少年と女神の物語
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『東方の軍神』編
第十四話
俺がカンピオーネになってから二年がたち、俺は高校一年生になった。
まあ、まだ一学期が始まって一月位しか過ぎていないのだから、正確には二年ではないのだが。
だが、この約二年間の濃度はかなり濃い。なんせ、神様と五回戦い、さらには自分以外の六人のカンピオーネ全てと会ったのだから。しかも、内五回は殺しあった。
でも、その辺りのことがあったおかげで、家には家族が三人増えた。
神様を殺しに行ったら、そこで捕まっていたのでこないかと誘ったのだ。
では、そんなメンバーの増えた家族の簡単な紹介を、俺の六回目のカンピオーネとの戦いの有った前日について語りながら、やってしまおう。
◇◆◇◆◇
「ん・・・朝か・・・」
俺は耳元で鳴る目覚ましの音で目を覚ました。現在時刻、五時。
朝にはそこまで弱いわけではないので、こういった音で簡単に目を覚ませる。
「さて・・・先に着替えるとするか」
別に今日は土日、と言うわけでもないので当然学校はある。
制服をハンガーから取って、部屋の隅にある、試着コーナーのようなものの中に入り、着替えを済ませると、脱いだものをもって常に開けっ放しにしてあるドアを出て下に向かう。
そして、リビングのドアを開けると、そこには既に人が二人ほどいた。
「おはよう、調に切歌。今日の朝食の当番って二人だっけ?」
「あ、おはようデス、ムソウ!」
「おはよう、兄さん。うん、私達が朝食の当番」
この二人が、新しい家族のうちの二人だ。
少し前の春休みに、俺が連れてきて神代の一員となった、氷柱と同い年の妹に当たる。
「じゃないと、きりちゃんがこんな時間に起きてないでしょ?」
「それもそうか」
「二人とも酷いデス!あたしはそんなにお寝坊さんじゃないデスよ!」
「「それでも、早起きじゃない」」
まあ、確かに切歌は寝坊はしないが、かといって早起きなわけでもない。恐らくだが、調に起こしてもらったのだろう。
ちなみに、林姉ともう一人の新入りはほぼ百パー寝坊する。朝には弱いのだ。まあ、容赦なく起こすんだが。
「はあ・・・じゃあ、俺はそこで生徒会関係の仕事してるから、何かあったら呼んでくれ」
「大丈夫。今日はきっと、なにもないから」
「そうデスよ!あたし達も進歩してるんデス!」
「もうその台詞を聞くのも何回目だろうな?ま、そうなることを祈ってるよ」
どうにもこの二人は料理が苦手なようで、大小は様々だが、毎回何かしらの問題を起こしている。
その結果、二人はメニューが少なめで済む朝食の当番が増えたのだ。家には、朝に量を食べる人間はいない。
はてさて、今日はどんなことをやらかしてくれるんだろうか。俺はわくわくしながら机に向かい、生徒会の資料をまとめていた。
――――十分後――――
俺は二人の手に治癒の術をかけていた。
もちろん、二人とも治癒の術は使えるのだが、俺が使ったほうが圧倒的に早いのだ。
怪我の症状は、調は指を軽く包丁で切った。ただし、両手のほぼ全ての指を、だ。どうやったら包丁を持つほうの手や親指まで切れるのだろう?
次に切歌だが、こちらは軽い火傷。フライパンを使う際にミスってしまったそうだ。
「にしても、あれだけの状況を作っておきながらこの程度の怪我しかしないのは、一種の才能なのかな?毎回、本当に笑えないレベルの怪我はしないし」
「「うぅ・・・」」
キッチンのほうを見ると、ひっくり返ったフライパンや、何故だかまな板に突き刺さっている包丁など、もう大惨事だった。
幸いにも、中身は全て床につく前に俺が回収したため、全員の皿の上に乗っている。食べ物は粗末にしたらいけないからな。そして、そんなことにも魔術は活躍してくれた。
「よし、これで傷はふさがったし、火傷も治した。念入りにかけたから傷も残らないだろ」
「ありがとう、兄さん」
「今日も駄目デシた・・・いつになったら料理ができるようになるデスか・・・」
まあ、二人とも目に見えてがっかりしていた。あれだけ自信満々に言っていたのだから、当然と言えば当然である。
「こればっかりは、慣れたら、なんだろうな。さて、俺は今から全員分の弁当と朝食の付け合せに味噌汁とか作るけど、見るか?」
余談だが、二人が両方とも怪我をした時点で他の人に任せること、というルールがある。
これは、今は軽症で済んでいるが、続けたらもっと酷い怪我に繫がるかもしれない、という懸念から決まったものだ。
「うん、見る」
「見るデス!」
それから、俺は二人に見られながら慣れた手つきで十一人分の味噌汁と弁当を作った。
父さんと母さんは家にいないので、別に作らなくてもいい。最後に帰ってきたのはいつだったか・・・
「これでいいだろ。・・・どうした、二人とも?」
俺が全員分の弁当にできたものを詰め込み、それぞれの入れ物に入れた辺りで、俺は二人の視線に気付いた。
