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ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?

作者:あさつき
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
  百九話:対決の時

「ただいまー。あ、おかえり、ドーラちゃん!なになに、今日は特にかわいーじゃん!どーしたの!?」
「ピキー!」
『ドーラ!かわいい!』
「おかえり、ただいま、コドラン、スラリン。あと、ありがとう。これはね、ちょっとね。戦闘準備をね」
「戦闘?戦うの?……その格好で?」
「ピキー?」
『たたかう?』
「あ、いや。そっちじゃなくて。……それより、ヘンリーは?」
「宿の入り口あたりで、昨日のねーちゃんに捕まってた」

 なに!
 まだ、朝も早いのに!
 朝食の時間にも、ならないというのに!
 既に来ていたか、バネッサさん!

「そうなんだ。……嫌がってた?」
「うん。縋りつかれて、すげーめんどくさそーだった」
「ピキー」
『ヘンリー。こまってる』
「……そう。……よし!それじゃ、行ってくるから!倒してくるから、バネッサさんを!」
「……あー!戦うって、そういうのね!女の戦いってヤツだね!うん、ドーラちゃんなら、絶対勝てるよ!頑張って!」
「ピキー!」
『ドーラ!がんばる!』
「ありがとう!頑張るね!」
「ドーラ様。近くまでお送りしましょう」
「そうだね!お願い!」

 早朝の宿の中とは言え、油断はできないからね!
 途中でナンパでもされようもんなら、バネッサさんを倒しに行くどころでは無い!
 念には念を入れないと!


 ということで、ピエールに付き添われて、すれ違う人ごとに立ち尽くしてガン見されるのをスルーしながら、宿の入り口近くに赴き。

「……いたね」
「左様にござりますな」

 ヘンリーとバネッサさんらしき人を発見して、少し離れたところから様子を窺います。

 何事も、鵜呑みにして決めつけてはいけないからね!
 もしかしたらやっぱり、バネッサさんがヘンリーを惚れさせることに成功していて!
 ヘンリーを助けるつもりがかえって幸せの邪魔をしてしまう可能性だって、絶対に無いと決まったわけでも無いんだから!


 よって情報収集のために、少々悪趣味ながらも聞き耳を立ててみます。

「……だから。要らないし、付き合うつもりも無い」
「そんな!ヘンリーさんが出て行くのをたまたま見かけて、ずっと待ってたんです!……これだけでも、使ってくれませんか?汗、かいてますよね?……風邪。引いちゃいますし……」

 悲しげな風情で、握りしめたタオル的な布を控えめに差し出すバネッサさん。
 健気です。
 パッと見、健気です。

 でもなあ。

「頼んだ覚えは無い。待ち伏せされるのも気分が悪いし、あんたに捕まらなけりゃ、もう部屋に着いてる」
「そんな!あたし、そんなつもりじゃ……。ただ、ヘンリーさんに、会いたくて……。少しでも、一緒に居たくて……。それだけ、なんです……」

 今にも泣き出しそうに、瞳を潤ませるバネッサさん。

 行動は強引に、態度だけはあくまで控えめに、という感じですね!
 色々と押し付けがましいんだが、表面的な態度に騙されて絆される人は、確かに一定数いそう。

 ……ともかく!
 明らかにヘンリーが嫌がって、苛立ってるのは確認できたし!
 聞いた通りのバネッサさんの底の浅さを見るにこの先も望みは無さそうだし、可能性以前の問題としてお勧めしたいとも思えない、ヘンリーを任せるに足る女性では無いと判断しました!

 よし、もう十分だ。

「ピエール。行ってくる」
「は。拙者は暫し様子を見た後に、先に戻っておりますゆえ。ご武運を」
「わかった。ありがとう」


 ピエールをその場に残し、バネッサさんが死角に入る角度から近付いて、少し離れた場所から明るく声をかけます。

「ヘンリー!」

 ヘンリーが振り向き、目を見開いて固まり、駆け寄る私をそのまま凝視して。

「……ドーラ?」

 よし、吹き出さなかった。
 それなりになんか衝撃は受けたっぽいが、上々だ。
 最初の衝撃を乗り切れば、あとはなんとかなるだろう!

「なかなか戻ってこないから。迎えにきちゃった!」

 にっこり微笑んで、タオル的な布を差し出します。

「風邪、引いちゃうから。とりあえず、汗。拭いて?あ、私が拭こうか?」
「……あ。……えっと」
「うん、拭いちゃうね!」

 うむ、まだ衝撃から立ち直れていない模様。
 ヘンリーが再起動するまで、勝手に恋人ぶっておくことにします!

