| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

生きるために

作者:悪役
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第二話 方程式の解

正直に今の状況が理解できていなかった。
陸士108部隊に入ることになり、ようやく仕事をしている感を得られると新人メンバーで思っていたのだが、やらされる事はしょうもない地道な仕事ばかり。
正直に言えば詰まらないと思っていた。
自分も訓練校で訓練課程を終えて、ここに来たものなのだ。確かに経験量などでいえば自分達が劣っていることは自覚しているし、自分の魔力量がかなり多いというわけではない。
エース級の人間と比べたらそれは弱いくらいは流石に自覚している。
しかし、エース級の人以外の人間であるならばいい勝負くらいに持ち込むことができると。
隊士の一人はワイヤートラップにかかる0.1秒前までそう思っていた。





地味な仕事をしている自分達に珍しく集団訓練をゲンヤ・ナカジマ隊長の命を受け、それぞれがデバイスの用意をして訓練所に行かされた。
すると、隊長の言葉通りであったら相手は教導官ではなく嘱託魔導師らしい。何故か、言葉を濁して断言しなかったのが気になるが。
相手の詳細を聞こうとしたところで返ってきた返答は

「スタートはお前さんらが訓練所に入った瞬間。実戦だと思って頑張ってくれ」

最後の頑張ってくれ、という台詞にこの訓練によって自分達がどうなるかを隊長は示していた。
上司で年上だが、馬鹿にして、と本気で思った。
相手がどんな人物かはわからないが、説明された人物は一人だ。
いや、意外と嘘を言っているかもしれないが、もしも真実であるとすれば度し難い。こちらは12人いるのだ。一人一人がエースクラスになれなくてもこれだけ揃えば一撃を入れることは可能か不可能で言えば可能の領域に入る。
だから、皆で勝って隊長の評価を覆してやろうぜ、と笑って訓練室に入った瞬間に轟音と共に仲間の一人が凄い勢いで飛んだ。

「……は?」

阿呆みたいな声が空気に伝導するのが解ったが、周りも似たような面を晒していて何故か自分一人だけではないという連帯感が生まれる。そして同時に何やら音が響くが興味の対象は友人の運動エネルギーの推移である。
人間が一体、どうしたらあんな立っている状態から後ろに吹っ飛ぶことができるのだろうか。人間の新たな可能性の一つだろうか。
そんな事を思っていると

「……!」

隣の仲間が汗すら吹き飛ぶ勢いで後ろに飛ばされるのを見て、ようやく今が危険だと警報を鳴らしたかと思うと体に染み込まされていた訓練の動きが体を動かさせた。咄嗟にデバイスを起動し、防御魔法を張りつつ市街戦を想定した街並みの中の横にある建物の一つに体を飛ぶように隠す。
他の仲間も同じように体が動いたのか、三人がこちらに残りがばらばらに別れた。
仲間達が吹っ飛んだ方向は後ろであった。ならば、魔導師は正面からの狙撃をしている……と考えたい。
質量兵器などならば凶悪なら上なのだろうが、脅威度ならば魔法も負けていない。誘導弾の可能性もあるのだから。
ただ、それは付近で魔力の察知をしなかったので無しと思いたい。
そして、走りながら周りのメンバーと念話で話す。

『予告なしのスナイプとか明らかな反則だ! んな理不尽な訓練があるか!? 抗議出しても許されるレベルだろうが……!』

『いや、残念ながら同感ではあるが、反論できない』

何でだよ、と何人かが念話で返し、何人かはそうだな、と頭の中で返されるがどうやら答えがわかっているメンバーはこっちに答えを預けるらしい。
面倒ではあるが、冷静になってもらはないと困るので手っ取り早く答えた。

『隊長が言ったことを思い出せ───スタートはお前さんらが訓練所に入った瞬間。実戦だと思って頑張ってくれ。そんな感じだっただろ』

何人かがあ! と気づき、後二人から三人くらいがどういう意味だよ! と叫ぶのですぐ返す。

『解らないか? 相手は隊長の言ったオーダーを忠実に叶えている。攻撃は訓練所に入って本当に直ぐにしていたし、今の雰囲気は現場のそれに近い感じがする……どう見ても一流だな』

