Element Magic Trinity
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ジャンヌ・ダルク
「四角ーーーー!どこだーーーーっ!」
上の階へやってきたナツは、さっそく叫ぶ。
「ちょっと!ここは敵の本陣なんだから大声出さないの!」
「もが」
敵の本陣で叫ぶなど敵を寄せ付けるも同じ。
大慌てでルーシィはナツの口を塞ぐ。
「下であれだけハデにやったんだ。今更こそこそしても仕方ねぇだろ」
「それにこの扉、誰かがここから開けたものじゃありませんよ」
「うん。魔法の力で遠隔操作されてるね」
「つまり私達はとっくに気づかれてるのよ。大声出そうが何しようが構わないって事だわ」
「だったら扉を開く意味が余計に解んないじゃない」
グレイ、ジュビア、ルー、ティアの言葉にルーシィが呟く。
「挑発してんのか」
「挑発・・・」
「!」
考えるように呟いたグレイは、ふとルーシィに目を向け『ある事』に気がついた。
「お前、何だその服」
そう。
先ほどまでの服装とは違い、豪華なドレスを身に纏っていたのだ。
それを指摘されたルーシィはどこか得意げな笑みを浮かべる。
「星霊界の服!濡れたままの服着てんのも気持ち悪いし、さっきついでにキャンサーに頼んだの。似合ってるのは解ってんのヨ」
「うん!すっごぉく似合ってるよ!ルーシィ!」
ルーが満面の笑みでルーシィを褒める中、ティアとアルカは顔を合わせず言葉を交わしていた。
「・・・どう思う?」
「解んねぇけど、この塔の支配者も俺に似た思考だな。侵入者を面白がり、面白いから侵入を許し、先に進ませる。多分、支配者にとってはゲームみてぇなモンなんだろ」
「ゲーム・・・ねぇ」
ティアがどこか楽しそうに口元を緩める。
それを見たアルカは「楽しそうだな、お前」と呟き、ナツ達の方へ歩いていった。
「水になれるティアとジュビアはおいといて、アンタ等よく濡れたままの服着てられるわね」
「こうすりゃすぐ乾く」
「アルカ、お願い」
「おうよ」
グレイとルーがそう言うと、ナツが全身から炎を、アルカが全身から熱風を噴き出し、その熱でパタパタと服を乾かし始める。
「あら!こんな近くに乾燥機が!」
予想もしていなかったナツとアルカの使い方に驚くルーシィ。
すると、多くの足音が一気に近づいてきた。
「いたぞー!侵入者だー!」
「!」
その叫びと共に、大群の兵達が流れ込んでくる。
「こりねぇ奴等だな」
それを見たナツ達はすぐさま戦闘態勢を取る。
が、兵達はナツ達に近づく前に声を上げた。
「ぐほぉ!」
「がっ!」
「ふぉ!」
瞬く間に兵達は倒れ、全滅する。
全滅したと同時に姿を現したのは、双剣を構えたエルザだった。
「エルザ!」
「よかった!無事だったんだね!」
「か・・・かっこいい」
目的の人物であるエルザを見つけ、喜ぶ一同。
しかし、対照的にエルザは驚いたように目を見開き、驚愕の表情を浮かべる。
「お・・・お前達が何故ここに・・・」
「なぜもくそもねぇんだよ!嘗められたまま引っ込んでたら妖精の尻尾の名折れだろ!あんの四角だけは許しておけねー!」
づかづかとエルザに歩み寄るナツ。
すると、エルザの視線が妖精の尻尾の魔導士ではないジュビアに向かう。
かつて敵対してギルドにいたジュビアは思わずビクッと体を震わせた。
「あの・・・ジュビアは、その・・・」
「帰れ」
ジュビアが完全に言い切る前に、エルザが言い放った。
しかもその言葉は自分と大きな関係のないジュビアだけではなく、ナツ達にも向けられている。
「ここはお前達の来る場所ではない」
「でもね、エルザ・・・」
「ハッピーまで捕まってんだ!このまま戻る訳にはいかねー」
「ハッピーが?まさか、ミリアーナ・・・」
ルーシィの言葉を遮ってナツが叫ぶ。
エルザは自分の昔の仲間で無類の猫好きのミリアーナの名を呟いた。
「そいつはどこだ!」
「さ・・・さあな」
それを聞いたナツは―――――――
「よし!解った!」
「何が解ったのよアンタ!」
全く繋がっていない会話でも何かを理解したようだ。
2人の繋がっていない会話にティアは思わずツッコむ。
