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もしもこんなチート能力を手に入れたら・・・多分後悔するんじゃね?

作者:海戦型
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分割された小さな物語とオシマイの気配

それは意志の塊だった。フラスコに入れられた劇物のせいで可能性を潰され、未来を潰され嘆いた、悲しんだ、憤怒した、絶望した、ただ生きたいと願った、そんなかきまぜられ混濁した意志の塊は、魂の残滓とでも言うべきカタチとなりて、魂の情報が刻まれたアカシャの走り書きから逸脱し、時間から隔絶された虚数の狭間に滞留し続けた。

消えたくないから。
無かったことにされたくないから。
忘れられることに怒り、恐れたから。

人の意思は無限の力の流れとなるように、それも負の力の流れとしてそこに集合した。





~クロエと月子ちゃん~

「おはよう」
「・・・おはよう」

飾りっ気のないキャミソールにどこか眠たそうな顔。同級生の月子ちゃんだ。ツインテールを揺らす彼女はいつも何を考えているのかよく分からない。
彼女の腕はいつも自由帳に鉛筆を走らせている。授業中はそうでもないかと思ったが、彼女のノートにはたくさんの絵が躍っていた。余程絵を描くのが好きなのだろうか。

クロエはその落書きを見て、ふと目を引く異質なキャラクターがいる事に気付いた。

犬だか熊だか分からないファンシーなキャラクターたちの中に、一体だけ木人形だかカクンテ人だかわからない真っ黒なキャラが混じっていたのだ。手に棍棒のようなものを持ったそれだけが彼女のノートで異彩を放っていた。

「このキャラクター、他の子と雰囲気が違うね」
「・・・・・・」

こくり、と月子は頷いた。

「名前、あるの?」
「バットを持ってて、ローラースケートを履いてる、子供。だから、少年バット」
「少年バット・・・」
「いぬを殺しちゃう怖い子供」
(((何で犬限定!?しかも確かに怖い!!)))

周囲が心の中で総ツッコミをかますが月子ワールドには突っ込み役などいない。

「怖いね。見つけたら止めさせないとね」

猫も好きだが犬も好きな身としてはそんな悪行三昧は許しておけない。だからあったら絶対止めさせる。その宣言に月子は目を見開いてこちらを見つめてきた。何か驚かせるような事を言っただろうか。

「少年バット・・・怖いよ?」
「大丈夫、怒ったお母さんの方が絶対怖いから」
「・・・そうなんだ。じゃあ、クロエ君は大丈夫だね」

何が大丈夫なのか全くわからない周囲だった。月子もそうだが、クロエも結構不思議ちゃんである。






私/我/僕/俺/自分は混ざり合いながらもたった一つを求めた。

カタチを。肉を。この無念を晴らす憑代を。

そんな思念の塊は、ある時遂に実体空間で憑代に相応しい存在を発見する。
それは臆病で内向的な個体だった。だが、その身体には”塊”にカタチを与えるにふさわしい力を秘めていた。

それはゆっくりその存在に干渉していった。
まつろわぬ者に憐みあれ。救われぬ者に救いあれ。認められぬ者は呪われてあれ。
存在はゆっくり”塊”の心へその意思を流し込んでいった。
ティーカップ半分ほどした入っていなかった心の紅茶に少しづつワインを継ぎ足していった。

溢れれば、存在は自分が分からなくなる。存在を見失う。そうなれば、存在の心は”塊”にすり替わる。秘めたる力は”塊”を現世へ解き放つ。






~苗と風の旅人~

「いわし~・・・いわし~・・・」

宙を舞う生鰯(なまいわし)・・・でなく精巧なフィギュアがゆらゆらとゆらめき、次の瞬間その男の目がくわっ!!と目を見開いた。

「む、お主の探し物はスカートの左ポケットに普通に入っておるぞ」
「げ、本当だ!普段右ポケットに入れてるから全然気づかなかったなぁ・・・」
「何だ、これでは占いの有難味も半分以下だのう・・・」

青年はやれやれと溜息をつき、鰯フィギュアを手早く回収してポケットに仕舞い込む。

苗は今日、偶然出会った妙に若い(というか中学生くらいにしか見えない)占い師とちょっとした賭けをしていた。占いの結果が見事当たれば苗の持つたい焼きを占い師に一つ上げ、外れたら占い師が桃を奢ってくれるという賭けだ。

「一応当たったし、たい焼きあげるよ」
「ほう、広量じゃの?友人に恵まれるタイプだ」

たい焼きひとつでけちけち言うほど守銭奴ではない苗は当初の約束通り占い師の青年にたい焼きを渡した。受け取って占い師はさっそくたい焼きを齧っている。この町に占い師など珍しいと思って話しかけたが、占いの方法以外は思った以上に普通に人である。一つ敢えて普通でないところをあげるなら、靴が異様にデカい事くらいか。
当の本人は実に美味そうにたい焼きを頬張っているので、苗も一つ齧ることにした。程よく冷めて食べるには丁度いい塩梅だ。