そしてえげつないものだと思う。
全員が入った瞬間を狙うなぞ凝った売り言葉である。相手からしたらこちらが一人でもドアに入った瞬間を狙えばいいのにわざと全員が揃うのを待つとは舐められている証拠である。

『スナイプを受けた二人は……』

『駄目だ……どうやら一発KOだ。少なくともこの訓練中に動けるとは思えん』

まぁ、非殺傷設定であったからノックダウンダメージで済んでいるだろう。
後で倒れた拍子でかすり傷くらいはついているだろうから、そこに塩を塗りこんで起こさせてやる。

『フォーマンセル二組と二人組一つか……マシといえばマシな状況だが……』

『二人組は念には念で下がってくれ。そっちに相手が向かったら即座に何らかの方法で知らせてくれ』

『……すまない』

謝ることじゃないと告げ、彼らは無言で後方に隠れることになった。
二人組でも並みの魔導師なら楽勝はできるのだが、今回の相手は間違いなくド一流くらいは流石に理解している。
最低でもAランク以上と認識できる。
ランクだけで言えば十分対処できるランクである。技術においては一流と認めたが、勝てないとは思っていない。

『探知は?』

『既にやった。ちゃんとヒットした。どうやら、やっこさん、俺達が隠れて狙撃位置を変えるつもりらしい。北東だ。俺達の班の方が近いから、お前らは後ろから回り込め』

『了解だ。しくじんなよ』

『笑わせんな。お前ら、何もできなかったら今夜奢れよ───無論、高いの行くが』

テメェ、卑怯だぞ! とこっちのチーム全員で念話で叫ぶが、向こうは無視した。
ちっ、と舌打ちしたくなるが我慢して移動する。
本当ならば飛行魔法で飛んでいきたいが、敵がこちらに何時狙撃するかわからないので、余り顔は出したくない。
今の自分達の位置は南西。北東にいるのなら回り込む事は楽勝である。





そう思っていた自分が敗北の原因になるとは思ってもいなかった。
北西に行って何もなかったし、北東に向かったメンバーからも、もう直ぐ位置的に接敵すると言われていたのである。
最初の内は狙撃で恐る恐るといった調子でしか動かなかったが、結局、三度目の狙撃はなく、そのまま順調に進めたのだ。
だから、思ってしまった楽勝だ、と。
故にその油断は路地の一人が歩ける程度の狭い道で足首に触れたワイヤートラップによるトラップが自分を噛んだ。

「ぬおっ……!?」

突然のアクシデントに対応しようにも足首が意図せずに浮いていくのに、言い様のない恐怖を生み出してしまって思考が上手く働かない。
何故、バインドの発動に気づかないかと思えば魔法ではないから。これが、魔法ならば流石に気づいていたはずなのに、などと脳内で愚痴っても仕方がなく、右足だけが無防備に吊られて瞬間に目の前に現れた。

「子供……!?」

そこにいるのはまだ子供といえるような年齢の少年であった。
見た目、14~から15,6くらいの年齢であり、身長は年齢相応くらいの身長より少しだけ高め位と思われる。
バリアジャケットと思われる服は黒色の動きやすそうに設定された服装に黒のコートである。
だが、それ以上に目を向いてしまうのは、持っているデバイスであった。
一言でいえば圧倒的。
もう一つ言葉を追加するとすれば頭がおかしいんじゃないのかと言えるようなデバイスであった。
そのデバイスの形は十字架の形であった。
ただし、持ち運べるようなアンクレットのような十字架ではなく、少年の体よりも大きく感じるような巨大な十字架だが。
持ち運ぶだけで大変そうな十字架を少年は片手でこちらに向けている。強化に重力緩和の魔法を使っているのだろうが、大きさの比率による違和感が酷い。
ただ、どんなものかというのかは十字架の先端にある砲みたいなもので凄い理解してしまって、冷や汗だらだらである。
しかも、それを見ている少年はすっごい笑顔。
だから、思わず叫んだ。

