蘇生してチート手に入れたのに執事になりました
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巨大消費
麗は真の腕の中にある。つまりそれは、いつでも真が麗を殺せると言うことだ。
麗を人質に取っている限り、宏助は動きを取れない。
そして、戦闘が終わり嬉々としていたSPも固まっている。
明と宏助は悔しそうに歯を噛み締めている。
麗は真の腕から抜け出そうと必死にもがきながら、何かを願う表情で真を見ている。
そして当の真は、ただただ虚ろな目で、麗を抑えていない腕・・・左腕だ。
左腕の掌に例の光を集めている。
しかし、その光の量だけが、前までの違った。
前までは、光を集めるときもあったが、腕で一抱え程度の大きさだった。
しかし、今回はその量があまりにも膨大過ぎる。
もはや、その大きさは、真自身の身体の大きさのひとまわりもふたまわりも大きいものになっている。
この光の玉が完成するまで待て。さもないと麗を殺す。言葉にしなくても分かる無言の脅し。
それが、今、闘技場全体の空気を支配していた。
(俺が・・・、俺が真を吹き飛ばす位置を考えていれば・・・。)
宏助は後悔で胸が一杯になる。
なんの考えなしに思い切り殴って真を吹き飛ばし、麗の近くにやったのは宏助だ。
そのせいで、宏助達人外に比べれば戦闘力が劣る、普通の人間の麗が、人質に取られたのだ。
今の宏助には、人外なのに、こんなときに限って。ただただ不気味にその大きさを増してゆく、
光の玉を眺めることしか出来なかった。
(よし・・・・順調だな・・・。)
真は心の中でほくそ笑む。
一時は明の能力でどうなることかと思ったが、宏助の戦闘経験の少なさでなんとかなった。
まさか、人質を取られることを予想していないとは・・・。
腕の中でうっとうしく呻く麗を見ながら真は宏助の愚かさを哂う。
自分は死神だ。宏助には勝てなくても、それは問題ではない。
現に、自分の腕の中でもがくこの女を、一瞬で亡き者に出来るのだ。
しかし、それでは、自分はただ宏助の怒りを買うことになってしまう。
悔しいことだが、今の真では、宏助と明には勝てない。
だが、相手が身動き出来ない状況下で、相手が修復しきれないほどの質量で押し切れば真の勝ちだ。
それが、この真の掌に載る今やとてつもない大きさの光の玉だ。
これが完成し、発射すれば、最早明が魂の修復を行う前に、ここにいる三十名弱の宏助を含めた全ての魂を浄化できる。
「そろそろだ・・・。」
既に光の玉は真の身体の数十倍程度までに発達した。最早、誰にも止められない。
周りにいるSPや、宏助と明が、真の声を聞き、その不気味なほど大きい光の玉を、見ながら身構える。
真はその様子を確認し、光の玉を前へ押し出そうとしたまさにそのとき。
「駄目よ。」
「・・・・・っツ!」
なんとさっきまでなんとも哀れに真の腕の中で喚いていた女・・・、
「麗さんっツ!」
「麗!」
・・・・若菜麗が何もかもを悟ったような目で真を見上げ、巨大な光を載せる真の掌・・・その手首をしっかりと掴んでいた。
「なにをする・・。」
「貴方にこれを打たせるわけにはいかない。これはここにいる全員を消し去ってしまうんでしょう。」
「そうだが。」
「だったら貴方にこれを打たせる訳にはいかない。」
「お前に指図される筋合いはない。」
何をしている・・・・。真は表面上は冷静ながらも内心焦っていた。
こんな華奢な女など、今すぐに殺せるではないか、早く殺せ。
そう思うのに、何故か身体は動かない。麗の見上げる視線から目が外せない。
「別に、私と明様のことを見なくてもいい。さっきから貴方が私達を避けているのは分かっている。」
「別に避けてなどっツ!」
「・・・でも、これを撃ったら貴方は、もう元には戻れない。」
「・・・・・・っツ!」
「これを放ってしまえば、貴方はもう、貴方を殺した彼らと同じ。ただの・・・」
駄目だ、何を動揺しているのだ、自分。こんな女直に殺せ・・・・
「ただの人殺しよ」
その言葉を麗の澄んだ真っ直ぐな瞳で言われて、自分の中の何かが崩壊した。
今まで堅く保っていた体の芯のようなものが崩されたような、足場を失ったような、
自分の全てが否定され、落ちていくような感覚に囚われ,
「ウオオオオオオオっツ!」
「真っツ!」
真は発狂した。
虚ろな目は最早白目となり、意識的に現実逃避として、身体は感じる、ということをやめる。
真は掌に載るとてつもない大きさとなった光の玉を麗の細い手を振り払い思い切り投げた。
光の玉が空中に放たれ、弾ける・・・・・
その瞬間、真の視界に、黒い執事服姿の男が映った。
「らあああああああぁっつ!」
