Element Magic Trinity
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月に吠える
「ん。了解・・・サンキューな、バンビ」
ERAの廊下で『バンビ』と呼ぶ少女と通話をしていたクロノは、通信用魔水晶をポケットにねじ込み、別の魔水晶を取り出す。
角ばった魔水晶を起動させ、届いていたメールに目を通した。
「ほぅ・・・こいつがジェラールねぇ・・・」
口角が上がる。
画面に映し出されたジェラールの姿を見て、クロノはすぐさま画面を消し、ポケットにしまい込んだ。
まるで、誰かに見られるのを避けているかのように。
「ま、待ってくれよ・・・あの時は悪かったよ・・・」
「お、俺達だって上のモンに命令されて仕方なくやってたんだぜ」
「もう教団の連中も俺達しか残ってねぇ・・・アンタ等の勝ちだ」
「な、仲直りしようぜ・・・な?」
剣を両手に持ち、静かに歩いてくるエルザに命乞いをする大人達。
先ほどまでとは真逆の態度に、少し腹が立つ。
どれだけ命乞いをしようと、エルザには―――――――
「邪魔だ」
単なる障害でしかない。
「ぎゃあ!」
「うがっ!」
地を軽く跳ぶと同時にエルザの持つ2本の剣が大人達を斬る。
そのままエルザは駆けていき、遂に目的の人物を見つけた。
「ジェラール!」
彼女の視線の先にいたのは、傷だらけの状態で手首を縛られぶら下がるジェラールだった。
慌てて駆けより、手首を吊るす縄を切る。
「もう大丈夫だよ!全部終わったの!ジェラールが言ったように私達戦った!シモンは重症だし、ロブおじいちゃんは私を庇って・・・他にも犠牲になった人はたくさんいる」
エルザが必死に叫ぶが、ジェラールは何も言わない。
「でも勝ちとった!私達は自由になれる!」
眼帯をしていない左目に涙が浮かぶ。
ずっと俯いているジェラールを、エルザがぐいっと起こした。
「行こう!ウォーリー達が奴等の定期船を奪ったの。この島から出られるんだよ!」
「エ・・・ルザ・・・」
「!?」
ジェラールが小さく呟き、エルザを抱きしめる。
それに応えるように、戸惑いながらもエルザはジェラールに腕を回した。
「もう逃げる事はないんだ」
「え?」
抱きしめる力が強くなっていく。
「ん。ジェラー・・・ル?」
エルザの方が背が低いため、背伸びをする。
そんなエルザを抱きしめたまま、ジェラールは――――――
「本当の自由はここにある」
歪んだ笑みを浮かべ、呟いた。
ウォーリー達の奪った定期船では、自由になった奴隷達が嬉しそうに騒いでいた。
「おお!見ろよコレ!映画魔水晶だっ!」
「みゃあ?映画魔水晶?」
「映画を記憶させた水晶だよ。奴等、こんなモン持ってたのか」
「映画って何?」
「物語さ。役者が芝居をしてお話を見せてくれるんだぜ。ま、俺も見た事ねーんだけど」
そう言いながらウォーリーがカチ、とスイッチを押す。
すると、前回に見た時に途中だったのか、突然現れた男が銃を発砲した。
「おおっ!」
「みゃっ!」
突然の事に驚き戸惑うウォーリーとミリアーナ。
『残念だったな、トニージョー』
画面上の男は敵であろうトニージョーを撃ち、帽子を被る。
『お前の運命は俺と出会った時に、終わっていたんだぜ』
それを見たウォーリーは――――
「シブイィィーーーーーーー!」
「・・・」
嬉しそうに声を上げた。
その後ろのミリアーナは驚いている。
因みに、現在のウォーリーがよく『ダンディに』と言うのは、初めて見た映画であるこれが原因だとか。
「姉さん、遅いなぁ」
作りかけの楽園の塔を見つめ、ショウは溜息をついた。
「ジェラール?何言ってんの?一緒に島から逃げるのよ」
フラフラ・・・と歩いていくジェラールに声を掛けるエルザ。
「エルザ、この世界に自由などない」
「!?」
ジェラールの言葉にエルザは驚く。
ジェラールは足を止め、ゆっくりと口を開いた。
「俺は気づいてしまったんだ。俺達に必要なのは、かりそめの自由なんかではない」
そこで一旦区切り、振り返る。
「本当の自由。ゼレフの世界だ」
そう呟くジェラールの顔は、何かに取り憑かれたかのように歪んでいた。
エルザの体を寒気が走る。
「今なら『奴等』の気持ちも少しは解る。あのゼレフを復活させようとしていたんだ。だが奴等はその存在を感じる事が出来ない哀れな信者共さ。なぁ?」
ジェラールに顔を踏まれ、信者の1人が悲鳴を上げる。
「この塔は俺が貰う。俺がRシステムを完成させ、ゼレフを蘇らせてやる」
不気味で歪んだ笑みを浮かべ、ジェラールは呟く。
震える声でエルザが口を開いた。
「ど・・・どうしちゃったの?ジェラール・・・何言ってるの全然解らな・・・!」
エルザが最後まで言い終えるのは不可能だった。
ジェラールが顔を踏みつけている信者に手をかざした瞬間、嫌な音がして真っ赤な血が勢いよく飛び散る。
エルザは口を両手で覆い、目を見開いた。
「や、やめ、てくれ・・・」
別の信者が必死に命乞いをするが、ジェラールには通用しない。
「ぶはっ!」
肘を曲げた状態で挙げた右腕を横に振ると同時に、再び地面が血に染まる。
「魔法・・・?」
「うわあああ!」
エルザが目を見開き呟く。