「待て! ───話せばわかる!」

「じゃあ、話します───今、俺、とっても、撃ちたい」

地面が光っていると気づいたら、魔法陣。色が黒だったので気づくのに凄い遅れた。
防御魔法を発動させはしたが、相手の魔力弾の圧縮率が馬鹿みたいにえげつないのを理解して無理、不可能という文字が浮かび上がり、そして背後のメンバーも自分が前をふさいでおり、左右は路地の狭い壁で防いでおり、後ろに戻るのは時間がかかる。
上に飛ぶにはもう遅いの状況を計算して詰んだと再理解をし、そして、最後に容赦なく撃たれたと思ったところで意識は彼方に消失した。






「いや、本当に何回使っても、魔法は便利だな。たかが、ワイヤーでも強化したら十分な縄になるし」

『まぁ、だから凶悪でもあるのですけどね。リンカーコアさえあれば子供ですら扱える武器であり道具ですからね。子供間でも事故で魔法で怪我することなんて幾らでもありますからね。言い出したら切りがないですが』

四人全員が気を失っていることを確認した後、ワイヤーで全員縛りながら世間話。
巨大な十字架型デバイスに姿を変えているハティを傍に置いて肩を揉み解す
男を縛るのは吐き気がするが仕方がない。これも仕事である。うん。だから、つい縛り方に力が籠ってしまうのは仕方がない。うん。
おや、何故か皆、痛そうに呻いているな。気にしないが。

「だが、それのせいで魔法世界全員がこういった物理的な罠を見逃しがちだ」

『ワイヤーなんて使わずにバインドを使った方が材料もいらないですし、オプティックバインド使えば隠せますしね───だから付け入る隙になってくれるわけですが』

無論、訓練で多少は質量兵器やらの訓練や脅威性、トラップについても訓練はされているのかもしれないが、基本はやはり魔法が相手だろう。
魔法は凄いし、便利だし、強力だ。
それについては誰もが認めるだろう。管理外世界の自分もその事に関しては認めている。
才能に頼り切りになってしまうが、仕方がないといえば仕方がない。
何せ、これは強力なのだ。こんな強力なものが誰もが使えたら喧嘩ですら殺し合いに発展するだろう。
そこまで考えてふと並列思考を一つ使ってどうでもいいことを考えた。

どこにでもある家の庭で泣き叫びながら、大規模魔法を使って喧嘩する光景
庭は穿たれ、穴だらけで所々雑草が燃えていたり、凍っていたりする地獄(パラダイス)
それを子供達の親があらあらまぁまぁ、という感じで微笑する意味不明な光景。

何だこのアルマゲドン。
人間、常識を忘れたらお終いだな、と内心で深く頷く。
聞けば、高町なのはは危険な収束魔法を友達に使ったらしい。それも、相手はバインドで身動きを封じられ、魔力も少ない状態で。
非殺傷とはいえ、こんな酷い殺害方法は他にないだろうと思う。下手したら死んでたんじゃないか、それと思うが、今はどうでもいい話だ。

『マスター。どうやら、もう一組もそろそろ罠の方に引っかかりそうです』

「どう思う?」

脈絡が繋がってない言葉に、しかしハティは応じた。

『無理でしょ』

「だよなぁ」

どうでもよさげな言葉には確信がついていた。
結果が分かっている推理小説を見るような気分で向ける視線の先は北東の方角。それは少年がいたと思われていた場所であり、そこに向かっている訓練生への視線であった。

