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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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A's編
  第八十一話 最後の戦い

 白銀の魔法陣の上で主であるはやてに騎士達が視線を向ける。

 だがせっかくの再会だというのに騎士達の表情は晴れない。

「……はやて」
「すみません」
「あの……はやてちゃん、私達」

 主とのせっかくの再会に素直に喜べばいいものを、主との約束を破ってしまった事に肩を落としている。

「ええよ。皆わかってる。
 リインフォースが教えてくれた。
 そやけど、細かい事はあとや今は」

 はやてが柔らかく笑う。

「おかえり、皆」

 失ってしまった。
 もう二度と会う事は敵わないと悲しみ、泣き叫んだ。

 だがこうして、再び自分の所に帰ってきてくれた大切な家族を優しく迎える。
 その事実に、はやての表情は自然ととても優しく笑みをこぼしていた。

 その笑みに守護騎士達は戻ってこれたのだと、大切な人の前にこうして再び立っている事を実感したのだ。

 大切な人を失ってしまうという恐怖。
 意識を失っていく中で大切な人に会えないという悲しみ。
 再び出会う事が出来た喜び。
 あらゆる感情が混ざり合い、ヴィータは堪える事が出来ずに泣きながら、はやてを抱きしめる。

 大切な人の下に戻ってきたと何度も大切な人の名を呼び。
 確かめるようにその温もりを抱きしめる。

 他の騎士達も感情を胸に抱きながら、柔らかく笑いながらヴィータを抱きしめる主と小さな騎士を優しく見つめていた。

 はやて達の傍に降りてくる士郎、なのは、フェイトの三人。

 三人の表情も穏やかな笑みが浮かんでいた。

「なのはちゃんもフェイトちゃんもごめんな。
 それに士郎君には色々初めっからお世話なりっぱなしで」
「こうしてはやてが無事なんだから構わないさ」
「うん」
「だね」

 再会を喜ぶ穏やかな時間。

 だが問題の根本はまだ残っている。
 本当の戦いはここからなのだ。

 


side 士郎

 はやてとシグナム達の再会。
 その再会の中で

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。
 水を注して、すまない」

 厳しい表情をしたクロノ、アルフ、ユーノが俺達の傍に降りてくる。
 クロノが空気を読めないと思えない。
 となると

「いよいよ、暴走のリミットが近づいてきたか?」

 わずかにため息を吐き、表情を引き締めてクロノに視線を向ける。

「ああ、その通りだ。
 時間がないので簡潔に説明する」

 クロノの言葉にそれぞれが表情を引き締め、ヴィータもはやてから離れて涙を拭う。

「あそこの黒い淀み、闇の書の防衛プログラムがあと数分で暴走を開始する。
 僕らはそれを何らかの方法で止めないといけない」
「クロノ、暴走とは具体的にどうなるかわかっているのか?」
「わかっていないが、問題があるか?」

 俺の質問に若干首を傾げる面々。
 あるに決まっているだろう。

「止めるといっても暴走の仕方によっては方針を変える必要があるだろう。
 停止させるにしても衝撃を与えたら悪化するなら、攻撃は論外だ」

 機能停止させるとはいえ全て同じやり方が通用するはずがない。
 仮に爆弾のようなモノならば、攻撃した時点で爆発する可能性もあるんだから。

「その心配はいらない」

 俺の心配を否定する声と共にはやての横に小さなリインフォースが現れる。
 半分透けているところをみると対話用に姿を映しているだけだろう。

「暴走は周辺の物質を侵食し、防衛プログラムの一部にしていくものだ。
 臨界点に達さなければこの星一つぐらいは呑み込む可能性があるが、外部衝撃によって暴走が加速したりする心配はない」

 リインフォースの情報なら安心だな。
 なのはとフェイトは暴走の規模を改めて知り、驚いている。
 まあ、単純に暴走と言っていたからイメージが出来ていなかったためだろう。

「一応、三つプランを用意している。
 一つ、極めて強力な氷結魔法で停止させる。
 二つ、軌道上に待機している艦船アースラの魔導砲、アルカンシェルで消滅させる。
 三つ」

 待て。
 クロノ、なんで俺に視線を向ける。

「……魔術師、衛宮士郎の魔術により消滅させる。
 これ以外に他に良い手はないか?
 闇の書の主とその守護騎士の皆に問いたい」

 そういう事か。
 まあ、確かにジュエルシード事件のエクスカリバーの一撃を見ればそう考えるか。

「えっと……最初のはたぶん難しいと思います。
 主のない防衛プログラムは魔力の塊みたいなものですから」
「凍結させてもコアがある限り、再生機能は止まらん」

 シャマルとシグナムの言葉で却下だな。
 プランその一、氷結はダメ。
 そもそもこのプランどこから出てきたんだ?

