生きるために
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第三話 依頼終了……駄菓子菓子
仮想で作られた廃墟と化している町のほぼ中央にある広場のような場所にスコールは辿り着いた。
「ハティ」
『了解。強化開始』
そして着いて直ぐに自身の五感と肉体を強化する。
これで相手が加速系の近接魔導師でも十分に対応ができる存在にはなれた。凄い事をさっきやったように思われているかもしれないが、自分の基本はあくまで射撃と強化である。
床の魔法陣が出ると同時に強化されるのだが、この床の魔法陣いらないから何とか出来ないだろうか。
『一種の魔法少………年もののお約束です! さっきもバリアジャケットの着替えの時は脱げるでしょう? それと一緒です。ちなみに脱げた時のサーヴィスショットはちゃんと私が記録しているのでご心配ならずに』
「そうかそうか。俺の敵は貧困ではなく、お前だったんだな? ───どこに売った?」
『デバイス黙秘権を使わせてもらいます』
「お前にそんな権利を認める存在がいると思ってんのか?」
『ええ───私が。ああ、待ってください! そんな! 穴に指を突っ込んでくちゅくちゅするなんて……心の準備が!』
何となく砲に指を突っ込んで遊んだだけなのだが、過剰なリアクションどうもありがとよ。
さて、と思い前を見る。
その直後に角から出てきた魔導師二人が現れる。
二人ともどうやら典型的なミッド式の魔導師。肉付きだけを見ると片方は近距離が得意。もう一人は補助か砲撃、もしくはどちらかだろう。
わかりやすい構図である。
来た二人は最初はこちらが子供だからか。驚いた顔をしていたが直ぐに驚きを消してデバイスを構えている。
切り替えは早いほうだが自分からしたら遅過ぎる。敵の目の前でボケッと驚くなんてしたら死ぬだろ、と思うのだが戦場の常識が違うのだから仕方がないだろう。
だから今回の依頼内容くらいは教えた方が親切かもしれない。
「どうも。とりあえず貴方達の隊長から貴方達を徹底的に敗北させてくれと頼まれてる魔導師です。自己紹介とかは……不要ですよね?」
「───ほう?」
返事をされたのはいいのだが何故か機嫌が悪く思える。
思わず念話で
『なぁハティ。どうしてあの人はあんなに機嫌が悪そうなんだろう?』
『恐らくこれから倒されるにあたっての怪我する時の治療費がない事に関して憤慨しているんじゃないですか、ククク』
最後の三文字がうざい上に気になったが、成程と思った。
確かに治療費など予定外の出費が出ると機嫌が悪くなるだろう。自分もそうなのだから相手もそうに違いないと勝手な共感を得るが、お金が減ると悲しくなるのは多分、万民共通の思いと思われる。
だから、安心させるために彼らに行っておこうと思った。
「安心してください───治療費はゲンヤさんがきっと出すでしょうしそんな暴れられるより早く倒そうと思うので」
無自覚の売り言葉に大人達は無言でデバイスを構えてやる気満々の態度を示した。
あれ? 何かおかしなことを言ったかという風なスコールと実は内心で計画通りと大笑いしているハティと共に戦場が再び開かれる。
二人で同時に構え少年に向けての魔弾生成の魔力を練る。
各自の色の魔方陣が地面に浮かび、そのままシューターが環状型に前方に配置され、発射された。
それに対し巨大な十字架を盾のように構え、そのままスフィアに激突を選び
「ハティ」
『Yes』
「喰らえ」
『It obtains. 』
スフィアはそれこそ魔法のように消えていった。
「───」
驚きは一瞬、それこそ既に自分達の同僚が手も足も出ずに倒れている時点で色々と覚悟はできている。
ただ、次に続くガジャゴンとわざとらしく巨大十字架がスライドされ、素晴らしい笑顔が近づいて咄嗟に俺達は
「うわーーーーーーーーー!!」
普通にそのままお互い横に走った。
そしてその後に予想通りにドガガガガガガガッと端的に言えば背後を見れば超怖いことになっているというのが非常に解り易い光景が見れることを見ずに理解した。
『……ファック! 何だあのデバイス。魔力喰ったぞ意味わかんねえ! AMFか!? 金持ちか!?』
『叫びたい気持ちは重々理解出来るがいいから走れーーーー!!』
ぬわぁと二人で叫びながら逃げ、ようやく路地の入口にたどり着いて全身で安堵したいが直ぐに振り返って同じスフィアをもう一回発射した。
すると結果はやはり盾にまるで吸い込まれたかのようにスフィアが霧散されている光景であった。
『……どうなっていやがる……AMFの盾とかそんな感じなら間違いなくあんなん持ってたら術者にも影響は出るはずだろ? 盾の表面だけAMFか? それだと隙間からは狙い放題ってか?』
『そうだとかなり嬉しいが、そうであってもあの隙間から出る肉体じゃあ当たってもたかが知れているし、それくらずらしたら対処できそうしなぁ』
