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エターナルトラベラー

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第七十二話

 
前書き
早足ですが今回でsts編は完結です。
やはり登場人物は最少に抑えてですが… 

 
キャロが家に来てから数年がたった春。

俺は大学を休学したソラ達と一緒にミッドチルダの地を踏んだ。

はやてが設立した機動六課の中の食堂経営者として。

どうやらミッドチルダに移り住んだはやてやヴォルケンリッター一同は、グレアム提督が管理局員である事から早い段階で管理局の仕事に従事していたらしい。

特にシグナムやシャマルと言った成人しているような姿の者達はさらに早かったらしい。

まあいつまでも無職では居られなかったと言う訳だろう。

その経験ではやてが何を感じたのかは分からない。

深板達の持っている原作知識からでは、聖王教会の騎士、カリムの予言はスカリエッティ一味の反乱を予言するだろうから、その抑止力として部隊を立ち上げる可能性は有るだろうとの事だったが、歴史の修正力か、はたまた偶然か、個人としては後者で有って欲しいが、機動六課が設立する事になった。

設立するにあたり、はやてに無理を言って、六課の食堂を任せてもらう事に成功した。

いずれ自分の店を出すためにと適当な事を言って誤魔化してしまったが、本当のことを言うわけには行かなかったので許してほしい。

なぜ食堂か。それは深板達との幾度もの話し合いの結果、六課が設立したなら食堂スタッフとしてもぐりこめと推薦されたからだ。

どうやらテンプレらしい。

本当は六課隊員として、または教導官としての参加がテンプレらしいが、出来ればそこまで関わりたくはない。

海鳴での生活を壊したくない事を前提にした結果だった。

機動六課の実働期間は一年間。

この一年は我慢だ。

これは仕方ないと納得する。

六課に近い所ならば事の推移が分かりやすいだろうと言う目論みだ。

え?

六課設立が無かったらどうしたか?

基本は変わらないだろう。

ヴィヴィオが保護されるであろう時期にミッドチルダに逗留。

その足でヴィヴィオを探し回り、保護。

実験体であるヴィヴィオに戸籍などは無いだろうからそのまま口寄せ印の応用で魔法を使わずにミッドチルダから地球へ。

その場合スカリエッティ一味の逮捕などは先送りにされてしまうだろうが、俺の中ではヴィヴィオの命が優先だ。

俺達が保護できなかった場合もおそらく管理局には保護されるであろうからその推移を見守り、もしスカリエッティ一味に連れ去られたのなら、アジトは既に過去でソラが潜入している。おそらく場所は変わらないだろう。

なので、アジトに潜入し、奪還。うやむやのうちにやはり地球へと連れ去る方向だ。

しかし、大前提である六課設立、その後の俺達の六課での居場所と、難しい事態が運良く転じた事で俺達の行動はさらにやりやすくなった事だろう。

六課が本格的に始まるよりも早く、俺たちは食堂スタッフとして働き始め、今日、どうやらスタッフ一同が終結し、はやてが部隊長の挨拶をしているようだ。

俺達も本来ではその朝会に出なければならないのだろうが、仕事上仕込などで仕事場をあけるわけも行かず、参加しなかったのだが、昼、俺達が厨房で支度をしていると駆け込んできた少女が1人。

高町ななな

彼女は桃子さんが生んだ第二子。

赤ん坊の頃に魔力暴走を起こし、以来、士郎さんと桃子さんの3人はミッドチルダに移住している。

え?翠屋?

