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もしもこんなチート能力を手に入れたら・・・多分後悔するんじゃね?

作者:海戦型
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もしもチートなのは外伝 私の義兄は鬼いちゃん

 
前書き
エスカフローネ1日中見てました。名作でした。 

 
ぞくり。

「!?」

また悪寒。一度は気のせいかと思ったが、2度あると流石に気のせいで済ませる気になれなくなってくる。・・・悪い予感ではないと良いけど、と心中で呟く。
今日はマリアンさんがブラスタービットの訓練を付けてくれると聞いている。何でもマリアンさんはブラスタービットの扱いに関しては右に出る者が居ないらしいので少々ついていけるか不安だが、最初から弱気では出来るものも出来なくなるというものだ。

なのはには人に自慢できる所が何もない。少なくともなのは自身はそう思っている。
勉強がずば抜けてもいない。運動が飛び抜けて出来る事もない。人に好かれる才能も、人の事を深く理解できる観察眼もなく、人の役に立てることなどまるでない。

それはなのはが幼い頃に自身の心に独りで刻み込んだ強迫観念だった。
嘗て、高町家は崩壊の危機に瀕したことがある。父である士郎の重篤、荒れる恭也、経営と看病の板挟みになった桃子とそれをどうにかしようと必死に動き回った美由紀・・・そしてそんな中、何も出来ず誰にも甘えられずに一人で過ごし続けたなのは。

当時のなのはにはそれ以外の選択肢が思い浮かばなかった。自分がわがままを言えばどれだけ家族を困らせるか、幼いながらも察すことは出来た。本当は構ってほしいに決まっている。甘えたいに決まっている。でも、なのははその年相応の欲求をを渾身の力で押しつぶした。良い子だから。いい子にしていれば、いつかこの寂しさから解放される日が来るから、と。

最近は特によく思うのだ。自分はあの頃と変わっていない。すなわち、何もできないという無力な自分が何一つ変わっていない。不謹慎だが、自分に魔法の才能があると知った時なのはは嬉しかった。こんな自分にも人の役に立てるような才能があったんだ、と。
そんな無邪気な喜びに綻びが出来始めたのは、多分苗ちゃんの正体を探るのを諦めたころからだろうか。

それまで何よりも輝いて鮮やかに見えた”魔法”を使い続ける理由がぶれた。
今まで「町の為」「ジュエルシードは危ないから」「ユーノ君を放っておけない」とありふれて耳障りのいい言葉が湧き出る様に浮かんできた頭を、斜め上から静かに見下ろしている自分がいるような気がするのだ。そしてその自分は不思議そうな顔をして「それ、本当に人の為?」と質問してくる。――ーそれはきっと、苗の言い放ったあの言葉が忘れられないから。

『まあ、あれかな・・・その力、思ってるほど便利な力じゃないんじゃないかな?だから私なら最後の最後まで取っておいて、それでも使えないなら捨てちゃうと思うよ』

自分の唯一の取り柄を、苗ちゃんは「邪魔になったら捨ててしまえ」というのだ。なのははその言葉にではなく、それを迷いもなく言い放った苗の心の在り方を心底羨ましく思った。要らないものはバッサリ切ってしまえ。要るのならばこっそり持っておけ。苗らしいと言えば苗らしい言葉だ。
使える物は使い、駄目なら捨てる。それだけ聞くとまるでアニメの悪役みたいな彼女の台詞は、不思議となのはの心にすんなりと浸透していった。

―――その結果、彼女は思ったのだ。
私は人のために魔法を使っていると言っていたけど、それはきっと半分嘘だったんだ。父さんが入院した時と同じ、自分の意思を押しつぶしてそう言い聞かせていたのだ。それでは昔と何も変わらないではないか。

だから、なのはは少しだけ・・・ほんの少しだけ、悪い子になることにした。

―――私は魔法の虜になった。だから管理局の人に「来なくていい」と言われても魔法を習いに行きたい。家族を心配させてしまっても、私は魔法を放り投げたくない。だから自分に正直に、私は魔法の道を続けることを選んだのだ。自分がそう思ったから、高町なのははやるのだ。



・・・でも、悪い事をしたら罰が当たることを、その時の私は完全に失念していたのでした。



 = = =



空間全てを塗りつぶすような恐ろしく重苦しい重圧(プレッシャー)がまるで体を締め付けるように圧し掛かる。まだ何もしていないにもかかわらず息が乱れ、自然とレイジングハートを持つ手に力が籠り、恐怖が体を縛る様に硬くさせる。

『ごめんねなのはちゃん。今日、彼は友達の付き添いで偶然ここに来ててね?その・・・君が家族に隠して訓練してるってこと、バラしちゃったんだ』
『という訳で・・・ま、訓練がてら叱られてきなさい』
『高町。お前の兄は接近戦特化タイプだから懐に入れるなよ。プロテクションなど破れる奴にとっては障子一枚だ』

完全に観客モードに入っている3人組。ニルスは心底申し訳なさそうに、マリアンはどこか愉快そうに、クルトはどうも実力差がありすぎることを察したのか、なのは側のオペレーターになっている。

視線の先にいるのは、バリアジャケットとは思えないほど体のあちこちを金属製のプレートで包まれた一人の少年。なのはの兄。少しは歩み寄れたと思っていた人。今、こちらに背を向けているにもかかわらず「怒っている」と確信できる怒気を放つその少年の背中は、自分と歳があまり変わらないとは思えないほど巨大に錯覚させた。

