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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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妹達
  Trick55_借りるしかできることねーから



「では奇策を行います」

ピン、と信乃の手元から金属を引き抜く音がした。

手に持っているのは先程美雪が投げたものと同じもの。

「催涙ガス?」

「用途は目晦ましですけど、ね!!」

地面に強くたたきつけ、煙は一気に広がった。

「さて、奇策といっても出来る事が限られています。
 履いていたインラインスケートで速くても超無駄。
 持っていたカバンみたいなものに武器が入っていたとしても
 大きさを考えて大口径の銃や、大火力の爆弾でしょうか。

 それも、無駄です。超無駄です。無駄すぎます」

リラックスの体勢を崩さずに、どこから仕掛けても対応ができるように
絹旗は準備をしていた。



 シーン



「・・・来ませんね。ちょっぴり超恥ずかしいですね、自分」

若干頬を染め、恥ずかしさを誤魔化すように一人言を呟いた。

目暗ましを出して1分以上が経過していたが、信乃の攻撃はおろか、音が全く聞こえていない。

迎撃の準備をしていた絹旗は、ようやく信乃の奇策が逃げる事だと気付いた。

「でも、どこに行ったのでしょうか?この実験室の出入り口はここぐらいしか・・・・」

ようやく催涙ガスも薄まっていき、目暗ましの役割を果たさなくなってきた頃に
絹旗は辺りを見渡した。

「・・・・奥の準備室ですか」

半開きになっている扉を見つけた。

実験室の奥にある実験準備室。器材などが大量に置かれている部屋だ。
先程まで閉まっていた扉が開いていると言う事は、逃げた先はここで間違いない。

また、実験対象の布束と、救出に走った美雪の姿もない。
信乃と同じく奥の準備室に逃げたのだろう。

念のため部屋に隠れ場所が無い事と、破壊した入口の隙間に人間が通る隙間が無い事を
見て、確実に奥の部屋にしか居ない事を確認した。

「ただの超悪足掻きですね」

絹旗はゆっくりと奥の部屋に歩を進めた。



(やばいな・・・能力者との戦いがここまで厄介だとは思わなかった。

実験準備室の奥の棚の影に、抱えて連れてきた美雪と布束を降ろして信乃は悪態をついていた。

(殺し名は直接的な攻撃だから、その瞬間にカウンターとか、いろいろ策ができる。
 呪い名の相手はないけど、間接的な攻撃の相手の対策はしているから大丈夫だった。

 でも、今の相手は違う。能力が常時発動。普通の攻撃で隙なんて出来やしない!)

相手が格上である場合、勝る方法としては大きく分けて3つある。
1つ目は、相手が能力を発動していない状況を狙う。
 いくら強くとも、能力が無ければただの人。先手必勝は奇襲がこれにあたる。
2つ目は、相手の能力が発揮できない状況に陥れる。
 能力が高ければ、その能力値が落ちるようにする。
 炎使いに対して水辺で戦うのが一番わかりやすい例かもしれない。
3つ目は、自分の得意とする能力が最大の結果を出せる状況にする。
 例え相手が強くとも、自分の得意の能力が僅かでも上回っていれば勝機がある。
 パワー系能力者に、自分のスピードを活かして、攻撃を喰らわずに
 攻撃をし続ける戦法がそれだ。

1つ目は不可能だ。相手の能力は常時発動型。発動していない時はない。

2つ目と3つ目を行うには少々問題がある。
相手の能力が不明すぎる事だ。
能力が解らなければ、能力が発揮できない状況も、自分の有利な状況がどれかも分からない。

戦いにおいて情報とはここまで大きく戦況に関わる事を、信乃は改めて実感した。

「(ヒソ)信乃、どうするの?」

「(ヒソ)どうにかする。もう少し待っていてくれよ」

「ん。信用して待ってるよ♪」

(そんな事を言われたら、全力を出すしかないじゃないか)

内心、美雪の信用を嬉しく思いながらも、改めて打開策を考える。

まず、攻撃方法が狭められる。

今、信乃の手は手が痺れている。
警棒を破壊した影響だ。これまでの数々の怪我の経験から、
骨に罅は入っていない事と推測はできるが、同じ拳で殴りあえと言えば答えはNoだ。
それ以前に彼女を殴れば警棒と同じ末路になるのは子供でも分かる。
そんなことはお断りだ。