 ヘンリーの汗を拭きながら、心配そうに問いかけます。

「……昨日の夜は、遅かったって聞いたのに。今朝も、早かったんだね。大丈夫?疲れてない?……無理、しないでね?」

 汗を拭いてる都合上、至近距離でヘンリーの顔を見上げる形になってますが。
 小首を傾げてみた辺りで、そろそろ衝撃から立ち直ってきたらしく、ヘンリーが口を開きます。

「あー……、ドーラ。……その格好」
「これ?お世話になったお姉さんたちにやってもらったの!ヘンリーに、喜んでもらおうと思って!……変、かな?」

 俯き加減になってから少し見上げ、不安そうに問いかけます。

 あまりの少女趣味に中の人の歳を考えろ的なツッコミはあるかもしれないが、君のために恥を忍んで作り込んでもらったわけなので、空気読んでとりあえず褒めてくれ。

「……変じゃない」
「ほんと?良かった!」
「……可愛い、よ。……すごく」
「……ほんと?」
「ああ。可愛い」
「……ありがとう。……嬉しい」

 よしよし。
 よく言った、よく言った。

 と内心でヘンリーに及第点を与えつつ恥じらう私と、見詰めるヘンリーが甘い空気を醸し出すのに、すっかり存在を無視されていたバネッサさんが割り込んできます。
 無視というか、位置の関係で実際に私には見えてなかったんですけれども。
 わざとだが。

 ともかく私が見える位置に回り込んできたバネッサさんが、声を上げて。

「ヘンリーさん!その人、だ!……れ……?」

 睨み付けるように私の顔を見たバネッサさんが目を見開き、言葉が尻すぼみになって消えます。

 そうですか、そんなに驚きましたか。
 可愛すぎてすみません。
 踊り子のみなさんが共犯なので、文句は主にそちらにお願いしたい。

 バネッサさんが絶句して固まってしまったので、また勝手に話を進めることにします。

「ヘンリー?この人、だれ?知り合い?」
「知り合いってほどでも無い。名前も知らないし」
「そうなんだ。むこうは、知ってたみたいだけど?」
「名乗って無いし。勝手に、聞いてたんだろ」

 こういう相手に甘い顔をすると付け上がるとは言え、またずいぶん冷たいなあ。
 たぶん、彼女は名乗ってたんだろうに。
 本気で覚えてないのか、故意に無視してるのか知らないけど。

 彼女への対応としては結果的に正しかったけど、他のみなさんにもこんな感じだったんだろうか。
 一緒にいると女性への対応はほとんど私がするから、見る機会が無いんだよなあ。

 とか思ってるうちに、ヘンリーのあまりの言葉に我に返ったのか、バネッサさんが傷付いたような顔で叫びます。

「ひどい!あんなに、一緒にいたのに!名前も覚えてくれてないだなんて!」
「……ヘンリー?そうなの?」
「勝手に、纏わりつかれただけだ」
「恋人がいるならいるって、言ってくれれば良かったのに!それも、こんな……こんなに、……可愛い!!隠して、気を持たせるなんて、ひどい!」
「ヘンリー。ごめんね、私が離れてたから。男の人には色々あるっていうし、踊り子さんを見るのに、邪魔になるかと思って」
「そんなこと気にしてたのか。俺は、ドーラがいればいいよ。ドーラだけ、いればいい」

 叫ぶバネッサさんの言葉をネタに、あくまで二人の世界を保つ私たちに、とうとうバネッサさんが切れました。

「……あなた!踊り子のいる場所に、ヘンリーさんを一人で置いていくなんて!それでも、恋人なの!?ちょっと、……かなり、……物凄く、可愛いからって!!余裕ってわけ?浮気なんか、するわけ無いって!?」

 私に、矛先が向かってきました。
 切れてしまったので控えめな態度は取り繕えないのか、相手が女だからなのか。
 まあ、どっちでもいいか。

 ヘンリーが、私を庇うように立ち塞がります。

「おい、ドーラに絡むのはやめろ。俺はともかく、ドーラを傷付けるなら、女でも許さない」
「私!諦めないから!ヘンリーさんは、騙されてるのよ!いくら、ちょっと、……超絶に、可愛くたって!!そんな、余裕ぶった女!それならきっと、私のほうが」
「ドーラを侮辱するな。それにドーラにどう思われてても、俺の気持ちは変わらない。俺が、ドーラと居たいんだ。大きなお世話だ」
「なんでよ!!可愛いから!?可愛ければ、なんでもいいの!?ダメよ、そんなの!!騙されないで!!」