翠屋は桃子さんが店を出した後に同じホテルの厨房に勤めていたつながりで雇った松尾さんがそのまま引き継ぎ、海鳴で店を出している。

俺は翠屋で松尾さんにお菓子作りや軽食を習っていたと言うわけだ。


とりあえず入ってきたなななを厨房から追い出そうとすると、なななのうかつな発言。

それは自身が転生者であると言っているようなもの。

とは言え、俺やソラは知っていたけれどね。

余りにも不審な人物なので、高町家ガス爆発事件の際に『万華鏡写輪眼・八意(やごころ)』を使って彼女の思考を読んだからね。

あんまり使いたい能力では無いが、あの時は仕方なかったと自分に言い訳をする。

その結果彼女が転生者である事が分かったのだから収穫が無い訳じゃなかったしね。

自分に魔力がある事や、物語に関われるかもしれないと言った歓喜。そんな情報だった。

その思考はまぁ、テンプレ転生者と言ったところだ。

とりあえず厨房からは追い出して、夜。

部屋を訪ねてきたななな。

彼女の話は自分が転生者であろうと言う事と六課に居る動機の確認。

答えた俺は、彼女にも動機を確認するも沈黙。

まぁ、おおよその予測は出来るよね。

それを突きつけると彼女は押し黙った後言った。

「あなたも同じじゃない」と。

望んで関わったわけじゃないと言い訳したい所だが、結局関わっている事には違いない。

しかし、俺は自分の良い様に、良い方面の事柄しか考えずに物語りに介入しようとする彼らが大嫌いだ。

物語から外れ、悪いほうに事態が転がれば自分の所為ではないかのように振舞う。

所詮は同属嫌悪だと言う事は分かっている。

しかし、それでも俺は大嫌いなのだ。

それをなななに突きつければ、ショックを受けたようで、その後いくらも会話をしない内に退出していった。


しばらくして、ソラが俺の部屋を訪ねてきた。

慣れた手つきで勝手に部屋のもので紅茶入れると、ソラは俺に問いかけた。

「さっきなななが部屋から出て行ったのを見たわ。結構深刻な顔をしていたけれど、何が有ったの?」

「いや、なななの六課参入動機をつついたらちょっと、ね」

「…結局今までの転生者と同じ?」

「…まあね。彼らはどうしても関わる事での負の事態を見ようとしない。…と言うか、何とかできると思っているんだろうね」

「…とても自信過剰なのね」

「そうだね…」

近い所ではエルグランドが思い出される。

もろもろの事情が重なったのだろうが、やつ自身が取り込まれたジュエルシードの暴走体。

あれを止める事なんて魔法を覚えたばかりのなのはなんかには出来るはずも無かっただろう。

考えにふけっていると、ソラがそう言えばと切り出した。

「そう言えば私、夜の鍛錬にアオを誘いに来たんだったわ」

「もうそんな時間か」

「うん。皆集まっているし、エリオも来ているんだよ」

「エリオも?」

そう言えば何回かエリオと模擬戦をした事もあったな。

自分が家族に誇れる存在になろうと魔法や槍術に一生懸命な彼を見ていると少しでも力になりたくなって来る。

「それじゃ、行こうか。場所は六課裏の林?」

「そう」

ソラを伴って六課裏の林へと移動すると、そこには既になのは、フェイト、シリカが鍛錬を開始していた。

「遅いです、アオさん」

シリカが膨れて抗議の声を上げた。

「悪い。すこし先客が居てね」

「そうなんですか。ならば仕方ないですね」

少し離れた所に視線を向ければ、エリオとなのはが手にした棒で打ち合っているのが見える。

「やっっ!はぁっ!」

「ふっ」

なのはが少し強めに弾き飛ばすと、丁度良い区切りなのか休憩に入るようだ。

エリオとなのはが俺の到着に気付きこちらへとやってくる。

「アオさん、ソラさん。昼間は挨拶できませんでしたが、お久しぶりです」

「うん、エリオも元気そうで何より」

「ひさしぶり、エリオ。槍の腕前も結構上達してたんじゃないか?」

ソラと俺も挨拶を返した。

「え、そうですか?でもまだまだです。まだ一本もなのはさんから取れませんから」

「あはは。エリオが上達した分だけなのはも修行しているんだから。追いつくのは難しいと思うよ」

「それでも、いつかは追いついて見せますっ!」

「そうか。がんばれよ」

「はい」

両手をグッと握りこんで気合を入れなおしたエリオ。

「…それに、キャロよりも強くならないと男としてのプライドが…」

ああ、エリオはキャロと遠距離恋愛中か。たしかこの間から付き合っているんだっけ。

なんだかんだで、八神家に顔を出す事が多かったからいつの間にかお互い意識し始めていたらしい。

好きな女よりも弱いって事は確かに男のプライドに関わるよね。

キャロは幼少から俺達といた所為か、過去に会った未来のキャロとはまったくの別人と言うような感じに育ってしまった。

それと言うのもやはり家が特殊な環境ゆえか…

念法を自在に扱い、忍術に魔法、そして剣術と改めてみたら戦闘方面に特化した感じの訓練を日常的にしている家庭で育ったらね…それは自然と自分もとなるよね。

そんな感じなので、10歳になったキャロは同じ年齢の時のなのはとは行かないまでも、同じ年のフェイトよりは強いと思う。

フェイトははじめるのが遅かったしね。

俺もソラよりは頭一つ分強くいれるよう頑張っているけれど、ソラが譲ってくれているような気がして気が気じゃなかったりするのよ、これが。

「…男は辛いな」

「…はい。なので、たまに夜の練習を一緒にさせてくださいね」

…夜の鍛錬だけでキャロより強くなるのはかなり難しいと思う。

もし、エリオがキャロに本気で、ミッドチルダではなく地球に暮らすと言う選択を取ったなら、念法を教えてあげるから、今は勘弁な。

影分身チート学習が無ければキャロを抜く事は不可能に近いから…

いや、魔法技術だけならば可能か?

