ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
百十話:衝動の代償
「な!?みんな!?なんで、ここに!?」
突如として姿を現した同僚の踊り子さんたちに、驚愕するバネッサさん。
構わず、宣告する踊り子さんたち。
「バネッサ!ドーラちゃんから離れなさい!」
「それは、許されないわ!許されない、罪よ!」
「美少女は、遠くにありて愛でるもの!無暗に触れて、汚すことは許されないのよ!!」
「そう!選ばれし美少女をその腕の中に収めることができるのは、ただ一人!選ばれし、いい男だけなのよ!!」
確信に満ちた表情で、熱く主張が重ねられていますが。
いや、別に。
クラリスさんとか、同性の信頼してる相手なら、抱き付くくらい何も問題無いんですけれども。
下心に満ち満ちた変態とか、同性でも論外ですが。
なんだ、その妙な設定は。
話の展開がよくわかりませんが、とにかく行動を咎められた形になるらしいバネッサさんが踊り子さんたちをキッと睨み付け、反論します。
「放っといて!こんなに、可愛いのに!あんなに、可愛いのを!目の前で、見せ付けられて!我慢できるわけ、無いじゃない!!」
……ええー。
やっぱり、昨日の踊り子さんたちみたいな状態なの?
ヘンリーが助けてくれなかったら、またあんな目に遭ってたの?
踊り子さんて、こんなのばっかなの?
クラリスさんだけ、例外なの??
げんなりした気分で眺める私と、さらに私を隠すように動くヘンリーを他所に、踊り子さんたちがバネッサさんに向き合い、諭すように言い聞かせます。
「……わかる。わかるわ。私たちも、通った道だから」
「わかるわ。わかるのよ?……でもね?そうして欲望を満たした先に、何があると思う?」
「得られたはずの信頼、親愛の情。欲望に身を任せた結果、それらは永遠に失われてしまうの」
「自分にはもう手にできないものを、間違い無く手にしている者がいるの。それを、指をくわえて見ているしか無いのよ?」
「無邪気な笑顔を見せてくれたはずの美少女に、警戒に満ちた表情で、蔑みの目で見られるのよ?あなたはそれで……いいの?」
「行動を起こして、気付いた時には全てが手遅れなのよ?本当に、それで……いいの?」
いつの間にそんな悟りを開いてたんだ、この人たちは。
ていうかバネッサさんに関しても、割ともう手遅れなんですけれども。
散々揉みくちゃにしてくれた踊り子さんたちとか、襲われかけたバネッサさんとか。
クラリスさんやキャサリンさんに対するような、全幅の信頼を以て接するのは、完全にもう無理です。
許す許さないじゃなくて、怖いもん、もう。
……なんてことを今言ったら、バネッサさんに開き直られてしまいそうなので!
言いませんけどね!!
そんな私の思考はともかく、踊り子さんたちに柔らかく言い聞かせられて、バネッサさんが戸惑いを露にします。
「……そんな……だけど、わからないじゃない!もしかしたら、受け入れてもらえるかもしれないじゃない!楽しく、じゃれ合えるかもしれないじゃない!!」
ありません。
そんな可能性は、万に一つも存在しません。
突然襲いかかってくる変態を好意的に受け入れるような頭の緩い美少女は、私に限らず、どこを探してもいませんから。
という私の思考を代弁するように、踊り子さんが静かに口を開きます。
「……バネッサ。現実を、見るのよ。ご覧なさい、ドーラちゃんを。あの、嫌悪感に満ちた表情を。あんなに可愛い姿を見せてくれていたドーラちゃんを、こんな風にしたのは……あんたが、衝動に身を任せたからなのよ?……あんたは、こんな結果を、望んでいたの……?」
え、ちょっと。
こっちに振らないでください。
正直、視界に映りたくありません。
と、ビクッとしてヘンリーの背中にしがみつく私の姿に、バネッサさんが衝撃を受けて愕然とします。
……え、今、気付いたんですか?
これだから変態って、やーねー。
「……そんな……!あたしは、ただ……!可愛かったから、可愛がりたかったから……!それだけで……!」
呆然と立ち尽くすバネッサさんに、踊り子さんがゆっくりと歩み寄ります。
「……バネッサ。悔い改めるのよ。確かに、取り返しのつかないことはあるわ。私たちが、あの無邪気な笑顔を向けてもらえることは、きっともう無いでしょう……」
「……そんな……。そんな、ことって……」
「……だけど。まだ、間に合うこともあるわ。今、踏みとどまれば。見守ることは、許されるの。突き進めば、それすら許されなくなるわ……」
「……それ、……すら……」
うん、まあ。
他の踊り子さんたちも、一回は許したし。
私も基本的に可愛い女性は好きだし、バネッサさんも踊り子さんなだけあって、派手さは無くてもそれなりに可愛いし。
踏みとどまって態度を改めてくれるなら、それくらいはなんとか。
「あんたが本当に、可愛いものを、純粋に愛でたいだけだと言うのなら。ここで、踏みとどまりなさい。私たちと一緒に、遠くから、見守りましょう……」
バネッサさんの肩に手を置き、全てを悟り切ったような穏やかな表情で言い終える踊り子さん。
しばし俯き、逡巡していたバネッサさんが、意を決したように顔を上げます。
「……わかったわ。あたしが、間違ってた。あんなに可愛いのを、見守ることすら許されないだなんて……。そんなの、嫌だもの……」
「わかって、くれたのね……!」
「……それじゃ、これ!これに、署名をなさい!」
素早くバネッサさんに近付いた別の踊り子さんが、一枚の書類のようなものを突き付けます。
え、署名?
