Element Magic Trinity
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闇の声
魔法評議会会場、ERA。
その会場の廊下で、クロノはポケットから取り出した小型通信用魔水晶でとある人と通信していた。
「あー、もしもし?俺だけど、今時間あるか?」
『えぇ、ありますけど・・・どうかしました?』
「少し調べてほしい奴がいんだよ。お前の情報網なら簡単に調べられるんじゃねーかと思ってさ」
『場合によりますけどね。それで、今回は誰を調べればいいんですか?』
通話越しの声はまだ幼げで、少女の声だ。
「ジェラールって奴だ。性別は男。名前以外の素性は全て不明」
『ジェラールさん・・・ですね。ラストネームも解りませんか?』
「あぁ、すまねぇな。調べられそうか?」
『やってみないと解りませんが・・・もし情報があるようなら、いつも通り画像魔水晶に画像を転送しますので』
「わーった。無理すんな、出来る範囲でいいから」
『はい、了解です』
「んじゃ、任せるわ。そんじゃーな―――――――――バンビ」
魔水晶の通話を切り、ポケットにねじ込む。
柱の1本に寄り掛かり、何かを考える様に目を閉じ、少し歪んだ笑みを浮かべた。
「さぁ・・・いつまで『ジークレイン』でいられっかな?」
「・・・クロノさん、また私の事『バンビ』って。何度言ったら私はバンビじゃないって覚えてくれるんでしょう」
クロノからの通話を切り、少女は少し拗ねたように呟いた。
魔水晶を机に置き、手作り感満載のパッチワークバックから薄い魔水晶を取り出す。
2つ折りの魔水晶を開き、電源を起動させ、カタカタと決められたパスワードを打ち込む。
『MAPLE』
そのパスワードを打ち込みキィを叩く。
可愛らしいトップが浮かび上がり、慣れた手つきで魔水晶を操り、とある画面が映し出される。
『フィオーレ王国全人口人物情報』
その文字の下をクリックし、あいうえお検索から名前を探す。
希望の名前を探し始め、少しして手の動きが止まった。
「・・・見つけた」
キャラメルカラーのセミロングを耳にかけ、少女は微笑む。
そこにはクロノから頼まれた『ジェラール』の名があった。
「反乱だーーー!」
「鎮圧しろーーー!」
楽園の塔の奴隷達と大人達、2つの集団がぶつかり合う。
「狂犬ウォーリー様をなめんなァ!」
「こっちはテメェ等のおかげで鍛えられてんだ!」
武器を奪ったウォーリーが武器を振り回し、シモンが男の顔に蹴りを決める。
「こいつ等ふざけやがって!」
「皆殺しだ!」
「歯向かう奴は全員殺せー!」
物騒な言葉を叫びながら、大人達は剣や槍などの武器を持ち奴隷達に向かっていく。
「怯むなぁ!数はこっちの方が多いんだ!」
「奴等の武器を奪えー!」
「自由を手に入れるんだー!」
ずっと欲してきた自由の為・・・奴隷達は一丸となって大人達に向かっていった。
ビシィ、と。
鞭が撓る音が続く。
エルザの身代わりとなり懲罰房に捕らえられたジェラールは、両手首を縄で吊るされ大人達に鞭で叩かれていた。
が、全く声はあげない。
「コイツ・・・ウンともスンとも言わなくてつまんねーな」
「こないだの女なんかビービー泣いてたのにヨ」
「ありゃーケッサクだったな!」
人が傷つき、涙を流しているのを面白そうに笑う大人達。
こないだの女、とはエルザの事だろう。
「おい・・・小僧。このRシステムの建立がいかに神聖な宗務かを理解してねぇのか。この塔の完成の暁には、貴様ら全員『楽園』に行けるんだぞ」
ぎゅむ、とジェラールの頬を潰すように掴み、男が続ける。
「Rシステムは我らが『神』を復活させる!最強の魔導士を復活させる」
「・・・」
男の言葉にジェラールはしばらく沈黙し、ゆっくりと口を開いた。
「黙れ、ブタ」
「なっ!何をコイツ!それが神官に対する口のきき方かぁ!」
ジェラールの言葉に怒った男・・・神官らしい男は更に鞭を撓らせ、ジェラールの体を叩いていく。
「その辺にしとけ。ガキの言った事だ」
「ふぅ、ふぅ・・・」
「行くぞ」
ジェラールを叩いていたのと別の男が立ち上がる。