「昼間の訓練もあるんだ。ほどほどにな」

「はいっ」

了承の言葉を出すとエリオとの会話も終わり。

俺は俺で日課の鍛錬をこなし、終わると明日の仕込をして就寝する。



朝から夜までは食堂で働き、夜の二時間ほどを鍛錬に当てながら、特に事件も起きずに時間は過ぎていく。

さて、今日も夜の鍛錬をと出向いた裏の林には今日はどうやら先客が居た様だ。

「あれ、ティアナ?」

「えと…食堂の…」

そう言えば特に自己紹介はしてなかったか。

「アオだ。御神蒼」

俺に続いて皆が自己紹介。

「不破穹です」

「御神フェイトだよ」

「高町なのはです」

「綾野珪子です…なんですか?そのそんな名前だったんだって感じの顔はっ!」

「いや、だって、ねぇ?」

「うん…」

「ごめん、すっかり忘れてた。いつもシリカって呼んでるから」

ごめんなさいと謝るソラ、なのは、フェイト。

ごめん、俺も忘れかけていたかも…

ティアナはそんな俺達に若干戸惑いながらも自己紹介を返してくれた。

「あたしはティアナ・ランスターです。…それよりも、食堂スタッフの皆さんがどうしてここに?」

「ん?剣術の鍛錬だね。サボると体が訛るから、夜の間にちょこっとね」

「そうですか…」

「向こうの邪魔にならない所でやるから、少し場所を貸してくれる?」

「あ、はい。あたしの場所って訳じゃないので、どうぞ」


その日から毎日、俺達が鍛錬に赴くとそこにはティアナの姿があった。

深板たちからの情報で、ティアナは自身の魔力量、エリオ達の先天資質等へのコンプレックスから、無茶な鍛錬をするかもしれないと聞いていた。

実際俺も、それが引き起こした事件の一部を経験していたので、どうするかと思っていたのだが…

懸命に鍛錬するティアナを気にかけていたのは俺だけじゃなかったようで、いつの間にかなのはやフェイトがティアナに口を出すようになっていた。

構い倒されてフラフラになったティアナが俺の所まで逃げてきた。

「き…きつい…」

ばたんと倒れるティアナ。

「あの、あなた達は何者なんですか!?食堂スタッフですよね!?なのに普通に魔法つかってますよね!?」

「落ち着け、ティアナ。俺たちは食堂スタッフで間違いないが、シリカを除き一応嘱託魔導師資格を持っている魔導師だ」

「へ?部隊保持戦力規定は?」

「俺達は六課局員ではなく、外注の食堂スタッフとして六課に出店している。ただの食堂スタッフまで保持戦力規定に含まれたらたまったものじゃ無いだろう?」

「それは…そうですね」

非戦闘員まで保有戦力に含んでいたら立ち行かないだろう。

「どう?彼女達の教えは為になってる?」

「えと、はい…ただ、なのはさん達の言おうとしている事は分かるのですが…」

「うまくこなせている気がしない?」

「あの…はい…」

しゅんとするティアナ。

「まあ、仕方ないよ。彼女達は自分が出来る事は他人も出来ると思っている所があるからね。本来俺達は他人の長所を伸ばす事には向かないのかもしれない」

「他人の…長所?」

「見ていて気付いたかもしれないけれど、俺達が鍛錬しているのは一つの確立した技術だ。先人達の教えに習ったような、ね」

「はい。それは見ていたら分かります」

「彼女達は学んだものから自分達の技術へと昇華しているけれど、それはティアナの資質、目指すものとは違う方向だ」

「…そうでしょうか?実際彼女達から学ぶ事は多く有ります」

「そりゃね。だけど、ティアナは彼女達の全てを真似る必要は無い。必要だと思った技術を積極的に聞いてみな。それだけを極めれば、それだけでティアナは強くなるよ」

「そう…ですか?」

「あと、無理はしない。体を壊すようなトレーニングは控えるべきかな」

「でもっ!あたしは凡人だから、人の何倍も練習しないとっ!」

「それで疲れを溜め込んでしまってはいざ任務と言うときに働けなくなってしまうかもしれないよ?」

「…それは…そうですね。…無理はしないように気をつけます」

「うん。それがいいよ。それでもどうしてもって言うのなら、ティアナに良いものをあげよう」

「良いものですか?」







時間は深夜、皆が寝静まった頃。

「お、ようやく来たか」

「ここは?」

あたりには人気は無いが、機械的な街並みがうかがえる。

「VR空間へようこそ」

「VR…」

そう、ティアナに言った良いものと言うのはアミュスフィアで、それをつけてこの空間へと招待している。

「魔法技術が発達していない世界での創造力はバカに出来ないものがある。そしてその想像力も。
一応リンカーコアを持っている魔導師は似たような事を出来るだろうけれど、今回はこっちを使った方がいいかなと思ってね」

「ここで何をするんですか?」

ここはSOS団がその情熱の粋を集めて作った魔導師を疑似体験できるMMORPG、そのコピーサーバーだ。

あの『リリカルなのは』製作の時に俺達の協力の下、結構忠実に魔法の再現をと間違った方向に情熱を燃やした結果、アレ?これで一つのゲームができるんじゃね?と言う具合までにシステムを作りこんでしまった。

映画発表後、色々機能を付け足してダウンロード販売されたそれは、映画の成功と相まって今やVRMMORPG業界でその名を誇っているほど有名になってしまった。

「この中には色々な訓練施設やそのメニュー、実践的なモンスター討伐などのクエストを行える。ゲームだけど、魔法の発動タイミングやその効果範囲のシミュレーションは現実に迫る物がある。本来ならスキル制のゲームなんだけど、今現在のおおよそのティアナのスペック、魔法熟練度はこっちで入力してある。ここなら精神的疲労はあるけど、明日に響くような身体的疲労は無いから思いっきり訓練できると思うよ?」

「でも…現実じゃないんですよね…」

「肉体の鍛錬は今以上やってもむしろマイナスだ。ならば経験値を上げるほうが有意義だと思うけど?」

「そうですかね?」

「それに、ここのトレーニングメニューは結構難しい。今のティアナなんて中の下すらクリアできないんじゃないか?」

「むかっ!分かりました。だまされたと思ってやってみます」

「チュートリアルはクロスミラージュに転送しておいたから」

「え?クロスミラージュも居るんですか?」

「ちゃんとリンクさせてある。アイテムストレージに入っているから、まずは取り出してあげて」

「はいっ」

そうして始まったVRでの訓練。

これが結構、功を奏したようで、日に日に現実でもその腕前を上げていった。

早い時間に部屋に戻るようになったとは言え、戻れば怪しげなヘッドギアを装着しているティアナを同室のスバルが不審がるのは当たり前で。

すぐにスバルも夜の訓練に参加するようになる。

体術はあまり得意ではないが、ガイ先生に教わった技を基本にスバルの相手をしたりしている。


VRでの訓練は、一応複数名で遊ぶゲームであるので、討伐系のクエストなんかは、同室のスバルはもちろん俺だったりなのはだったりが付き合うのだが、その中で仲間に頼ると言う事も覚えたようだ。

出来る事と出来ない事を自分の中で見極め、できないからと言って悲観にならず、出来る事を探す。

ティアナの精神面での成長もあの世界のティアナより早いのではなかろうか。

そんなこんなでティアナも数ヶ月もすればトレーニングメニューもハードモードもクリアできるようになり、その上達はホテル・アグスタの襲撃事件で大いに発揮される事になる。


ホテル・アグスタの事件が終わると、俺達の間で緊張が走る。

まずはリオの事だ。

ようやくこの世界での若干の生活基盤を獲得した俺達は、不審がられないように慎重にウェズリー家にコンタクトを取り、グリード・アイランドの有無を確認した。

あんまりこんな直接的な事はしたくなかったのだが、今の俺達にはグリード・アイランドまで関われる余裕は無い。

異世界ハードのコレクターを語り、倉庫に眠るグリード・アイランドを譲ってもらい、事前に事件を防ぐ事に成功した。

これでリオは大丈夫だろう。

どうしてもっと早く手を打たなかったのか。

生活基盤も無いような他世界人がミッドチルダに尋ねてくる矛盾を最小限にするためだ。

どんなに頑張っても矛盾点は消えないが、こちらに越してきてから、前々からの趣味でと…まぁ、嘘だが、仕方のないことだろう。

玄関まで見送りに来てくれたリオに挨拶をして状況は終了。

回収したそれは勇者の道具袋にでも詰めておく。

それを終えてもまだ俺達は気を抜けない。

ヴィヴィオを保護できる最初で最後のチャンスが間近に迫ったからだ。

食堂は五人いるメンバーのうち3人で回し、残りの二人はクラナガン近郊の都市部の路地裏を中心に探す。

深板達からはデートに行くくらいの繁華街の路地裏なんて言う情報だけだったが、影分身も駆使したその捜索は奇跡的にヴィヴィオの発見にこぎつけた。

それは俺とシリカが捜索に出ている時の事。

俺はそろそろ見慣れた巡回ルートを早足で駆ける。

薄暗い裏路地のマンホールが開かれ、その直ぐそばに倒れている金の髪の少女。

「みつ…けた…良かった…間に合った…」

俺は直ぐに全員に連絡する。

そして懐から神酒を取り出し、意識の朦朧としているヴィヴィオの口に含ませ、何とか嚥下させる。

「うっ…あっ…」

見る見るその頬に朱がさし、血の気が戻り、傷がふさがって行く。

「その子がヴィヴィオちゃんですか?」

俺の連絡を受け、近くを探索していたシリカが駆けつけた。

「ああ。シリカ、少しヴィヴィオを見ていてくれるか?」

「良いですけど、アオさんは?」

何をするんですか?と、シリカ。

「こいつを封印してしまわないと、ガジェットがいつ嗅ぎつけるかも分からないからね」

そう言って俺はヴィヴィオの脚についていたレリックの封印処理を行った。

さて、本来ならここで六課を呼び出して指示を仰ぐのが適切かもしれないが、この後の展開は要回避案件だ。

もう一つのレリックを嗅ぎつけて現れるガジェット。

それと、ヘリでの輸送中の狙撃。

もし、狙撃が確定しているのなら、その狙撃を誰が防ぐのか?