 それにクロノがプラン説明の時に持っていたS2Uとは違うカード。

「クロノ、その提案って」
「ああ、提督とリーゼ達のプランだ。
 この氷結の杖、デュランダルも渡されたモノだ」

 そういえば闇の書を完成させ、はやてごと氷結し封印するとグレアム提督が言っていた覚えがある。
 まあ、その方法をとったら失敗だったんだが。

 ついでに聞いておくか。
 クロノに近づき

「ちなみに今は?」
「本局で拘束されている。
 映像は見ているはずだ」
「俺との問題もある。
 後で話はさせてもらうぞ」
「……了解した」

 小声で言葉をかわす。
 しかし、クロノの奴、俺をグレアム提督達に会わせたくないらしい。

 まあ、敵対したから当然か。

「アルカンシェルも絶対だめ。
 こんなとこでアルカンシェル撃ったら、はやての家までぶっ飛んじゃうじゃんか!」

 ヴィータが手で大きくバツを作る。

「そんなにすごいの?」
 
 なのはも首を傾げる。

「発動地点を中心に百数十キロ範囲の空間を歪曲させながら反応消滅を起こさせる魔導砲っていうとだいたいわかる?」

 俺も当然アルカンシェルがどんなものか知ってるはずもないので、ユーノがなのはをフォローするように教えてくれて助かった。

 凄まじい威力。
 確かにあの闇を潰す事は出来るだろうが周囲被害が甚大だ。
 こんなところで使えば海鳴自体が消える。

「あの、私もそれ反対!」
「同じく絶対反対!」
「僕も艦長も使いたくないよ。
 でもアレの暴走が本格的に始まったら被害はそれよりさらに大きくなる」

 クロノの言う気持ちもわかる。
 少数を犠牲にし、多くを助ける。
 俺が実践してきた事でもある。
 だがそれが正しいとは思えない。

「だからと言ってここで使えば被害も大きい。
 それに今は結界を張っているがアルカンシェルに耐えられるとは思えない。
 そうなれば海鳴に住む人たちも巻き込まれて消える」

 俺の明確な言葉になのは達の表情が歪む。

「クロノ、その選択はここにいる者達に海鳴に住む親や友人を世界のために見捨てろと言ってるようなモノだぞ。
 これまで被害を出してきた闇の書の決着に焦るのもわかるが、少し肩の力を抜け。
 それではうまくいくモノもしくじるぞ」

 クロノは俺の言葉に目を閉じて大きく何度か深呼吸を繰り返す。

「……すまない、軽率だった」

 クロノの謝罪に責めることなくただ頷き受け入れるなのは達。
 これでプランその二もダメ。

「士郎、プラン三はどうだ?」
「あの球体サイズなら、エクスカリバーを使えば大丈夫だろう。
 だがアルカンシェルほどではないにしろ、あの威力だ。
 あの闇を消し飛ばしてこの結界も突き破ることになる」

 場所が海なのは幸いではある。
 街を薙ぎ払う心配はないが、それでも世界を覆う結界はどうにもならない。
 まあ、怪物が見えた程度ならどうにでも出来るが、結界を破れば現在炎上している街の中に人々が現れれば混乱は必至だ。

「結界を維持しながら再構築……ユーノ可能だと思うか?」
「多少のダメージなら可能だけど、あの一撃クラスだと不可能だと思う」
「やはりそうか、他のモノではどうだ?」

