Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-
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A's編
第七十九話 目覚めの時
side フェイト
草原でアリシアとおやつを食べて、風を感じながら木に体を預ける。
視線の先には寝そべって本を読むアリシア。
会う事が出来なかったアリシアの姿に、私に向けられる笑顔に覚悟が揺らぎそうになる。
でも、それでも私は戻りたい。
大切な友達が、大切な母さんが、大好きな人がいる世界に。
そんな中で急に雲が出てきて、辺りに雷鳴が響く。
「あれ? 雨になりそうだね。
フェイト帰ろう」
「……ごめん。
アリシア、私はもう少しここに居る」
「そうなの?
じゃあ、私も
一緒に雨宿り」
私と一緒に居るのがただうれしそうに笑顔で私の横に座る。
アリシアが私を置いて先に行ってくれたら方が楽だったのかもしれない。
なにも言わず、ここを去る事も出来たから
「ねえ、アリシア。
これは夢なんだよね」
「フェイトは変な事を言う子だね」
笑ってるけどアリシアが一瞬息を呑むのがわかった。
「私とアリシアは同じ時間を生きられない。
アリシアが生きていたら私は生まれていないんだもの」
「そうだね。
でもここでなら私はフェイトのお姉ちゃんでいられる。
リニスもいてフェイトと一緒にいてあげられる」
会う事も出来なかったアリシアと一緒にいられて、いなくなってしまったリニスとも一緒にいられる。
「ごめんね、アリシア。
だけど私は行かなくちゃ」
それでも私は後悔しないために、行くと決めた。
アリシアを真っ直ぐ見つめる。
「ごめんね、は私の方」
アリシアから差し出させる私の相棒。
「ホントはわかってた。
それでも少しでも、夢の中だけでも一緒にいたかったの」
私の手を取って相棒を、バルディッシュを握らせてくれるアリシア。
私より小さなお姉ちゃんの手の温もり。
その温もりを失いたくなくて抱きしめる。
それに応えるようにアリシアも静かに私の背中に腕をまわす。
「ごめん。ごめんね、アリシア」
「いいよ。私はフェイトのお姉ちゃんだもん。
待ってるんでしょ、大切で大好きな人達が」
もう堪えていた涙は止める事が出来なくて、ただ涙を流しながら頷く事しか出来なかった。
「じゃあ、いってらっしゃい。フェイト」
「ありがとう、お姉ちゃん。
大好き」
「私も大好きだよ
ずっと、ずっと元気でね」
アリシアお姉ちゃんが光りに包まれて、存在が温もりが希薄になっていく。
「現実でもこんなふうにいたかったな」
最後にそんな願いを残して、お姉ちゃんは天に昇っていった。
バルディッシュを握り締めて胸に抱いて、涙を拭う。
覚悟はできた。
もう迷わない。
私はゆっくりと歩き出した。
side 士郎
庭園を抜けて、玉座へと続く長い廊下を歩く。
そして、最後の扉に辿り着く。
この扉を開けば、もう戻る事は出来ない事を本能的に理解していた。
だから
「夢でもまた会えてうれしかった」
自然とここで出会えた大切な人達に言葉が溢れた。
―――私もです。私はいつでも先輩の事を応援してますから
―――シェロの決めた道、突き進み辿りついて御覧なさい
―――サクラと共に無事を願っています
―――シロウ、御武運を
一陣の風に乗って聞えた声に振りかえる。
だがそこには誰もおらず無機質な廊下が続くだけで人の気配もない。
俺が元の世界に戻る事はない。
これが本当の別れになるのだろう。
だけど彼女達の事だ、もしかしたらまたどこかで出会うのかもしれない。
「ありがとう」
ゆえに別れの言葉は言わないでおこう。
俺は玉座への扉を開き、彼女たちへの感謝だけを口にして扉をくぐる。
俺が通った後、扉は自然と閉じる。
そして、部屋の奥に玉座に座る少女と玉座に寄りかかるように女性が立っていた。
「やはり最後に見送ってくれるのは二人なんだな」
「当然よ。まあ、桜やセイバーには文句言われそうだけど」
遠坂が大きなため息を吐く。
確かにそれは俺も遠慮したいな。
「それにしてもその姿は良いな。
姿を変えれるのならば私と同じでさらに良いのだが」
無茶を言わないでくれ。
「やめてよ、アルト。
この姿で士郎がいたらあの白騎士が何をするかわからないわ」
「……ああ、まあ、フィナは……あの趣味だからな」