本来防ぐはずのなのはは既に居ない。

ならばシグナム達か?

そんな不確定な事態は避けたい。

「とりあえず、病院にヴィヴィオを連れて行こう」

「いいんですか?」

「事後承諾だけどね、仕方ないよ」

狙撃でヘリが空中分解とかシャレにならない。

病院にヴィヴィオを連れて行き、診察室へはシリカが付き添い、俺は六課へと連絡を取る。

何故もっと早く連絡をよこさなかったのかと散々はやてに怒られたが、直ぐに局員を病院に回してもらい、無事にレリックを引き渡した。

神酒の効果で傷はほぼ感知している為、簡単な検診の後意識を取り戻したヴィヴィオ。

その身元不明の身の上で引き取り先でもめる事になるのだが、はやてに手を回してもらい、六課で引き取る事に。

その日の内に車で六課へと移送される事になる。

病院から六課までの移動のために呼んだタクシー。

シリカにつれられて歩いてきたヴィヴィオは、その手でシリカの服をぎゅっと握り締めて離さない。

「ママ…」

俺を見るなりそう言ってシリカの陰に隠れてしまったヴィヴィオ。

地味にショックだ。

「ママ?」

「えと、この子が…ヴィヴィオが勝手にそう呼んでるんですよ…」

「ママ…ちがう?」

すがる目で見つめられてシリカがたじろぐ。

「うっ…ちが…わない…うん、違わないよ」

あ、シリカが折れた。

「それで、あの人がパパ」

おいっ!ちょっと待ってよ!

「……パパ?」

ちょっ?刷り込み良くないっ!

「お兄ちゃんだから。アオお兄ちゃん」

「…パパ」

まて、そんな悲しそうな目で見るな…負けてしまいそうになるだろう…

てとてと俺の方まで歩いてきて俺の手をその小さな手でぎゅってにぎられながら再度問いかけるヴィヴィオ。

「パパ?」

ごめんなさい。

負けちゃったよ…うん。勝てなかった。

俺にはヴィヴィオを突き放す事なんて出来ませんでした。

「好きに呼んで…」

「うんっ!パパっ!」

はいはい、と返事を返し、ヴィヴィオを抱き上げる。

「わー、高いっ!」

「これから隊舎に帰るから、車の中であんまりさわいじゃダメだよ」

「たいしゃー?」

「俺達の家…かな?」

「ですね」

さて、と。

それじゃ帰りますかね。


六課に到着した俺達。

ヴィヴィオのなんやかんやはとりあえずはやてに丸投げ。

局員じゃないから俺にはどうしようもないし。

ただ、はやてならうまく取り計らってくれるだろう。

まあ一応事件の重要参考人なので、行動の制限はつくものの、六課内なら好きにしても良いようだ。

ついでに、ヴィヴィオが俺とシリカになついているようなので面倒もよろしくとの事。

給料貰ってるわけじゃ無いんだけど…まぁいいか。

食堂にヴィヴィオをつれて入る。

途端に仕事を中断してヴィヴィオの周りを囲むようにソラ達が現れた。

「わー、はじめましてだね。わたし、高町なのは。なのはだよ」

「…えとっ」

なのはの高いテンションにヴィヴィオは少し引いたようだ。

「不破穹よ。よろしく、ヴィヴィオ」

「私は御神フェイトです。よろしくね、ヴィヴィオ」

三人からの自己紹介に少し気後れしてヴィヴィオは俺とシリカの後ろに隠れてしまった。

「パパ…ママ…」

ぎゅっと俺とシリカの裾を握るヴィヴィオ。

「え?パパ?」

「シリカが、ママ?」

「どういう事?」

どういう事と言われてもな、ソラ。

「子供の言っている事だ。それにまだヴィヴィオには言葉の意味が良く分かってないのだろう。
自分を保護してくれる大人の事だと思うよ?」

「ふーん」

さて、ソラは何を納得したのか、ヴィヴィオの前に進むとしゃがみこみ目線の高さを合わせた。

「それじゃあ私もヴィヴィオのママだから」

オイっ

「ソラ…ママ?」

「うん」

にこりと笑ってヴィヴィオをぎゅーぅと抱きしめたソラ。

「あ、まってまって、わたしも、わたしもヴィヴィオのママだからっ!」

「うん、私もヴィヴィオのママに立候補するっ!」

「なのはママにフェイトママ?」

「うんっ!」
「そうだよ、ヴィヴィオ」

「えー、ヴィヴィオのママはあたしですよぉっ!」

不満げにぷくりと頬を膨らませたシリカ。


紆余曲折があり、結局皆がママと言うことで落ち着いたのだが…

良いのだろうか…

マテッっ!

せめて俺の呼称をお兄ちゃんに戻させねばっ!

パパは色々まずい気がっ!

後日深板達SOS団に「テンプレ乙」「やはりリア充爆発しろっ!」と言われたが、泣く子には勝てまい…







夜。

いつかのようにベルが鳴り、なななの来客を告げる。

昼にエルグランドが現れ、ななな達が襲われたという事を聞いたので、おそらく来るだろうと、寂しがるヴィヴィオをシリカ達に任せて待機していたのだ。

ソファに通し、話を聞く。

エルグランド・スクライアの事について何か知っているかと言う事らしい。

彼女にしてみれば関わるはずの無い人物は全て転生者と言う事なのだろう。

まぁ、間違ってはないけれど。

なななと話をしていると、俺達がエルグランドを何とかしろと言う。

さらに、エルグランドが凶行に走ったのは俺達の所為だとも。

しかし、エルグランドがああなったのは結局は自分勝手な行動故だ。

転生者の行いをを正せといったらまずはなななを排除しなければならなくなるだろう。

自分はエルグランドとは違うとでも思っているのか?