「なのは」
「ぇひゃいっ!?」

既に数分前まで持っていた小生意気な決断力など塵と化し、震える子ウサギの様に体を震わせているなのははその声に思わず飛び上がった。
目線は右へ左へとふらふら動き、額には熱でもあるのかと思うほどに脂汗が浮かび、思いっきり腰が引けてる上に膝が若干笑っている。歯と歯がかちかちとぶつかり、当然ながら顔面蒼白。まるで隻眼の黒い剣士か第六天魔王にばったり出くわした一兵卒のようだ。

ニルスは家族の問題と分かってはいても、そんな哀れななのはに同情を禁じ得なかった。何を隠そう、ニルスもちょっと怖いのだから。マリアンは自分の家の兄を思い出してか微笑ましそうに見てるけど。あれ絶対に和む風景じゃないって。

「なのは。僕は・・・嘘つきは悪い事だと思う」
「・・・は、い」
「そしてなのはは家族全員に嘘をついて、ここで魔法を習っていた」
「・・・・・・はい」
「僕は家族なのに、なのはからそんなこと一言も聞いていなかった」
「・・・・・・うう」
「妹で末っ子なのに家族に隠し事して、一人で勝手に魔法の勉強始めて。どうしてお父さんやお母さん、お兄ちゃんやお姉ちゃんに・・・僕に相談しなかったの?」
「心配・・・されると・・・反対されると思って。運動音痴だからお前には無理だって、剣道の時もそうだった」
「じゃあ危ないかもってわかってたんだ」
「・・・はい」

既になのはは涙がいつ目から流れ落ちるか秒読み段階。なまじ叱られた経験が少ないだけに、クロエの一言一言が胸に突き刺さる。そもそも普段無口なクロエが妙に饒舌な時点でおかしいのだ。確かにもっとお喋りしたいとは思っていたが、こんなシチュエーションは御免被りたい。

「反省、してる?」
「はい・・・」
「なら魔法を捨てる?」
「・・・・・・嫌!!」

ほぼ、無意識の言葉だった。それでも確かになのはの本心であった。
魔法があったからこそ出会った人がいる。魔法があったから護れたものがある。
剣が心を映す鏡ならば、魔導も然り。レイジングハートにはなのはの不退転の決意が宿っている。

「私は悪い事をした!でも、それとこれとは別!だから・・・魔法は捨てない!!」
「・・・やっと、わがまま言った」

ふと、クロエが振り返り、きょとんとするなのはを前に顔を綻ばせた。

「なのは、僕に全然わがまま言わないから・・・家族として認められてないと思ってた」
「え・・・」

その瞬間、なのはの脳裏に親友に言われた言葉がフラッシュバックした。

―――言葉がすべてじゃない でも見てるだけでも近づけない―――

どうも、また間違ったみたいだ。待っていたのはこちらではなくあちら、クロエはずっとなのはに心を開いてほしくて、クロエにとってのそれは我儘なりなんなりの感情を露わにしてくれることだったんだろう。しかしいい子を演じるのが当たり前だと思っていたなのははそれに気付けなかった。

先ずは相手に一歩歩み寄ることから始めよう。次にその人の事を良く見よう。そしてわからないことがあったら声を掛けよう。その3つのどれが欠けても、人と分かり合うのは難しいんだ。



「じゃあ、杖を抜くといい・・・」
「ゑ?」

すらり、とクロエの手元に美しい西洋剣が握られる。剣からははちきれんばかりの魔力が噴出し、そこに至ってなのはは―――クロエが自分を全然許す気が無い事に気付いた。

「悪い子にはお仕置き。年上をそんな形でしか気遣えないなんて・・・・・・
 身 の 程 を わ き ま え よ」
(あ、これ無理な奴だ)

なのはは理解した。恭也が身内のために怒る兄ならば、黒衣は身内を叱る兄だと。
そこからは目も当てられない惨劇の始まりだった。

『こら、弾幕の張り方が雑になってるぞ。きっちり先読みしないと・・・あっ』
『その程度の児戯、僕には通用しない・・・ふっ!』
ズドンッ!!
『きゃぁぁぁーーーー!!』
「なのはちゃんふっとばされたー。これで10回目ね・・・そろそろ止めたほうがいいかしら?」
「うわぁ、陸戦ランクが頭おかしい数値叩きだしてる・・・」
『バインドは止めておけ。あの筋力だと・・・ほら、砕かれた』
「あ、クロノ。提督は落ち着いた?」
「うん。それにしてもあれがなのはちゃんのお兄さんか・・・鬼だね」
「ふぅん、あの馬鹿力・・・成長したらオーム兄さんといい勝負するかもね」
『おお、スターライトブレイカーを叩き斬ったか。万事休すだな。大人しく吹き飛ばされて来い』
『クルトさん見捨てないで!?おねがい!!あ・・・あ・・・』
『手加減はする。気にせずに・・・吹き飛べ』
『に゛ゃああああーーーーーーー!!!!』
ズドカァァァァンッ!!
「お、クリティカルヒット」

プロテクションも駄目。バインドも駄目。シューターもスフィアも頭の後ろに目があるのではという反応速度で全部回避。シールドも光子力バリアよろしく飴細工状態。目つぶしは目をつぶったまま攻撃され、虎の子のSLBも正面から切り伏せられた今、もうなのはに出来ることなど何もなかった。
その日、なのははクロエの背中におぶられて帰宅。その顔は真っ白に燃え尽きた表情であり、家族が何を聞いてもその日中生返事しかしなかったという。反面クロエはやり遂げた顔をしており、その日何があったのか高町一家は首を傾げることになる。


これが、将来「管理局の白い悪魔」と呼ばれる少女の不屈の心を力尽くでへし折る唯一無二の存在・・・
「双剣の黒い魔人」伝説の始まりであるとか無いとか。 
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