「ハッピーが待ってるって事だ!」
そう叫ぶと、ナツは後ろを振り返ってティアの右手首を無理やり引っ張る。
「今行くぞ!ハッピー!行くぞ!ティアっ!」
「はぁ!?何で私まで・・・!」
魔法では上でも単純な力ではナツに勝てないティアは引っ張られるままに半ば引き摺られていく。
「ナツさん!ティアさん!」
「あのバカ!また勝手に・・・」
「ティアまで巻き込まれてるし・・・珍しいね」
「あたし達も後を追いかけよっ!」
慌てて2人を追いかけようとするルーシィ達。
「ダメだ、帰れ」
「!」
しかし、その行く手を阻むようにエルザの剣が突き出される。
思わずエルザの1番近くにいたルーシィとルーは動きを止めた。
「エルザ!」
「ミリアーナは無類の愛猫家だ。ハッピーに危害を加えるとは思えん。ナツとティアとハッピーは私が責任を持って連れ帰る。お前達はすぐにここを離れろ」
ルーシィ達に背を向け、そう説得するエルザ。
が、そんな事にルーシィ達が納得する訳が無い。
「そんなの出来る訳ない!エルザも一緒じゃなきゃイヤだよ!」
「これは私の問題だ。お前達を巻き込みたくない」
「もう十分巻き込まれてんだよ。あのナツを見ただろ」
エルザは何も答えない。
「エルザ・・・この塔は何なんだ?ジェラールって誰だよ?」
アルカの問いに、エルザは少し俯く。
「言いたくないならいいんだけどさ・・・」
アルカの問いに答えないエルザを見てルーシィは少し俯く。
「アイツ等、エルザの昔の仲間って言ってたよね。でもあたし達は今の仲間。どんな時でもエルザの味方なんだよ」
ルーシィの言葉にルーが頷く。
グレイも、アルカも、ジュビアも、その場にいた全員が同じ思いだった。
「か・・・帰れ・・・」
ルーシィの言葉に、エルザは体を震わせながら弱々しく言い放つ。
「エルザ・・・」
ルーシィが呟くと、今度はグレイが口を開いた。
「らしくねーな、エルザさんよォ。いつもみてーに四の五の言わずついて来いって言えばいーじゃんヨ。俺達は力を貸す。お前にだってたまには怖えと思う時があってもいいじゃねーか」
グレイがそう言うと、エルザが振り返った。
――――――――左目に、涙を浮かべて。
「うっ」
初めて見るエルザの涙に言葉を失うルーシィ達。
グレイは戸惑い、ルーシィとジュビアとルーは驚いたようにエルザを見つめ、アルカは珍しく真剣な表情でエルザを見つめた。
「すまん」と一言呟き、エルザは涙を拭う。
「この戦い・・・勝とうが負けようが、私は表の世界から姿を消す事になる・・・」
「え!?」
「ど・・・どういうこった!?」
表の世界から消える・・・それはつまり、エルザがいなくなる事を意味する。
それを聞いたルーシィ達は驚愕し、唯一アルカは口角を上げた。
「これは抗う事の出来ない未来・・・だから・・・だから、私が存在しているうちに全てを話しておこう」
そう言って、エルザは意味深な微笑を浮かべ、語り始めた。
「この塔の名は『楽園の塔』。別名『Rシステム』。10年以上前だ。黒魔術を信仰する魔法教団が『死者を蘇らす魔法』の塔を建設しようとしていた」
「死者を蘇らす・・・!?」
エルザの『死者を蘇らす』という言葉にルーが反応する。
いつもの笑顔は消えうせ、何か思い詰める様にぎゅっと唇を噛んで俯いた。
「政府も魔法評議会も非公認の建設だった為、各地からさらってきた人々を奴隷としてこの塔の建設にあたらせた。幼かった私も、ここで働かされていた1人だったのだ」
「え・・・!」
「ほぉ・・・」
妖精の尻尾最強の女魔導士、妖精女王と名高いエルザがまさか元奴隷だとは思わなかったルーシィ達は驚愕する。
が、アルカは1人、面白いものを見つけた時の様に目を輝かせ、少し歪んだ笑みを浮かべた。
「ジェラールとは、その時知り合った」
「エルザー!エルザー!」
ガッシャガッシャと足の鎖を鳴らし、剣を握り懲罰房へとジェラールが駆けて行く。
「!」
少し進んだ先の牢屋に、倒れる小さい緋色が見えた。
慌ててジェラールがエルザに駆け寄る。
「オ、オイ!しっかりしろ!」
倒れるエルザに慌てて近づき・・・ジェラールは言葉を失った。
「う・・・うわぁ!」
