いきなり現れた俺に目を丸くしているはやてと闇の書の最後の騎士。
二人に向かってゆっくりと歩み寄る。
次の瞬間には
「答えろ。一体どうやってここまで来た」
俺を警戒するように、はやてを守るように俺の前に立ちはだかる女性。
その眼には迷いも怯えもない。
「そう警戒しないでくれ。
はやてや君に害を成す気はない」
その言葉を証明するように手に持つデュランダルを霧散させる。
「確かにお前が主はやてを傷つけるとは思えないが……だがどうやって」
「はやてにもしもの時のために印として魔力の籠った宝石を呑ませた。
フェイトは外に出たんだろう?
一度綻びが出来たらそこから辿れる」
「宝石ってなんちゅうもん呑ませるんや」
はやてにとってはそこが驚く所か。
いや、俺が宝石を呑んだときもリンディさんは驚いていたから、俺の方が悪いのか。
「主はやてに害を成さぬとも私を止めるのだろう?」
「当然だ。
だが止めるのは俺じゃない。
止めるのは主であるはやてじゃないと出来ない。
俺ははやての意識を取り戻し、止めるためのきっかけを作るにすぎない」
闇の書、夜天の書を止める事が出来るのは主であるはやてのみ。
「はやて、今の状況はわかっているか」
「うん、大丈夫や。
ちゃんと思い出したよ。
なんでこんな事になってもうたのかもな」
シグナム達の最後を思い出したのだろう。
はやての表情がわずかに陰る。
その中で女性は膝をつき、はやての手を握る。
「お願い致します、我が主。
どうか、どうかもう一度お休みを
もう何分もしないで私は私の呪いで貴方を殺してしまいます。
せめて心だけでも幸せな夢の中で」
それは懇願であった。
助ける事は出来ないと諦めていたとしても、せめて最後夢の中でも幸せに包まれて眠ってほしいと、苦しまないでほしいという願いであった。
俺は静かに彼女に歩み寄り、彼女の頭を丁寧に撫でる。
驚いたように俺を彼女が見上げるが、撫でつづける。
子供である俺が大人の女性にこんな事をするのは変だろう。
だけどまるで彼女が力なく泣く子供のように見えた。
「諦めるな。
夜天の書の悲劇はここで終わらせる」
「だが!」
「俺は諦めないし、お前の主はそんなに弱くない」
俺の言葉にはやてに改めて視線を向ける彼女。
「優しい気持ちありがとう。
でも士郎君の言う通りや」
はやては両手で包み込むように女性の頬に触れる。
「私ら良く似てる寂しい思い、悲しい思いしてきて一人やったら出来へんことばっかりで」
はやての言葉に俯き、涙を溢れさせ、嗚咽を零す女性。
「せやけど忘れたらあかん。
今のマスターは私で、貴方は私の大事な子や」
「ですが自動防御プログラムがとまりません」
彼女の言葉にはやてがこちらを見る。
「士郎君、どうすれば止められる?」
「表でなのは達と戦っている自動防御プログラムも夜天の書の一部だ。
命令できるのは主であるはやてだけだ」
「ん、了解や」
はやてが瞳を静かに閉じる。
「止まって!」
はやての思いと共に紡がれた言葉。
それと共に三角形の白銀の魔法陣が展開される。
side out
なのはとフェイトが闇の書と向かい合う中で、闇の書のゆっくり構えようとした時、明らかに動きがおかしくなる。
「え?」
「これって」
急な相手の動き変わりようになのはとフェイトも困惑して闇の書を見つめる。
その時
「外で戦っている方、すみません。
協力してください!」
聞えた来た声になのはとフェイトは顔を見合わせる。
「はやてちゃん!?」
「はやて!?」
驚く二人だが
「何とかこの子を止めてあげてくれる。
魔導書本体からはコントロールを切り離したんやけど、その子が表に出とると管理者権限が使えへん。
今そっちに出とるのは自動行動の防御プログラムだけやから」
はやてのさらなる言葉に今度は混乱していた。
魔導師として知識があるフェイトでさえ、魔導書型、古代ベルカのシステムでは理解できなかった。
つまり、この目の前にいる相手をどのように止めればいいのか判断が出来ない。
「なのは、フェイト」
「フェイト、聞える」
混乱する二人の前に現れるモニター。
「ユーノ君」
「アルフ」
仲間の呼び声にモニターに視線を向ける二人。
「防衛プログラムとの融合状態で主が意識を保ってる。
今なら防衛プログラムをはやてから切り離せるかもしれない」
「本当」
「具体的にどうすれば」
「二人の純粋魔力砲で目の前の子をぶっ飛ばして!
