ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
九十六話:救国の英雄
スラリンがいつの間にか覚えてた(たぶんヘンリーが教えた)ルカナンやスクルトで態勢を固め、コドランの息攻撃、ヘンリーの集団攻撃にスラリンも加わり、雑魚が次々に片付いていきます。
ピエールは一人ボスらしき手強い魔物と切り結び、押さえ込みます。
私は非戦闘員の守りを優先するので前には出られないし、位置の関係上ブーメランも投げられませんが、仲間の隙間からバギマを放ち、攻撃と牽制を兼ねて援護します。
援護の甲斐もあってかみんなが体を張って敵を食い止めるような事態にはならず、大きな怪我は負っていないのですが。
それでも小さな傷を受け、仲間たちにダメージが蓄積していきます。
回復のために私が近寄るわけにはいかず、ピエールはボスにかかりきりなので、身軽に動けないことにジリジリしながら、時折こちらに呼び寄せます。
「コドラン!一旦下がって!ヘンリー、その間お願い!」
「わかった!コドラン、行け!」
「うー、まかせた!」
ヘンリーが前に出て攻撃を仕掛けた隙にコドランが素早く離脱し、私の近くに飛んできます。
「お疲れ。ごめんね、私だけ後ろで楽してて。もうちょっとだから、頑張ってね」
傷だらけのコドランの怪我と体力を回復しながら労う私にコドランがニカッと笑い、明るく答えます。
「ドーラちゃんのためなら、これくらいなんでもないよ!ありがと、ドーラちゃん!元気出たよ!おいら、頑張ってくる!」
言い置いて、また前に戻って行くコドラン。
……わかってたことだけど。
能力とかの関係上、これが一番いいと思って決めた配置だけど。
やっぱり仲間だけを前に立たせて戦わせるって……ジリジリする!!
と思っているうちに敵はまた数を減らし、雑魚からの攻撃が手薄になったところで、仲間たちがボスに集中攻撃を仕掛けます。
ピエールの攻撃で弱りきっていたところに畳み掛けられて、堪らずボスが膝を突き、悔しげに吐き捨てます。
「ぐっ……!愚かな、人間どもめ!俺様に従っておれば、この国の王は、世界の王にもなれたものを……!」
こちらを睨み付けるボスを一瞥し、ピエールがヘンリーに声をかけます。
「……もはや、これまでですな。ヘンリー殿、ここはお任せ致す」
「わかった」
もはや立ち上がる力も無いボスの止めをヘンリーに任せ、仲間たちは残った雑魚に向かっていきます。
ヘンリーが武器を構え直し、ボスに言い放ちます。
「邪悪な者たちの傀儡となり、世界を支配する道具にされることを、喜ぶとでも思ったか。十年の長きに渡りこの国を苦しめたことが、貴様の命ひとつで贖える筈も無いが。生きて償わせる価値も無い、あの世で己れの愚かさを悔やみ続けろ」
一方的に言い切り、返事も待たずに止めを刺すヘンリー。
人間相手ならしばらく生かしておいて、背後関係とか吐かせるところなんでしょうが、魔物ならそんなのする意味無さそうだしね。
吐くとも思えないし、下手に生かしておいて逃げられたら余計面倒なことになりそうだし。
ボスが倒れたことで、僅かに残った雑魚たちに動揺が走ります。
「た、隊長が!」
「仕方無い、逃げるぞ!」
「逃がすか!追うぞ!」
踵を返して入り口に向かい逃走を図る雑魚を、瞬時に追う態勢に入る仲間たち。
が、部屋の外に待ち構えていた兵士たちによって、逃走劇は始まる前に止められます。
「一匹たりとも逃がすな!生かしておく必要は無い、殲滅せよ!」
「はっ!」
デールくんが、兵士を展開して待ち構えていたようです。
デールくんの号令に従い、兵士さんたちが一斉に雑魚モンスターに斬りかかっていきます。
……ちょ、うちの子たち、大丈夫でしょうね!?
