IS インフィニット・ストラトス~普通と平和を目指した果てに…………~
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number-3
ようやくIS学園に到着した蓮と束。敷地内に入場するときに、束のことでちょこっと問題が起きそうだったけど、お話したら通してくれた。
蓮は勿論、実は束もIS学園に入るのは初めてのようで意外にしっかりと学校になっているのを見て、嫌そうに顔をひきつらせた。なぜなら束の中学時代の担任はとんでもない下種野郎だったのだ。何がとまでは言いたくないそうだが、今はもうその教師はいないらしい。何でも社会的に抹殺したとか。
その時の記憶がフラッシュバックしてきたのだろう。
蓮は実の気持ちを言うと憂鬱だった。学校に行くという点では全く今までと変わりはないのだが、学校――――IS学園内の環境が全く違うのだ。
ついこの前まで通っていた高校は、男女共学で蓮の学年は女子が男子よりも少なかった。
だが、IS学園ではそれが全く違ってくる。
クラスメイトはおろか、学年、生徒全員、教師に至るまで全員女なのだ。その唯一の例外が、ついこの前発見されたブリュンヒルデの弟、織斑一夏なのだ。それに加えて蓮という人物もいるが、まだ蓮の存在は公には明かされておらず、限られた人物しか知らない。
そんなことを知らされていたなぁとか、思いながらIS学園の廊下を歩いている蓮は、何故か束を肩車していた。
しかし、蓮は全く嫌な顔をしない。束はテンションが上がり続けている。
誰もいない廊下を教室の扉に備えられている窓越しに教室の中から生徒に今の姿を見られそうでもあるが、この二人はそんなことを気にする人ではない。
第一、入学式を終えてこれからの学園生活に必要な知識と、ISを学ぶにあたっての注意事項などもまとめてここの時間。HRで伝えられる。
ゆっくりと歩いていたが、もうすぐこれから過ごす教室である1年1組の教室が見えてきた。その時である。――――歓声がまさにその目的地の教室から響いてきたのは。
蓮のモチベーションは一気に下がっていく。
「んふふー、ちーちゃんだね。やっぱり人気はぴか一だねー。ねー、れんくん」
「その様だな……あー、面倒くさっ」
蓮はここで歩みを止める。
束はそれに何の疑問を持つことはない。なぜなら、束は御袰衣蓮という存在が、御袰衣蓮だけが、世界の中心である。勿論、織斑兄弟、篠ノ之箒が親類として認識していたが、蓮には届かない。
歩みを止めた蓮から束は、身軽く飛び降りる。
そして、これから蓮が聞いてくるであろうことを先回りして答える。
「れんくんの機体は今、フルメンテしてるよ。あと三日かな。それまで待っててね」
「わかった。……ここからは、俺一人だ。束とはしばらくお別れになるな」
言葉だけを聞くと悲しい別れに聞こえるかもしれない。けれども、二人はお互いに笑い合っていた。離れていても心は同じところにあるのだから。
束の左手薬指にはシンプルな作りの銀色の指輪がはめられている。今は見えないが、その指輪の裏側の方には、蓮の名前がフルネームでローマ字でほられている。同じようにして、蓮の首に下げられたネックレスにつけられている同じ指輪にも、束の名前がローマ字で掘られている。
別に二人が婚約しているわけでもない。束がこういう物が欲しいと言ったため、蓮が渋々買ってきたのだ。その店員の人には誤解されただろうが。
去り際に束は、背の高い蓮の唇に精一杯背伸びして軽く口づけた。そして、そのまま窓を開け飛び去って行った。
あまりにもあっという間の出来事で反応できなかった蓮は、口元に笑みを浮かべると束が開けっ放しにした窓を閉めて、一年一組の教室の前まで、自動ドアが反応しない様にしながら来た。
一つ呼吸を入れて、気持ちを落ち着かせるとそのまま、教室の中に入っていく。
「すいません、遅れました」
「遅い。どうして遅れた」
「道路が混んでいたもので」
教室に入った瞬間、教室にいた黒髪の教師からすぐに注意される。
恐らく、あの凛とした佇まいに冷静に物事を進める女性が織斑千冬なのだろう。彼女は、蓮の言い訳がましく聞こえる答えに納得はしなかったが、不問とした。
授業中ではあったが、自己紹介をするようにということだ。