宏助は放たれたとてつもない大きさの光の玉にダイブする。
その予想外の動きにSPが、麗が、真が驚きで固まる。
宏助は既に麗が真の動きを止めたときから行動を開始していた。
明だけが、今、宏助の一挙一動を見つめている。明が今回の作戦の要だ。固まってもらう訳にはいかない。
麗が無事なまま、真を倒すには真の隙が必要だった。まさかそれを当の麗が作り出してくれるとは思わなかったが。
しかしその隙を宏助が見逃すはずもない。明と話し合い、手早く作戦を決めて、走り出した。
別に作戦と言うほどのものでもないが。
そう心の中で苦笑いしながら宏助はその『光の玉』への攻撃を開始した。
光の玉は今にでも弾けてしまいそうだ。おそらくこの光は弾けると全体に広がり、皆を一斉に浄化してしまうのだろう。
なら、弾ける前に消滅させるまでだ。
「ウッォオオオオオ!」
宏助は飛び上がりながら光の玉へ猛烈に攻撃を開始する。
「ウラウラウラウラウラウラオオオオラァ!」
パンチ、キック、フック、アッパーととにかく麗から習った拳と脚による攻撃を自由に繰り出す。
そう、これで重要なことは強力な攻撃ではない。
宏助の身体の各部を、早く、連続で淀みなくこの光の玉に当てることだ。
この真の出す光は宏助の魂を強制浄化する。つまり、宏助の浄化する魂と同じ量の光を『消費』する。
つまり、この光の玉を小さくする方法は全く同じ量の魂をあてがうことである。
しかし、この光の玉はここにいる全員の魂を浄化する予定のもの。
当然宏助だけの魂で足りるものではない。
しかし、明がいればそれは不可能な話ではなくなる。
明は宏助の魂を浄化されるたびに戻せば、宏助一人分の魂を使いまわして、真の光を消費しきることは可能だ。
だが、それを素早く行わなければ、真が動揺から返り、麗に危険が及ぶ可能性がある。
だから宏助はとにかく早く体を光に当てる。力が抜けてもまた元に戻ることから明の援護がはっきりと分かる。
そして、宏助はその光の玉を十秒たらずで、残り僅かにまで減らす。
宏助は自分の力よりもむしろ宏助の異常なほどの攻撃スピードに間に合った魂の修復速度・・・つまり明の速度に驚きを覚える。
しかし、そこで相手方に変化があった。
「ううっつ!真・・・・・。」
「伊島宏助。今すぐその行為をやめなければ、私はこの女を殺す。」
どうやら真は正気を戻したようだ。息を切らしながら、麗の首を絞める腕を多少なりとも強くしている。
見ていたSP達や明の目にも絶望の色が走るが・・・・
「間に合・・・・・・・っツた!」
宏助はそのまま突進する。魂の核が浄化することを恐れ、身体の各部を使っていた今までとは違い、
「なにっつ!」
身体全体で突っ込む。そのまま弱弱しく宙に浮いていた光の玉は、それでも宏助の上半身を不使用にする。
でも、上半身に力が入らなくとも、脚があれば、走れる。
真が驚き動揺している間に、宏助は素早く真との距離を詰め・・・・
「らぁああああっツ!」
渾身の蹴りを繰り出し、
「・・・・フンっツ!」
真にアッサリガードされるが既にそのときに、明の援護で、上半身の力は戻っている。
「うおおおおおおおおおおおおおっツ!」
そのまま宏助は力が戻った右の拳で渾身の一撃を叩き込む。
「・・・・・んんっぐっわぁああああ!」
宏助の脚をガードで鷲づかみにしていた真に避けられるはずもなく・・・・・・・・、真はあっさりと吹き飛んだ。
「麗さんっつ!大丈夫ですか?」
「麗っツ!」
「麗さん!」
「麗!」
宏助、明、SPをはじめとする一同が麗の周りに集まってくる。
麗は、真の圧力から逃れ、その場に倒れていた。
「・・・ええ、大丈夫です。」
麗はゆっくりと起き上がる。そしてキョロキョロと周りを見渡す。
「真は・・・?」
「アイツなら今、あちらの方で倒れてますよ。なんせ宏助さんの一撃を喰らったんですからね。」
麗の問いにSPのひとりが答える。
やがて、SP数人が真を担いでやってくる。
真はすっかり生気を失い、ぐったりとしてる。
「本当に大丈夫なんですか、麗さん。」
「そうですよ、麗。大丈夫ですか。」
「ええ、ありがとうございます。わざわざ。」
「いやいや、そんなことないって。」
「宏助さん、照れない。」
「今照れる権利くらいあるでしょ!?」
周囲に笑いが巻き起こるが、麗は笑えない。
ぐったりとした真を見ると、色々なことが、二人での楽しかった時間が蘇ってくる。
「真・・・・・・。」
麗がそう呟いたのと、真を担いでいたSP二人が真と共に突如背後から現れた巨大な鎌に切られるのがほぼ同時だった
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