歪んだ笑みを浮かべたジェラールは更に両手を横薙ぎに振る。
「あぷああ!」
「ぐぽえが!」
懲罰房が赤く染まっていく。
耐えられなくなったエルザは必死に叫んだ。
「やめて!ジェラール!」
「やめる?こいつ等が憎くないの?エルザ」
「に・・・憎いけど、そんな・・・」
「ダメだ。そんな事ではゼレフを感じる事は出来ない」
そう呟き、必死で逃げる信者に手を向ける。
逃げる先で小規模の爆発が起こり、信者は爆風に見えなくなった。
「うっ」
「あははははっ!」
エルザは思わず目を閉じて顔を背け、ジェラールは笑う。
「ジェラール・・・しっかりしてよ・・・きっと何日も拷問を受けてたせいで」
「俺は正常だよ」
エルザの言葉にそう答え、ジェラールはエルザの方を向く。
「エルザ・・・一緒にRシステム・・・いや、楽園の塔を完成させよう。そしてゼレフを蘇らすんだ」
楽園の塔。
今まで信者達はこの塔を『Rシステム』とだけ呼んできた。
もしかしたらこの名称は、ジェラールがつけたものなのかもしれない。
「バカな事言ってないで!私達はこの島を出るのよ!」
命をかけて勝ちとった自由。
それを逃すなどエルザには考えられない。
シモン、ロブ、他の奴隷達・・・多くの人が傷つき、犠牲になりながらも手に入れた自由。
この塔に残るなどあり得ないのだ。
・・・が、それを聞いたジェラールはピク、と眉を動かした。
「きゃああっ!」
その瞬間、ジェラールの手から放たれた魔法弾によって、エルザは吹き飛ばされた。
「う、あう!」
地面をバウンドし、ドサッと落ちる。
「いいよ」
「!」
「そんなに出ていきたければ、1人でこの島を離れるといい」
「1人?」
ジェラールの言葉に、信じられないものを見るような目でエルザが呟く。
「他の奴等は全員俺が貰う。楽園の塔の建設には人手が必要だからな。心配しなくていい、俺は奴等とは違う。皆に服を与え、食事を与え、休みを与える。恐怖と力での支配は、作業効率が悪すぎるからな」
「何を言ってるの?皆はもう船の上!私達を待ってるのよ。今更こんな場所に戻って働こうとなんてするハズない!」
「それは働く意味を与えなかった『奴等』のミスだ。俺は意味を与える。『ゼレフ』という偉大な魔導士の為に働けとな」
「ジェラール・・・お願い・・・目を覚まして」
エルザが必死に呟く。
が、その願いは誰にも届かなかった。
「あう!」
ジェラールが右親指と人差し指で何かを掴むような仕草をする。
すると、近くの岩から腕が伸びてきて、エルザの首を絞めた。
「く・・・苦しい・・・」
必死に腕を外そうとするが、ビクともしない。
「お前はもういらない。だけど殺しはしないよ・・・邪魔な『奴等』を排除してくれた事には感謝してるんだ。島から出してやろう。かりそめの自由を堪能してくるがいい」
「ジェ・・・ラール・・・」
エルザの目に涙が浮かぶ。
「解ってると思うけど、この事は誰にも言うな。楽園の塔の存在が政府に知られると、せっかくの計画が台無しだ」
この楽園の塔の建設は、政府も評議会も非公認だ。
建設しているという事が知られれば、塔の建設は不可能になるだろう。
「バレた暁には、俺は証拠隠滅の為、この塔及びここにいる全員を消せねばならん。お前がここに近づくのも禁止だ。目撃情報があった時点でまず1人殺す」
そこまで言い、ジェラールは笑みを崩さず、仲間である少年の名を口にした。
「そうだな。まずはショウ辺りを殺す」
ボロボロと。
エルザの目から大粒の涙が零れ落ちる。
「ジェラ・・・ル」
そしてジェラールは、叫んだ。
歪みきった笑みを浮かべ、歪んだように目を見開き。
「それがお前の自由だ!仲間の命を背負って生きろエルザァァァァーーーーー!あはははは!」
ザザァ・・・ザァァ・・・と。
何も聞こえない空間に、ただ波の音だけが響く。
ゆっくりと目を覚まし、自分が今、どこにいるかを確認する為にキョロキョロと辺りを見回す。
「・・・」
声を発さず立ち上がり、体中を蝕む痛みに、ドサッと倒れ込む。
砂浜に、ポタポタと水滴が落ちる。
溢れ出る悔しさを堪えるかのように、砂浜の上で左手を握りしめた。
悔しくて、悔しくて、歯を食いしばって―――――――
「うあああああああああああ・・・!!!!」
黄金に光り輝き、美しい光で自分を照らす満月を見上げ、泣き叫んだ。
今まで溜めこんで来たものを、全て吐き出すかのように。
何も出来なかった事を、全てを後悔するように。
それを聞いたルーシィは、言葉が出なかった。
ルーの目にはうっすらと涙が浮かび、グレイは何も言わずエルザを見つめ、ジュビアは泣くのを堪えるかのように両手で口を押さえ、アルカは真剣な顔で視線を落としている。
「私は・・・」
エルザは体を震わせ、必死に言葉を紡ぐ。
「ジェラールと戦うんだ・・・」
――――――その左目から、涙を流して。
後書き
こんにちは、緋色の空です。
やっとエルザの過去の回想が終わりました。
ナツとティアは次回に少し出番があり、その次の話は2人メインになる予定です。
ナツティアファンの方はそれまでお待ちください。
感想・批評、お待ちしてます。
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