俺も、エルグランドも、そしてなななも大差無いと言うのに。

と言うか、それ以前に俺達は『縁切り鋏』でエルグランドとの縁を切っちゃっているから、絶対に会う事は無い…はず。

責めたつもりは無いのだが、自分も大差ないと突きつけた俺の言葉に蒼白になり、その日はそれ以上会話の出来る状態ではなかったのでなななを部屋まで送っていって長かった日は終了した。


朝。

「重い…」

布団を剥いで見れば右にヴィヴィオ、左にシリカに抱きつかれていた。

今もたまにソラ達が順に俺のベッドにもぐりこむ事は良くある事と騒がずにシリカとヴィヴィオの引き剥がしに掛かる。

朝の仕込みが有るからいつまでも寝てられないのだ。

「むぅー?」

と、突然はずされた腕を捜すヴィヴィオ。

ヴィヴィオを抱き上げてシリカの方へと移動させると、どうやらシリカを抱きしめて落ち着いたらしい。

そのまま寝息が聞こえてきた。

「さて、今日はシリカも朝の仕込みの当番なんだけど…仕方ないかな」

そう思って俺はシリカを起こさずに部屋を出た。


隊員の朝食のピークが過ぎるとシリカがヴィヴィオを連れて朝食へとやってきた。

今日はそのまま仕込みは良いからヴィヴィオをつれてきてと朝に書置きしてを残しておいたのだ。

ヴィヴィオの到着を知ると俺はヴィヴィオの朝食作り。

「大丈夫かな?本当に」

神酒を混ぜながらヴィヴィオの朝ごはんを作っていた俺にフェイトが心配そうに呟いた。

「ヴィヴィオを危険にさらさないために必要な事だからね」

「そう…だね。本当はそんな事必要ないと言うのが良いんだけどね」

「…難しいだろうな」

「うん、分かってるよ…だから心配しても止めないでしょ」

なるほどね。確かに止められてはいないね。

「はい、出来たからヴィヴィオの所に持ってって」

「了解っ!」

フェイトが俺から出された配膳をもちヴィヴィオの所へと朝食を届けに行った。

子供が好きそうな物で作った朝食だから残さず食べてくれるだろう。



さて、ついにこの日がやってきた。

公開意見陳述会開催の日。

以前の俺達がグリード・アイランドから出てきた日の事だ。

ヴィヴィオの情報なんかは隠蔽しようともデータとして存在するのであればおそらくスカリエッティには筒抜けだろう。

そこは仕方ないし、俺達がどうこう出来る問題でもない。

それは局員の仕事だしね。

原作通りならば今日、六課襲撃およびヴィヴィオの誘拐が行われるだろう。

時間は夜。

六課隊舎を爆撃音が包んだ。

ビーーーッビーーーッ

けたたましく鳴るサイレン。

「アオっ!」
「アオさんっ!」

近くに居たのはソラとシリカ。

なのはは給仕でフェイトはヴィヴィオの付き添いだった。

「うん。まずは避難シェルターへ」

「はい」
「うんっ!」

程なくして司令室勤め以外の局員および非戦闘員がシェルターへと集まった。

「パパっ!」

ヴィヴィオがフェイトのそばを離れて俺へと抱きついた。

「大丈夫だよ」

「本当?」

ヴィヴィオの髪を梳きながら答える。

「本当」

「とは言っても、中々相手の戦力も大きそうです」

ドーンッ

爆発音の後にパラパラと破片が天井からこぼれる。

非戦闘員の局員などは身を寄せ合い震えている。

「さて、どうするか…」

「このままここに居れば被害が拡大して六課崩壊、シャマルとザフィーラは重症を負うんだよね」

と、なのは。

「俺達が経験した未来でも、深板達からの情報でもそうだ」

そして、ここにはキャロが居ない。

つまり、大量のガジェットに対する防衛策が存在しない。

ならば…

さて、司令室に居るであろうシャーリーに通信を繋ぐ。

「シャーリーさん」

【どうしました?こんな時に】

ウィンドウ越しにシャーリーさんからの返事。

しかしその表情には余裕が感じられない。

「襲撃者の対処は大丈夫なんですか?」

【今、シャマルさんとザフィーラに出てもらってるけれど…】

劣勢のようだ。

「この辺に武装局員は?」

【居ない事も無いのだけれど、皆自分の持ち場で応戦中】

「応援は期待できないと…さて、シャーリーさん」

【何よっ、今は忙しいので手短にお願いっ!】

「俺達は嘱託魔導師の資格を持っているんだけど。要請があれば打って出れるよ」

【へ?】

余りにも予想外の言葉だったのだろう。

そんな場合ではないのに一瞬表情が固まった。

その後、キーボードを高速でタッチして俺達のデータを検出する。

【嘱託認定、空戦C…でも、A以上のシャマルさん達が苦戦している相手にあなた達が何が出来るの!】

「嘱託認定ランクが実力とは限らない。俺達は単純にCランク以上を取ってないだけ。俺達は結構強いよ」

余り魔導師ランクが高すぎるのも面倒ごとが付き添うだろうと深板達の助言だった。

【ほっ…本当に!?】

以前未来のシグナムさん達をボコった事もあるんだよ。

10年ほど前にね。

「要請が無いと自衛以外の魔力行使が難しいんだけど。
要請してくれない?」

【でも部隊長も副隊長も居なければ外注の発行はできないわ】

「緊急時のマニュアルではなんと?」

ピッピッと画面をスクロール。

【えっと、よかった……大丈夫みたい。…隊からの応援要請であなた達に六課防衛の援護をお願いします】

最後に小さくごめんなさいと呟いたシャーリー。

大丈夫。10年前よりさらに俺達は強くなった。

10年前でも対処出来たのだから今更負ける要因は無い。

「…行くか」

「うん」
「はいっ」
「そうね」

なのは、フェイト、ソラの同意の声。

「…あたしはここでヴィヴィオちゃんを守ってますね」

「任せる」

「任せてください」

その後俺達は一人一人しゃがみこみヴィヴィオと目線を合わせ、「ちょっと行って来る」といってヴィヴィオの不安を少しでも解消する。

シャッターを開け、俺達四人はそれぞれデバイスを起動する。

「さて、情報通りなら、襲撃者が二名、遠方に二名、その後多数のガジェットだったね」

「うん」

「それじゃ、事前の打ち合わせ通りに。俺とソラが遠方の二人。なのはとフェイトが六課襲撃者とガジェットの排除をお願い」

「うん」
「はい」
「了解」

「なのは、フェイト。くれぐれもよろしく」

「大丈夫だよ。ね、フェイトちゃん」

「うん。大丈夫、任せて」

