黄砂に吹かれて
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第二章
「そうしてくるわ」
「それがいいわね、じゃあね」
「行く場所は私で考えるから」
「そこで全部忘れて気持ちを切り替えてきて」
そうしてだというのだ。
「また新しくね」
「ええ、恋なり何なりを見付けるわ」
こう彼女に答えた、そしてだった。
私は旅に行くことにした、その先は日本にはしなかった。
外国、それも果てしなく広そうで今の私の寂しい心を包んで消し去ってくれる様なところ、そうした国だった。
考えて調べて見つけたその国はエジプトだった、私はエジプトに入りそのうえで一人空港からその国に向かった。
エジプトは暑かった、そして広かった。
街から少し出るとそこは砂ばかりだ、遠くにスフィンクスやピラミッドが見える。
旅行会社に手配してもらった日本語をしゃべれるガイドさんが私に後ろから言ってきた。まだ二十代の女の人だ。現地の人で肌は浅黒く彫りのある顔立ちだ、黒くて長い髪が波立っている。
「ピラミッドの方に行くの?」
「いいえ」
私は前を見たまま彼女に答えた。
「いいわ」
「それじゃあここにいてなの」
「こうしていたいわ」
「そうなのね」
「何かあったか聞かないの?」
私はここでガイドさんに顔を向けて彼女に問うた。
「そうしないの?」
「旅行に来る目的は人それぞれよね」
ガイドさんは私に微笑んでこう言ってきた、流暢な日本語で。
「だからね」
「気遣ってくれるのね」
「ガイドとしてのマナーよ」
それで聞かないというのだ。
「だからいるわ」
「有り難う」
「そうそう、砂漠はね」
ここでガイドさんは私にこうも言って来た。
「お昼に見るのもいいけれど」
「夜?」
「いえ、夕方よ」
その時だった、お昼ではなく。
「夕方の砂漠が面白いのよ」
「そうなのね」
「行ってみる?後で」
ガイドさんは私に思わせぶりな笑みを含めた声で誘ってきた。
「今日にでも」
「そうね。じゃあ夕方にまたここで」
「それまでカイロの街を案内させてもらうわ」
夕方まではというのだ。
「そうさせてもらうわね」
「ええ、それじゃあ」
私はガイドさんの言葉に笑顔で応えた、そうして夕方までは実際に二人でカイロの街を回ってエジプトの料理も食べた。ケバブが随分と美味しかった。
そして夕方になるとだ、私はガイドさんに案内されてまた砂漠に来た、夕方の砂漠は紅い夕陽を受けてかなり綺麗だった。
紅い夕陽に照らされて黄色い砂漠が紅くも見える、黄色く見える様で紅にも見える。そんな不思議な場所だった。
遠くのピラミッドもスフィンクスもだった、そのどれも。
黄色くも見え紅にも見える。そんな不思議な世界に入った。
ガイドさんはその私にこう言ってきた。
「ここに暫くいるとね」
「暫く?」
「人によるしその時の状況にもよるけれど」
こう私に話してくる。
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