ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
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過去編
挿話集
聖燗幻夜②
前書き
ニコラウスの元ネタはググれば出てきます。←
スイッチしても大してダメージを貰ってない俺は回復もそこそこにボスやいつもとは違う部屋の様子を観察していた。
物理耐性、魔法耐性共に標準的でHPが少し高めに設定されているのか、その減少スピードはゆったりとしている。戦闘開始から40分程経ち、4段バーも残り2本となった。
……まあ、その約半分を俺達が削ったのだが。
「ふむ……?」
淡く光る聖像画。どう考えてもあの異常なまでのボスの強さと何か関係ががありそうだ。
だとすればそれは、MPの自動回復……もしくは防御力ないしは被ダメージのバフ。
そして何らかの効果を発揮しているオブジェクトならば…………
「ユイ、あの絵だが」
「はい?」
「破壊は可能か?」
「え……?ちょっと待って下さいね…………可能です。少し頑丈なようですが」
「なるほど……」
いつしか周りの仲間達も上を見上げ、ボスとその絵の間で視線を往還させていた。
「跳躍じゃ届かなそうだぜ……どうする?」
サポートスキルの《投擲》《投剣》ではあの絵に大したダメージは与えられない。
唯一ダンジョン内で飛行が出来るのスキルを持つキリトだが、時間は短いしクールタイムを10分有するという燃費の悪さ。いかに火力馬鹿のヤツでも精々1枚が限度だろう。
聖像画は円形の部屋の八方にあり、それなりに間隔がある。燃費の悪さという共通項でメイジの魔法も似たようなものなので使えない。
「……仕方ないな」
「お、何か思い付いたのか?」
あまりスマートな方法では無いが、ぎりぎり行けそうな気がしないでもない。
「飛ぶか」
「いや、ダンジョンじゃ翔べないだろうが」
「いや、『飛』ぶのはお前だ、エギル」
「…………は?」
「斧、しっかり握ってろ」
一堂がポカンとする中、俺はエギルを気を付けの姿勢で立たせると、背面に回る。
胸部プレートアーマーと胴丸の継ぎ目に右手をヘルムとの継ぎ目に左手を入れ、下半身の重心を落としながらエギルごと体を回転させる。
「ふんっ……!!」
遠心力に手首の微妙な角度で調節を加え、エギルに回転力を移す。
そのまま最も近い聖像画に向かって放り投げた。
「のぉぉぉぉっ!?」
あまりに一瞬の出来事だったためにエギルが悲鳴を上げたのは距離も半ばを過ぎた辺りだった。自分より二回りはデカイ巨漢を投げ飛ばすのは相当難儀だったが、その分威力はピカ一。
―ザシュザシュザシュ!!
気持ちのいいスラッシュエフェクトを三回鳴らすと、重力によりエギルが落下してきた。うつ伏せに潰れているエギルをつつきながら言う。
「よし、次。ほら立てエギ―――」
「よし次じゃねぇ!?」
予想通り、壁に掛けられた聖像画はボスに何らかの力を及ぼしていたらしく破壊していく毎に大魔法の頻度が減り、防御力も下がり始めた。
それに気付いたメイジ隊が多重詠唱で1つの破壊を試みるが、詠唱途中でニコラウスがヘイトを無視して襲ってきたため遠距離武器の使い手達が破壊の主軸となっていった。
「ラスト二枚!気合い入れろ!!」
「「「おおぉぉぉ!!」」」
先の戦闘で小競り合いをした1団のリーダーパーティーは自軍の遠距離武器使いの被害が軽微と見るや、2団にボスを押し付けちゃっかりその破壊に専念している。
「ボス自体にはあまり貢献出来なかったが、お前らが戦い易かったのは俺等のお陰だぜ」的な既成事実を作ろうとしているのは目に見えているが…………転んでもただでは起きないその執念はゲーマーとしては健全だ。
『ぬぅ……!?』
