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第二十三話 剣士対狂戦士
前書き
前回から時間が少し経ってしまいましたが、何とか出来ました。
それでは投稿します。
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
地鳴りのような呻き声が辺りに響く。
野獣のような勢いで大剣を叩きつけるのはバーサーカー。
「なっ!?」
もちろんまともに喰らうようなセイバーではない。
不可視の剣で危なげなく受けるが、バーサーカーの持っている武器を見て愕然となった。
バーサーカーがその手に持つモノ。
バーサーカーが持っているものは何処にでもある、一般的な大剣。
問題はそれが宝具ではなく、一般的に売られているような武器でセイバーと張り合っているという点だ。
セイバーの剣は至高の宝具である。
それと対等以上に戦えるものは宝具以外にありえない。
だがセイバーは我が目を疑った。
バーサーカーの持つ大剣が黒く染まり、葉脈のような黒い筋が侵食していく。
剣から感じられるのは憎悪と殺意に彩られたバーサーカーの魔力。
「貴様は……一体…」
セイバー自身、その異常性にいち早く気が付いていた。
そして理解した。
「(そうか、これがバーサーカーの能力……いや、宝具か)」
宝具の中には、武具の形をしたものだけでなく”特殊能力”としての宝具も存在する。
今回の場合、バーサーカーが掴んだものは何であっても宝具にしてしまう。
それがバーサーカー自身の特殊能力であり宝具であった。
現に、バーサーカーは一般的なプレイヤー達が使うであろう大剣でセイバーと打ち合いをしている。
かなりの手練。
本来ならば、バーサーカーは理性も何もかも捨てて、闘う獣と化すクラスである。
だが、目の前にいる男はセイバーの一級品の宝具と、それと比べると鉄屑でしかない剣で打ち合いをしている。
故に、バーサーカーの技量はすさまじいものであった。
だが、ここで戦況が動く。
「ハァァァァァァァ!!」
セイバーが脇構えの体制から、剣を切り上げた。
すると、あろうことか先程まで苛烈な攻めを見せていたバーサーカーがバランスを崩し後方へとたたらを踏んだ。
「(やはり……ステータスでは私の方が上…!)」
セイバーは確信した。
確かに、バーサーカーの技量は大したものである。
だが、それにしては打ち込みにあまり力が入っていなかった。
純粋なステータスの差。
キリトとセイバーは、これまで最前線で戦いを続け、レベルを磨いてきた。
だが、目の前に立つバーサーカーにはそれが見えない。
ただ、自らの能力のみで戦いをしているように感じられた。
ならば、やるべき事は一つ。
「ハァァァァァァァァァァ!!」
セイバーの戦い方の流儀には反するが、純粋な力押しで追い詰める。
ここから、セイバーの怒涛の攻撃が始まった。
唐竹、袈裟斬り、刺突、斬上。
四方八方からセイバーの斬撃がバーサーカーを襲う。
「~~~~~~~~!!」
バーサーカーも、自らの技でそれを受け流し、受け止め、掻い潜ろうとする。
だがステータスの差は大きく、受け流そうと受け止めようとするが、剣を弾かれ反撃の一手を出す事が出来ない。
同じ事を数手繰り返す。
そしてその内、ついに限界が来た。
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」
鈍い音と共に、バーサーカーの手に持つ大剣が真二つに砕け散った。
それと同時に、バーサーカーは戦況を立て直そうとバックステップで後方へ下がる。
だが、それを好機と見たのかセイバーがすさまじい勢いでバーサーカーへ向け突進した。
バックステップで後方へと下がるバーサーカー。
突進力で前へと突き進むセイバー。
二人のスピード差は明らかだった。
あっという間に距離を詰めたセイバーは、バーサーカーへ向け、剣を振りかぶり……。
「ハァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
バーサーカーの鎧に渾身の斬撃を叩き込んだ。
「~~~~~~~~!」
叫び声と共に後方へと吹き飛ばされるバーサーカー。
セイバーの渾身の斬撃は、少なくとも鎧を貫通し、相手に致命的なダメージを与えた。
セイバーは手ごたえを感じていた。
数メートル程飛ばされ、バーサーカーは無様に地に転がる……事は無かった。
何とか体勢を立て直し、彼は両足で地面を踏みしめた。
辛うじて立っている。
今の一撃でバーサーカーは息たえてはいなかった。
弱々しく痙攣しながらも、上体を何とか起こしている。
セイバーの一撃は、確かにバーサーカーを確実にとらえていた。
現に、鎧には醜い斬撃の跡が残っており、中は紅いエフェクトがきらきら輝いている。
だが、斬られる寸前に辛うじて身を捻り、急所にだけは当たらぬよう軌道をずらしていた。
「奴…まだ倒れないのか」
キリトが悔しそうにつぶやく。
この戦いの中で、キリトは確実に勝ちを得られると確信していた。
そして、今の一撃でバーサーカーを確実に倒したと思った。
だが、それでもバーサーカーは倒れない。
「だが、既に虫の息です」
セイバーがキリトへそう呟く。
そう。
もうすでにバーサーカーは致命傷を負った。
HPも既にレッドゾーンに達しており、今にも息絶えてしまいそうである。
辛うじて立っているバーサーカーは、戦闘続行が不可能なまでに深刻なダメージを受けたと自覚したらしい。
立ちながらも、赤いスリットの隙間からセイバーを睨みつけると、動きを止め陽炎のように輪郭を霞ませ、霧散するように消えていった。