……確かに元の世界でこの姿でいたら何をされる事やら。
やめよう。
精神的によくない。
「まあ、この話は置いておくとして。
記憶は戻っておるな」
「ああ、イリヤが鍵を教えてくれたからな」
元の世界では知る事が無かった俺のもう一つ魔力の源。
それが記憶を取り戻すために知覚する一番の鍵となった。
「普段は小悪魔な癖に、士郎の事になるとしっかりお姉ちゃんしてるんだから」
「まったくだな」
遠坂とアルトが笑い合う。
「さて、衛宮士郎。
汝に問う」
アルトの言葉に空気が張り詰めた。
そこに立つのは黒の姫君と呼ばれるに相応しい威圧感を纏ったアルト。
そのアルトに怯えることなく真っ直ぐ見つめる。
「汝は何を選択する?」
「元の世界に戻る事を」
「何を成すために?」
「はやてを、シグナム達を、あの世界で出会った大切な人達を守るために」
俺の答えに満足そうに頷く二人。
「それじゃ私達の役目もここまでかしらね」
「ああ、そうだな」
ゆっくり近づいて来る二人。
そして、二人と軽く口づけをかわす。
しかし、この姿で遠坂と口づけをすると完全に大人と子供で少し気恥ずかしい。
「それと士郎。
あんた、こっちの時みたいにこの事件が終わったら姿を晦まそうなんて思ってないでしょうね」
さすが遠坂。
鋭い。
「いいあんたは一人じゃ死ぬまで進むような無茶しかしないんだから、絶対去ったりしちゃだめよ。
最後まであの子たちを信じて傍にいなさい。
わかった」
「ああ、わかった。
約束するよ」
元いた世界では遠坂達を巻き込まないために去り、破滅を迎えたんだから当然か。
「それじゃ、頑張りなさい」
「また会おうぞ」
俺が入ってきた扉から出ていく遠坂とアルト。
「ああ、またな。
ありがとう」
二人を見送る。
さあ、俺もそろそろいくとするか。
side out
幾度とぶつかり合い闇の書と向かい合うなのは。
「一つ覚えの砲撃、通ると思ってか」
「通す!」
なのはの言葉に応えるように
「A. C. S., standby.」
レインジングハートから桃色の翼が展開される。
「レイジングハートが力をくれてる。
泣いてる子を救ってあげてって。
だから通してみせる。
アクセルチャージャー起動、ストライクフレーム」
「Open.」
レイジングハートの先端から高密度の魔力で編まれた刃が具現化する。
「エクセリオンバスターA.C.S―――ドライブ!」
膨大な魔力を推進力に闇の書に向かって突撃をするなのは。
だがいくら速くとも正面からの突撃。
闇の書はシールドを張り、なのはの突撃を正面から受け止める。
だが
「なにっ!」
今までの砲撃の様に弾けると思っていた闇の書だが、なのはの攻撃を弾くことは出来ず拮抗する。
魔力同士がぶつかり合い、火花を散らしながら闇の書は弾く事も出来ず、なのはも突き進む事が出来ない。
このまま拮抗が続けばやがて絶対的な魔力量で闇の書が押し勝つだろう。
「届いて!」
自らの願いを込め、さらに魔力を高めるなのは。
なのはの一念に魔力で編まれた刃の先端がわずかにシールドを突破する。
先端が抜けただけでは刃は闇の書に届く事はない。
だがなのはにとってはそれで充分であった。
「ブレイク―――」
刃の先端に集まる魔力
「まさか」
刃での攻撃ではなく、なのはの本当に狙いに目を丸くする闇の書
「―――シュート!!!」
なのはの渾身の砲撃が放たれた。
シールドを抜いてのゼロ距離砲撃。
レイジングハートから排出される蒸気。
そして、なのはは
「くっ」
爆発の煙を見つめながらなのはは左腕を抑えていた。
無理もない。
ほぼゼロ距離でアレだけの砲撃を撃てば自身に反動が返って来るのは当然ともいえる。
(ほぼゼロ距離。バリア抜いてのバスター直撃。
これで駄目なら)
なのは渾身の一撃。
だが
「Master」
煙の中から無傷で現れる闇の書。
先ほどの渾身の一撃でもまだ届かない。
だがなのはは諦めない。
「もう少し頑張らないとだね」
「Yes」
相棒を握り直すなのは。
だが表に見えないだけで、なのはの攻撃は意味があった。
それは闇の書の中。
激しい攻防と衝撃は闇の書の中にまで影響を与え、はやてが深く眠りにつく事を阻んでいた。
一人の女性が車椅子を支え、はやての手を握り夢の中に、深い眠りの中につくことを願うが、この揺れの中ではそれも叶わない。
そして、なのはと闇の書の戦いは一方的なものに変わりつつあった。
