Fate/ONLINE
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二十二話 狂戦士
前書き
一週間ぶりくらいですね。
結構早めに投稿できました。
さあ、ここからは急展開。
「見つけた……遂に見つけたぞ」
今まで彼等を盗み見していた男は、ようやく戦果が手に入った事に歓喜していた。
街で彼等を見つけたときには、天の思召しだと本気で思った。
こんな最前線から離れた下層に、彼らが居る事自体珍しいのだから。
だからこそ、彼は自らの従者を奴らの仲間の中に潜り込ませた。
一人殺害し、そいつに化けさせる事によって。
幸い、そいつはあまりしゃべらない男だったらしく、疑われる事は無かった。
そして遂にチャンスが訪れた。
そう、疑いようもなく同じであった。
もはや間違いなく、あの黒い装備、あの蒼銀の鎧はキリト、そしてセイバーに他なるまい。
「はは、はははは」
憎悪を眼に血走らせて彼は笑いを漏らした。
この瞬間を夢見ていた。
自らのギルドのメンバー達を死に至らしめた張本人達。
憎んでも呪ってもなお足りぬ怨敵。
「殺せ……」
憎しみを込めてその言葉を吐いた。
今こそその恨みを晴らす。
胸に滾る憎悪を刃に変えて、彼等に挑む時がきた。
「殺すんだバーサーカー!奴らを殺し潰せッ!!」
彼の怨念染みた声を出して、発露させた。
----------------
「お……おい、どうなってんだよコイツ……」
一人が異常なものを見るかのように顔を歪める。
腕を止めながら数歩下がる。
残りの七人も攻撃を中止し、距離を取る。
それもそうだ。
キリトのHPが全く減っていないのだから。
「……十秒あたり四〇〇ってとこか。それがあんたらが俺にダメージを与える総量だ。俺のレベルは78。HPは一四五〇〇……さらに戦闘字回復スキルによる自動回復が十秒で六〇〇ある。何時間攻撃しても俺は倒せないよ」
その言葉に男達は愕然としている。
その内、サブリーダーと思われる両手剣士が口を開いた
「そんなの……そんなのアリかよ……。ムチャクチャじゃねえかよ……」
「そうだ」
吐き捨てるようなキリトの言葉。
「たかが数字が増えるだけで、そこまで無茶な差がつくんだ。それがレベル制MMOの理不尽さというものなんだ!」
キリトの怒号のような声が辺りに響いた。
威圧されたかのように男達は後ずさる。
ロザリアも同様に悔しげな表情を浮かべながらも、逃げ出そうと思い転移結晶を取り出そうとした。
だが、突然ある事に気付く。
彼女たちの仲間の一人がその場にいない事に。
ギルドのメンバーはロザリアを含め十一人。
だが、この場には十人しかいない。
何故?
そうロザリアが思った瞬間、突如背後に何かの気配を感じた。
振り返ると、その姿が無かったメンバーの一人が立ち尽くしている。
なんで出てこなかった!!
そう叫ぼうと彼に一歩近づこうとした瞬間……
「離れろ!!!!」
セイバーの怒号が響いた。
なに?
ロザリアはセイバーへと振り返る。
だが、その一瞬が彼女の命取りとなった。
轟という勢いと共に、ロザリアが前方、橋の向こう側まで吹き飛ばされる。
男が手にしていた両手剣が振り払われたのだ。
ロザリアには間一髪当たる事は無かったのだが、その風圧、勢いだけでロザリアを吹き飛ばした。
他の彼女の仲間である男達も勢いに負け、あらぬ方向へ吹き飛ばされる。
辛うじて、キリトはその場に踏みとどまる事が出来たが、立っている事が出来ずその場に這いつくばる。
シリカはセイバーに抑えられながらも、その場に残る事が出来た。
何事だ!?
全員が男が立っているであろうその場所へと視線を移す。
だが、そこには既に男の姿は無かった。
そこにいたのは影だった。
そう、まさに、“影”としか形容しようのない異形の風体である。
その長身で肩幅の広い“男”の総身は、一分の隙もなく甲冑に覆われていた。
が、セイバーの纏う白銀の鎧とは全く違う。
その男の鎧は黒かった。
精緻な装飾も無ければ磨き上げた色艶も無い。
闇のように、奈落のように、ただ底抜けに黒かった。
面貌すらも無骨な兜に覆われて見えない。
細く穿たれたスリットの奥に、熾火のように爛々と燃える双眸の不気味な輝きだけがある。
「あ……あいつは――――――」
キリトが辛うじて声を漏らした。
今まで見た事のない不吉な姿を目の当たりにして、体が硬直している。
まさか……。
現在、自分は聖杯戦争の参加者だ。
ならば、あの存在も自然と何であるかが分かってくる。
――――――――――サーヴァント。
人知を超える力を持った、絶対的な存在。
人である以上、絶対に敵う事は無い相手。
それは間違いない。
だが、それにしてもあの不吉な姿は何であろう。
キリトはこれまで数体のサーヴァント達と対峙してきた。
自らのサーヴァントである、セイバー。
サチのサーヴァントである、ランサー。
自分が腐っている時に出会った巨漢のサーヴァント、奴はおそらくライダー。
そして、ギルドの皆を殺したサーヴァント、アサシン。
彼らにも圧倒的な存在感と、それぞれの“華”があった。
だが、目の前にいるサーヴァントにはそれとはまた別の存在感がある。
強いて言うなら、アサシンに近いだろうか。
だがそれ以上の、今まで対峙してきたサーヴァント達には無い明確な負の波動が感じられた。
あのサーヴァントが何者なのかは判らない。
だが、こうやって対峙しているだけで判ることもある。
あのサーヴァントが発散しているこれは殺気だ。
