蘇生してチート手に入れたのに執事になりました
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握手は必ず右手
「さて、この腑抜けたコイツはどうしてくれようか?」
突如現れた目の前の男は至って呑気な様子でそんなことを呟いた。
痩せていて、身長が高く、ひょろりとしている。
くせがある髪の毛、品の良さそうな端正な顔立ち。身につけているものも、まるで王族が着ているようなものだ。
それだけ見ると、金持ちのぼんぼんに見えるが、目つきだけが違った。
目はとても鋭く、見ているものが凍てつくような、勿論比喩だが、そんな目だ。
なにより目をひくのは後ろに担いでいる大きな鎌。鎌自体で、この男の身体の大きさを超えている。
その鎌には、さきほど切ったばかりのSP二人、そして真の血がべったりとついていた。
鎌の刃の部分がギラギラと光る。鎌が通常より大きいため、刃の部分もやたらと大きかった。
太い素っ気無い棒と、その先に付いている異常な大きさの刃。見てくれだけはただの大きい鎌だが・・・。
コイツもマントを羽織っている。このタイミングで現れたことを鑑みても当然のように死神だろう。
おそらく持っている武器にもなんらかの能力があるはずだ。
しかし、今はその能力を考えている余裕などなかった。
歓喜に身を浸していた宏助達をまた無理やり先程の状況に引き戻したのはこの男だ。
斬られたSP二人は地面に転がっていて、切り口から血が流れ続けている。
真はこの男の細い腕に掴まれ、持ち上げられていた。
この男と自分たちとの距離はわずか数メートル。
しかし、この男からは、誰にも近寄れないような威圧感が漂っていた。
第一、いきなり現れ、仲間を斬り、真までをも斬った、この男に皆、動揺していた。
そんな動揺からいち早く立ち直ったのは明だ。
「何をしてるんです、皆さん!仲間が斬られたんですよ!おそらくこの男も、死神です!
そもそも仲間を斬るような男に、手加減などしなくていいはずッ!さぁ、みなさん、自分の役割を果たして下さい!」
明が皆に活をいれ、そのまま全員が動き出す。
「そうだッ!とりあえず斬られたアイツらを助けねぇと。」
「みなさん、援護班を補助!一斉射撃ですっ!」
麗の素早い指示出しのもと、数人が死神の元に向かい、それを他全員が拳銃を構え、援護射撃の構えに入る。
宏助が呆けている間に、既にここまで救助体制が確立していた。
ここではやはり、自分の護衛としての経験の無さを痛感する部分だ。
「うてぇっつ!」
麗の号令の下に正確に数多くの弾丸が放たれる。仲間はその弾丸を避けて、仲間を救う図式だ
しかし、死神の前で、援護射撃は、最早、援護にすらならず、命を仕留めるなど不可能だと、
「少し、お前らは黙ってろ。」
「・・・・・・!!!」
・・・・分かってしまう。
なんとあの死神の持つ鎌を一振りしたと思った瞬間。
空中にあるはずの弾丸、救援に向かった数名のSP、そして地面に転がるSP二人までもが、
「・・・凍ってる・・・?」
そう、凍ってた。完璧に。水色の水晶に閉じ込められている姿だ。
「うぉおおおおおぉぉぉッ!」
だが、宏助達も最早、炎やら風やら、光やらを出す死神は見てきた。
今更、動揺するわけにもいかず、宏助は、素早く、後ろに回り込んで、攻撃する。
単純な真っ直ぐでいて破壊力のある宏助の拳が数秒後には、
「ウワあああああっ!」
「・・・だから黙ってろって。」
またもや凍っていた。
「一応、名乗るのを忘れたが、私は、死神戦闘部隊総隊長、《氷鎌》(れいひょう)零だ。この鎌は周りのものを瞬時に凍らせる
ほどの冷気を出すほどの優れものだ。」
したり顔で腕が凍った宏助を見下ろす。宏助は腕を凍らされ、うずくまっていた。
「・・・・・。」
SP達の間に絶望が走る。冷気とはこれまた厄介なものが出てきた。しかも明らかに、真よりも強そうだ。
「とりあえずコイツの処分はこうするとして・・・、」
と言いながら、先程から腕に抱えていた真を氷で作った剣のようなもので、
「いやぁあああああああっつ!」
容赦なく刺した。
そして、宏助も、
「お前もだ、ほれ。」
「・・・・んんんぐわぁあああああっつ!」
容赦なく刺された。
「宏助さんっつ!」
「なんだこれッ!刺し口からドンドン凍ってく・・・・・」
自分の身体の中にある異物の感触。
そこからじわじわと広がる氷の感触。
同じように、身体全体が氷に包まれていった真が宏助の傍に置かれ、
「・・・・あか・・さん・・・」
宏助の顔・・・身体全体・・・視界が、氷に覆われていった。
闘わなければ。
一心に麗はそう思った。奴らの狙いは全員抹殺。このままじゃ全員殺される。
しかし、状況は最悪だった。
相手は、人外で、しかも今までの死神の中で一番強いらしい。
頼みの綱の宏助は氷づけにされ、SPも既に五名程度が同じ状態だ。
そして、なにより・・・、
(真・・・・。)
真も氷づけのままだ、しかも宏助と同じく刺されている。正直、あと少しで死ぬかもしれない。
「麗・・・。」
ふと気付くと、明が不安そうに麗の肩を持つ。
そうだ、明の命だってかかっているのだ。彼女だって、宏助の命が心配なはずだ。
そう思うと、身が自然と引き締まる。
「全員配置についてッ!死神を向かえうちますよ!」
だから麗は毅然と指示を出し、あちらにいる死神を強く睨んだ。
「うわああああああ!」
「氷点下ッ!」
「ぐうううううううッ!」
「撃て、撃て、撃ちまくれ~ツ!」
「凍ってく!弾丸も、武器も!」
「負傷者は後ろで、明様の警護!」
「みなさん!がんばってくださいッ!」
「無駄ああああああああ!」
皆の悲鳴、麗の指示出し、明の応援が聞こえる。
(聞こえる・・・・・?)