彼女達ならばうまくやるだろう。

俺達はそれぞれ内部に侵入しつつあるガジェットを屠りつつ外へと駆け出してそれぞれの現場に向かった。




ドーンっドーンっ

未だ爆発音は続いている。

「パパっ…」

「ヴィヴィオちゃんっ!?」

シリカの腕の中から駆け出したヴィヴィオは一直線にドアへと向かい、オープンのボタンを押した。

「っ!?ヴィヴィオっ!」

シリカが懸命に止めようとするよりも早く扉をくぐって出て行ってしまう。

「まって、ヴィヴィオっ!」

追いかけるシリカ。

「パパーっ!ママーっ!」

「まってっ!」

もう少しでヴィヴィオに追いつく。そうシリカが思った時、シリカは突然の乱入者の攻撃により弾き飛ばされてしまった。

「きゃーーーーーっ!」

ドゴンっ

シリカの後ろのコンクリートがへこみ、体が埋まっている。

「ヴィヴィ…オ…」

「えっ?やだ、放して。助けて、やだー。シリカママ、助けて!」

ヴィヴィオの助けを呼ぶ声もむなしく、ヴィヴィオは何者かに連れされれてしまったのだった。




空を飛ぶ事数分。

俺とソラはナンバーズ二人と会敵する。

確かセッテとトーレだと深板達が言っていたか。

「名前を聞いても分からなかったけれど、10年前に瞬殺しちゃった人達だね」

え?

「瞬殺って何したの?ソラ」

「いや、なんかフェイトとの会話に夢中になってたから一瞬でこう…脳天を揺らした感じ?」

うわー、さすがソラ。容赦が無い。

「管理局の増援か」

こちらを確認してセッテがつぶやく。

「どうします?」

と、トーレがセッテに聞いた。

「まて、今目標を確保したと通信が入った。ここは引く」

「了解」

そう言ってこちらに構わず反転して高速で逃げていく戦闘機人の二人。

ちょ、待てよ。今目標を確保したって言ったか?

「アオ、もしかして…」

「ヴィヴィオがさらわれた?」

まさか、でも…

「ソラ、戻るよっ!」

「うん」

急いで六課に戻るとどうやらなのはとフェイトがオットーとディードを退けた後のようだった。

「なのは、フェイトっ!ヴィヴィオは、シリカは!?」

「だめ、シリカと連絡が取れないのっ!戦闘機人の二人の撤退もあっけないものだったからもしかしたら…」

そうなのはが答えた。

「くっ…」

「アオ、ヴィヴィオの事も心配だけど、今大量のガジェットがこっちに向かってるってっ!」

フェイトがそう捲くし立てた。

「ここは任せていいか?俺はシリカとヴィヴィオを捜しに行ってくる」

「うん、大丈夫。行ってきて、アオ」

三人を代表してソラが力強く答えた。

それに頷くと俺は急いで六課内部へ急いだ。



「さて。なのは、フェイト。アオに任されたから、出来ませんでしたなんて言えないわ」

「うん、ソラちゃん。一発であいつらを沈めて急いで追いかけようっ!」

「そうだね、そうしよう」

ソラがそう言うとなのは、フェイトも気合を入れてガジェットを睨んだ。

『ルナティックオーバーライトブレイカー』
『スターライトブレイカー』
『サンダーフォール』

三人がそれぞれ大技のスタンバイに入る。

「「「せーーのっ!」」」

三人が気合と共に撃ち出した魔法はあたり一面を閃光で包み、ガジェットを残さずに消滅させた。



あちこち崩落しているが、以前経験したそれよりは損傷は軽い。

程なくして倒れているシリカを発見する。

「シリカっ!シリカっ!大丈夫か!?」

「アオ…さん。…ごめんなさい。ヴィヴィオ…守れなかった」

「シリカ…大丈夫だから。…何も心配することはないよ」

「アオさん…」

そう言ってシリカは気絶した。

大丈夫。

何も心配する事はないのだから。

そして夜が明ける。


記憶の中のいつかの六課と比べればそれほどでもないが、それでも焼け落とされた機動六課隊舎。

俺達が防衛に出た事もあり、怪我人の数は少ないのではなかろうか。

擦り傷や軽い火傷はあるが、入院するほどの傷はない。

シャマルやザフィーラもなのはとフェイトの援護が間に合った事もあり、軽傷とは行かなかったが、それでも次の日には動き回れるレベルだ。

六課への居残り組みの被害はそんな感じだったのだが、それ以外で一番被害を受けたのはなななだろう。

エクセリオンモード。ブラスターシステム。それを最大限に使用しての彼女最大の一撃は、リンカーコアと体にとてつもない負担をかけ今も病院のベッドで昏睡状態だ。

「…無茶しやがって」

丁度見舞いは誰も居なかったようなので、俺は奇跡的に見つかったガンブレイバーの破片をポケットから取り出し握り締め、『星の懐中時計(クロックマスター)』を発動させた。

手に持ったかけらに何かが集まるようにその質量が増えていく。

十数秒で俺の手には銃剣の形をしたデバイスが現れた。

「エルグランドを倒したみたいだし、これくらいは…ね」

そう言って待機状態にしたガンブレイバーを彼女の胸元へと架ける。

「まぁ、頑張ったんじゃないか?」

そう言って俺は病室を後にした。

病室を出た所でおそらくシャマル達のお見舞いに来たのであろうはやてと出会った。

「あっ…アオさん」

「はやてか」

はやては少しバツの悪い顔をしている。

「ごめんな…私らヴィヴィオを守ってやれへんかった…ほんまにごめん」

はやてがそう言って謝った。

「いや、はやてだけの所為ではないよ。俺達にも油断が有ったんだと思う」

それでもすまなかったとはやては謝る。

「ほんでな。六課隊舎は復旧までに時間が掛かるし、それでも敵さんは待ってくれへん。そやから、急ごしらえで廃艦寸前の次元航行艦を徴収する事になったんよ」

徴収される事になった艦はアースラと言う。

本来であれば彼女にも感慨の深い戦艦であるはずなのだが、目の前の彼女にはとくになんの感慨も浮かばないようだ。

「それでな?いつかの約束、使わせてもろていいか?」

「約束って?」

「一回だけ私の願いを叶えてくれるって言うやつや」

「ああ。覚えているよ。はやては俺に何を願う?」

以前、彼女に打算から一度だけ願いを叶えてあげると言った。

「今回の事件が収束するまで、戦力として六課に協力して欲しい。もちろん嘱託として依頼するつもりや。
地上には戦力が足りへん。本来なら地球人であるはずのアオさんに頼むのは筋違いかもしれへんけど。なりふり構ってられへんのや」