 やはり、可愛いだけではダメだったのか。
 それとも、ヘンリーが上玉過ぎて諦め切れないのか。
 もしくは、最後の足掻きというヤツか。未練タラタラってヤツ。

 ……まあ、ぶっちゃけ。
 バネッサさんがもっとまともな感じで、ヘンリーを惚れさせて幸せにしてくれるなら。
 それでいいと思ってたし、実際のところ恋人でも無いので、そこを言われると苦しいんですが。

 でも、やっぱりキミではダメだ。
 自分の気持ちを押し付けるしか考えてないあなたに、ヘンリーは託せない。


 目の前に立ち塞がるヘンリーを、そっと脇に押しやります。

「ドーラ」
「大丈夫だから。私に、お話しさせて?」

 心配そうな顔をするヘンリーに微笑みかけ、バネッサさんに歩み寄ってまっすぐに目を合わせます。

「な……なによ……!」

 予想外だったのかなんなのか、バネッサさんが動揺して、若干顔を赤らめてます。

「聞こえてたと思いますけど。私は、ドーラと言います。あなたのお名前は?」
「……バネッサ」

 動揺しつつも、名乗ってくれました。

 名前が呼べないと、なんか話しにくいんだよね!
 知ってたけど、これでやっと呼べるわ!

「バネッサさん。ヘンリーは、私の大切な人なの。私のために、縛り付けたくないの。だから、それでヘンリーが幸せになれるなら。他の女の人と一緒にいても、私はいいの」

 とか言っとけば、離れてた言い訳も立つだろう!
 これも、嘘では無いし!
 こういう言い方をすると、なんか健気っぽいし!

「……なによ、それ。おかしいじゃない、そんなの。好きなら、一緒にいたいと思うでしょ?他の女なんか、見てほしくないと思うでしょ?そんなので、ホントに好きって言えるの?」

 いやー。
 なかなか、鋭いですよねー。
 くっつけようとしてたからね、最初は。

「……あなたが思う、好きとは違うのかもしれない。でも、私はヘンリーに、幸せになってほしいから。ヘンリーを幸せにしてくれると思えない人に、ヘンリーは渡せない」

 ものは言い様っていうか。
 これも、嘘では無いですからね!

「……なによそれ。あたしじゃ、ダメだっていうの?」
「はい。あなたでは、ダメです」
「……なんでよ。なんで、あなたが決めるの?」
「私じゃありません。ヘンリーが、決めたんです。ヘンリーが、あなたを選ばなかったから。一緒にいたいと思えない人といても、幸せにはなれません。だから」

 さらにバネッサさんに近付き、目を逸らされないように至近距離でしっかりと合わせ、瞳を潤ませて懇願します。

「……お願いします。ヘンリーの、幸せのために。ヘンリーを、諦めてください」
「な……なによ……。そんな顔、したって……」

 バネッサさんが、超動揺してます。

 まあ正直、さっきの内容で納得できるかどうか微妙だと思うんですけど!
 ドーラちゃんの清楚可憐さをアピールすべく、それっぽいこと言ってみただけなんで!

 むしろここから、可愛らしさで押していくことが重要!
 納得とかなんとかより、完全に負けを悟って頂くためにね!
 女としてね!

「……お願い、します」

 うるうる。

「う……うう……」
「……ダメ、……ですか……?」

 小首を傾げて、またうるうる。

「うう…………わ、わかり、……ました……」
「本当ですか!?」

 とうとう根負けしてくれたのか、バネッサさんが絞り出すように答え、私が顔を輝かせた直後。


「…………もうダメ、可愛いーー!!」
「え?」

 突然叫んだバネッサさんが大きく動いたのとほぼ同時に強く後ろに引かれ、一瞬前まで私がいた空間を抱き締めるような形で、バネッサさんが腕を激しく空振りします。

「……え?え?なに?なに、今の?」
「……ヘンリーさん!!なんで、邪魔するんですか!!」
「むしろ何で邪魔しないと思うんだ。させるか、そんなこと」
「いいじゃないですか!女同士なんだから!ヘンリーさんのことは諦めます、だからドーラさんを!私に、ください!!」
「意味がわからないが、絶対にやらん」
「……諦めませんからね!」
「絶対に、渡さない」

 あ、あれ?
 確か、ヘンリーを挟んだ三角関係みたいな設定だったと思ったけど。
 なんか、おかしな方向に変わってない??


 と、ヘンリーの背後に庇われながら、ヘンリーとバネッサさんの言い争いを呆然と眺めていると。

「そこまでよ、バネッサ!!」

 ザッ、と音を立てて現れた踊り子さんの集団に、囲まれました。


 ああ。

 いたんですね、みなさん。 
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