文字通りの問答無用、純粋な殺意の波動を発しているあれが何なのか、唯一セイバーだけが理解出来た。
「……キリト、下がってください」
セイバーはキリトにそう言うと、前に歩み出た。
その表情は、僅かに焦りの色が見えている。
アサシンと対峙していた時も、同じような表情をしていたが、今回はその比ではない。
明確な負の感情を叩き込まれているのだ。
キリトは、セイバーに言われたとおりに後ろに下がり、シリカの側へと近寄る。
シリカは殺気に当てられたのか、歯の根が噛みあわないほど震えて立っているのもやっとの状況だ。
「…キ…キリト…さん、何ですか―――あれって、何なんですか……」
キリトのコートを掴みながら、シリカはキリトに問いかける。
思わずキリトは顔を顰め、後悔していた。
自分は聖杯戦争の関係者だ。
故に、何時どんな時でも戦いになる事は覚悟していた。
だが、今回は自分の軽率な行動により彼女を……シリカを巻き込んだ。
アサシンの事件で分かっていたはずなのに……。
無関係な少女をこの戦いに巻き込んだ事をキリトは悔いていた。
「……シリカ、今すぐクリスタルで此処から脱出するんだ」
それがせめてもの罪滅ぼしだった。
すぐにでも使えるようにと、用意させておいた転移結晶。
それが役に立った。
「な……で…でもキリトさんは……?」
「俺はいい…今は君だけ脱出するんだ」
「そ…そんな!?キリトさんも一緒に……!!」
シリカが、逃げようと言いきる前にキリトは叫んでいた。
「…いいから早くしろ!!!」
怒号が辺りに木霊した。
初めて聞くキリトの本気の怒鳴り声。
その声にシリカは肩を震わせる。
ビクリッと震えたのだが、シリカはその怒鳴り声の意味が理解出来た気がした。
それは怒りではなく、純粋な願い。
キリトの表情はそう訴えかけていた。
その顔を見ると、シリカは唾を飲み込み、転移結晶を取り出す。
だが、キリト達を置いていく事に対する罪悪感からなのか、なかなか転移の言葉を発する事が出来ない。
そんなシリカの気持ちを組み取れたのか、キリトはシリカに対して優しげな笑みを浮かべる。
「…大丈夫……俺も後で合流するから――――今は脱出してくれ」
絞り出すように声を出す。
苦し紛れの笑顔。
相手は今まで以上の強敵。
正直な事を言えば、此処から無事に帰れる保証はない。
だが、そう言うしかなかった。
シリカだけでも此処から脱出させる。
キリトはそう決心していた。
「でも…」
シリカはそれでも決心出来ない。
そんなシリカにキリトは諭すように言う。
「…無事に合流出来たら、またあの店のチーズケーキを一緒に食べよう―――――約束だ」
ひどく優しい言葉。
その言葉にようやく決心したのか、約束ですよ、と小さく呟くとキリトのコートから手を離した。
そう…これでいい。
キリトは心の中でそう呟いた。
巻き込む訳にはいかない。
キリトの苦渋の決断だった。
シリカはキリトから少し離れた所で、クリスタルを掲げる。
そして、転移と叫ぶと戦場から姿を消した。
最後にシリカはどんな表情をしていただろうか。
彼女の表情はちょうど死角になり、キリトには見る事が出来なかった。
だが、彼女と約束をしてしまった。
またチーズケーキを一緒に食べようと。
そのためには目の前の敵を何とか突破するより他にない。
キリトは覚悟を決めた。
大きく息を吐くと、目の前のセイバーと影を交互に見る。
「……セイバー」
「――――キリト、守らなければいけない約束が出来ましたね」
先程の会話が聞こえていたのか、セイバーがキリトへ背を向けながらそう言う。
キリトはその言葉に、声こそ出さなかったがゆっくり頷いた。
視線を、向こうにいる存在へと向ける。
「……奴はおそらくバーサーカーのサーヴァントです。下手なフェイントや攻撃は命取りになるでしょう。キリトはそこで…」
セイバーはキリトへ忠告を促す。
セイバーにはあの存在がどのようなモノなのか既に看破していたようだ。
――――――バーサーカー。
その脅威についてはキリトもセイバーから聞いている。
ただ破壊にのみ特化したクラスで、他のサーヴァントとは違いステータスが大幅に強化された存在。
だが、その代償に理性が失われると言うデメリットが存在する。
目の前にいるバーサーカーも例外ではないようで、先程から殺気が膨れ上がっている。
ねっとりとした粘着性の悪意が、セイバーの体に纏わりつく。
その兜から除く瞳は相変わらず殺気と怨嗟を存分に含んでセイバーを見ている。
今にでも殺すと言わんばかりに。
「……」
セイバーは不可視の剣を相手に突き付けるように構えた。
ガチャリと鎧が擦れる音がする。
「…er…」
バーサーカーの黒の兜の中から、低く地を這うような重い言葉が漏れた。
怨嗟を含んだかのようなまがまがしい声を発しながら、バーサーカーがゆらりと動く。
「…ar…er…!」
野獣のような勢いでバーサーカーが駆け出す。
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
不気味な気迫と共に、バーサーカーはその手に持った得物をセイバーに叩きつける。
「く……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
2人の英霊が周りの空気を破壊しながら、戦闘は開始された。
後書き
セイバーとは因縁のあるバーサーカーの登場です。
ここからどうなっていくのか。
次回もお楽しみに。
ページ上へ戻る