「午後から俺達も暴徒鎮圧だとよ」
「お前が『神』を崇めるその日まで・・・ここを出さねえからな!」
そう荒々しく叫び、男2人は乱暴に牢屋の扉を閉める。
1人になったジェラールは、ゆっくりと口を開いた。
「神・・・か・・・」
先ほどの男が言っていた神・・・。
大人達にとっては大切な存在でも、ジェラールにとっては違った。
「そんなものはいない。子供1人助けられない神など、いてもいらない」
本当に神がいるのなら、自分達はとっくに神に助けられ、自由を手に入れていただろう。
が、寝ても覚めても24時間365日、自分達は奴隷であり続ける。
どれだけ自由を願っても、自由は手に入らない。
願ってもいない願いの為に働き、大人のせいで傷つき、涙する。
「憎い・・・」
―憎め・・・-
「全てが憎い。奴等も神も、この世界も全てが」
―人の悲しみが、余を強くする―
「!」
突然聞こえてきた声に、ジェラールは顔を上げ、辺りをきょろきょろと見回した。
―愉快な奴等よのう・・・余はここにいるというのに・・・-
「だ・・・誰だっ!?どこにいる!?」
―わざわざ復活・・・『肉体』をくれるというのか・・・-
禍々しいオーラがジェラールに近づいていく。
そのオーラは徐々にジェラールを包んでいった。
―いくら信じても無駄な事・・・強い憎しみが無くては、余の存在を感じられぬ―
「出て来い!」
―うぬは運が良いぞ、小僧・・・奴等の崇める神に会えたのだ―
傷だらけのジェラールを包み込むように・・・怨霊が、亡霊が、ジェラールに纏わりついた。
―我が名はゼレフ。憎しみこそが我が存在―
楽園の塔では、大量の兵達と奴隷達が戦っていた。
「今日中に第8セクターまで解放する!皆、頑張って!」
「無茶だ!あそこは兵の数が多い!」
「だって!早くジェラールを助けないと!」
エルザの言葉にシモンが叫ぶが、エルザの信念は揺るがなかった。
彼女は自由を手に入れると同時に、ジェラールを助けたいのだ。
見つかったら大変だというのに、自分を助けに来てくれたジェラールを。
「脈なしだな。シモさんよォ」
それを聞いたウォーリーはシモンを茶化すように呟くと、そのウォーリーを押し退け、シモンがエルザに近づいた。
「エルザ、お前ジェラールの事好きなのかよ!」
「は?こ、こんな時にな・・・何言ってんの!?そんな話、今は・・・」
そう。
シモンはエルザが好きだった。
が、エルザの目に映るのは常にジェラールで、いつかは聞いてみようと思っていた事だったのである。
「俺は、お前の事が・・・」
シモンは必死に言葉を紡ぐ。
ここが普通の場所―――――少なくとも、剣や槍が飛び交う戦場でなければ、告白も出来るだろう。
が、ここは自由を手に入れる為に奴隷達が創りだした戦場なのだ。
「す・・・」
―――――――シモンがエルザに、完全に想いを告げる事は不可能だった。
エルザの目の前で、シモンは突如飛んで来た魔法弾を喰らってしまった。
エルザが、ウォーリーが、他の奴隷達が目を見開く。
「魔法兵だー!」
「シモーン!」
戦場に、魔法の光を灯した武器を持つ魔法兵がやってくる。
ミリアーナがシモンに声を掛けるが、魔法によって黒焦げになったシモンはピクピク痙攣するだけで何も言わない。
「ぎゃっ!」
「うあ!」
「ぎゃああ!」
突然の魔法兵の登場に、他の奴隷達も倒されていく。
「て、撤退!一時撤退だ!魔法には敵わん!」
奴隷達が持つのはただの武器。相手が持つのは魔法の武器。
力の差は歴然。ただの武器では魔法には勝てない。
が、エルザは諦めなかった。
否、彼女は諦める訳にはいかなかった。
「ダメッ!皆、諦めないで!戦わなきゃダメなの!」
「逃げろーーー!」
「うわああ!」
エルザの必死の叫びにも、奴隷達は撤退する。
「ジェラールを助けてぇぇっ!」
エルザが叫ぶ。
と、そんなエルザに向けて、魔法弾が放たれた。
「エルザー!」
「姉さーん!」
ウォーリーとショウが叫ぶ。
完全無防備のエルザが向かってくる魔法弾に目を見開いた、その時だった。
―――――――エルザの壁になるように、1人の老人が飛び込んできた。
「ロ、ロブおじいちゃん!」
