少年と女神の物語
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第十三話
「「「「ただいまー!」」」」
武双が蚩尤から権能を簒奪してから、特に何の問題もなく帰国し、今は神代家の前にいます。
私の神性も無事、武双が権能で作ってくれたネックレスで封印できています。
「ええっと・・・おじゃまします」
「じゃないだろ」
で、挨拶をしながら家に入ろうとしたところ、武双にそういわれました。
「そうだよアー姉!もうアー姉も私達の家族なんだから!」
「自分の家に帰ったときの挨拶で良い」
なんだか・・・泣けてきそうです。
「じゃあ・・・ただいま」
「「「「「「「「おかえりなさい!」」」」」」」」
気がつくと初めて会う人が四人、玄関まで来ていました。
この人たちが、私がまだあっていない神代の人たち。私の家族なんですね。
「お兄ちゃんおかえりー!」
「おう、ただいまビアンカ。いい子にしてたか?」
「うん!もうビアンカ五年生だもん!」
「そうか。じゃあ、あとでお土産を上げよう」
「わーい!」
武双を見つけるなり武双に飛び込み、抱えられている赤い髪の小さい子はビアンカですか。感情が分かりやすい子ですね。
「お帰りなさい、リズ姉様に依林姉様。旅行はどうだった?」
「もう大変だったのよ~。疲れちゃった・・・」
「まあ、武双が神殺しになったりと、色々あったからな。でだ、疲れたから荷物をもってくれるか?」
「依林姉様はともかく、リズ姉様は全然疲れたように感じないんだけど・・・分かったわ。これをもっていけばいいの?」
「ああ、頼むぞ氷柱」
「ゴメンね~」
で、あそこでリズ姉さんと依林姉さんの荷物を受け取ってるのが、氷柱。確か、小学六年生だといってましたね。年齢で言われないとよく分かりませんが、武双の二つ下だそうです。
「あなたがアテちゃんね。私は御崎」
「あ、初めまして。アテです」
「武双君が誘った子よね。一応次女ではあるんだけど、姉さんがあんな感じだから、私が長女みたいな感じなの。何かあったら遠慮なくいってね」
「はい。頼りにさせてもらいます」
で、この人が御崎姉さん。姉弟の中では一番神代に来てからが長く、一番のしっかり者だとか。
となると、その足にしがみついて隠れてるのが最後の一人。確か名前は・・・
「君が桜ちゃん、だね。私はアテ。これからよろしくね」
「あ・・・はい。よろしくお願いします」
私がしゃがんで目線を合わせてそう言うと、桜ちゃんもそう返してくれました。
人見知りをする子だといっていたので、これくらいがいいかもしれません。
「よく言えたね~桜ちゃん。じゃあ、お姉ちゃんのお荷物もってあげて?」
「うん」
桜ちゃんは私の持っていた荷物を受け取って、トコトコと奥へ歩いていきました。
気がつけば、もう他の人も一人もいませんね。
「ごめんね、アテちゃん。あの子、人見知りがすごくって・・・」
「聞いてましたから、大丈夫です。それに、武双達いわく、すぐに心を開いてくれるそうですし」
「ええ。たぶん、明日にはもう大丈夫だと思うわ」
一日で良いとは、本当にすぐですね・・・・
「じゃあ、行きましょうか。皆も待ってるみたいだし」
そう言って、御崎姉さんは私の手をとって歩き始め、たどり着いた扉を開けて私を押し込み、
「「「「「「「いらっしゃい、私達の(俺達の)新しい家族、神代アテ!」」」」」」」
そう言って皆が私を迎えてくれました。
「じゃあ、まずは自己紹介。林姉からよろしく」
武双がそう、依林姉さんに言って、自己紹介が始まります。
「じゃあ、長女の依林!特技は物を盗むこと。これからよろしくね、アーちゃん!」
「なら、順番的に私ね。次女の御崎。特技は剣術。いうなれば騎士ね。これからよろしく、アテちゃん!」
「じゃあ私か。三女のリズ。特技は魔術とか、術式を物に書き込む、書き換えること。よろしく、アテ」
「じゃあ、もう知ってるだろうけど。長男の武双。特技は槍術と、我流の二槍流。それに、今はカンピオーネにもなってる。その関係で結構助けられたけど、これからもよろしく、アテ」
