ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
九十七話:逃避行
「ピエール。怪我は」
「既に治療致しました。お気遣い有り難うございます」
「そっか。みんな、お疲れ様。頑張ってくれてありがとう。お蔭で私も、後ろの誰も怪我しなかったし。助かった」
「有り難きお言葉。拙者は臣下の務めを果たしただけにござりますが、そのお言葉だけで報われます」
「ドーラちゃんたちに怪我させないために、頑張ったんだからね!ほんと、よかったよ!」
「ピキー!」
仲間たちと言葉を交わして、少し離れて見守ってくれていたマリアさんに声をかけます。
「マリアさんも、ありがとうございました。誰も取り乱さずに無事に守りきれたのは、マリアさんのお蔭でもあります。着いてきて頂けて、本当に助かりました」
「私など。ドーラさんたちが守ってくださると信じられるからこそ、力を持って説得することができたのです。でも、お役に立てたなら嬉しいですわ」
マリアさんが頬を上気させ、本当に嬉しそうに微笑みます。
……説得する聖女の慈愛の微笑みは見られなかったけど。
信頼と好意に満ち満ちたこの笑顔はきっと、私だけに見せてくれてる笑顔だよね!
よし、勝った!
モブのおっさんたちには、完全に勝ちましたとも!!
などと思いながらも時間を浪費している場合では無いので、速やかに次の行動に移ります。
「では、教会に行きましょうか。ヘンリーたちの話が、どれ程かかるかわかりませんが。こちらの用事も、早く済ませるに越したことはありません」
「そうですね。王様たちをお待たせしてしまっては、申し訳ありませんものね。では、参りましょう」
マリアさんを伴い仲間たちを引き連れて、太后様の執務室を出ます。
教会に向かう道すがら、マリアさんが呟きます。
「……ヘンリーさんは、本当に王子様だったのですね。疑っていたわけではありませんが、あのお姿を見て。本当に、そう思いました」
「……そうですね」
私と違って、本当に王族として生きてきた期間があるんだもんなあ。
私とか、王族として生活した期間は皆無だし。
見た目だけで幼女に王子様判定受けた私と違って、本当に王子様なんだ。
……何て言うか、生きる世界が違うというか。
私だって、国に戻ったらあんな風にできないといけないのかもしれないけど。
本当に、この国に必要な人なんだなあ、っていう。
少なくとも、私一人の面倒を見させていていい人じゃない。
マリアさんがはっと顔を上げ、力強い口調で言います。
「……大丈夫ですわ!私はともかく、ドーラさんは十年一緒におられたのですから!これからだって、きっと変わりません!」
何故に私は励まされているのか。
なんだかわからないがマリアさんに励まされるなんてありがたく受け取る以外の選択肢はあり得ないので、微笑んで答えます。
「そうですね」
お礼を言うのもなんか違う気がするので、これだけですが。
確かにきっと一緒にいる限り、ヘンリーは変わらないんだろう。
十年、そうだったんだから。
相変わらず私を最優先にしてくれて、自分のことも、他のことも二の次で。
だからきっと、このままじゃダメなんだ。
この国が、一番ヘンリーを必要としてるんだから。
私は、一人でも大丈夫なんだから。
仲間たちだって、もういるんだから。
なんてことも考えつつ当たり障りの無い会話を続け、マリアさんを教会に送り届けます。
「では、マリアさん。私はこれで」
「ありがとうございました。ドーラさんたちは、これからどうされるのですか?」
「まだ、城内に魔物が残っているかもしれないということですから。少しはお役に立てるでしょうし、城内を見て回ろうかと」
「そうですか。ドーラさんたちが見てくださるなら、お城のみなさんも安心できますね。どうか、お気を付けて。ではまた、後ほど」
「ありがとうございます。では、また」
教会の中に入っていくマリアさんを、笑顔で見送ります。
……また、すぐ後では無いけれども!
だいぶ先に、またお会いしましょうね!
ルーラを覚えたあたりに!!
城内を見るとか言いましたが、ここまで見た限りで魔物は残ってなかったし!
もう少し歩く間は一応見ていくつもりだから嘘では無いし、多少残ってようが雑魚だろうから、あとはお城の兵士さんたちに任せれば大丈夫だと思うの!
と、いうことで、歩き出す前に仲間たちに静かに声をかけます。
「みんな。これからも、私と一緒にいたいと思ってくれるなら。黙って、着いてきて」
「ピキー!」
「……御意」
「え?え?……なんか知らないけど、わかった」
即答するスラリン、一瞬の間を置きながらも問い返さずに了承するピエール、よくわかってないながらとりあえず答えてくれるコドラン。
全員の承諾を受けて、怪しまれない程度の速さで、迷い無く歩き出します。
目指すは城の正面玄関、では無く。
祠に通じる、旅の扉です!
元々人気の無い場所にある旅の扉の近くは、鍵で閉ざされていることもあって、城内を捜索する兵士さんたちの姿も無く。
人目を忍んで城を出るには、もってこいです!
単純な距離だけで言えば、普通に城を出たほうが近いんでしょうが。
城を出るときに見咎められたり、町で見咎められたり、関所で捕まったり!
諸々で発見されたり足留めされたりする危険性を考えれば、誰にも見られずに脱出でき、かつ城を出たあとは全力で移動できるこちらのほうが良いと踏みました!
私たちがいないことに気付かれる前に、どれだけ距離を稼げるか!
時間との、戦いです!
「ドーラちゃん。これって」
「コドランよ。黙るという約束にござる」
「……わかった」
城を出ようとする私の意図に気付きながらも理由のわからないコドランが、口を開きますが。
ピエールに咎められ、また口を閉じます。
ごめんね、後でちゃんと説明するから!
誰にも見咎められること無く旅の扉を通って城を離れ、またそこにあった馬車を引き連れて、全速力で移動を開始します。
目指すは、北!
オラクルベリーを通り過ぎて更に北、サンタローズの南にある山を回り込んで南西!
パパンとの思い出の地のひとつ、物語の始まる場所!
ビスタの港です!
「とにかく、急ぎたいから!止めをさすよりも、道を切り開くことを考えて!魔法も息も、どんどん使って!」
「御意」
「わかった!全部、吹っ飛ばせばいーんだね!」
「ピキー!」
私にはバギマがあるので、スラリンには引き続き刃のブーメランを使ってもらって。
道を塞ぐ魔物を主に遠距離攻撃で吹き飛ばし、無双状態で突き進んで行きます。
「ごめんね、みんな!疲れてるのに!」
「なんの、これしき」
「だいじょーぶ!でも、あとで説明してよね!」
「うん!後でね!」
「ピキー!」
戦利品の回収なんかも勿体ないが放棄して突き進んだので、驚きの速さで道を踏破し。
まだ日も高いうちに、ビスタの港に到着しました!
ご都合よろしく船も到着しており、港のおばさまが興奮して騒ぎ立てています。
「船だよ!船が来たんだよ!さあ、急がないと乗り遅れるよ!」
急がないと乗り遅れるようなタイミングだなんて、ますますご都合がよろしいですね!
急いで乗り込んで、急き立ててさっさと出港してもらうとしましょう!
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