とある碧空の暴風族(ストームライダー)
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妹達
Trick56_大笑化薬(グッドラック)
「乗ったか!? 出すぞ!?」
「ん!」
「そんじゃ行くぞ!!」
○○研究所の近く。信乃が行くときに止めていたワゴン車に乗り込み、アクセルを強く踏んだ。
絹旗との戦闘後、侵入と同じ方法で監視や警備を誤魔化して外へと逃げる事が出来た。
意識の無い布束をワゴン車の後ろに横になるように乗せて、美雪は同じく後ろに。
座席には座らず、座席の足元に膝をつき、自分のカバンを漁る。
「美雪、何してるんだ? 運転中に危ないぞ」
「シノブちゃんの治療。眠らせるために薬が大量に投与されている。
コカイン系の依存と有害度の高い薬。
たぶん情報さえ引き出したら、それだけでいい状態にされている。
あとのことなんて考えられていない。
病院に行く前に、応急処置しておく!」
「なんでそんな状態がわかるんだ?」
「視診、聴診、触診。
あと、シノブちゃんの口から甘いにおいがする! そういう系統の薬の特徴だよ!」
「よくそれだけで判断できるな・・・
応急処置って、手持ちの薬だけで出来るのか?
薬物による状態異常だろ?」
「手持ちの薬は、信乃に合わせた傷薬しかない。
でも、材料ならある」
「は? 材料だけでどうやって・・・」
運転中だが、思わず後ろを見てみる信乃。
カバンから取り出した15cm四方の薄い紙、それは薬包紙。
それを右手の人差指と中指で挟んで構えていた美雪が能力を発動した。
「附子、龍眼、甘草、無花果、魚腥草」
呟かれる言霊は薬の材料となるもの。それを薬包紙を使い、カバンから高速で上に弾き飛ばし続ける。
「!? 早い!」
いつもののんびりとした雰囲気からは想像もできない早技。
「桑寄生、地楡、冬虫夏草。抽出、排除、生成、加薬、排除、分解、加熱、凝固、粉砕」
高速で動く紙は、弾き飛ばした材料を全て包み、光り始める。
そして数十秒後、紙の中から粉末の薬が出来上がった。
「開発環境・・いや、大笑化薬」
開発環境
一定空間内の温度や重力、圧力などの複数状態を自在に操る、学園都市でも珍しい能力の一つ。
しかし、レベル3以上の能力者は未だ現れず、レベル1の能力者のほとんどが
1~3㎡の温度や圧力を少々の段階しか変えられる程度である。
大笑化薬
西折美雪の本来の能力である開発環境が呼ばれている別名。彼女の異名でもある。
15cm四方の紙の中と言うかなり限定的な能力範囲だが、他の開発環境の能力者に比べて
240の段階と14の状態を操る事が出来る。
それに加え、学園都市でもトップクラスの内科、薬剤学の能力と併用している。
薬草や鉱石を原料に薬を生成し、それは漢方薬を調合する能力に近い。
美雪の求める調合、効薬を即席で得ることができる。
印象としてはレベル3以上と思われるが、能力が美雪本人の知識に大きく依存してるため
開発環境の能力自体はレベル2と計測されている。
幼少のころより、美雪が開発環境の能力を持っている事を知っていた。
学園都市に来る前の調査で、美雪が大笑化薬と呼ばれている事も知っていた。
だが、能力を発動させる瞬間を見たのは初めてだった。
素早い手つきと、能力発動時の神々しい光と姿に思わず見惚れてしまった。
「っと! 運転中だった! 美雪、シノブさんは大丈夫か?」
「ん! 今生成した薬を液体にして注射した! これで十分だと思う」
「応急処置は大丈夫か、良かった」
「え、あ、そっか。応急処置だった。
普通に治療しちゃった♪」
「・・・なおったの?」
「同じ薬をあと2回、時間をおいて投与すれば♪」
「うわ・・・・美雪さん、パないの」
「ありがと♪」
つい先ほどまで殺伐としていたのが嘘みたいな雰囲気になった。
それから30分後、カエル医者のいる総合病院に到着した。
事前にカエル医者に連絡していたので、緊急搬送用の入口でストレッチャーを準備して
数名の看護師と共に待っていた。
「お待たせしてすみません、先生」
「いいよ。学園都市の闇は僕も知っている。
