ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
九十五話:王子の帰還
「……鏡の入手にご助力頂いたことは、ありがたく思います。ですが、この先は。か弱いと言いますか……失礼を承知で申し上げれば、非力とも言えるシスターの貴女に出来ることは無いでしょう。何より、危険です。同行はなさらず、ここで待たれたほうが良いのでは?」
私たちに着いて太后様の元に向かうというマリアさんに向かい、デールくんが静かに問いかけます。
デールくんが言わなければ、私が聞こうかと思ってましたが。
まだ若いのに、しっかりしてますね!
さすが、王様ですね!
と感心しつつ見守る私の前で、マリアさんが答えます。
「確かに、私には戦う力はありません。着いて行くことで、みなさんにご迷惑をかけてしまうこともあるかもしれません。ですが今回、戦いの場にいることになるのは、お強いみなさんだけではありません」
マリアさんは一旦言葉を切り、デールくんは黙って続きを促します。
マリアさんが再び口を開きます。
「太后様の周りには、事情をご存じ無い人間の方々がおられると聞きました。魔物にも戦いの場にも、慣れぬ方もおられるでしょう。急に魔物の正体を見せ付けられて、戦いの場に居合わせて。それでも冷静でいられるとは限りません。取り乱して、みなさんの足を引っ張らないとも限りません。非力な私が落ち着いている姿を見せることで、安心させられることもあるかもしれません。直接、戦いのお役には立てなくとも、出来ることはあります。私も、私の出来ることをしたいのです」
真っ直ぐに訴えるマリアさんの言葉に、デールくんが迷いを見せます。
「それは……。確かに、そうかもしれません。しかし、自分で自分の身を守る術を持たない、非力な女性が。この国の民でも無い貴女が、何もそのような危険に身を晒さずとも……」
否定も肯定もし切れずに言い淀むデールくんに対し、迷い無くマリアさんが返します。
「ご心配ありがとうございます。でも、私自身がそうしたいのです。私が生き延びたのは、為すべきことから目を背けて、細々と生き続けるためではありません。為すべきことが見えている時に、それを為さずに後悔するようなことはしたくないのです。それに、私の身はドーラさんが守ってくださいます。私も、足を引っ張らないように出来る限り気を付けるつもりです。陛下に負い目に感じて頂くようなことは何もありませんから、どうか行かせてください」
静かな口調の中に揺るぎ無い信念を感じさせるマリアさんの様子にデールくんの迷いも吹っ切れたのか、しっかりと頷いて答えます。
「わかりました。ドーラさんもですが、女性を戦いの場に向かわせて、後ろで守られていなければならないとは、男として情けない限りですが。貴女たちの思いに報いられるよう、僕も出来ることを全力でするとしましょう。マリアさん、どうかお気を付けて」
「ありがとうございます、陛下」
「どうぞ、デールとお呼びください」
「はい。デール様」
微笑み、礼を取って一歩下がるマリアさん。
マリアさんも、若いのにしっかりしてるなあ。
やっぱり奴隷とか経験したからだろうか。
信じた教団が実は魔物の巣窟で、奴隷を(見た目上)酷使していたなんていう、世界の裏というか闇の部分にも触れてしまってるわけでもあるし。
……こんなに美人でしっかりしたマリアさんが、シスターとして独身を貫くだなんて、勿体無い……。
特に甘い雰囲気とか無かったが、王妃様ルートとか無いだろうか。
ゲーム通りにデールくんが独身主義だったら、ハナから無理だが。
と勝手に他人の恋愛ルートを妄想しながらも当然そんなことは口に出さずに、マリアさんに声をかけます。
「マリアさん。そこまで考えて頂いているとは思いませんでした。でもどうか、無理はしないでくださいね。貴女も、他のみなさんも。私たちが、必ず守りますから」
奴隷労働の時に怪我させてしまったことが、かなり引っ掛かってるのでね。
この上また怪我させるだなんて、とんでも無いですよ!
しかもそれが、おっさんたちを守るためとか!コドランじゃないけど!
とにかく、怪我なんてさせないから!!
という決意を込めて告げた私に、マリアさんがまた嬉しそうに頬を赤らめて答えます。
「ありがとうございます。頼りにしていますけれど、ドーラさんこそ無理はなさらないでくださいね。またヘンリーさんたちが、心配されますから。もちろん、私も」
うーん。
心配は、まあされるだろうけど。
でも私が怪我する状況ってよっぽどだし、それはもう仕方ないと思うんだよね!