「初めまして、御袰衣蓮です。趣味、特技など全くありません。これからよろしく」
えーという女子生徒の非難めいた声が聞こえるが、蓮はこれ以上何も話そうとしなかった。それよりも一番前の真ん中の席に座っている男子生徒。織斑一夏が救いを見つけたとか、そういう視線を向けてきたがこれも無視。
あいつの考えていることは分かり易い。顔に出てしまっているからすぐに分かる。
どうせこの授業が終わったら話しかけに行こうとか考えているんだろうが、生憎馴れ馴れしくするつもりなんて更々ない。
束もあいつとは仲良くしなくていいと言っていたし。
「では、見袰衣君の席は窓側の一番奥です。大丈夫ですか?」
「はい」
眼鏡をかけて、出る所は出ていて、ほんわかとした雰囲気を持つ先生、山田真耶から席の位置を知らされる。蓮としては、一夏から遠いところだったので満足である。
言われた席へまっすぐ向かい、椅子に腰を下ろすとすぐにこの時間の授業の準備をし始めた。この時間は数学であったが、正直言ってもうすでに高校を卒業してしまっているので、やる意味などほとんどなかった。さらに言えば、一年生のこの時期は中学校の復習でしかない。
つまらなさ過ぎて寝てしまいたいが、千冬に目をつけられたくはないので、一応は授業を受ける。
念のために言っておくが、授業をしているのは山田先生である。決して織斑千冬などではない。
ノートに忘れていた部分だけを書き写して15分。授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。終わりを告げると二人の先生は教室から出ていく。
すぐに次の授業の準備を確認し、終えた蓮は左手で頬杖をついて窓の外をずっと見ていた。
そのわずかな休憩時間に一夏は机の間を縫って前から蓮の席まで来た。
「初めまして。俺は織斑一夏っていうんだって……もう知ってるよな? よろしく」
そう言った一夏は、蓮に向けて右手を出してきた。握手を求めるものであろう。仲よくしていこうという魂胆か。蓮は、一夏の方を全く見ることなく言う。
「悪いが、馴れ馴れしくしないでくれ」
そう言われた一夏は、差し出した右手を蓮の肩に手を置こうとそのまま伸ばす。
――パアンッ
しかしその右手は、蓮が振るった右手によって叩かれた。
そして、今まで窓の向こうから目を話すことがなかった蓮が初めて一夏の方を向いた。
蓮から見た一夏の表情は、何をされたのか全く理解できないといった困惑した表情。それに対して一夏から見た蓮の表情は、無表情でその瞳には、一夏に対する明確な敵意を感じられた。
また、蓮は立ち上がって自分の身長より少し低い一夏を見下ろして、どこから取り出したのか銃を向けた。周りからは悲鳴が上がるが、当然蓮がそんなことを気にするわけもない。
安全装置が外されている今、簡単に人を殺せる道具となっている。
と、そこに金髪を縦にロールさせている女子生徒が間に入ってきた。
一夏には何か嫌なことがあるのか苦い顔をしていた。自分が死の間際にいることを自覚している様子も見せることなく。
こちらの女子生徒は誰だったか。蓮は、自己紹介を聞いているわけではないので、知らない。
「悪いですが、そんな物騒なものまで出されては黙って見ているわけにはいきませんわ」
「誰だぁ? ……お前」
「イギリス代表候補生、セシリア・オルコット」
ただの代表候補風情が――――と蓮は口には出さなかったが、内心毒づく。
ISしかもたない。銃のような携行型の武器を持たない相手が、銃を持っている相手に立ち向かうことがどういうことなのか分かっているのだろうか。
だが、その前に授業の開始を告げるチャイムが鳴った。
それを聞いた蓮は、すぐに安全装置をかけ、銃を仕舞った。
それを見たセシリアは、自分の席に戻って行く。一夏はその場を動こうとしなかった。担任に怒られても知らないが、まあ蓮にはどうでもいいことだ。
「これから授業を――――織斑、もう授業は始まっているぞ。席に着け」
「あっ、はい」
すごすごと一夏が自分の席に戻って行ったのを確認した千冬は、授業を始める前に今日のうちに決めなければならないことを決めるために切り出す。
「では、授業を始める前にクラス代表を決める」
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