「いえ、なんと言いますか・・・」
「自分達にできないことをあっさりとやられると、少しイラッとする」
「知らんがな」
拗ねたような目で見られても、俺にはどうすることもできない。
教えるのが苦手だから教えてやることもできないし。
「それと、気付いてるとは思うがもう皆起きてるんだ。早く着替えたほうがよくないか?」
「あ・・・」
「すっかり忘れてマシた・・・」
そう、料理をしている間に時間は過ぎ、もうほとんどのメンバーが着替えてリビングに集まっていたのだ。
いまだに寝巻きだった二人は、慌てて自分の部屋に向かって走っていった。
「あの二人は相変わらずですね。おはよう、武双」
「おはよう、アテ。まあ、何にも完成しなかったころに比べればずいぶんと進歩してるだろ。ところで、今日もあの二人は?」
「まだ寝てるよ。武双、起こしてきてくれ」
自分で起こすつもりはないのか、ソファでぐだっとなりながらリズ姉はそう言ってきた。
「おはよう、リズ姉。質問だけど、自分で行こうって気は?」
「ないな。それに、あれを起こせるほど私の頭は起きていない」
「なるほど、リズ姉らしい主張だな。じゃあ行って来る」
まあ、あの二人を難なく起こすことは難しいから、元々一人で起こすつもりだったのだ。ちゃんと起きてくるとはいえリズ姉も朝には弱いほうだし、任せるのはどうかとは思う。
予定通り、起こしに行くとしよう。俺はドア付近に立てかけてある、枕をくくりつけた棒を持って、二階へと向かった。
◇◆◇◆◇
さて、まずは林姉から起こすとしよう。
俺は先ほど持ってきた棒で距離を置きながら林姉をつつく。
「林姉ー。朝だぞー。早くおきろー」
「まだ眠い・・・ムー君も一緒に寝よう・・・?」
そう言って、林姉は棒につけてあった枕を抱きしめ、布団にもぐっていった。
いつもどおりの反応である。
「はあ・・・良いから、起きなさい!」
そして、捕まる心配がなくなったので、俺は林姉のそばまで近づき、耳元で大声を出す。
「ひゃっ・・・もうムー君!そう言うの、よくないってお姉ちゃんは思うの!」
「そうか。なら俺は毎朝毎朝当たり前のように弟に起こしてもらってる林姉もどうかと思うんだけどな!」
と、これが毎朝の林姉だ。
「もう・・・私としてはね。もっと優しく起こしてくれたり、いっそ一緒に二度寝とかがいいのよ」
「そうなるから、わざわざ二段構えなんだからな?」
寝惚けているときの林姉の抱きしめる力は、変に強い。
全然痛くないし圧迫感を感じないのに、絶対に抜け出すことができないのだ。
「じゃあ、起きたなら着替えてから下に行って。もう朝食の準備はしてあるから」
「は~い」
頬を膨らませて若干不満そうでは有ったが、同意してくれたので俺は部屋を後にする。
そして、そのまま次の部屋へ。
「こっちも熟睡か・・・おい、起きろー」
「イヤ・・・あと五分・・・」
「この間の土曜日は、後五分で起きるって言うから放置したら、そのまま二時間寝てたよな?しかも俺が起こさなかったらそのまま寝てえたよな!?良いから早く起きろー!」
俺はそう言いながら、布団から出てこようとしない妹を揺らす。
が、一向に起きる気配はない。
仕方ない。切り札を使うとしよう。
「・・・ちなみに、今日の朝食の味噌汁は俺が作ったが」
「おはよう武双兄様。今日もいい朝だね」
一瞬で起きた。それはもう、さっきまで寝ていたといわれても信じられないくらい顔に眠気がない、完全な目覚めだ。
「ああ、いい朝だな。俺の味噌汁なんかでマリーがこの朝を味わってくれるのが嬉しいよ」
「うん。でも、私としてはそれよりも、早く武双兄様のお味噌汁が食べたい。あれより美味しいものを、私は知らないから」
「そっか。俺はそうは思わないけど、そう言ってくれると嬉しいよ。じゃ、早く着替えて降りてこい」
「そうする」
「でも、俺が出て行くまで着替えるのは待てよ?」
話の途中で着替えだそうとしたマリーをそう言って止め、俺は部屋を出る。
とまあ、今のが俺が神殺しになった後、調や切歌が来る前に家に来たマリーだ。
なぜかはよく分からないが、俺の味噌汁が大好物だったりする。
「さて・・・二人が出てくるのを待って、俺も下に行くとしますか」
マリーはあの様子なら間違いなく起きてくるとは思うが、林姉は分からない。もう既に二度寝していてもおかしくないのだ。
その後、予想通り二度寝していた林姉から布団を引っぺがし、もう既に制服に着替えていたので下に連れて・・・強制連行して行った。
崎姉がよく言っているが、この人は本当に、年上には見えない。
後書き
と、こんな感じで『戦姫絶唱シンフォギア』から二人ほど登場させました。
年齢は、切歌が十五歳とのことだったので、二人とも十五歳で中学三年生とします。立夏と同い年ですね。
では、感想、意見、誤字脱字待ってます!
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