彼女にしてみたらすでにこちらの生活の方が地球での生活よりも長い。

ここはもう彼女の故郷なのだろう。

「いいよ、分かった。協力する。はやての頼みだしね」

「ほんまか?ありがとう!」

「その代わり」

「な、なんや?余り要求されてもこたえられへんよ?」

「ソラ達も一緒だ」

俺が協力すると言えば彼女達もきっと協力すると言うだろうからね。







時間は流れて、アースラ。

六課崩壊後の仮隊舎としてこの世界のはやても戦艦を選択したようだ。

それがアースラであったのは丁度良いタイミングでまだ現役をはれる機体が解体待ちだったからに他ならない。

アースラに居るのはシリカを抜いた俺達4名。

シリカは魔導師ではない上に、ヴィヴィオを守れなかったショックもあるために海鳴へ一時帰還している。

訓練室で俺達はいつかのようにエリオの訓練に付き合っているなのはを眺めている。

「はぁああっ!」

「甘いよ」

がむしゃらにストラーダを振るうエリオ。

それを手加減しながらも本気で振り払っているなのは。

「わあああぁあぁああっ!」

ザザーーーッ

「くっ…まだまだっ!」

どうやら先日のなななとエルグランドの戦いで自分がなななの助けになれなかったと悔いているようだ。

その訓練にも気迫がこもっている。

なななはまだ意識が戻らずに病院のベッドの上で安静にしている。

エルグランドと言う強敵は居なくなったが、こちらの戦力も削られたという事だ。


ビーッ、ビーッ

警報が鳴り、事件が起こったことを告げる。

アースラ内 会議室。

本来は食堂スタッフである俺たちも、今回だけはこの場に同席を許された。

映し出されたのは戦闘機人たちより破壊された地上の守りの要、アインヘリアル。

使うことも叶わずに全てのアインヘリアルが沈黙している。

そして浮上するゆりかご。

「ヴィヴィオ…」

「アオ…」

俺のつぶやきに心配そうにソラがよりそった。

こちらに送られてきた映像に、ヴィヴィオが苦しそうにゆりかごの玉座に拘束されているのがある。

それから俺達は3面に戦力を分けて送る事になる。

街へ先行している戦闘機人の逮捕にはスバル、ティアナ、エリオとなのは。

フェイトとソラは先行した局員と合流してスカリエッティのアジトへ。

そして、俺ははやて、ヴィータと共にゆりかごへと割り振られた。




【ね、ねえ、ティア】

【何?スバル】

今、目の前ミッションの説明を受けている時にスバルから念話が入り、ティアナは少しイラっとしながらも返事を返した。

【なんでここに食堂のお兄さん達がいるの?】

当然のようにテーブルについているアオ達を疑問に思っているスバル。

彼女の表情には「関係ないよね?」と言う気持ちがうかがえる。

【嘱託資格を持っているらしいわ。だからじゃないかしら】

ティアナはアオ達から以前にそのような事を聞いていた為スバルに答える事が出来た。

【えええ!?でも、あの人たちってガジェットとかAMF戦とか大丈夫かなぁ…】

そのスバルの心配にティアナはすこしあきれた表情を浮かべた後答えた。

【…その心配はないわ】

【どうして?】

【あのVRゲームで似たような訓練があったでしょう、思いだして、スバル】

ティアナとスバルが訓練のために夜間にログインしているVRワールドでたまにアオ達と一緒に訓練や討伐を行っていた。

その中には高濃度AMF戦や対人戦なんかもあったのだ。

【そ、そう言えば…ティアはアオさん達ってどれくらい強いと思う?】

【下手をしたら隊長達を凌駕するくらい強い】

【えー、うっそだぁ】

誇張表現だと思ったのだろう。ティアナの言葉をスバルは信じる事は出来なかったが、この後直ぐになのはが戦闘機人相手に無双した事により実感する事になる。



ゆりかご内部にて、二人の戦闘機人が最終調整を行っている。

クアットロとディエチの二人だ。

「さて、準備は出来ました。後はドクターの計画がうまくいくのをこのゆりかごの中で見物させてもらうだけ」

ピッピと目の前のコンソールを楽しそうに叩くクアットロ。

「それにしても、あの気持ち悪い男はもっと使えるかと思ってたのに。ほんのちょっとシナをつくるだけで何でも言う事を聞いてくれたバカな男だけど、その実力は評価してあげていたのに…本当にバカな男って使えないわぁ」