さて。俺も用意しなきゃ。

あくまで気軽に。まるで散歩でもしに行くかのように気軽に鼻歌を歌いながら彼は動いた。






少しだけ時間を遡る。
路地を飛翔、疾走するメンバーは慎重になっていた。
飛翔も路地を形作る建物の上にはいけない。もしかしたら、これは罠であるという可能性の方が強いのだ
念には念をという言葉ほど戦場での至言はないのだ。まぁ、逆に注意し過ぎてアウトという例もあるのだが。
どれだけ普段の自分のまま、しかし己を高めることを忘れないかが生きるための戦略であると言える。
自分の心は確かに訓練で昂ってはいるがまだ冷静であると各々がそう思い、出来る限り早く進撃する。
そして、ついに相手の位置を補足した場所に辿り着いた。

『居場所の変化は?』

『さっきばれる覚悟で探知したが、位置に変更は無し───つまり迎撃態勢だ』

厄介なことになったと溜息を吐きたくなるが仕方がない。
魔導師は迎え撃つ人間の方が有利である。
魔導師は当然、魔力反応から相手の数、位置を大まかな場所まで特定できる。無論、そういったものをジャミングする装置もあるし、魔力を使わなければ直接、視覚で見ない限り反応は普通察知されない。
それこそ探知魔法でも使わない限り、隠れることはできる。
しかし、探知魔法を使うということは相手に自分はお前を探しているぞということなのだ。まぁ、今回の場合は訓練なので奇襲などは難しいと判断したから探知魔法を使ったのだが。
しかし、この場合相手は魔導師なのだ。待っている時間で適正によるが何でも出来る。
バインドなどあらゆる魔法を使って罠など仕込み放題。変身魔法などで虫とかに化けて出るのもいいかもしれない。
訓練校などで口酸っぱく言われた事だ。
魔導師は追い詰められた時が一番怖いのだ。自分も魔導師だからこそ理解できる説法を今こそ強く思う。

『……策は?』

『出来れば一発砲撃かまして終わりにしたいっていう夢語りたいが……普通に考えたらぁ対策たてられてるわな』

『前置きはいいから結論言えよ』

『じゃあ、結論───誰でもいいからちょっと生贄になってくれ』

『解りやすいな!?』

だが、ある意味で一番シンプルだ。
誰か一人、二人が突撃をして相手の罠と魔術適正を暴露させ、そこをバックから砲撃でかます。
砲撃手が狙われた場合はガードでフルバックが間に入る。
実力者相手にもこちらの練度が高ければ通じる策だ。

『相手のスタイルが限定できたらもう少し考えられるが……』

『普通に考えたら砲撃タイプじゃね?』

『まぁ、多分ミッド式だと思うが……使っている俺が言う台詞じゃねえがミッドは基本、万能スタイルだからなぁ……』

ベルカ式のような近接特化ではなく基本はオールマイティーなのだ。
近接、射撃、防御、補助と大抵が高水準である。
ベルカも出来ないというわけではないのだが、やはり基本は近接タイプである。
無論、ミッド式でも例外はある。
それこそ、彼の有名な高町なのはという少女は典型的な砲撃魔導師である。ただ、典型と名付けるには才能が怪物クラスだが。
自分たちがなまじ出来ることだからこそ、彼女が放つ魔法との格の差を知らされることになるらしい。
伝聞でこれ程の才能を実感させるのだから直接、彼女の砲撃を味わった人間は地獄を味わっただろう、南無。
ちなみに、彼女を狙った男性も次々に断って精神的にも落とすことも凄いらしい。南無三。
と、そこまで考えていたらもう直ぐであるということで、互いにデバイスを改めて握って己の力を確かめる。
場所は北東の路地裏。
それにしても、ここまで訓練所として再現するというのは管理局は人材は少ないが、お金はあるという事なのだろう。金があっても人がいなければ意味がないのだが。
念話で互いが準備OKと伝えてくる。囮の自分と背後で走っている二人で突撃し、砲撃手は空から砲撃。補助魔導師は出来る限りの全員のサポート。
ならば、余分な時間を作らせるつもりはない。
一息。それだけを覚悟の時間に作り