そこに倒れるエルザには、『あるべきもの』が無かったのだ。
思わずどたっと座り込む。
その目にうっすらと涙が浮かんだ。
「何で・・・何でこんなにヒドイ事を・・・」
震える声で、咆哮。
「俺達が何をしたというんだーーーーーーー!くそォォーーー!」
ガン、と。
悔しさをぶつける様に握り拳で地面を殴る。
「ジェラー・・・ル・・・なの・・・?」
「!エルザ・・・よかった!もう大丈夫だよ!助けに来たから」
「ど・・・どうやって・・・」
エルザの震える声に、ジェラールは力強い笑みを浮かべた。
「もう後には退けないよ」
既にジェラールは3人を倒している。
エルザの為に、エルザを助ける為に。
「戦うしかない」
戦う。
その言葉がエルザの頭の中で再生される。
「たたか・・・」
エルザが完全に言い切るより早く、ジェラールの声が響いた。
「いぎ!」
ガン、と。
後ろから思いっきり頭を殴られたのだ。
「このガキだ!」
「3人もやりやがった!」
「ちくしょォォ!ガキのくせに!」
「簡単には殺すな!」
「見せしめにするんだ!」
鈍い音が響き渡る。
ギィィ・・・と、牢の扉が開いた。
その労にいた全員の目が扉からフラフラと入ってくるエルザに向かう。
「エルザ!」
「姉さん!」
「オ、オイ・・・無事だったのか・・・」
「バカ!アレのどこが無事なんだよ」
「ジェラールはどうした?アイツ・・・奴等の目を盗んでエルザを助けに行くって・・・」
エルザは何も答えない。
体を震わせ、口を開かず、ただ沈黙する。
「エルザ・・・」
「そっとしておいておやりよ。かわいそうに。懲罰房でよほどヒドイ目にあったんだろうねぇ」
「けど・・・ジェラールが・・・」
シモンの言葉に、この牢の宥め役である老人『ロブ』はゆっくり首を横に振った。
「きっと身代わりに捕まってしまったんだろうね・・・」
シモンが言葉を失う。
それと同時に、ショウが涙を流し始めた。
「もうやだ・・・もう、こんなトコやだぁああっ!」
その大きな泣き声に気づいた大人達はすぐさまその牢へと駆けて行き、扉を開ける。
「何の騒ぎだーーー!」
「大人しくしねーかクソガキ!黙らねぇと舌を引っこ抜くぞ!」
そう脅して泣きやませようとするが、逆にショウは泣き喚く。
「うあああ・・・!」
「落ち着け、ショウ」
「ショウ君・・・大丈夫だよ。おじいちゃんが近くにいるからね」
大人の叫び、ショウの鳴き声、ショウを泣き止ませようと宥める声・・・。
その全てが雑音となって流れ、エルザの耳に入っていく。
思わずエルザは耳を塞いだ。
雑音。
雑音。
雑音。
泣くショウ。
宥めるウォーリー。
力強い笑みを浮かべるジェラール。
耳を塞ぐ。
目を閉じる。
歯を食いしばる。
頭の中に響く、ジェラールの声。
―戦うしかない―
その言葉が、エルザの中に響く。
「うぁあぁぁぁあぁあぁあああぁっ!」
次の瞬間、エルザは男の1人の槍を掴み、男達を思い切り斬りつけた。
「な!」
同じ牢にいた子供たちが目を見開く。
「何だ何だ!?」
「隣の牢だ!」
その牢の隣の牢の子供達がエルザ達のいる牢を見つめた。
「反乱だーーーーーーーーー!」
男が叫んだ。
エルザは槍を力強く掴み、後ろで驚きながら見ているショウ達に力強く叫ぶ。
「従っても逃げても、自由は手に入らない。戦うしかない!自由の為に立ち上がれぇぇ!」
楽園の塔に、子供たちの咆哮が響き渡った。
「私達は自由の為・・・ジェラールを救う為に立ち上がった。あの頃のジェラールは皆のリーダーで正義感が強くて・・・私の憧れだった・・・」
そう語りながらも、エルザの表情は暗くなっていく。
「しかし・・・ある時を境にジェラールは別人のように変わってしまった」
そう言うエルザの頭の中には、ジェラールの姿が浮かんでいた。
懲罰房で、ボロボロになっているジェラールの姿が・・・。
「もし人を悪と呼べるなら、私はジェラールをそう呼ぶだろう」
後書き
こんにちは、緋色の空です。
今回は少し、変な書き方になってしまいましたね。
特に最後の方が・・・。
感想・批評、お待ちしてます。
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