だから助けられる患者がいれば助けるだけだよ」
「ありがとうございます」
「先生、シノブさんをお願いします!」
「任せてく・・・・どうやら患者の容体が安定しているようだが?」
「美雪が勢い余って応急処置から通常治療にしちゃったそうです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
さすが僕の弟子だね?」
「長い沈黙に、激しい葛藤と混乱があった事をお察しします」
「あ、アハハハハ♪」
表情こそ変えなかったが、長い沈黙は誤魔化せない。
「では改め、美雪とシノブさんをお願いします」
「? どうして美雪君もお願いするのかね?」
「今から用事があるんですよ。結構な用事が」
そう。『絶対能力者進化計画(レベル6シフトけいかく)』は終わっていない。
「その用事の間、美雪をお願いします。
もしかしたら患者が追加するかもしれませんが、よろしくお願いします」
「信乃・・・・」
「なに泣きそうな顔してんだよ。親友が助かって嬉しいだろ?」
「そうだけど、でも、信乃が・・」
「なんだよ。俺と離れて寂しいのか?」
「ん」
「‥・即行で肯定しないでくれ、恥ずかしい////」
(いや~、2人だけの空気を作ってるね?)
カエル医者は楽しそうにしながらもまったく口を出さずに2人を見守っていた。
「ゴホンゴホン。お前の意見は無視するとして、俺は行かなきゃならない」
「ん、わかっている。私の意見が無視されるのは納得できないけど、わかっている
だから、すぐに終わらせて来て。私の所に来て」
「わかっ・・・ってあぶねー! ここで頷いたら恋人みたいな会話になるとこだった!」
「だから、すぐに終わらせて来て。私の所に来て」
「////同じセリフを繰り返しても返事しないからな!」
「ここで拒否の返事をしないのが信乃だよね♪」
「うるさい。もう行くからな! 先生! この馬鹿お願いしまね!」
「はいはい、いってらっしゃい」
布束と美雪を車から降ろして出発した。
「あの馬鹿/// 恥ずかしいこと言ってんじゃねぇよ。
ったく。次は絶対能力者進化計画の邪魔だな」
運転中にデバイスを操作する(違法運転です。真似しないでね♪)。
学園都市の重要情報を再度確認。計画を行っている総本山に殴りこみに行ってもいいが、
それでは今日の実験の対象になる妹達を助ける事が出来ない。
妹達
御坂美琴をオリジナルとして製造された、体細胞クローン。
布束が関わっていた実験は、元々は妹達を量産する『量産能力者計画』であり、
計画の流用に伴い、布束は再び実験に参加した。
布束からのクイズもとい遺言を考えると、彼女は妹達を助けるために行動し
それが失敗して今回、捕まっていた。
信乃は自分達に害がなく、手の届かない範囲の暗躍を相手にするつもりはない。
だが今回は、実験に自分の妹分である御坂美琴のDNAマップが使用されている。
それに絶対能力者進化計画の情報を見たところ、ここ数日の間に 電撃使い(エレクトロマスター)による
襲撃事件が多発している。同時多発によるサイバーテロを考えると犯人は御坂美琴であると信乃は考えていた。
計画の情報を見た後で連絡をしたが、電話とメール共に返事は無い。
あの少女の性格を考えると、信乃を巻き込みたくないと考えているのだろう。
でも信乃は助ける。自分の妹分に関わった。
それになにより、美雪の親友に手を出したのだ。ただで済ませるつもりは無い。
そんな憤怒を抑えながら、信乃はある場所へ向かっていた。
「次の実験は、第10032次実験。
開始時刻は・・・・22:00」
まずは妹達を助けるため、最新で行われる実験の場所へと向かっていた。
「まだ実験までは1時間半もあるし、現場近くでA・Tを調節して・・・・え?」
計画の最新情報に以下の内容が足されていた。
・第10032次実験は被験者の緊急対応能力を測定するために20:30から実験を開始する
「おいおい・・・20:30って、もう開始してるじゃねぇか!!」
つづく
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