確か、宏助は耳まで氷づけにされて・・・・。
そう思って傍らを見ると、なんと見たことのある光が宏助の氷が溶けている。
「お前一体っ!」
「うるさい。声を出すな。バレルだろ。静かにしてろ。」
なんと、真が手から出る光で、氷を溶かしていた。
「この氷・・・それで溶かせるのか・・?」
「詳しい説明はする気はねぇ。だが、お前にはアイツを倒してもらわないと困る。」
いきなり何を・・・と思うが真は勝手に続ける。
「・・・アイツを倒せるのは、お前だけだ。」
「なんでだよ、そもそもなにしてんだよ!俺を助けていいのかよ!お前、アイツの仲間だろ」
「・・・さっきから見ていたアレが仲間に対する行為だと思うか?」
「・・・・・・。」
「アイツは俺がこの氷を溶かせることを知っている。そして、あんな傷で死ぬようなことではないこともな。
つまり。これは俺に対する、負けたという罰。まぁそれは甘んじて受けよう。」
「・・・どうかしてんじゃねぇのか。」
「だけどな・・・」
全スルー。噛み付こうと思ったが、真の真剣な表情に思わず気圧される。
「俺は麗を、失いたくない」
「・・・・!」
「麗だけは、護ろうと思った。アイツには死神になれる素質がある。アイツの魂だけ、浄化せずに持って帰ろうと思った。そしたら、」
「そしたら、また一緒に暮らせるってか。」
「・・・・・」
「くだらねぇんだよ。そんなのに麗さんを巻き込むなよ。麗さんを死神にする?バカなこといってんじゃねぇ。」
「・・・・・だが、今となってはそれも無理な話。アイツは・・・零は俺の話を聞くような奴ではない。
指示通り、全員抹殺するだろう。麗も含めてな。」
「・・・・・・。」
「お願いだ、宏助。アイツを・・・・麗を救ってくれ。零を倒してくれ。俺のデータは既に奴の頭の中に入っている。俺では奴には勝てない。麗を護って欲しい。」
そんなことをさっきとは一変した弱弱しい口調で語る。そういう間にも解凍作業は続き、既に、宏助の上半身は自由になってきていた。
「・・・・わるい話じゃない。でも、お前は仮に俺が麗を助けたらどうする?」
「俺はお前らの前から消える」
「・・・・!」
「どうせ、死神なんて、麗の姿を見るために、生に執着していた惨めなもんだ。もう、麗の元気な姿も見れた。未練もねぇし。この作戦が成功したら、俺は死神にはもどれない」
「・・・・そこまで覚悟があるなら十分。やろうじゃねぇか。麗さん救出。俺も明さんを助けないといけない。そういう契約なんだ。」
「ありがとう・・。」
「礼はいい。お前に言われても、今は素直に受け取れない。それより」
「?」
「さっきの見ただろう。俺だって、アイツが俺のデータを持ってないだけでは勝てない。なにか策はないのか?」
「策はある。俺の聖気をお前に貸す。」
「・・・・・!」
「俺ほどの量は扱えずとも、戦力強化には十分な量、おまえに渡せる。」
「でも、俺はそれを触ったら力を失って・・・・。」
「そりゃあ、そうだ。まぁ、面倒くさい説明はすっとばすと、要は聖気は俺の意思でコントロールできる。お前に貸して、お前が自由に操れるよう、お前の魂を浄化しないように操ることも出来る。」
「でも、逆にそれは、俺を浄化することもできるわけだ。」
「否定はしない。でも、今はこれしかねぇ。俺の光でアイツの氷が溶かせるのは見ただろ。」
「だとしても、俺はおまえを信じられねぇ。」
「信じなくてもいい、でも今は、麗を救ってくれ。」
そういって、真は手を差し出してくる。その手には、光がともっている。
宏助の全身は既に、自由に動く。
そして、真の真剣なふたつの瞳。明と麗を救わなければいけない切迫感。
そのふたつが、宏助に、
「しかたねぇ。ただし、ゼッタイに裏切るんじゃねぇ。」
「・・・・痛み入る。」
宏助は真の手を力強く握った。
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