負傷した左腕に、長時間にわたる戦闘。
さらに長い緊張状態による精神的な負荷。
他にも闇の書によるこれ以上戦いが長引く事ではやてが眠りにつく事を阻まれないためか先ほどまでよりも苛烈な連続攻撃。
それらによりなのはが反撃する隙がなくなってきているのだ。
だがそれの流れを切り裂く者がいる。
闇の書の夢の中。
フェイトは自身の相棒を握り、時の庭園の玉座の間の中心に立っていた。
「バルディッシュ、ここから出るよ。
ザンバーフォーム、いける?」
「Yes, sir.」
「いい子だ」
バルディッシュを振るうと同時に展開されるバリアジャケット。
だが外套は纏われていない。
フェイトもその事に気がついているはずだが、当然の様に受け入れていた。
そして、バルディッシュを両手に握り構えるフェイト。
それに応えるように
「Zamber form.」
二発のカートリッジがロードされ、戦斧からフェイトの身の丈以上の大剣へと変貌を遂げる。
「リニス、お姉ちゃん」
ここで出会った、もう出会う事のない人達の名を確かめるように口にするフェイト。
その声に迷いはなくとても穏やかであった。
フェイトの頭に浮かぶのは自身にあるアリシアの幼き日々の記憶。
自分と共にいてくれたリニスの記憶。
そして、短い夢の中でのアリシア、姉と共に過ごした時間。
「会えてうれしかった。
行ってきます。
私が後悔しないために、私が今居るべき場所へ」
フェイトが大剣となったバルディッシュを振るうだけで玉座の間全体に亀裂が奔り、雷が舞う。
「疾風・迅雷―――スプライトザンバー!!」
フェイトの巨大な斬撃により夢は硝子の様に砕ける。
そして、はやてを覆う闇にも亀裂が奔った。
それがはやての意識を覚醒させる鍵となる。
フェイトが夢を砕いた時、なのはも追い詰められていた。
間合いを詰められ拳を叩きこまれ、手足にはバインドが何重にも絡みつく。
完全に無防備な状態。
「う、くっ」
いくらなのはが優秀とはいえここまでの戦闘の疲弊に加えて、即座にバインドを解けるはずもない。
なのはの頭上に奔る闇色の雷。
闇の空間から出てくるのは歪な剣。
だがその大きさが桁違いであった。
なのはと比べるまでもなく、高層ビルに匹敵する巨大な剣。
その柄を握る闇の書
「もう……眠れ!!」
魔力が多いなど関係ない。
圧倒的な質量による破壊力を解き放つ一撃。
今、バインドに捕らわれたなのはにこれを避ける術はない。
絶望的な状況。
そこに展開される金色の魔法陣。
そして、次の瞬間には歪な大剣は金色の大剣に両断され、なのはを捉えることなく海へと沈む。
白き外套を纏ったフェイトがなのはの傍に降り立つ。
なのはとフェイトの二人は互いの無事を無言で確認し、闇の書の相対する。
side 士郎
一人になった部屋で解析をかける。
探すのははやてに呑ませた俺の魔力。
わずかに感じる魔力。
だが
「ずいぶんと希薄だな」
これでは辿り着くのは難しいか。
無理やり、宝具か何かで穴を作るか?
いや、それだと向こうにいるはやてを巻き込みかねないか。
その時、急に魔力がはっきりと感じられた。
「ん? この魔力……なるほどフェイトは自力で脱出できたか」
だが助かった、これで道は作れそうだ。
投影したデュランダルを握り、空間を見据える。
この世界を作る壁に剣を叩きつける。
窓ガラスのように砕ける空間に穴が開く。
この調子で行くか。
そして同じ要領で空間を破っていき、辿りついた。
「ようやく見つけたぞ、はやて」
「士郎君!?」
「なっ! 一体どうやって」
亀裂が入った世界で俺ははやてと闇の書の最後の騎士と向かい合う。
後書き
ホントは昨日アップするつもりが、書きあげて保存だけして公開のチェックをつけるのを忘れていました。
ごめんなさい。
そして、第七十八話のサブタイトル案の募集では多くの案を頂きありがとうございました。
この場を借りてお礼申し上げます。
サブタイトルですが、ハーデス様の「夢幻の終わりと深淵の誘い」を採用させていただきました。
それにしても今回のようにいろんな場面が絡み合うと書きづらいことこの上ない。
こればっかりは慣れが必要なんでしょうね。
さて、相変わらず一杯一杯の更新ですが、次回も再来週更新予定です。
それではまた再来週に
ではでは
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