 クロノの質問に若干思考を奔らせる。

 あるかといえばある。
 事実、エクスカリバーは必殺の一撃だが攻撃規模が大き過ぎて周囲の被害があるため使う場所を選ぶ。

 一点集中で巨大な威力の武器もある。
 だが

「シャマル、さっき氷結プランの時にコアと言っていたが、コアを破壊すれば他の部位が残っていても停止できるか?」
「はい、コアさえ潰せれば」
「なら手はあるか」

 俺のつぶやきに皆の期待の視線が集まる。

「コアに一点突破型の強力な一撃を叩きこむ」
「威力は?」
「エクスカリバーには及ばないがほぼ同ランクだ。
 ただしあの巨体の中にあるコアを捉えるのが問題だ」

 あのサイズの球体だ。
 中にいるモノもそれ相応の大きさだろう。

 その中にあるコアの位置がわからない状態で撃ち抜くのは無理がある。

「ああっ! なんかごちゃごちゃと鬱陶しいな!
 皆でズバッとぶっ飛ばしちゃえばいいじゃん」

 今まで黙っていたアルフが声を荒げる。

「ズバッとぶっ飛ばす?」
「士郎君の攻撃もコアを狙えるようにせんと悪い」
「でもコアを狙えるようになれば」

 なのは、フェイト、はやてのつぶやき。
 そして、何を思いついたように顔を見合わせ俺に視線を向ける。
 先ほどのつぶやきでなのは達が何を考えているかはわかっている。

「なるほど、だいぶ力技だがこのメンバーなら可能だろうな」

 俺の納得したような言葉にクロノが顔を歪ませる。

「おい、一体何を考えている?」
「なに、そう難しい事じゃない。
 コアが見えないのであれば見えるようにすればいい。
 幸い全力でズバッとぶっ飛ばすには十分なメンバーがいるしな」

 俺に同意するように笑って頷く三人。

「君達は……艦長に話してみる。
 それとシミュレーションもだ」
「ああ、任せるよ」

 頭が痛いという表情のクロノに内心笑いながら闇の書の球体に視線を向けた。




side out

 クロノから防衛プログラムの破壊プランを聞いたアースラメンバーだったが、揃って苦笑していた。

「なんともまあ、相変わらず物凄いというか」
「計算上、仮想シミュレーションでも実現可能っていうのがまた怖いですね」

 あまりの力技というか荒技に驚き半分、呆れ半分といった感じのリンディとエイミィであった。
 大きく息を吐いて意識を切り替えるリンディ。

「エイミィ、士郎君に回線つないでもらえる?」
「了解です」

 リンディが何を心配しているか察したエイミィは何も言わず士郎に通信をつないだ。

「士郎君」
「何でしょう? リンディさん」
「……大丈夫なの?」

 ただ一言。
 それを士郎に問うた。

 エクスカリバーを使用した際の副作用の事。
 管理局にバレる魔術の事。
 あらゆる心配をその一言に込めて

「大丈夫です」

 その思いを察し、感謝しながら士郎はただ大丈夫と一言返す。

「そう、ではお願いします」
「ああ」

 士郎とリンディの通信は切られる。
 かわされた言葉は少ない。
 だがリンディの心配に士郎は静かに感謝していた。

「暴走臨界点まであと十分」

 エイミィからの言葉にクロノを中心に皆が集まる。

「実に個人の能力頼りでギャンブル性の高いプランだが、まあやってみる価値はある」

 クロノの言葉を皮切りにプランが改めて話される。

「暴走プログラムのバリアは物理と魔力の複合四層式。
 まずはそれを破る」
「バリアを抜いたら本体に向けて、私達の一斉砲撃でコアを露出」
「そしたら、コアを補足して士郎君の一撃で消滅」

 はやて、フェイト、なのはの言葉に全員が頷く。

 それを見ながらクロノはプライベート回線で通信を開いていた。

「提督見えますか?」
「ああ、良く見えるよ」

 その相手は管理局の本局で拘束されているグレアム提督。

 今回の闇の書の結末を見せるためにクロノが気を利かせた映像がグレアム提督の目の前に映し出されていた。

「闇の書は呪われた魔導書でした。
 その呪いはいくつもの人生を喰らい、それに関わった多くの人の人生を狂わせてきました。
 アレのおかげで僕も母さんも、他の多くの被害者遺族もこんなはずじゃない人生を進まなければならなくなった。
 それはきっと貴方もリーゼ達も、無くしてしまった過去は変える事は出来ない。
 だから今を戦って未来を変えます」

 その手に授けられたデュランダルを握り、クロノは静かに戦いへの覚悟を改めて胸にしていた。 
 

 
後書き
今週でフルボッコまで行こうと思ったのに辿りつけなかった。

この話をそこまで長くするつもりはなかったはずなんだけどな・・・

最後の戦い前なのに最後の戦いとはこれいかに。
次回こそ辿りついて見せます。

次回、「フルボッコ」もとい「闇を祓う」お楽しみに

ではでは

 
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