「むぐむぐ・・・うむ、歯触りの良い生地に甘くて質の良い餡がなんとも美味よのう」
「でしょ?恐怖の『たい焼き神』から意地で捥ぎ取った戦利品なんだよ?」
「・・・おぬしは一体何と戦ったのだ。代金は払っとるんだろうな?」
「オニーサンそれ食べたからドロボーだったら共犯者だね!」
「なるほど、盗んだわけではなさそうだ」
「むー・・・ノリが悪いなぁ」

割と引いている占い師にふんすと鼻を鳴らして遺憾の意を表明する。
ちなみに『たい焼き神』とは同級生の月宮あゆちゃんの事だ。たい焼きの為ならたとえ火の中水の中、とにかくたい焼き大好き人間だ。何度か店で出くわしてはたい焼きを奪い奪われの血で血を洗う仁義なき戦いを繰り広げているライバルでもある。
・・・その所為で最近は「たい焼き二大天王」などという不名誉なあだ名を付けられたが。

「友達は大切にするものだ。何かがあってからでは遅いぞ?」
「ふんだ!あゆあゆが私のたい焼きをくすねたのがそもそもの始まりなんだから遠慮なんかしないのよーだ!」
「―――ではもう一つ占いをしてやろう。今日、夕日が照らすこの町の公園のどこかで、たい焼きを愛する一人の少女が木から転落して意識不明の重体となる。それをどうするかはお主次第だのう」

そう言って振り返ると、既に苗の背中は遠くへと過ぎ去っていた。方角からして公園一直線だ。恐らく最後まで聞かずに行ったのだろうが、果たして彼女は運命を変えることが出来るかな?と占い師は子を見守る親のような瞳で彼女が見えなくなるまで見送った。

久々に人界へ来てみれば、なかなかどうして面白い者が芽吹いている。彼女がこの胡散臭い占いにあっさり乗ったのも、恐らく魂魄の共鳴を無意識に感じ取ったからであろうと青年は推測する。それにしてもあの有り余る身体能力と愚直な心根は・・・

「まるで武吉のようじゃの。久しぶりに顔を合わせてやるか・・・」

彼の独りごとは、風に融けて消えて行った。



今日の夕方、2人の少女が病院へ担ぎ込まれた。内一人は頭部に軽い裂傷を負っていたものの大事には至らなかった。目撃者の少年によると、木登りの途中にバランスを崩して落下した少女を助けるためにもう一人の少女が受け止めようとした結果、互いの頭が激突して二人とも気絶してしまったそうだ。担当医は「当たり所が悪ければ脊椎を傷つけていたかもしれない。二人とも気絶で済んで運が良かった」と一安心。保護者の皆さんはぜひ子供の様子をよく見ていてほしいものだ。

                    海鳴地方新聞”町内事件簿”のコーナーより抜粋






唯一つ、”塊”に予測できなんだことがあったとすれば、その存在が”塊”を”嘆きの民達”と認識していた事なり。かの存在が想像し得ない事は起こり得ず、”塊”はミルクティーからミルクと紅茶を分ける様に垣根のなくなった筈の存在を垣根で区切った。


我を認めよ。

我が主を忘れることなかれ。

我は証を残さん。

我は最期まで我たらん。

我は最期まで愛する者のために。

我は認めぬ。


では、私は?






~リニスとシャイン~

「・・・だからこの印はそれ自体がタンクみたいなものなんだ。魔力の吸引もこの印に封じ込められたわけ」
「なるほど、エネルギーを循環させる魔法陣とは全く違う方向性ですね」
「その分ややこしいけどね」

そういいながら、プログラムを一から組み直した新魔法、「ドレインスフィア」を通常スフィアにぶつける。するときゅるん、と吸い取る様に通常スフィアはドレインスフィアに吸収されてしまった。

「おお、案外うまくいったね。符術の魔術への転用」
「シャインの協力のおかげですよ」

そういってリニスはにっこりとシャインに微笑みを投げかけた。
・・・正直、気恥ずかしい。体が9歳でも精神は意外と前世に近い感性を残しているので、リニスのような美人にそんな顔をされると・・・あれだ、その、照れる。

だらしない顔をしているような気がする自分の顔を見せまいと目線を逸らすと、リニスにそのまま抱きしめられた。突然の出来事に体の反応が遅れ、そのまま軽々と胸元へ抱き寄せられた。

「おわっ!?ちょ、リニス!?」
「ふふ、何をそんなに恥ずかしがっているんですか?」

このニャン公こっちの反応を見て楽しんでやがる・・・あー畜生、包み込んでくるリニスの包容力がヤバい。あったかいしなんかいい匂いするし柔らかいし、甘えたくなってしまいそうだ。例えるならばそう、母親に身を預けるような・・・と、イカンイカン。どうにか抵抗せねばこの圧倒的な母性に呑まれてしまうかもしれない。