「長いよソウ兄!チャオ!私は五女の立夏!魔女才と天啓が得意!よろしく、アー姉!」
「じゃあ次は私ね。初めまして。私は六女の氷柱。巫女才と、天啓が得意よ。これからよろしくね、アテ姉様」
「はいはーい!七女のビアンカ!全般的にそこそこにできるのと、運が良いです!これからよろしく、アテお姉ちゃん!」
「あ、えっと・・・八女の桜です。その・・・人を呪ったりとか、そんな感じの術が得意です・・・」
と、みんなの名前と才能を交えた自己紹介をしてくれました。
桜ちゃんは見た目からも話し方からも特技が結びつかないんですが・・・だって、ちょっとおどおどしてて、髪は薄い色の茶髪がふわふわ。
まあ、気にしちゃ駄目なんでしょうね。
「じゃあ、次はアテの番な。こんな感じの自己紹介を頼む」
「あ、はい。私は、一昨日くらいから四女になった、アテです。特技はないですけど、まつろわぬ女神です。これから、よろしくお願いします」
私がそう言って頭を下げると、皆は「こちらこそ、よろしく!」という意味合いのことを言ってくれました。
そろそろ本当に泣きそう・・・といいますか、既に少し涙が出てきてるんですよね・・・見つからないうちに拭いておきましょう。
「じゃあ自己紹介も済んだことだし、皆でゲームでもするか!全員席付けー!」
武双の号令で、全員が席に着きます。
武双が仕切っているのは、こういったことの仕切りは誘った本人がやることになっているんだとか。
「あ、そうだ。アテちゃん。ゲームが終わってからでいいから、このファイルに目を通しておいてくれる?」
「分かりました。でも、これはなんですか?」
御崎姉さんが渡してきたのは、青いファイルです。
開いてみると、一番上には依林姉さんの写真がついた資料が。
「これはね、神代一家がここに来た理由とか、そういったことがまとめてある資料よ。一緒に暮らすに当たって、知っておいたほうがいいこともあるから」
「・・・なら、あとで読んでおきます」
単純にここにきた理由なら読もうとは思いませんが、必要なことがあるのなら読まないわけには行きません。
「それと、武双君がまとめたアテちゃんの資料もあるから、空欄になってるところを埋めたり、間違ってるところを直したりしておいて」
「一体、いつの間にまとめたんでしょうね・・・」
武双はかなりのハードスケジュールだったはずなんですが、休まずにそんなことまでしていたんですか・・・
「じゃ、これはその辺りにでも置いといて、早く私達も席に着きましょう!」
「はい、分かりました!」
そういえば、なんでゲームなんですかね?
◇◆◇◆◇
で、あれから結構時間がたってゲームは終わりました。
何なんですかね、このゲームは・・・
名前は『どんぞこゲーム』。ルールは、最初にいくらかのお金を渡され、自分の車をスタートにおいて、ルーレットで出た数だけ進んでいき、止まったますの指示に従う、というもの。
でですね・・・なんとも悲しいことに、ますの指示にお金のプラスは一部を除いて一切なく、全てマイナス、という仕様で、ゴールした際に最もマイナスの少ない人が勝者となります。
ちなみに、今回の勝者はビアンカでした。唯一プラスできるかもしれないカジノエリアで、ものすごい量のお金を荒稼ぎし、ゴールした際にまだお金があるという、ゲームの設定を根本からひっくり返してくれました。
「じゃあゲームも終わったことだし、一旦解散!もう時間も遅いし、全員食事は済ませたから、順番に風呂に入って寝ろー」
あ、そうそう。食事はボードゲームをしながらとりました。
「ふう・・・疲れた」
「ねえ兄貴。少し質問いい?」
で、仕切りが終わってソファに崩れた武双の横に氷柱が座り、質問しているところを眺めている状況です。
ファイルが読み終わったので、ちょうど良いですし。
「ああ、いいぞ。ただし、もう寝たほうがいい時間なんだから、早めにな」
「大丈夫よ。元々家にいた四人は、もうお風呂も済ませてるから」
「そっか。なら、どうぞ」
だから子供達よりも先に立夏とリズ姉さん、依林姉さんがお風呂に行ったんですね。