って、なに?
ということをバネッサさんも思ったようで、私の代わりに疑問をそのまま口に出してくれます。
「……署名?……それは、なに?」
「『ドーラちゃん非公式ファンクラブinポートセルミ』の入会申込書よ!!」
…………ハア?
え、なにそれ?
聞いてませんけど?
非公式とか、本人の目の前でなに堂々とやってるの?
ていうか、昨日の今日で、いつそんなものを。
「……それは、……入ると、……どうなるの……?」
え、ちょっとバネッサさん。
そんな怪しげなものに、いきなり興味を示さないでください。
「まず、入会特典としてドーラちゃんのミニ肖像画をプレゼント!」
ハア?
だから、いつそんなものを、勝手に
「さらに、会員間で交換した情報をまとめた会報を、定期的に配布するわ!」
え、ちょ、ま
「すみません!プライバシーの侵害は、良くないと思います!断固、拒否します!!」
まだ近付くのは怖いので、ヘンリーの背後から。
声だけで、異議を申し立てます。
「ああ!心配しないで、ドーラちゃん!ここにいる限り、旅するドーラちゃんの情報なんてそうそう手に入れられないから!ほとんど、ドーラちゃんの可愛さを熱く語り合う内容になると思うわ!」
「そうそう!ドーラちゃんには、どんな服が似合うかとか!」
「ドーラちゃんが最高に可愛く見えるシチュエーションは、どんなのかとか!」
「いかがわしい内容は検閲で外すから、大丈夫よ!汚さないわ!」
「そもそもそんないかがわしい内容を入れ込もうとすることが、罪よ!!」
え、……ええーー……。
なにそれ、どうしよう。
大丈夫なの、それ?
盛り上がる踊り子さんたちから少し距離を置き、困ったように眺めているクラリスさんに、救いを求めて視線を向けます。
「……クラリスさん……」
「……ごめんね、ドーラちゃん。羽目を外し過ぎないように、ちゃんと見ておくから。ガス抜きとして、大目に見てやってくれないかしら」
「…………クラリスさんが、そう言うなら…………」
正直、ちょっと嫌だが。
やめろと言ったところで止めようが無いし、迷惑をかけられるわけじゃ無いなら、もういいか。
「ドーラちゃんの黙認が得られたところで!さあ、どうするの、バネッサ!?入るの、入らないの!?」
「……肖像画を……見せて、くれますか……」
「ご覧なさい!徹夜で仕上げて版画で量産した、力作よ!!」
え、徹夜とか。
朝からテンション高いと思ったら、徹夜明けだったの?
ナチュラルハイだったの?
その力作を目の前に見せ付けられたバネッサさんが、顔を輝かせて食い付きます。
「……入ります!入りますから!それ!ください!!」
「まずは、署名よ!全ては、それからよ!」
「書きます!書きました!!」
「よくやったわ、バネッサ!ようこそ、こちらへ!!」
ああ。
バネッサさんが、暗黒面に堕ちた。
「さあ、帰るわよ!目的は全て、果たしたんだから!これ以上、お邪魔をしてはいけないわ!」
「ドーラちゃん、ヘンリーさん!元気でね!この町に来たら、また寄ってちょうだいね!」
「あ、ヘンリーさん!良かったら、これ!取っておいて!」
「じゃあね!二人とも!頑張ってね、色々と!!」
ヘンリーの手に肖像画を押し付け、賑やかに去って行く踊り子さんたち。
「ごめんなさいね、お騒がせして。気を付けておくけど、困ったことがあったら私かキャサリンに相談してね。それじゃ、元気でね。ドーラちゃん」
「あ、はい。クラリスさんも、お元気で。色々、ありがとうございました」
最後に言い置いて、クラリスさんも去って行くのを見送って。
「……ドーラ。……何、したんだ」
ヘンリーが、呟くように問いかけてきます。
「……自発的には、何も……」
うん、私は普通にしてたはず。
普通にしてたのに、反応が色々と普通じゃなかった。
「……自発的には?……何、されたんだ」
「……え、……えーと……」
いくらヘンリーとは言え、男性相手にはちょっと説明しづらい。
「……何、赤くなってるんだ……まさか」
「だ、大丈夫だから!別に、そんな!ちょっと悪ふざけが度を過ぎたというか、そんな程度で!もうしないっていうし、大丈夫だから、もう!」
女性相手にヘンリーが報復に向かうとも思わないが、もう済んだことで怒りを燃え上がらせられても困るし。
話をなんとか収めようとか、でも具体的に説明できないしとか、誤魔化そうと思ったら余計に思い出してきたとか、色々と混乱してますます赤くなる私を、ヘンリーがじっと見詰めてます。
うう、あんまり見ないで欲しいんですけど。
「……わかった。お前がそう言うなら、それはもういい。それより……ありがとうな」
「……え?」
「助けに来てくれたんだろ?」
「う、うん。まあ」
助けたって言っても、昨日は見捨てたような形になってたわけで。
私からすればヘンリーの幸せのためだったとは言え、ヘンリーから見れば求めてもいないのに女性の世話をされるとか、お節介にも程があるわけで。
しかもその結果があれとか、お礼を言われてしまうと逆に心苦しいんですけど。
……うん、気が咎めるなら、謝るべきよね!
人としてね!
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