「……!」

口に中だけが知る無音の咆声を上げて床が濡れた路地裏に突入した。
瞬間に光が自分の視界で散った。





「───は?」

死んだと感じるような虚脱感を感じながら目の前で散っている光を見て思わず馬鹿みたいな言葉を漏らした。
後から来た同輩も同じ感想らしく思わず確認するように水溜りの上を音を立てながら今、自分たちが見ている光を見る。

「花火……?」

そう、花火である。
無論、ただの花火ではない。魔法によってよく似せただけのものである。
何故、こんなものがここにあるのだという思考が一瞬、自分たちの身体の停止を促せる。
並列処理で考えつつ、嫌な予感が大きくなるのを感じる。
つまり、自分達が感知で捉えたのはこの花火ということになるのだろうか。探知魔法は今回は魔力反応を目当てに使ったので必然的に魔力を探し求める。
それは勿論、行使されている魔法も含められるわけで……

いや、待て。ならば、これを使った術者本人はどうしたというのだ?

狙撃地点と思わしき場所から離れた場所にいると思ったのは転移魔法を使ったからと思っていた。

しかし、大前提が狂えば全てがおかしくなる。
こんな風に意味もなく魔力を行使して、餌にするとなるなら
思考が答えを出す前に口が出した。

「罠だ! 逃げ───」

るぞ、と答える前に足が先に後ろに下がろうと引き摺った時に響く音が耳に響き、もう一つ疑問に思った。

……何故、訓練所の床が濡れている……?

ここは訓練所であり、街中を投影しているがまさか雨などが降るはずがない、
そういう設定を行っていたならともかく、今は普通の晴天モードである。床が濡れているはずがない。
なら、と思ったところで視界が答えを出した。
水溜りはかなり自分たちが立っている場所から広がっており、そして路地裏の入り口の傍に稲光を思わせるようなスフィアが置いてあり、それが床に落ちようとしている。
いやらしいことに、数が一つではなく十個くらいあるように思えるのは気のせいだと思いたい。
恐らく、魔力反応式で魔力を持った者が近づけば落ちるように仕掛けたのかもしれない。
普通なら気づくところを花火の光に視線が奪われていて気づくのが遅れた。
とりあえず、一つだけわかったことがある。
自分達の相手の性格は最悪だ、とそこまで考えスフィアが水に落ちた。
当然、回避も防御も間に合わなかった。






作戦が完全に失敗したことを砲撃役の魔導師は舌打ちをすることにより認める。

『一旦、残ってる二人のところに退くぞ! ここは完全に罠地帯だ!』

『そりゃいいが、下で死んでいる二人大丈夫か!?』

『一応、非殺傷だから死んじゃあいないだろ! 多分』

多分かよ! と脳内で反応が来るが構いはしない。
電撃ショックで気絶しただけだ。保険のつもりかいやがらせのつもりかは知らないがかなりの量のスフィアだったがバリアジャケットも役目を果たしているから大丈夫だろう。
これがインテリジェントデバイスならオートバリアを張ってくれるのだろうけど、残念ながらそこまでの金がない自分達には高嶺の花である。
とりあえず、ここから翻そうと思ってきた道に戻ろうとした瞬間。

「……!」

近くにあったビルの窓が爆発した。
驚いたが訓練で得た反応が魔法を構築し、発動する。

「ラウンドシールド……!」

防御魔法としては基礎中の基礎である魔法であるが故に使い勝手がいい防御魔法を発動する。
爆風と窓硝子の破片などを受け流そうとするが破る力はないが押す力があるので上に微妙に弾かれてしまう。
見ればもう一人も似たように上に弾かれている。

『ビルの中にいるのか!?』

『いや、これも多分、反応式だ。もしかしたら、ビル全部にこういった仕掛けをしていたかもしれんな』

たまらんものだと倒れている仲間がいる路地裏を見る。
路地裏は一種の箱のようになっており、地上からは入り口が一つしかなかったので、罠を仕掛けるにはもってこいではある。