『おい! お前、えらい余裕っぽいけど俺は言っとくが射撃以外才能なんて欠片もねぇぞ! 俺のバインドこの前見せたろ!?』
『ありゃあ傑作だったなぁ。バインドに水をぶっかけたらまさか破れるんだからなぁ。全員で最高の演芸向き魔法って言って腹かかえて笑って乱闘になったなぁ……』
『現実逃避してんじゃねぇ!!』
いや、現実逃避もしたくなるだろうと思う。
さっきからガトリングガンか、とツッコミたくなるような弾幕にちょっと試しに自分が作ったスフィアを打ち込んでみる。
するといい感じに相手の弾に一対一でぶつかり合うようになって結果。
そりゃもう、こちらが作ったスフィアが綺麗さっぱり破壊された。
『確認ために聞くけどあんたって射撃系低かったっけ?』
『少なくともお前より低いけど、別に平均からそこまで離れていないレベルから、普通にそこらの犯罪者には聞くって言われてたけどな』
スフィアの強度を高めるには色々と方法があるが、その内の一つが単純に魔力量に物を言わせてもの。
これならば、そりゃあ俺のスフィアなんて木端微塵に壊されてもプライドやら何やらは一切関係なく仕方がないっていうものである。うちわで台風に勝てるかっていう感じである。
そしてもう一つ簡単な方法があるかと言えばある。
それはすなわち魔弾を生成する魔力の圧縮率を極限にまで高めることだ。
簡単な話だ。
広さはあるが密度が薄い弾と小さくはあるが密度が濃い弾ではどちらが攻撃力があるかという話だけである。
だが、言葉で表現すればじゃあしろよという話になるかもしれないが、魔力の圧縮を極限にまで高めるなんて余程の演算能力がなければこんな瞬時に出来る筈がない。
射撃の才能がない自分でも十五秒くらいあれば同じことは出来るかも知れないが、こんな速攻は無理だ。頭がイカれている。
防御結界で行っても俺達程度じゃあ速攻で破られるだろうなぁ。
『で? どうすんだよ? このままじゃあジリ貧だぜ? いっそ突撃かますか?』
『いい案だ。これが高町なのはみたいな相手だったら馬鹿にしてるが、少なくとも魔力量だけなら彼女よりも低そうだし、何時か弾幕が切れるだろう。その時の一か八かに………ん?』
『どうした?』
相方の問いかけは一旦無視して偶然見かけたものをもう一度見る。
それはやはり、相手のスフィアであり別に不思議な感じはしないのだが、さっきまで高速弾を撃ちまくっていたくせに一つだけやけに遅い。
処理をミスったか? と思い、少しだけマルチタスクで計算して思わず一瞬無言になり───立ち上がり路地の奥に走った。
同僚にも念話で送ったから一緒に走っているだろう。そして恐らくさっきの弾が自分が腰かけていた壁に触れかなというタイミング。
今までとは違う強烈な爆発が背後で起きた。
「ぐお……!!」
爆風の威力に思わずつんのめるが鍛えているお蔭かこけずに済み、何とか走る。
……炸裂弾とか正気じゃねえぞ!?
弾種まで自在に変えられるなんて正気じゃねえ。
シューターの中の一つだけ器用に弾を変えられるなんて、高町なのはにも出来るかどうかである。
いや、意外と出来そうかもと思った。何せあらゆる意味で何でも出来そうな人だし。
とりあえず距離を取ってはいけないのだが正攻法で突っ込むのは自殺行為という事で相手に対して回り込んで奇襲を仕掛けようと思い───唐突に前方に影が生まれた。
「……っ!」
慌てて立ち止まった瞬間に上から巨大な十字架が落ちてきた。
「え、縁起悪いぞ!」
『オウ? アイムソーリー』
デバイスから非常にふざけた声が聞こえて思わずぶちかましてやろうかと思うが、その前に魔力刃を右手に持っているデバイスの先に作り、それをそのまま後ろに放つ。
根拠はある。
何故なら戦闘に重要なデバイスを前に落としておいて自分だけが来ないというわけがないし、何よりも足音が聞こえた。
振り向いて攻撃したいところがそんな余裕が皆無であると訓練による培った意識が先にデバイスによる突きを出させたのだが
「……なに!?」
手応えがない。
それどころか、むしろデバイスに何かが絡まるような感覚を得ている。
バインドではなく体術だと直感し、このままではデバイスが取られると思い、デバイスを待機モードに戻す。
手から質量がなくなり、頼もしさが無くなるが相手に盗られるよりかは遥かにマシな結果になり、そのまま
「シィッ!」
後ろ回し蹴りを後ろに放つ。
右手側から石突きよろしくで攻撃していたので、そのまま右回転での後ろ回し蹴り。
体格差から大体、相手の肺辺りの位置に直撃するコース。風を乱暴に切り裂く蹴撃。
先には強化付きの防御結界によるスパイク。
ぶち殺す気満々で攻めねば負けると思ってやった攻撃は、とん、と魔法を付与していない素の足をちょっと上に押されるだけで対処された。
は、反応が早すぎだろうが……!