「甘えたいんなら、甘えて良いんです」
「うぇ?んなこと言ったって・・・」

突然の言葉に戸惑う俺。んなこと言ったって精神年齢20歳以上にそんな行動はハードル高すぎやしませんか?とそう思ったのだが、リニスはリニスで別の事を考えていたようだ。それを思い知らされて、俺はちょっと自分が浅慮(せんりょ)だった事を思い知った。

「精神がどうかは別として、貴方の身体は紛れもなく9歳の子供です」
「それはまぁ、確かに」
「普通なら家族や周囲に沢山甘えて然るべきです。そう、今のフェイトの様に!」
「あー、たしかにフェイトは俺にもプレシア母さんにもリニスにも良く甘えるな。アルフともじゃれ合ってるし、困ったらすぐにバルディッシュに頼ろうとするし」
「言い換えれば、子供は本来無邪気で甘えん坊な生き物なのですよ」
「・・・・・・俺はそうはなれんよ。する気もあんまり起きないし」
「私には、それが嫌なのですよ」

きゅっと少し強く抱きしめられた。リニスの髪が頬に触れる。顔は伺えないが少なくとも楽しそうな顔はしていないであろうことは想像がつく。
いつかプレシアが言っていた。リニスは母性の強い山猫が素体となったから、彼女自身も愛情深いのだと。

「正直、貴方の在り方は昔のフェイトよりも痛々しいです。子供らしく振る舞えない子供ではなく、自分が子供である自覚さえない」
「無限力を垣間見たなら何となく分かるんじゃないの?俺はリニスより年上だよ」
「それでも、貴方は子供です」
「よしてくれってば・・・そういう風に言われると俺が悪いことした気分になるよ」

しばしの沈黙。やがて、リニスは俺の背に回した両手をほどいた。

「・・・わかりました。ではアプローチの仕方を変えましょう」
「?」


「わたしは貴方をなでなでしたり抱きしめたりして可愛がりたいんです!朝にお寝坊して布団にくるまっているあなたを優しく起こしてあげたり付いている寝癖を梳いてあげたり、手伝いをしてくれた時は「ありがとう、おかげで助かりました」と頭を撫でてあげたり物事がうまくいったらこの胸に抱きしめてあげたりしたい!理由もなく抱きついてきたら全力を以てして遊んであげますし夜に「怖い夢見たから一緒に寝て?」とか言われたらいつまででも添い寝してあげます!お風呂だって一緒に入って背中を流しっこしたいです!そうしてうんとうんと可愛がって「リニス大好き!」と言われたりしたらそれはもう幸せです!幸せで幸せで幸せの絶頂過ぎてプロポーズと勘違いしてしまうかもしれないくらいに満たされたいのです!!」
「長い長い長い話が長い!しかも私欲垂れ流しじゃん!?」
「ふふ、フェイトも可愛いけどそうやって自意識と本能の狭間に揺れて頬を赤らめるシャインも大好きですよ?」
「やっぱりこっちの反応見て楽しんでやがったチクショォー!!」

身体をまさぐる様に撫でまわしはじめるリニスとそれから逃げようとするシャイン。
二人の”子供っぽい”闘争はしばらく続き、その後フェイトとアルフ、プレシアも参加して大変艶めかしい事になったのは当事者以外は因果地平の彼方から一家を見ていた父子のみぞ知る。

『楽しそうだね』
『そうだね。シャイン君ももう諦めて参加しているね』
『私もしたかったなぁ・・・』

『はっ!何やら素質のありそうな少女の気配・・・!』
『大佐、いけません!』
『世界が自分を中心にして動くと思うな、○ャア!!』
『俗物が!』
『大佐!アタシじゃダメなんですか!?』

今日もみんな元気です。






存在は、どうある?どうともあらん。何故ならば、己があり様を持たぬが故、存在にとってこれは胡蝶の夢なり。救いなり。生生世世(しょうじょうせぜ)の苦しみを忘れる一時の安らぎなれば、終焉と再開を迎えることを望まず。

生死事大(しょうじじだい)を遠ざけるは思考を遠ざけることなり。なればこそ、存在は考えず、諾々とその力を使役せしめん。

存在を現世に引き戻すは何者なるや。
 
 

 
後書き
正直自分で何書いてるか分からんくなった。なにこれポエム?
必要だけど他に入れるところが無かったからこんな形で投稿しますた。次から1話1話が長くなると思います。
風の旅人はちょっと要望があって出してみましたが、まぁ分かる人が分かればいいかなぁ。

いよいよこのシリーズもお別れの時が近づいてきました。 
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