8枚中6枚のエネルギー源を失い、最初と比べて能力値がかなり下がっているニコラウスは魔法の間隙を突いた全力攻撃を浴びて地に膝を突く。
「今だッ!!この隙に瀕死まで持ってくぞ!」
「「「おう!!」」」
シルフ族領主サクヤの号令でアタッカーが怒濤の攻撃を浴びせる。上位ソードスキルや高位の魔法を雨あられと食らい、ニコラウスは仰向けに倒れながら吹っ飛んだ。
2団面々が歓声を上げた時、後方でも歓声が上がった。見れば7枚目の聖像画が破壊され、残りは後一枚―――
「……ん?」
ふと部屋が揺れたように感じ、視線をボスに戻す。と、そこには―――
「な、なんだありゃ……!?」
クラインが顎が外れたのかと思うぐらい口をあんぐりと開け、宙を見詰めている。立ち上がりつつあるニコラウスの足元からせり上がる影。
体高はニコラウスの半分ほどだが、恐ろしく重厚な金属エフェクトを放つ鎧を身にまとった騎士型Mobが3体。
―《The Trinity knight》
「……また面倒な」
ここに来て中ボスクラス……しかも名前からして3体で一個体。HPは共通だが、それはつまり各個撃破して数を減らすという戦法が取れない。一度に3体の中ボスを相手にしなければならないのだ……。
どうしたものかと思案していると、キリトが隣に並んできて小声で言う。
「……どうする、レイ」
「……何故俺に振るんだお前」
「いや、レイなら『じゃ、俺が適当にボコっておくから皆はボスよろ』って言って行っちゃうかなぁ、と」
「……つまりそれは『行け』というフリか?」
「大丈夫だろ?」
そう言ってあのおどけたような笑みを向け、肩に手の重みが加わる。冗談のように言いつつ信頼を含んだその所作に俺は後頭部をガリガリ掻きながら応える。
「保障しかねるが……まあ、いいか。……貸し一つ……いや二つな」
「……お、お手柔らかに」
金属剣と木製の鞘が擦れる特有の音と共に三本の騎士剣が抜かれた。突発事態に行動が遅れ気味の両軍の間を抜け、レイは1人その重装騎士達に向かってゆっくりと歩んで行った。
背後のレイドからの奇異の視線を感じながら振り返らず、真っ直ぐに進み始める。三騎士がターゲットを見付け、兜の奥の赤い目を光らせる。
『ウォォォォッ!!』
人型のクセに獣のような咆哮を上げた騎士達は素早く俺を三角陣に囲い、微妙にズレながら騎士剣でソードスキルを発動する。
(……俺を相手にそれは悪手だぜ?)
両手剣縦振り下ろし《グランド》
剣を振り下ろした後に一歩引くという回避動作までが1つの技に組み込まれているため、技後の隙を突きにくい基本技だ。
(速度、角度、人間とあいつらのガタイの相対比……ここか)
半歩下がって大太刀に手を掛ける。その瞬間、大質量の巨剣が半秒間隔で振ってくる。その様子を遠くから見ていた『そのこと』を知らない面々はあいつは何がしたかったんだと言わんばかりに肩を竦めて自らの標的である聖像画やニコラウスに視線を戻そうとした。
だが、甲高い破砕サウンドがそれを遮る。
「「「な…………」」」
……んだあいつ。と誰もが言いたかっただろう。
煙の中には大太刀をダラリと片手でぶら下げ、平然と立っている銀髪のインプ。間違いなく先程叩き斬られたはずのプレイヤー。おまけに騎士達の剣には縦にひびが入り、今にも砕けそうだった。
「《武器破壊》……3本も同時にやるなんてな」
驚いていない……というよりは異常事態に慣れているキリト達は苦笑するのみ。残された6人は武器を構え直した。意図せずして沈黙に満ちたボス部屋にアスナの凛とした声が響く。
「行くよ、みんな!」
ニコラウスが捨て台詞と共に消滅したのはそれから10分後の事だった。同時に三体の騎士も四散し、次層に続く階段の鍵がガチン、と外れた。
アスナは歓声を上げるレイドメンバー達の間を縫うように駆けて行った。門の前に辿り着き、ふと後ろを振り返る。数秒遅れてキリトを始めとする仲間達が追い付いてくる。
