これまた分厚い本を読んでいた。それが気に食わなかったのか、兵藤が晋へと詰め寄る。


「おい! お前気合い入れろよな! このレーティング・ゲームに負けたら、部長がライザーみたいな奴と結婚させられちまうんだぞ!?」
「……俺にゃ元々関係ない話だろうが……第一、無駄乳が誰と結婚しようが、嬉しくも悲しくもないし、興味もねぇ…」
「おまっ……また無駄乳と!!」


 再びあの時のような言い合いになりそうだったが、傍に居たアルジェントがそれを止めた。


「イッセーさん落ち着いてください。理由はどうあれ、これから一緒に戦場に立つ仲間なんですから、いがみ合うのはよくないと思いますし……怒る理由が不純です」
「うっ……わかったよ、アーシア」


 そうやって、兵藤を諌めたアルジェントだったが、何故か晋の方へは行かない。言っても無駄な事を悟ったのか、それともただ単純に見た目が怖いだけかだろうか。


「皆、集まっているわね? ……灰原晋、もちゃんと居るわね」


 一番最後に入ってきたグレモリーは部屋を見渡し、晋を含めた全員が居る事を確認すると、兵藤を自身の元に呼び、それから膝枕をして何かをし始めた。


(……やっぱり、坦々麺にしといたほうが良かったか……)


 そんな状況とは全く関係ないインスタントラーメンの事を考え、本を読んでいた晋だが、聞こえてきた声で顔を上げる。


「開始十分前です、準備はお済みになられましたか? 」


 それは、何時の間にか部室へ来ていたグレイフィアだった。彼女は晋の方をちらと見た後、説明を開始する。


「開始時間になりましたら、ここの魔法陣から戦闘フィールドへ移送されます。場所は異空間に作られた戦闘用の―――」


 開始数秒で説明に飽きた晋は、虚空を眺めながら首を回す。途中で兵藤などからの質問があったが、別に聞かんでもよかろうと全てスルーした。 


「……時間です。では皆さま、魔法陣のほうへ」


 やがて説明は終わったらしく、グレイフィアがグレモリー達を魔法陣へと促す。と、


「―――それから灰原晋殿、これを」
「……なんだこれ? 駒か?」
“傭兵”(ソルジャー)、眷属では無い方のレーティング・ゲームへの参加に必要な物です。これを持っていてください」
「……はいよ」


 もう少し敬意をはらった方がいい程に晋の答え方はひどかったが、それでもグレイフィアは表情一つ変えず、駒を晋へと手渡した。


「なお一度あちらへ移動しますと、終了するまで魔法陣での転移は不可能となります……では、皆さまのご奮闘をお祈りしております」


 グレイフィアが言い終わると同時に魔法陣が輝きだし、晋達を包んだ。













 魔法陣からの光は目も開けて居られないほど強いものだったが、やがて収まる。そして、目の前に広がっていたのは―――


「あれ? 変わってませんよ部長、もしかして失敗したんですか?」
(……マジだ、ほんとに変わってねぇ…)


 いつもと変わらぬオカルト研究部の部室であった。その光景に兵藤は疑問を口にし、晋は軽く首をひねるが、直後に窓から見えた景色に、若干の差異あれど二人とも驚愕する。


「そ、空の色が……!」


 そう、空の色が普通の物と異なる“白”であった。他にも、何時もなら向こうのがある筈の住宅街の景色も途中で途切れており、此処が別空間である事を物語っている。


『皆さま。このたびグレモリー家、フェニックス家の“レーティング・ゲーム”の審査員を担うことになりました、グレモリー家の使用人グレイフィアでごさいます。我が主、“サーゼクス・ルシファー”の名のもと、ご両家の戦いを見守らせていただきますので、どうぞよろしくお願いします。
 今回のバトルフィールドはリアスさまとライザーさまのご意見を参考にし、リアスさまが通う人間界の学び舎「駒王学園」のレプリカを異空間にご用意いたしました』


 そして、グレイフィアからゲームの詳しい説明が始まるが、晋はそれをも聞き流す。しかし、『王を取られるか、投降したその時点でゲームは終了』という部分だけはしっかりと聞いていた。


(……なんかチェスみたいだな)


 晋がぼーっとしていると、眼の前に光の玉のような物が差し出される。
 

「全員、この通信機を耳につけてください」


 黒髪のポーニテールの女子生徒・姫島朱乃が、無線機らしいそれを配っていた。晋はそれを摘んで耳に押し込む。


(……無駄乳二号……っと)


―――余計で失礼なことも考えながら。


「戦場ではこれで味方同士やり取りするわ、いいわね」


 グレモリーが皆に確認をとると同時に、グレイフィアから開戦の合図が上がる。

『開始のお時間となりました。なお、このゲームの制限時間は人間界の夜明けまで。それでは、ゲームスタートです』


 開始の合図として学校のチャイムが鳴り響く。


 かくして、“ライザー・フェニックスとその眷属”VS“リアス・グレモリーとその眷属+α”の戦いの火ぶたが切られたのであった。


 
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