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IS インフィニット・ストラトス~普通と平和を目指した果てに…………~

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number-4



クラス代表。その言葉が意味することを蓮は瞬時にして理解した。そして願うことならなりたくはないが、どうせクラスの奴が推薦してくるのを見越して諦めていた。
当然、男という理由だけでだ。勿論、一夏も推薦されていた。
本来であれば実力のあるものが鳴るものではないのかと、疑問にこそ思うが。どうせそんなことを言ったって笑われて流されて終わりだ。


すぐに一夏が推薦された。蓮は先ほどの件があるのか萎縮してしまって誰も推薦してこなかったが、それを一夏が推薦したことで逃げられなくなった。
自分がやるのが嫌だからといって、他人を巻き込むのはあまり良くないが……まあ、どうせ高校生に成り上がったばかりの子供だから仕方がない。


とここで、斜め前の女子の方がプルプルと震えているのを見た。
その女子は、先ほどの銃の前に立ちはだかったやつで金髪を縦にロールさせている奴だった。名前を何といったか。
イギリス代表候補生と言っていた。では、この前その手の雑誌の表紙を飾っていた――――そう、セシリア・オルコットだ。
そこまで思い出したところで、セシリアはとうとう机を強く叩いて立ち上がった。


「――――納得がいきませんわっ!!」


そこからは早かった。
セシリアの物言いに我慢できなくなった一夏がイギリスを貶すようなことを言った。その前にはセシリアが日本を馬鹿にしていたが、そこまで愛国者ではないので放っておいた。
売り言葉に買い言葉というのがぴったりだろう。まるで子供。右も左も分からない。まだ幼稚園児の言い争いを見ているようで、嫌気がさしてくる。


そして、口喧嘩が暴力に発展することはなかったが、ISを用いた戦闘による決闘で決着をつけようという方向にまとまりつつある。
その中で代表候補生相手にハンデをつけようとした一夏が憐れに思えたが、何も言わなかった。それよりも決闘ということは、推薦に上がった蓮と一夏。それに自薦したセシリアの三人によるものとなるが……
それは非常に拙い。


なぜなら、蓮はISの生みの親、篠ノ之束のもとでISについて学んできた。勿論、知識的なことから戦闘に関するまですべてだ。
そして、戦闘経験も豊富にあって、搭乗時間だって長い。
ISが発明された十年ほど前から乗ってきているのだ。無駄に大人びていたせいで、無駄に知識があったせいで。無駄に深く入り過ぎて、束による英才教育を幼いころから受けていた。
蓮の搭乗時間は、一、二を争うほどに長いだろう。


「話はまとまったな。では、一週間後の月曜日の放課後、第二アリーナでクラス代表決定戦を行う。織斑一夏、セシリア・オルコット。それと、御袰衣蓮は各自準備しておくこと。言っておくが、辞退は認められない。――――では、授業に移る」


辞退するための建前を考えているうちに話を纏められてしまい、もう変更は不可能であった。こうなれば、もう手加減をするしかない。気づかれないように。
こんなことになるのなら、無理してでも実技試験を受けておくべきだった。
実は蓮、実技試験の日程の時に高熱を出してしまい出られなかった。それでも、二人しかいない男でISを動かせるものとして放っておくわけにはいかなかったのだ。
日本政府は、御袰衣蓮の入学を強制的に決めた。


人生とは自分の思うようにいかない。今更ながら実感した蓮であった。


      ◯


一日の授業も終わり、部活や寮に戻る者など様々な過ごし方がある放課後になった。蓮は部活に入る気など毛頭なく、そのままフリーでいることにしていた。
蓮がなぜまだ教室にいるのかというと、山田先生に残っている様にといわれていたからである。居残りではない。まだ伝えることが残っているということだ。


しかし、蓮はすぐにでも教室から出たかった。一夏がさっきから何かと話しかけてきて気持ち悪い。うるさいがウザいになり、それを通り越して気持ち悪いになっていた。
一夏は、フレンドリーなのだ。ただ、フレンドリーすぎて、人の肩などにに勝手に触れてこようとして気持ち悪い。
転入生とかであれば、このフレンドリーさは救いになるかもしれないが、蓮はそうでもない。むしろ邪魔である。


話しかけてくる一夏を遠ざけようと、携帯型の音楽プレイヤーを取り出してイヤホンをして遮断した。それでようやく折れたのか、自分の席に戻って行く一夏。ようやく静かになった。


ふと窓の方を向くと、空に光り輝いていた太陽が水平線に沈もうとしていた。
オレンジ色に染まる空。西側に窓があるため、よく見える。久しぶりに見た夕日。こうしてまじまじと見るのはあの日以来だった蓮。
何だかあの日のことを思い出して涙ぐんできた。