エルザが声を掛ける。
この老人・・・エルザ達の牢屋の宥め役だったロブだ。
「こ、こんな老いぼれでも、少しは、役に立てて・・・よかったよ。おじいちゃんはとっくの昔に『魔力』はなくなっちゃったけどね・・・エルザちゃんにはまだ無限の可能性があるよ」
「おじいちゃん!」
傷だらけで必死に自分を守ってくれたロブに、エルザは『眼帯をしていない』左目から涙を流す。
「それは心・・・」
「心?」
ロブの言葉を、エルザが繰り返した。
「そうだよ。全ては信じる心から始まるんだよ。例えば、占いや信仰や願かけなどは『魔法』の一種だと思っていいよ。信じる者だけが感じる事の出来る奇跡なんだよなァ」
そう言いながら、ロブは優しい笑顔を浮かべる。
「魔法の存在を信じ、自分の力を信じ、自然と共にある事を信じる者だけが『魔法』を使えるんだよ」
ロブの言葉に、エルザは晴れやかな笑みを浮かべた。
「魔法・・・かぁ。なんかステキ!私・・・将来は魔法使いになって、ホウキに乗って空を飛びたいな」
牢屋にあったホウキにまたがり、ロブの前をぴょんぴょんと跳ねるエルザ。
それを見るロブは笑みをこぼし、頷いた。
「出来るとも」
「自由に、大空を!」
そしてエルザは、笑った。
太陽のように晴れやかで、花が咲き誇るように美しく、優しく、暖かい笑顔を。
「そしたら、おじいちゃんものせてあげるね」
「こんな場所であんな笑顔が見れるとは思わなかった」
「おじいちゃん!」
涙を浮かべながら、エルザが叫ぶ。
ロブはがくっと膝をつき、ゆっくりと前に倒れていく。
「自由とは心の中にある」
そう呟いて・・・ロブは、倒れた。
「エルザちゃんの夢は、きっと叶うよ」
その背中には、くすんだ赤色の妖精の尻尾の紋章が刻まれていた。
そして――――――
―――――その目が開く事は、2度となかった。
「おじいちゃーーーーーーん!」
エルザが涙を流しながら、叫ぶ。
「シモンを安全なトコに!エルザ!一旦退くぞ!」
ロブの事が大好きだったウォーリーも涙を浮かべる。
が、今ここで魔法兵相手に立ち向かえる人間は、奴隷達の中で魔法を使える人間は誰もいない。
目には目を、歯には歯を、魔法には魔法を・・・だが、肝心な魔法が奴隷側にはないのだ。
「ああああああああああ・・・!」
エルザはロブの傍で泣き叫ぶ。
・・・すると、カタカタと、地面に落ちた剣達が動き始めた。
「!」
「エルザ!?」
「あああああ・・・!」
エルザはただ泣き叫ぶ。
剣がふわふわと宙に浮く。
「あぁああぁああぁっ!!!!!!」
エルザの叫びに反応し、地面が割れた。
魔力が溢れ、叫びに反応し、落ちていた武器が浮いていく!
「え!?」
「武器が浮いて・・・」
「向かってくる!?」
それを目で確認し、驚愕した瞬間・・・
「ぐぁ!」
「ぎゃあ!」
「ぶふぉ!」
宙を舞う武器は、容赦なく魔法兵を襲った。
ギュウウ、と舞う武器は向きを変え、他の場所にいた魔法兵も容赦なく襲っていく。
「え!?」
「いぎゃ!」
「た・・・助け」
「うあぁ!」
槍の雨が、魔法兵に降る。
へたっ、とエルザが座り込み、叫びすぎで疲れたのか荒く息をし、後ろにいた奴隷達はあまりの出来事に言葉を失った。
エルザは涙を流す目で、自分の掌を見つめる。
「す・・・すげ・・・魔法兵があっという間に」
「姉さんが魔法を・・・」
ウォーリーとショウが嬉しそうに呟く。
「これが、魔法・・・」
呟いて、力強く拳を握る。
(いける!この力があればジェラールを助けられる!)
立ち上がり、涙を拭う。
(そしておじいちゃん!私は自由を手に入れるよ)
もう2度目を覚まさないロブを見つめ、エルザは正面を見据えると、持っていた剣を高々と掲げた。
「ついて来い!!!!!」
後書き
こんにちは、緋色の空です。
常に「!」は1つと決めている私ですが、大事なシーンは漫画通りの数で書いてます(その情報必要ないですか、そうですか)。
何か個人的に「!」が多いのって好きじゃないんですよね。
感想・批評、お待ちしてます。
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