まあ、ちょっと怪我するくらいなら死ぬわけじゃ無いし。
すぐ治せるし、大丈夫、大丈夫。
とか思いながらもやっぱり口には出さず、なんとなく微笑み返します。
このイケメン兄弟にも動じない美女を「ぽっ……」とさせるとか、やはり私のニコポ力だかイケメン力だかは半端ないなんてことも思いながら。
見詰め合い微笑み合う私とマリアさんの様子に、なぜかデールくんまで「ぽっ……」となってるようですが。
微妙な顔をしたヘンリーが、和やかな空気を断ち切るように口を開きます。
「……いつまでも、話し込んでても仕方ないな。積もる話は後にしよう。もう、行くぞ」
マリアさんとデールくんがはっとなり、デールくんが答えます。
「そうですね。では、兄上も、みなさんも。どうか、お気を付けて。ご武運を」
「ああ。行ってくる」
先に立って進むヘンリーに仲間たちが続き、最後に私とマリアさんが着いて、玉座の間を後にして太后様の執務室に向かいます。
昨日と同様、王様の使いを名乗ればあっさりと中に通され、今日も忙しく政務に励む太后様がこちらに気付かないうちに、何気なく近くに歩み寄ります。
十分に近付いたところで太后様が顔を上げ、ヘンリーの姿を認めてはっとします。
「其方……!……何用じゃ。如何にモンスター使いが珍しくとも、連日となれば。話すことも、用向きも妾には無い。立ち去るが良い」
一瞬動揺を見せるもすぐに態度を取り繕い、突き放す太后様。
冷たい態度を崩さない太后様にヘンリーが微笑みかけ、はっきりとよく通る声で答えます。
「太后陛下。……いえ、義母上。そのような演技は、もう必要ありません。先王が長子にして現王デール陛下の兄、ヘンリー。義母上とのお約束通り、只今戻りました」
突然名乗りを上げたヘンリーに周囲がざわめき、太后様が顔色を変えます。
「な……!!何を、馬鹿な……!!」
「ピエール!頼む!」
「承知した!」
動揺して立ち上がる太后様が何事か言おうとするのを遮るように、声を張り上げたヘンリーの合図に応じてピエールが動き、部屋の入り口側に陣取る魔物たち(人間に擬態)に向けてラーの鏡をかざします。
鏡に真実の姿が映し出されると同時に、魔物たちの擬態が解けて正体が晒され、突然目の前に現れた魔物の姿に太后様を取り巻いていた人間たちから悲鳴が上がります。
「な、なんだ!?何故、魔物が!!」
「た、助けてくれ!!」
「狼狽えるな!我が国を蝕む魔の物は、国王陛下と太后陛下のご命令により、王兄ヘンリーと仲間たちが討つ!皆の者、下がれ!」
ヘンリーの宣言を待つまでも無く攻撃を仕掛けていた仲間たちに続いてヘンリーも敵に向かい、未だ動揺の収まらない人間たちの前には私が立ちはだかります。
焦って無理に逃げ出そうとされても困るので、とにかく落ち着いて貰おうと、敵から目は離さずおじさんたちに背を向けたままですが、私も声をかけます。
「皆さん!聞いての通りです!魔物からは、私がお守りします!どうか落ち着いて、下がっていてください!」
「そ、そんな……!いきなり、言われても……!」
「あんなにたくさん、魔物がいるのに!やはり、逃げたほうが」
逃げられる隙間なんて、どう見ても無いでしょうに。
私たちならともかく、碌に鍛えもしてない文官のおじさんたちが、逃げられるわけが無いんですが。
動揺してるのはわかるけど、私も説得だけに集中できないのに。
と少々イラつきながらも説得を続けようとした私が口を開く前に、凛とした声が響き渡ります。
「みなさん!落ち着いてください!」
マリアさんです。
私の背後に立ち、おじさんたちに向かい合って、説得を始めてくれました。
「ヘンリー様もお仲間のみなさんも、とてもお強い方たちです。魔物の正体を暴いたあの鏡も、魔物の蔓延る危険な塔から持ち出してきた物。その塔を、私のようなか弱い女を守りながら、踏破してこられたのです。太后陛下もみなさんも私も、絶対にヘンリー様たちが守ってくださいます。無理に逃げようとするよりもここでじっとしていたほうが、絶対に安全です」
真摯に訴えていたマリアさんがここで一旦言葉を切り、更に柔らかい口調で続けます。
「大丈夫です。みなさんを救うために、苦難を乗り越えて戻って来られたヘンリー様を。邪悪な魔の手から、国民の命をギリギリのところで守ってこられた太后陛下と、国王陛下を。みなさんが戴くこの国の王族の皆様を、信じてください」
……天使。
マリアさん、マジ天使です。
ああ、こんなに天使なマリアさんの慈愛に満ち満ちているであろう微笑みを、近くにいながら見ることが出来ないだなんて……!
今すぐマリアさんの正面に回り込んで、今からでも全てを見届けたい。
でもそんな、マリアさんの身を僅かでも危険に晒すようなことは出来ない。
なんというジレンマ……!!
などと思いつつあくまで敵から目を離さず、警戒に徹する私。
私が見てないものを見届けやがったとか腹立たしい限りですが、ともかく可憐なシスター・マリアさんの説得によっておじさんたちも落ち着き、魔物から距離を取って固まってくれているようです。
かなり守りやすくなったというか、ヘンリーたちの奮闘によりこっちに敵が抜けてくることは無さそうなんですけど。
取り乱したおっさんが無茶な逃走を図って云々ということは起こらなそうで、ひと安心ですね!
あとは、ヘンリーたちが敵を倒してくれるのを待つばかりです!
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