リズが肩に手を置いて言った。
「ほら、早く行っちゃいなさい。どうせもうすぐ誰が先に次層に行くかで揉めるんだから」
「うん……でも、リズ達は?」
エギルやクラインがレイドの方を向いて睨みを利かせているのを見て嫌な予感がしたアスナはその手に自分の手を重ねながら言った。アスナのその問いに答えたのはレイだった。
「ま……持って10分か15分。2時間しないと次層主街区は開通しないからその間に、な?……ほら、ユイも」
「はい、ありがとうです。にぃ」
流石に三騎士を無傷でいなし切る事は出来なかったのか、ポーション回復中の彼は手をヒラヒラとさせながら言った。
ユイが彼の肩から飛び立ってキリトの頭の上に乗る。
「リズ……レイ……お前ら」
「キ、キリトさん!私も、頑張りますから。早く」
仲間達が壁を作っている向こうでは既に不穏な空気が渦巻いていた。もう、猶予はあるまい。
「みんな、ありがとう……」
22層で2人を待っているはずの《森の家》。よもや同じ場所を狙っているプレイヤーが居るとは思えないが、それも絶対ではない。
加えて2人だけの時間を仲間達は稼いでくれるという。
「行け、キリト、アスナ……少しだけだが、今から数分間はお前達だけの時間だ」
「……ああ」
「うん」
巨大な扉に手を添え、グッと押し開ける。
出来た隙間を通り抜け、階段フロアに入る。
「行こ、キリト君、ユイちゃん」
「ああ……!」
「はい!」
彼の暖かな手を指を絡めて強く握る。
足に力を入れると2人は同時に螺旋階段を駆け上がり始めた。上がるごとに体が軽くなり、目頭が熱くなっていく。そして、階段の頂上。
夜天を舞う白い粉、その先に光る宝石を見据え、2人は強く地面を蹴った。
聖なる夜にしんしんと降る白い雪。
それは月や星の明かりを浴びてキラキラと光っている。幻想的な景色の中を飛翔する2つの影は固く結ばれたまま、その中に消えていった。
E N D
~おまけ~
「……さて、これで全部か」
刻んだプレイヤー達がドロップしたアイテムやら武具類をドサドサとオブジェクト化し、捕縛したプレイヤーの前に積み上げる。
「……あれ、何で私達やられてないんですか?」
「……不思議よねぇ?」
「殆どセラが喰ってたな。いやはや流石だ」
順にシリカ、リズ、サクヤ。中立を表明したシルフ隊は隅の方でじっとしていたのだが、例外として参戦したのはリーファ、セラ。
事にセラは漆黒の《ムラサメ》を振り回し、『一振一殺』という奮戦(?)を見せ、撃破スコア20という驚異的な記録を打ち立てた。
本人曰く、「お兄様にそんな不粋なモノを向けることは万死に値します(キリッ)」だそうだ。
頼も恐ろしい妹である。
「15分どころか2時間丸々稼げたな。もうちょいしたらシルフ隊にアクティベート頼んでキリの字達と合流しようぜ」
「そうですね!お兄ちゃんばかりいい思いするのはダメです」
「お前らなぁ……」
ちょっとは気を使えよ。特にリーファ。俺の斜め後ろで負のオーラを放っているレコンを何とかしてくれ。
(ま、でも……)
ともかく無事に終わって良かった。
仮想の筋肉を解すように伸びをして欠伸を一発かますと、俺はゆっくりと螺旋階段の部屋に向かって歩いていった。
後書き
いつもの如くレイ君大暴れ(笑)
こんな事するから某LINEグループで人外ランキング上位に入っちゃうんだよ。まったく……
前書きにも書きましたが、ニコラウスあと、トリニティナイトとかもググれば元ネタ出てくる筈です。説明は長いので省かせて下さい。
では、今年はこれにて。『年内』の更新、特別企画はこれにて終了。来年もどうぞ宜しくお願いしますm(_ _)m
良いお年をノシ
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