回し蹴りをしておおよそ二秒。
蹴りの位置は大体、彼の右腕の半分くらいの距離の所である。
そこから蹴りを知覚したというわけではないし、足が地面から離れた時点で予測したのかもしれないが、最早計算と反射神経が合体しているのではないかという速さだ。
というか、そんな事を考えている余裕はない。
足を上に上げられたせいで体が倒れる方向に傾いている。
このままだと転んで無様な姿を見せてそのまま撃墜という未来しかない。転がって受け身をとって体勢を立て直すか?
いや、駄目だ。少年のデバイスがあってそんな隙間がないし、そんな暇を与える少年には見えない。
そんなことをしている間に後ろからズドンの結末しか見えない。つまり、敗北。
なら、間抜けにしか見えないがこのままの体勢で飛んで逃げるしかないと決断する。
デバイスを使っていないならあのレベルの圧縮は不可能と判断した結果だ。
なら、善は急げと飛行の術式を組み足元に魔方陣が浮かび上がったと思ったと同時に空へと意識を向けた時。
背後からやはり追撃が来て、それに対してマルチタスクで防御魔法を展開し
「……っ!?」
防御魔法を突破する威力の魔弾である事に気づき、終わったという自覚を得る前に何故という疑問が打ち勝ち、魔弾よりも少年の方に視線を向け───その手にハンドガンタイプのデバイスを握っている事に気づき
「どちくしょう……!」
着弾するまでの一秒にも満たない時間の中で敗北に対しての憤りに燃えるしかない自分に心底情けないという感情を抱くことしかできなかった。
勝てた感慨などに自分は浸らずに片手に持っていたハンドガンデバイスをバリアジャケット内部に収納してバインドをハティに巻きつける、
『ああ! これぞ露出緊縛プレイ……!』
完全に無視して後ろに放るというよりは振り回すという感じで叩き付ける。
十字架型のデバイスがモーニングスターよろしくで後ろに叩きつけると同時に光が砕かれた。
「ちっ……!」
背後からおそらく念話による連絡でこちらに奇襲をしろとさっきの男が命じたのだろう。
さっきから管理局の一般局員が動く練度ではないことにゲンヤさんかなり引抜しているなぁと思う。
このレベルの動きができる局員をここで折るという事は更なるレベルアップを望んでいるということなのだろう。
贅沢な事でと思いつつ、遠心力をそのままにバインドを外す。
そのままぶつかればまず骨は楽勝。
更にはハティの固有能力として余程の構築式と魔力がなければ分解し、魔力素として吸収するから並みのシューターやバリアでは突破する獣の牙。
「……!」
逃げ場を探そうと横や後ろを見るが当然横には路地の壁。後ろは意味がない。
上に逃げようとしてもそこはさっきの仲間がやられた光景が目に焼き付いているだろう。
となると
「……とぉっ!」
慌てた動きで相手が腰を落とし頭上を通過する十字架を躱す。
動くなら下。
防御も弾くことも上にも横にも後ろにもいけないのならそこが一番ベストであるという事。
無論
「いらっしゃい」
「……!」
十字架と並走するように下にスライディングで迫っている自分と視線を合わすことになるのだが。
再び懐からハンドガン型のデバイスを手にし、銃口を相手に向ける。
既に術式は構築されているから、地面に浮かび上がる魔方陣が攻撃へのカウントダウンを示す。
そんな攻撃のカウントダウンを示された相手は一瞬、迷うような表情を生み、だが防御よりも攻撃と言う風にデバイスをこちらに向けた。
いや、本当にすげぇ練度じゃね? と思うが気にせず右腕でハンドガンを相手に構えながら───左手を引く。
それに気づかずか、気づいていての無視なのか。彼はそのままデバイスを振るうことに専念しており、非常に残念だが一秒先の彼の未来に刹那の単位で黙祷を捧げ、やはり遠慮なしに左手を引く。
左手の先には密かに先程消したバインドを生み出しており、右手のデバイスを囮としてやはりハティのモーニングスターが無理矢理に戻ってきて、結局
「───」
悲鳴も苦鳴も残さないまま局員は一瞬で意識を刈り取られた。
