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魔狼の咆哮

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第一章その八


第一章その八

「貴様の何処が偉大だ。貴様は力の無い少女達を犯し貪り喰らう醜い化け物だ。貴様の様な化け物は地獄に落ちるがいい」
「フフフ、地獄か」
 人狼が不敵に笑った。
「俺は地獄には落ちぬ。地獄に落ちるのは忌々しい人間共の方だ」
 嘲を含んだ声で笑った。
「ほざけ、罪の無い人々を喰らった怪物が」
「言ってくれるな。我々人狼の力と由来を知らぬ愚か者達が」
「人狼の力か。良く知っているぞ」
 役が進み出て来た。
「貴様は・・・・・・」
 役の顔を見て人狼の顔から嘲りの色が消えた。
「由来も知っている。吸血鬼の兄弟にして共に夜の世界を支配してきた暗黒の種族よ」
 右手に持つ拳銃の狙いを定めた。
「貴様、いや貴様達によって多くの命が失われてきた。これ以上の命を失わせない為に、暗黒の種族の繁栄を防ぐ為に貴様にはここで死んでもらう」
 拳銃の引き金を引いた。弾丸が人狼の左肩を貫いた。
「がはっ・・・・・・」
「如何に闇の種族といえどこれは効くだろう。銀を溶かして造った弾丸だ」
「グオオオオオ・・・・・・」
 右手で左肩を押さえ呻いている。傷口からドス黒い血がぽたぽたと滴り落ちている。
「これでこちらには飛び掛かれないだろう。次は心臓だ」
 止めを刺そうとしたその時だった。不意に何かの群れが飛び出てきた。
「むうっ!?」
 それは狼の群れだった。ざざざ、と草原を滑り二人を取り囲んできた。
「くっ、使い魔達か・・・」
 本郷が背に隠し持っていた刀を引き抜いた。白銀の光が闇夜を照らす。
「貴様等の相手はこの者達がしてやる。せいぜい遊んでいろ」
 傷口を押さえつつ二人を見下ろし嘲り笑った。
「待て、何処へ行く気だ」
「逃がさんぞ」
 ナイフと銀の弾が放たれようとする。しかしそれを狼達が妨げた。
「いずれこの傷の借りは返してやる。その時は貴様達の最期だ」
「くそっ!」
 本郷が悔しそうに叫ぶ。だがそこへ狼達の牙が襲い来る。
「貴様等なぞっ!」
 日本刀が横に一閃される。狼の首が宙に舞った。
「生憎使い魔程度に倒される程弱くはない。貴様等がどれだけいようと敵ではない」
 一発ずつ確実に狼の脳と心臓を打ち抜く。見事な腕である。
 狼達は次々と数を減らしていく。すぐにその数は数えられる程になっていた。
「グルル・・・」
 残された狼達が二人を囲みつつ吠え立てる。だが二人は至って冷静沈着なままである。
 狼達が襲いくる度に狼達の数は減っていく。遂に最後の一匹となった。
「ガルルルル・・・」
 一匹になろうともその狼は怖れなぞなかった。うなり声をあげ体勢を屈め弓の様に引き絞っている。
 その一匹が本郷に襲い掛かってきた。血に飢えた牙が汚れた唾液でぬめぬめと光った。
 本郷はその胸に刃を突き立てた。獣の紅い眼から光が消え身体がだらんと垂れ下がり刀に吊るされた。
「これで終わりか」
 そう言うと獣の身体に足を当て蹴る様な形で刀を引き抜いた。ドス黒い血を流しつつ草原に落ちていく。
「役さん、そっちはどうです?」
 白紙で刃を拭きつつ本郷は傍らにいる役に声をあけた。
「全て片付いた。しかし周りを見てくれ」
「はい。まだいるかも知れませんからね」
「・・・いや、違うな」
「?どういう意味です?」
 紙を草原に投げ捨てつつ問うた。まだ周りには目はいっていない。
「・・・相手の気配が消えたら君は急に注意力がなくなるな。よく見たまえ」
 少し溜息を漏らしつつ役は言った。
「?・・・・・・あ」
 周りを見て本郷は役の言葉の意味を悟った。
「解っただろう、私の言葉の意味が」
「・・・はい。だからこそ使い魔だったのですね」
 今しがた貫いた狼の屍が落ちた場所にはその死骸はなかった。替わりに一つの石があった。その石には何か独特の角張った文字が書かれている。
「ルーン文字ですね」
 石を手に取り本郷は言った。ルーン文字とはキリスト教が普及する前に北欧で使われていた文字である。北欧の神々や伝承、魔術等を伝える為に使われ魔力を秘めていると言われている。
「石に狼の力を宿らせたのだな。魔力もかなりのものを持っているな」
 周りの散らばる石の一つを手に取りつつ役は言った。その石には白銀の弾丸がめりこんでいた。
「式神ですね。陰陽道でいうところの」
「うむ。それもかなり高位のな。これだけの数を一度に扱えたのは陰陽道の長い歴史でも数えられる程しかいない」
「魔術師としても一流ですか」
「だな。どうやらかなりの強敵になりそうだな」
 その言葉に本郷は不敵に笑った。
「そうでなくちゃあ面白くはありませんよ。罪の無い少女を次々と嬲り殺す魔狼、こちらもそれなりのやり方で成敗してやらなくちゃ気が済みませんしね」
「そうだな。殺された女の子達の無念を晴らす為に」
 二人を呼ぶ声がした。声の方を振り返るとアラーニャ巡査長が全力で掛けて来ている。おそらく石に宿った使い魔達の咆哮を人狼のそれと思ったのだろう。二人はすっと微笑むと巡査長のほうへ歩いていった。
 
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