全力全開、手加減なしで!」
ユーノの明確でわかりやすい言葉に頷き合い、自身の相棒を掲げる。
「さすがユーノ」
「わかりやすい」
「「It's so.」」
なのは達が魔法を展開する中で、はやては夜天の書、最後の騎士に呼び掛ける。
「名前をあげる。
闇の書とか呪われた魔導書なんてもう呼ばせへん。
私が言わせへん」
はやての彼女に触れる手にわずかに力がこもる。
それははやてから贈り物にして、自身に対する誓いでもある。
「ずっと考えてた名前や、強く支える者、幸運の追い風、祝福のエール
―――リインフォース」
それがはやてと夜天の書の最後の騎士、リインフォースと士郎がいた空間を砕く鍵となる。
それと共に姿がゆっくりと消え始める士郎。
「士郎君、それって」
驚くはやてだが、士郎は死や危険はないと本能が理解していた。
夜天の書に取り込まれる時も同じような現象だった事も理由の一つだろう。
「大丈夫だ。外で会おう」
「うん、またな」
士郎もまた静かに夜天の書の中を後にする。
そして、なのはとフェイトの魔力が高まる中で多数のスフィアが展開される。
「N&F、中距離殲滅コンビネーション―――」
「―――ブラストカラミティ」
魔力は最高まで高まり
「「ファイア!!」」
桃色と金色の砲撃が絡みあいながら正面から撃ち抜く。
それと同時に桃色と金色のスフィアから放たれた小砲撃が上下左右から全方向から防衛プログラムの全てを呑みこんだ。
その爆煙の中から空に向かって赤い閃光が飛び出してくる。
警戒をするなのはとフェイトだが赤い外套とその白い髪を見忘れるはずがない。
赤き閃光は勢いをなくし、海に向かって落ち始める。
それと同時になのはとフェイトが足場となる魔法陣を設置し、士郎はそこに着地する。
「士郎君!」
「士郎!」
喜びが籠ったなのはとフェイトの呼び声に安心しろと頷いて見せる士郎。
そして、視線を爆煙の中に残った白い光に向ける。
だが、その眼には警戒や敵意はない。
静かな穏やかな眼。
士郎の戦闘中とは違う眼にわずかに驚きながらも、なのはとフェイトも士郎に倣う様にその光を見つめる。
その光の中、夜天の書の空間内では温かな光の中をはやてが漂っていた。
それを優しく抱きとめる一人の女性。
「夜天の魔導書とその管制融合騎、リインフォース。
この身の全てで御身をお守り致します。
ですが防御プログラムの暴走は止まりません。
切り離された膨大な力が直に暴れだします」
「うん。まあ、何とかしよう」
はやてが伸ばした手の先に現れる夜天の書。
はやては夜天の書を自身の胸に抱きしめる。
「ほな、行こうか。
リインフォース」
「はい。我が主」
その言葉にリインフォースの姿は一つの光となり、はやての頭上に控える。
そして、はやては夜天の魔導書に右手を掲げる。
それに応えるように開かれる頁。
そこには不自然な空白が存在していた。
「管理者権限発動、リンカーコア復帰。
守護騎士システム破損回帰」
空白をなぞる様にはやてが指を奔らせると空白を埋めるように文字が書き込まれていく。
それと共に夜天の書の周り浮かぶ四つの光。
その光に並ぶように光となったリインフォースも夜天の書の傍に降りる。
「おいで、私の騎士達」
はやての言葉を鍵として士郎達が見つめる光の周りに四つ魔法陣が浮かぶ。
そして、光は大きな柱となり天と海に伸びる。
その光が収まった時、白銀の球体がそこにありそれを守る様に士郎達が良く知る四人の騎士がそこにはいた。
「我ら、夜天の主に集いし騎士」
「主ある限り、我らの魂尽きる事なし」
「この身に命ある限り、我らは御身の下にあり」
「我らが主、夜天の王、八神はやての名の下に」
守護騎士が詩に応えるように白銀の球体砕け、黒を基調とした服を纏い、金十字の杖を握り締めたはやてが現れる。
「はやてちゃん!」
士郎やなのは、フェイトの姿を見つめてわずかに微笑むとはやては杖を天に掲げる。
その杖の周りをまるで舞う様に降りてくる紫の光。
「夜天の光に祝福を、リインフォース―――ユニゾン、イン!」
その紫の光ははやての中に入っていく。
再びはやてを光が包みこむ。
その光の中から帽子と上下別れた外套を纏い、漆黒の三対の翼を背中にもったはやてが現れる。
さらにその瞳は鮮やかな青に変わり、髪は白銀に染まっている。
それこそが夜天の書の最後の騎士、融合騎リインフォースと融合した主はやての姿。
ここに夜天の書は完成し、夜天の主とその騎士達は真の姿を見せるのであった。