その表情に悔しさがあるのならば訓練には十分になったと思おう。
「まぁ、こんなもんかなぁ」
『ええ───こんなものでしょう』
都合、十分。
スコールという少年からしたら当たり前に戦い、当たり前に勝ち取っただけの普通の仕事であった。
依頼も終え、お疲れムードで訓練室から出ていき休憩所の自動販売機のジュースでも買おうかと財布を探していた。
「あっれ? ハティ。財布はどこにしまったっけ?」
『毎度毎度思いますが、毎回収納場所を変えるのは止めにしませんか? このやり取りも三桁以上やってますよ? 確か今回は………上着の左ポケットにありますよ』
「おっと………そうみたいだ。さーて、えーと、と?」
ハティの助言を受けて財布を見つけて目当てのジュースはどこだっけと探そうとしていると横から手が伸び自分より先にお金を入れていた。
相手は
「ゲンヤさん」
「おう。飲み物くらいなら奢ってやる。お前、コーヒーか紅茶。どっち派だっけ?」
「じゃあ、気分で紅茶です」
あいよ、と返事をして紅茶のボタンを押してくれる。
ガタン、と缶が落ちてきて取り出し、プルタブを開くまでが一動作だ。
ふぅ、と中身を飲むと甘さがほんのちょびっとだけ疲れた体を癒してくれる。糖分は仕事の後に最高の癒し効果をくれる。
「で、部隊長さんはこんな所で油を売っていていいんですか? この場合、紅茶ですが」
「大してうまくねえ捻りだから無視するが、やることはやっておいたよ。あの新人達にもいい刺激に放ったみたいだしな」
「ほほぅ? どんな感じに?」
ああ、と呟き自分はコーヒーを買いながら
「今度あの少年を見かけたら躊躇いなく首にバインドかけて気道防いで落としてやる!! ってな。絞殺死体ってグロいんだよなぁ………」
「………その問題発言を受けて素晴らしい正義の管理局員の部隊長殿は何と?」
「ああ。バれるような工作と隠蔽はすんなって助言をしといた。血とかって綺麗に取れんからな」
「貴様ぁ!!」
これが司法関係の仕事に就いている男性の言葉だろうか。
余りにも温かい言葉に思わず涙とともに憎悪が漏れそうだ。
この気持ちを一体どんな言葉で表現するべきだろうか。
「ま、それとは別に全員いい顔するようになった。人間一度は盛大な敗北をしなきゃ完成に近づかないもんだからな」
「それは経験則で?」
「お前の経験則もそう告げてねえか?」
質問を黙殺するために手元にある紅茶を飲む。
本人も強く聞かずに自分のコーヒーを飲んでいる。
飲み終わり、さっきまでの話題は終了ということで立ち上がりごみを捨てながら告げる。
「じゃあ、今日の依頼はここまでということでいいですね? 報酬は何時も通り振り込みで。毎度どうもということで」
『これからも末永くよろしくお願いします。じゃないと餓死するかもしれないので』
「微妙にリアルな事を言われた気がするが、まだお前さんに帰ってもらうにはちょいとはえぇなぁ」
は? と思わずハティと一緒に声を出してしまう。
まだ早い?
依頼は終了したし、依頼人への報告も済ませた。
どこからどう見ても何でも屋、スコール&ハティは今回の依頼を終えたはずなのだが……ゲンヤさん本人はまるで自然体だ。
故に逆に嫌な予感が凄いしてきた。
こういった嫌な予感は間違いなく何か面倒なことに巻き込まれるという予感なのだが職業柄なだけにそれを無視するわけには行けないというのがかなり世知辛い。
「……で、要件は?」
「ああ───簡単に言えばちょいと有名人と知り合いになって更に名を上げてくれないかっていうわけだ」
あからさまな言葉にもう溜息も吐けない。
依頼選択ミスったと今日の朝の俺を殴りたい気持ちで話を聞かざるを得ないということであった。
後書き
ようやく書けた……!
皆さん!
クロに戦闘描写でようやくマシになったと言われた部分を喰らってください……!
感想、本当にお待ちしております!!
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