……これなら別にビル全部に罠を仕掛けなくてもいいかもな。

と、そこまで処理しながら並列処理で周りの気配りをしながらふと思った。

はて? どうして自分は全部のビルに罠を仕掛けなくてもいいと思ったのだろうか。

確かに、箱庭みたいな路地裏で地上からの出入りは一つしかないが自分みたいな空戦が出来る人間がいるのだから、空からなら入り口など関係ない。
それこそ、あらゆる方角からこの閉じた箱庭に入ることが出来る。
なのに、どうして自分はビルの入り口側のビルだけを見て罠はここだけ有れば十分などという思考が生まれたのだと下の光景を俯瞰しつつ思い───気づいた。

「──あ」

気づいた時には遅かった。
視界を横切った一瞬の光。自然界には存在しない黒い光に一瞬で意識を剥奪される未来を幻視する。
その刹那の単位で思わず愚痴った。

どんな怪物が相手なんだ……!

恐らくだが、もう一組も死んでいるだろう。
そして、恐らく全員が驚きの思考のまま倒れたに違いない。何せ見透かされ過ぎだ(・・・・・・・・)
こちらの二手、三手所か二十以上読まれている。
自分達が訓練でこの場所に慣れていること。
狙撃による自分達の対応。
この訓練における自分達の心理。
それら纏めて全て読まれていると思われる。神の見えざる手という言葉があるが、実際を見ればこんなの怪物の手の平で踊っている気分にしかなれない。
間違いなく、相手は怪物だ。敵対者を屠ることに特化した存在だ。
能力がおかしいのではなく、その思考形態がおかしい。
こんな敵対者を壊すという単一機能を持っている存在が、自分達と同じ人間であるというのがおかしいと。そして、アドレナリンで遅くなった時間が現実に追いつき、着弾。






「まぁ、意外と久しぶりの狙撃もやれば出来るものだな」

『御冗談を。鈍っているような感覚があれば私がこの作戦を拒否しますよ』

さよか、と適当に答えて立ち上がる。
狙撃モードに変えての砲撃だったので、巨大十字架であったハティも多少大きさは小さくなったがそれでも普通のスナイパーライフルと比べたら規格外の大きさである。
そもそも狙撃の為のデバイスではないので、このモードも普段ならあんまり使わない形態なのだ。
自分のレンジは中距離からなのだから。
ただ出来ないわけではないのでやっただけである。そして撃っただけである。
狙って撃つなどとよく言うが、狙撃に関しては自分は基本、当ててやるではなく当たるから撃つという感覚なので、あんまり細かいことは気にしていない。
要は当たればいいのである当たれば。

『そろそろジャミングを解きますか?』

「ああ。と言っても解かなくても残りの奴らも流石に気付いていると思うが……お。来てる来てる」

アタッチメントのスコープをハティから外して残りの二人がこちらに詰め寄ってきているのが見えている。
と言ってもチラ見だから流石に狙撃は出来ない。
まぁ、これだけの轟音と魔力行使があれば魔導師なら誰でも気づくだろう。

「さて……最後の仕上げと行きますかね」

最後の二人だけは自分の手で直接ぶっ倒す。
まぁ、手でじゃなくて魔法とハティでと言った方が正しいが。細かいことを気にするほど器は小さくない。
言い訳全てを大却下する敗戦を授けるのが今回の自分の仕事である。

「一丁やるか、ハティ」

『ご随意に。ろくでなし二人の戦闘をご覧に入れてあげましょう』

ナイス真実、と笑って動く。
無論、相手二人を迎えに。







 
 

 
後書き
ようやく書けた……六千で終わらせるつもりが何時の間にか一万近くに……!
書いててわかったが、なのはの魔法ってこんな事は出来ないって具体的に明言してないからオリジナルで作り放題だなーって思ってたら、あらこんなエキセントリックに?
とりあえず、悪いのは自分ではない気がする。
次が直接戦闘ですねー。バトル描写……が、頑張る!
頑張るぞぉー? どっかの戦友に自分の可能性を広げろと言われたばかりだからな!
頑張る! 自分、頑張るよ!

感想よろしくお願いします! 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