気がつくと、もう私たち三人以外はここにいません。
「じゃあ・・・なんで神様なんて殺したのよ?」
・・・たしかに、家族としては気になることですよね。
「あー、なんつうか・・・成り行きだ。その必要があったから、そうした」
「成り行きって、そんなことで!?」
「そんなこと言うな。そうしないと、家族が死んでたんだぞ?同じ状況で、氷柱だったらどうしてたんだ?」
「その神様を殺してたわね」
どうやら、考えることは同じだったようです。
まあ、私も同じことを考えるでしょうが。
「だったら、それで納得してはくれないか?」
「ふざけないで!それで兄貴まで死んでたかもしれないのよ!?」
「でも、今こうしてここにいる。もうそれでいいだろ?」
多分、氷柱が言いたいのはそう言うことではないのでしょうね。
「そんな簡単に言わないで!アンタが神様と戦ったって聞いて、私達がどれだけ心配したか・・・!」
「なんだ、心配してくれたのか?」
で、氷柱が言ったことに武双がそう返すと、氷柱の顔が一気に赤くなり、
「心配なんてしてないわよ、バカ兄貴!」
そう言って部屋を出て行きました。
階段を上る音も聞こえますし、自分の部屋にでもいったんでしょう。
「はあ、また武双君ね。氷柱ちゃんも、そろそろ素直になったら良いのに・・・」
「?それってどういうことですか、御崎姉さん?」
部屋に入ってきた御崎姉さんは、私の隣に座ってそう言いました。
「ううん、大したことじゃないわ。ただ、氷柱ちゃんは武双君のことが大好き、ってだけよ」
「はい、それは見てたら分かりました。お兄ちゃん思いのいい子ですね」
「それもあるんだけどね。氷柱ちゃん、武双君のことが異性として大好きなのよ」
「・・・はい!?」
とりあえず、武双に聞かれていないかが心配なんですが・・・もう寝てしまっていますし、大丈夫そうですね。
お風呂から出たら、起こしておきましょう。
「それって、どういうことですか・・・?」
「言ったまんまの意味よ。その資料、もう目を通してくれた?」
「ええ。もう大体覚えましたけど」
「その中の氷柱ちゃんが来た理由、そこから考えてみたら?」
私は、自分の記憶を探りながら、ファイルの氷柱の項目を開きます。
・・・たしか、氷柱がここにきたのは、もといた家で、性的な虐待を受けていたから。
当時小学三年生だったころのため、最後まではやっていなかったが、父親や腹違いの兄妹によりそういった扱いをされていた。母親は既に離婚していたせいで、誰もとめるものがいなかった。
それゆえ、慣れていない男性に対して恐怖を抱いている。
そして、そんな家族を全員病院送りにし、氷柱を神代につれてきたのが、当時小学校五年生だった・・・
「・・・確かに、そんなところから助けてもらったら、王子様みたいに見えますよね」
「そう言うこと。多分、氷柱ちゃんの部屋のドアに耳を当てたら、面白いものが聞けるわよ?」
実際に行ってみたら、「ああ、私なにやってんだろ・・・お兄ちゃんのこと好きなのに、あんな態度とっちゃって・・・」というような、一人反省会が開かれていました。
「よく武双は、それに気付きませんね」
「武双君は、普段の態度を素だと考えてるもの。それに、本人曰く連れ出すときにかなり大立ち回りしたらしくて」
「恐怖心を抱かれていると?」
「さすがに、嫌われてはない、位の事は分かってるんだけどね。心のそこで男性に恐怖心を抱いてるのが、無意識のうちに出てる、って考えてるみたい」
武双は、そういった面で鈍感なんですね・・・氷柱、苦労することになりそうです。
もちろん、私もなんですけど・・・
「おーい二人とも、風呂あいたから、入ってくれ。武双は私が見ておくから」
「じゃあ、お願いねリズちゃん。行きましょう、アテちゃん」
「はい、分かりました」
そして、私と御崎姉さんはお風呂に向かいました。
一応言っておきますと、武双を一人部屋に残さなかったのにも理由があります。
その内容については、また、いずれ。
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