実体化を解き、霊体化して戦線を離脱したのだ。
「……逃がしましたか」
セイバーは構えを解くと、ふぅと息を吐きキリトへ向き直った。
「申し訳ありません。あと一歩のところで逃がしてしまいました」
眼を閉じ、セイバーはキリトへ詫びを入れる。
あと一歩のところでバーサーカーを逃してしまった。
「いや……無事で何よりだよ。何とか撃退できたみたいだし」
キリトはそう言うと辺りを見渡した。
木々が倒れ、地面は抉れ、そこら中に戦闘の爪痕が残っている。
「とはいえ、バーサーカーを取り逃がしたのは痛いです。奴がこれからさらにレベルを上げてしまえば、私でも勝てるかどうか……」
珍しく、セイバーが弱気な発言をする。
それほどまでにバーサーカーの能力は脅威であった。
「それでも…今回は犠牲を出さずに済んだ。ありがとうセイバー」
以前のアサシンの襲撃……。
あの事件はキリトの心に大きな傷跡を残した。
そのため、今回のバーサーカーを退ける事が出来たのは、キリトにとって大きな結果である。
「……戻りましょう。シリカが心配です」
セイバーは、礼を言われる事に慣れていないのか、若干頬を染めるとキリトから背を向けた。
「ああ、シリカの所に行こう……っと、その前に…」
キリトは、何かを思い出すと街とは逆方向へと目を向けた。
「こいつら…送っておかないとな」
キリトの視線の先には、ロザリアをはじめとするタイタンズハントのメンバー達が未だに気絶をしていた。
キリトとセイバーは、気絶している彼らを起こすことなく、コリドーに放り込む。
無理に起こして暴れられても面倒だと思ったからだ。
彼等はゲーム終了まで、監獄エリアで過ごす事になるであろう。
全員を送り終わると、キリトは転移結晶を取り出した。
流石に、また襲われる可能性も無いとは言い切れないため、歩いて帰らずクリスタルを使う。
「転移――――――」
キリトの言葉と共に、二人はそのエリアから姿を消した。
なお、この後シリカと合流した時、二人がシリカに泣きつかれたのはまた別の話である。
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「グウゥウウウウゥゥアアァァァアァアアアァァァァァ!!!」
キリト達が街へ転移した時と同時刻、彼はその場所で声にならない叫び声を上げていた。
「クソッ…チクショウッ……!!」
苦しみと怒りの混じる苦悶の声。
彼は今までにないほどの苦しみを味わい、それと同時に激しい怒りを覚えていた。
「なんでだ……何故だ……!僕のバーサーカーは最強のはずだ!!何で!!!」
バーサーカーのマスターである、“元”月夜の黒猫団のリーダーだったケイタは、困惑を隠せないでいた。
あの神父……聖杯戦争の監督役と名乗ったあの男は、最強の存在と言い、あの黒騎士を自分に渡してくれた。
なのに…ナノニ……。
何故倒せなかったのだ……!!
自分の黒騎士は最強では無かったのか!?
あの神父は自分を騙したのか!!!
「成程…怒りで我を忘れているようだな」
ケイタは背後から聞こえた声に、ハッとし、憎悪の籠った眼でソレを目視した。
「貴様……僕を騙したのか。何であいつ等を殺せなかった!!」
ケイタは目の前の男に怒りを叩き込む。
憎悪の言葉が男に叩き込まれるのにもかかわらず、男は涼しげな表情を見せる。
いや…むしろ嬉しそうに口を歪めている。
「倒せないのは当然だ」
「なに……?」
「彼等は今まで、最前線で戦ってきた。そのレベルは明らかにトップクラスであろう。だが、君は今まで何をしていた?ただ憎しみを中層にいるモンスター達に八つ当たりしていただけ……レベルがそこまで上がる訳でもない。彼らとの実力差が開くのは当然だ」
「グッ……!」
ケイタは男の言葉を悔しそうに唇を噛みながら耐える。
ケイタは、ずっと中層圏で狩りを続けていた。
サーヴァントがいるとはいえ、自分自身のレベルでは最前線で戦えないと、そう思って最前線を避けながら、キリトを捜索する日々を続けていたのだ。
だが、そのような戦い方ではキリト達とのレベル差は開くばかりで、今回の戦闘でセイバーに完敗を喫した。
「…だが、そんな君に良い情報を教えよう」
「情報だと?」
男はケイタに対し、そんな事を言ってきた。
ケイタも半信半疑になりながら聞き返す。
「ああ、君にとっても悪くない情報だ」
ケイタは、突然の男の言葉に戸惑った。
何故自分にそこまでしてくれるのか……。
「私は、簡単にこの聖杯戦争が終わってしまっては困るのだ。監督役としての任務をしっかりと遂行しなければならないためにね」
男はそう言うと、彼に手を差し伸べる。
「……」
いったいこの男は何を考えているのか。
何のために自分に手を貸すのか。
何を企んでいるのか。
一向に窺い知れないその真意が、ケイタの胸の中を騒がせる。
だが、ケイタには深く考える必要は無かった。
皆の敵を打つ。
あの忌々しい黒い剣士と白銀の騎士を叩きつぶす。
その考えのみがケイタの体を動かした。
そして……
ケイタの手が男の手を握った時、男……言峰綺礼は不気味に口を歪ませるのであった。
後書き
この小説を投稿してから、もう一年経ちました。
一年前、SAO編は一年で終わればいいかなと思っていた自分を殴りたいです。
まさかこんなに時間が掛かるとは。
そして、もうすぐ今年も終わります。
年内にあと一話ぐらい投稿出来たらなと思います。
それではまた次回。
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