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黄砂に吹かれて

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第一章

               黄砂に吹かれて
 一つの恋が終わった、私は彼に笑顔で告げた。
「それじゃあね」
「うん」
 彼は私の目をじっと見て返してくれた。
「これでね」
「本当に行くのね、あそこに」
「ずっと。夢だったから」
 だからだとだ、彼は無理をした笑顔で私に返した。
「あそこに行くことが」
「遠いわね、モスクワなんて」
「そうだね、だからね」
 彼はバレリーナとしてモスクワ、バレエの本堂に行ってそこで活躍することが決まっている。だから日本を発ってそのことと一緒になのだ。
「君ともね」
「わかっていたわ、そのことは」
 彼がモスクワに行くことが決まったその時にだ、私はもうわかっていた。
 彼と別れる、今この時が来ることを。それで私も覚悟を決めて今彼に告げたのだ。
「それじゃあね」
「うん、さようなら」
 こうして私達は別れた。私は一人になった。これまで二人だったのが一人になると最初から一人でいるより寂しいと聞いていた。
 そしてその通りだった、私は寂しくて仕方がなくて朝起きても仕事をしていても寂しくて仕方がなかった。それでだった。
 昔からの友人の一人に寂しい苦笑いでこう漏らした。
「覚悟はしていたのだけれどね」
「寂しいのね」
「一人だとね」
 別れてそうなってだというのだ。
「寂しいわ」
「見ていてもわかるわ」
「そうでしょ、わかるでしょ」
「何をしても辛い感じね」
 友達はその私に対してこう言ってきた。
「本当にね」
「どうしたものかしらね」
 私は苦笑いと一緒に友達に言った。
「今は」
「寂しいのだったらまたね」
「新しい恋ね」
「それに生きてみたらどうかしら」
「それが一番でしょうけれど」
 それでもだと。私は彼女に苦笑いで返した。
「今はね」
「そこまで気持ちの整理が出来ていないのね」
「寂しいと思うばかりで」
 そこまで至れなかった、今は。
「無理よ」
「そうなのね」
「そう、だから困ってるのよ」
 どうすればいいかわからずだ。
「どうしたものかしらね」
「旅行でも行って気持ちを切り替えたらどうかしら」
 傷心旅行、彼女は私にこれを提案してきた。
「ここはね」
「旅行ね」
「何処か他の場所に行って気持ちを切り替えて」
「それで新しい恋なり何なりをなのね」
「はじめてみたらどうかしら」
 こう私に言うのだ。
「ここはね」
「それがいいかも知れないわね」
 私も彼女の提案に自然に受けた、今の私の心には寂しさ以外は何もないのでそうした提案を自然と受け入れられたのだ。
「それじゃあね」
「そうでしょ。じゃあね」
「有給を取って行って来るわ」
 私は友達に答えた。 
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