と焦って呼び戻そうかと一瞬思うも事前連絡が行き届いていたのか、間違って攻撃されるようなことは無く。
敵の魔物たちだけが、間違いなく斬り捨てられていきます。
兵士さんたちの働きにより残った雑魚が一掃され、全ての敵が排除された太后様の執務室に、デールくんが踏み込んできます。
ヘンリーが臣下の礼を取り、デールくんを迎えます。
「国王陛下。ご命令、成し終えました」
「見事でした、兄上」
あくまで、王様はデールくんのままでいくんですね。
この上下関係の示し方は。
そのまま太后様の元に歩み寄るデールくんの後に、ヘンリーが付き従います。
呆然としている太后様に、デールくんが声をかけます。
「母上。今まで、苦労をおかけしました。随分とお待たせしてしまいましたが、これでもう、自由です」
「……自由などと……妾は……ヘンリーを……それに、魔物と……」
まだ呆然としたまま、ぽつぽつと呟く太后様の言葉に、文官のおじさんの中でも偉い感じの人が反応して声を上げます。
「そ……そうです!十年前に亡くなられたはずの、ヘンリー殿下とは!魔物のことといい、一体これはどういうことです!?」
王族の会話に割って入っていいんだろうかと思わないでも無いが、戦闘中に騒ぎ立てられなかっただけマシなんだろうか。
偉いらしいおじさんの言葉に太后様がはっと気を取り直し、厳しい表情に戻って口を開きます。
「それは」
「国王陛下。僭越ながら、この件は私から説明致したほうが宜しいかと」
「そうですね。兄上、お願いします」
太后様の言葉をヘンリーが遮り、デールくんが許して説明を促します。
ヘンリーが、部屋の中のおじさんたちや、外で待つ兵士のみなさんにも聞こえるように、声を張り上げます。
「皆も聞け!このヘンリーは、十年前に何者かに命を狙われ、当時の王后陛下、つまりここにおられる太后陛下に逃がされて、命を救われた!邪悪な手の者の介入により帰還に十年を要したが、その間に力を蓄え、国王陛下と太后陛下のご計画に則って、我が国を蝕んでいた魔の物の排除に成功した!このヘンリーが生き長らえたのも、魔物に狙われてなおこの国の民の命が守られたのも!全て、太后陛下のご尽力あってのことである!」
ここで言葉を切って声を落とし、ヘンリーが太后様に向き直ります。
「義母上。私が安易なお願いをしたばかりに、大変な重荷を背負わせてしまいました。どうか、お許しください」
身を震わせ、声も震わせて、太后様が答えます。
「許すなどと……。許されぬことをしたのは、妾のほうであろうに……。……それに、そのことだけでは無い。妾の手はもう、随分と汚れてしまった……」
「それも、私の罪です。そこまでしても国を守りきらねばならないと、枷を嵌めてしまった。もしも私を許して頂けるなら、どうかご自分をこそ。私の、国の、国王陛下のために手を汚さざるを得なかったご自分のことを、お許しになってください」
「ヘンリー……」
太后様がはらはらと涙を流し、デールくんが歩み寄って肩を抱きます。
「……この先の話は、人を払ってからのほうが良いでしょう。兄上も、宜しいですか?」
「……ああ」
ヘンリーの了解を受け、デールくんが改めて兵士さんたちに指示を出します。
「中枢の魔物は排除されたが、城内にはまだ残っている可能性がある。引き続き、捜索及び排除に当たれ」
「はっ」
デールくんの指示に従って兵士さんたちは散って行き、文官のおじさんたちも慌ただしく動き始めます。
人も減ったことだし、ヘンリーは家族でお話に向かうらしいので、その前に怪我を治しておこうと近付きます。
「ヘンリー。お疲れ様」
王子様モードで引き締まったというか少々厳しい雰囲気を醸し出していたヘンリーが、私に向き直り柔らかく微笑みます。
「ドーラ。お前もな。お疲れ」
「私はそうでもないよ。後ろで、魔法使ってただけだし」
「それでも、あれだけ使ったら疲れるだろ」
「それなりにはね。でも、みんなほどじゃない」
お互いに労い合いながら、ヘンリーを回復します。
「ドーラ。少し、話してくるが」
「うん。いってらっしゃい」
「……」
「十年ぶりだもんね。太后様ともデールくんとも、ちゃんと話さないといけないだろうから。ゆっくりしてきてね」
「……出来るだけ、早く戻る」
「いいよ、急がなくて」
ヘンリーの回復を待っていたデールくんが、声をかけてきます。
「ドーラさんとマリアさんにも、後でお話を伺いたいのですが。お待たせすることになってしまいますが、先にこちらの話を済ませても良いでしょうか。後のことがあるもので」
「勿論です。私たちのことはお気になさらず、ごゆっくりお話ししてきてください」
「私も、構いません。それなら少し、教会の方とお話ししてきたいのですが。宜しいでしょうか?」
「勿論です。それなら、案内を」
「それなら。城内の構造はわかっていますから、私がご案内します。お城の方は、今はお忙しいでしょうから」
「……そうですね。それでは、ドーラさん。お手数ですが、よろしくお願いします。では母上、兄上。参りましょう」
にこやかに答えた私にやや赤くなりながらも微笑み返して、デールくんが太后様とヘンリーを伴って執務室を出て行きます。
ヘンリーはなんかこちらを気にしながらも、行かないわけにはいかない話なので。普通に、着いて行きます。
立ち去る王族のみなさんを、スラリンの回復をしながら笑顔で見送ります。
……ゆっくりしてきてね!とは言ったけど、待ってるとは言ってませんがね!
さて。
逃げるか。
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