「ああ、よかった。まだ教室にいましたか、織斑君。それと見袰衣君は待たせてすいませんでした」
「いえ、大丈夫です」
「そう言ってもらえると助かります。それで、伝えたいことというのは、寮のことです」


蓮は、ほかの人に見られない様に裾で目元を拭いながら山田先生の方へ向かっていく。
伝えたいことはどうやら寮のことだったようだ。


山田先生によると、一週間は自宅通学だったはずなのだが、政府の方で調整しろと来たので何とか寮に入れられることにしたとのこと。
蓮に関してもほとんど似た理由からだった。


説明を受けながら渡されたカギ。一夏には1025号室。蓮には2515号室。とそれぞれ違う部屋の鍵であった。
蓮は疑問に思いこそしたが、気持ち悪い一夏と一緒じゃないだけましと、逆に喜んでいる。しかし、一夏は頭の回転が悪いのか態々質問した。面倒な奴だ。


蓮は18歳なのでクラスと同じ一年生寮では不便なところがあるかもしれないから、二年生寮の方で調整したそうだ。
蓮の年齢を知った時に一夏が若干騒いだが、蓮は気にしないですぐに寮へ向かった。
ちなみに寮は一つしかない。その代わりに広い。ものすごく広い。一階は一年生。二階は二年生。三階は三年生。食堂は一階にある。それもものすごく食事のためのスペースが広いが。


      ◯


「2515号室はっと……ここだな」


蓮がこれから住む部屋は二階の一番遠い角にあった。これでは何かと不便ではと思うことはなかった。逆にほかの生徒に見られるようなことはそんなになさそうで安心した。遠いのは事実ではあるが、いやではない。


――コンコンッ


中に人がいないかノックはしておく。ノックしないで入った場合に中に人がいたら、それは十中八九女子だ。外れることはない。絶対に女子だ。二年生で会ったこともない人にいきなり変態扱いされるのはごめんだ。


そんな理由からノックしたのだが、中から返事はなく、鍵もかかっているようで無人であることが分かり、蓮は鍵を使ってドアを開けて入った。
中にはシングルサイズのベットが二つ、スペースを開けて並べられており、机が二つに大きな窓。ベランダもあるようで、意外に広かった。
そして、窓側のベットの上には段ボールが一つとカバンが一つ置かれていた。蓮の私物である。
カバンの方には私服をそんなに多くはないが、入っている。段ボールの中にはパソコン、充電器など電子機器類に関するものが大半を占めている。その中に写真立てが三つ。


パソコンを窓側の机に置き、通信環境を整えて写真立て三つを机の隅に置くと同時に部屋の扉のかぎが開けられて、誰かが入ってきた。


「ふうっ……あら? もう同室の人がいたのかしら、初めまして私の名前は更識――――」


部屋に入ってきた少女の言葉は最後まで続くことはなかった。蓮が、彼女にかぶせるように声を発したからだ。


「――――刀奈」
「――――ッ! それは私の――――!?」


少女は、身構えたが相手の姿を見ると固まってしまった。
少女の容姿は、一言で言ってしまえば美少女である。女性が目指す理想的な体型に女子にしては高めの身長。水色の髪を肩まで伸ばして、先端の方は外側に跳ねている。赤い瞳をした少女。


更識家第十七代目当主、更識楯無。本名を更識刀奈。


「えっ……どうして、ここに? ここにはいない筈なのに……」
「そんなことはない。現に俺はここにいる」


何年も会うことが出来なかった幼馴染が今、目の前にいる。
唐突に自分の手が届く範囲からいなくなってしまった大切な人が目の前にいる。


楯無、いや刀奈は、蓮のもとまで歩み寄る。そして、蓮の体に手を伸ばして、恐る恐る伸ばして、つんっと触れる。


自分が作り出した幻でもなく、ホログラムでもなく、幻影でもない少年、今は青年になった男が目の前にいる。
ちゃんと触れられる――――。


「ッ、蓮!」


刀奈は、蓮を抱きしめた。もう二度と離したくないと、そう言わんばかりにぎゅっと抱きしめる。涙も止まらない。次から次へとあふれ出てくる。
蓮が抱きしめてくれた。刀奈は、それを皮切りに一層強く、より大きく泣いた。


      ◯


刀奈が泣いて蓮に抱きついている。
その脇には蓮が先ほど置いた写真立て三つがあった。その真ん中の写真立てには、四人写っていた。


真ん中には少年が微笑んでいる。右側には嬉しそうに少年に抱きついている水色の髪が外に跳ねている少女がいる。左側には恥ずかしそうにしながらも少年の左袖をつまみながら笑う水色の髪を内側に巻いた少女がいる。
そして少年の後ろには、紫の髪をしたほかの三人よりは背の高い少女、篠ノ之束が、少年の後ろに優しく笑いながら立っている。


今の二人は、表情こそ違えどこの写真に写っているときと背は違うが、全く変わってなかった。





 
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