そして相手の防御能力。

攻防一体となっているようで、殴った感触から、並みの攻撃は無意味だと感じる。
普通の、直接的な攻撃など銃や爆薬を含めて不可能だ。
その固さ、石よりも堅い。

(・・・石・・・そう言えば殴った感触は、堅い何かに遮られた後に、
 彼女の手で強い力による反撃を受けて警棒が壊れた。

 防御は、堅い装甲の類。攻撃は物理的に力を底上げする類。

 まるで駆動鎧(パワードスーツ)だ)

思考に耽っていると、ギィっと金属がこすれる、扉が開く音がした。

(って落ち着いて、かつ焦るんだ、俺。

 時間も逃げ道もないなら、短時間で迎撃する方法を考えて実行するしかないんだ。

 堅い見えない装甲・・・・見えない壁? 相手に見えない壁があると想定するなら!)

信乃は何かを閃き、急いで自分のカバンを開いた。

中に詰まっていたの大量のA・Tのパーツと、ドライバー等の整備道具。
特にパーツはA・Tを3足分ほど追加で組み上げられるほどある。

そして自分が装着しているA・Tを脱ぎ、取り憑かれたように改造を開始した。

(これをやったら確実に壊れるけど、とにかく今は時間が無い!!
 頼む、成功してくれ!!)

ほとんど思いつき近い内容で組み上げた新しいA・T。

先程の赤が主体のカラーリングではなく、別々のA・Tのパーツが組み合わされた
統一性の無いカラーリングになっていた。

(石の壁に似ているなら、これで無理矢理破ってやる!!)

スゥー、ハァー。一度大きな深呼吸を行い、隠れていた棚の影からでる。

「おや? 鬼ごっこの次はかくれんぼと思っていましたが、自分から出てくるんですね」

「・・・・」

「返事は無しですか。でもかくれんぼで見つかったからには、捕まってください。
 あなたの背後関係などを教えてもらいます。超無理矢理にでも。

 あなたには、もう出来ることなんてありません」

「出来る事ならある」

「へぇ・・」

「俺が・・出来る事は・・1つしかないから・・・俺はみんなの力を
 借りるしかできることねーから」

それから、気を失うまでに絹旗が認識できたことは少ない。
能力を身につけてから、一度も食らった事のない爆発による衝撃と、体が壁にぶつかる衝撃だけだ。

信乃が実行したのは、炎の王の劣化再現。

(いばら)のムチは窒素装甲を砕き
 (とどろき)の「風車」は窒素を破壊した時の衝撃を吸収して熱エネルギーに変換
  (ばく)が破壊した窒素を取り込み、有機窒素を生成して「超爆発力」を引き起こす


 Trick HOLE NINE HEAVEN'S DOOR
      AEttir(アティール)



それはかつて、炎の王カズが、石の王へ反撃するときに使用した技だ。

「かはっ!」

自慢の窒素装甲は破壊され、正面から爆風を浴びて後ろへと飛ばされる。
幸いだったのが、壁にぶつかるまでに棚に何段かぶつかったために威力が弱まった事だけだ。

「ごめんな、お嬢さん。女性は傷つけたくなかったけど、優先順位は美雪が一番だから」

言い終わると同時に、A・Tに罅が入る。
その罅は少しずつ広がり、ガシャンと音を立てて破壊して落ちていった。

信乃が少女の近づいて確認したところ、完全に気を失っているが、体には骨にひびは入っていても
折れている個所はどこも無かった。

不完全な信乃が出した不完全な技。しかも擬似玉璽(サブレガリア)の複数をA・Tに
強制的に組み込み(もちろん調律無し)、無理矢理再現させた。

これらの理由から、本来の何十分の一しか威力が出せず、華奢な絹旗が大怪我をせずに
済んだのだ。

その代償として、信乃の全身には筋肉痛のような痛みと、足に軽度の打撲、A・Tは破壊された。

「美雪、打撲に効く薬って持っている?」

「あ、あるよ! すぐに塗るから!」

「俺じゃなくてこの子にな。
 塗らなくてもいいから、薬を容器をこの子の側に置いてくれ」

「わかった・・・信乃はどうするの?」

「壊れた入口に爆薬仕掛けて、無理矢理空ける。幸い、この部屋には火災報知機とか
 設置されていないみたいだ。設置されていたらさっきの(トリック)で鳴っていたからな」

「信乃、また無理して足痛めているでしょ?」

「俺の治療はあとだ。シノブさんをカエル医者の所にまで送り届けた後だ」

その後、来た時と同じようにして無事に外に出る事に成功した。



つづく

 
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