「…………」

「なぁに?ディエチちゃん、かわいがられて情でも移ったの?」

クアットロの隣で武装のチェックをしていたディエチがあまり感情の表すことのない表情を若干歪ませている。

「……いいや…そんな事はないよ」

「そう言えば、そこそこ稼働時間の長いあなたはアレと長い付き合いだものね、それは情も湧くって言うもの」

「そんな事無いって言ってるだろ。ただ…ちょっと…」

ディエチは自分の感情がどう言ったものか分かっていないようだった。

「彼を助け出したかったらそれこそこの戦いには負けられないわね」

「…わかってる」

そう言って持ち場に移動するディエチをクアットロは見下したような心をその顔の下に隠した。

「だったら良いわ。お互いがんばりましょうね」





アースラの下部ハッチで出撃を待っている飛行できる魔導師組。

「それじゃ、皆、またバラバラになったけれど、しっかりやろう」

俺はそう三人に言った。

「うん」
「まかせて」

「私、またあのスカリエッティの逮捕に回されたんだけど…」

そうソラが愚痴る。

「ソラちゃん、そんな事言ったらわたしだって同じだよ。何でまたこう言う振り分け?」

と、なのは。

「それは分からないけれど、私達がバラけるのが一番事体の収拾が早いから、これでよかったと私は思うよ?」

と、フェイト。

「何はともあれ、これさえしっかり収束出来れば後はまた海鳴で楽しく暮らせるようになる。…ヴィヴィオも一緒にね」

「そうね。頑張りましょうか」

「うん、がんばろう」

「そうだね」

上からソラ、フェイト、なのはとそれぞれ気合をいれる。

さて、行こうか。

俺にとっては二度目の…ヴィヴィオを助けに。

『『『『スタンバイ・レディ』』』』

「「「「セットアップ」」」」

アースラ下部ハッチからテイクオフ。

それぞれ分かれて持ち場へと飛行する。

その姿を見せ付けるようにゆっくりと市街地の上を飛行する聖王のゆりかご。

射出されるガジェットが空を覆う。

「まずはガジェットの排除。そして射出口をつぶすんやっ!」

はやての指揮で多数の局員が動く。

俺もガジェットを殲滅しつつ、排出口と砲台を破壊していく。

『ロードカートリッジ』

ガシュ

魔法刃が形勢される。

「はぁあああっ!」

肥大化させたブレードであたりの装甲板ごと切り裂き、射出される直前のガジェットをも一緒に破壊しガジェットが出れないように埋めていく。

「よしっ次っ!」

まずは被害が都市部に行かないように。ヴィヴィオの助けはまだ後だ。

はやての選択は管理局員としては正しい。

次の射出口へと飛ぶ。

それを幾度繰り返しただろうか。

そんな時はやてから念話が入る。

【アオさんっ!進入口を発見したから、私とヴィータ、そして武装局員が進入する。ヴィヴィオは私らが必ず助け出してくるからっ!】

【外の指揮は大丈夫なのか?】

【アオさんのおかげでほとんどの射出口と砲台をつぶせた。これ以上この艦がガジェットを撒き散らす事はない。ガジェットも残り少ない。やから、アオさんもそっちの掃討に当たってもらいたいんやけど】

【…そっか、ならば俺は大型砲台が壊せないか頑張ってみるよ】

【頼みます、アオさん。ヴィヴィオは必ず私が助けてくるから】

そう言ってゆりかご内部に侵入するはやてを見送り、まだ使われていない大型兵装を壊しに掛かる。

「しかたない…行くよっ!ソル」

『ロードカートリッジ』

魔法刃を極大で形勢し、振り上げる。

「あああああっ!ジェットザンバーーーーっ!」

巨大なブレードを振り回し、大型兵装の一つを潰す。

「はぁ…はぁ…残り…幾つだ?」

『8砲塔ほどです』

「がんばるよ、ソル」

『了解しました』


時間は刻一刻と過ぎていく。

マズイね。そろそろタイムアップギリギリだ。

砲塔は残り3門、しかし…

タイムリミットは衛星軌道まで上がり、ミッドチルダの二つの月の魔力を得られる位置まで上昇する事。

そこまであがるとこのロストロギアがどういう力を発揮するのか見当もつかない。

「シャーリーさん、こちら御神アオ。はやて達の援護にゆりかごに突入します」

シャーリーさんに通信ウィンドウを開き、一方的にまくし立てる。

【え?ちょっとまって、アオさんは外のガジェットの…】

通信を切り、ゆりかごに開いた穴から中に進入する。

途端に濃度のあがるAMFに、ここなら見てる人も居ないとフライの魔法に切り替える。

この中で向かうのは3方向。

「アオッ!」
「アオさんっ!」
「アオっ!助けに来たよっ!」

ソラ、なのは、フェイトが俺の後でゆりかごに到着、合流した。

「皆…時間がない。分かれるよ。内部データは行ってるよね、多分変わってないと思うけれど」

「うん」

「あるよ。大丈夫」

「俺は玉座の間に行く。ソラは駆動炉にお願い。なのはとフェイトは奥に居るだろうクアットロをひっとらえて来て。時間がないから、皆急いでっ!」

合流したのもつかの間、俺の合図で散開し、それぞれゆりかご内を翔ける。

俺は一路玉座の間へと翔ける。

空け放たれていた扉をくぐり、中に入るとレリックと融合し、その体を大人へと変身させたヴィヴィオが悠然と立ち、その手前にははやてが横たわっていた。

防御力の高いヴィヴィオの魔法防御をこのAMF下では抜けなかったか…

「ヴィヴィオっ!はやてっ!」

俺ははやての近くに寄るとその身を抱き上げた。

「うっ…うぅ…」

はやては意識が無いだけで、命に関わるような怪我は見て取れない。

「パパっ…ママっ…どこ?ヴィヴィオのパパとママは…どこ?」

ヴィヴィオの方は操れているようだった。

「パパっ…ママっ…どこーーーーっ!?」

絶叫と共に体から虹色の魔力が荒れ狂うように放出された。

俺は一度はやてを抱き上げたままその魔力から逃れるように玉座の間を出る。

「ソル、残りの時間は?」

『10分ほどです』

管理局艦隊もミッドチルダへと終結しているし、おそらく前回の事も考えるにタイミングは管理局艦隊の方が若干早い。

上昇速度も多少減速されているところを見るとヴィータが無事駆動炉を封印した事だろう。

ヴィータの脱出補助はソラが居るから問題ない。

問題はこっちだ。

時間が無い。

今からヴィヴィオをどうにかする時間が…

俺ははやてを担ぐと反転し、玉座の間から離れる。

そして無事にゆりかごを出ると、そこにはソラやなのは、フェイトとヴィータや管理局武装隊の面々そして、管理局局員に拘束された戦闘機人二名が無事に脱出していた。

「アオっヴィヴィオは…」

フェイトの問いかけに俺は首を振る。

「そんな…」

「ヴィヴィオっ…」

もう助けられない。

ゆりかごは加速して大気圏外へと上昇した。

しかし、俺が大部分の兵装を潰しておいた事もあり、現れた管理局の主力戦艦の攻撃であっけなくその質量を消失させた。

…中にいたヴィヴィオ共々。

「うっ…うん。ここは?」

ようやく意識を取り戻したはやて。

「そうやっ!ヴィヴィオっ!ヴィヴィオは!?」

はやてのその発現に皆の表情が曇った。

「そんなっ…うそやろ?なあ!?」

しかしそれに首を振る俺。

「そんなっ、うそやっ!信じへん、ヴィヴィオーーっ!」

はやてはそう叫んでその両目から大粒の涙を流し続けた。







「で、これはいったいどういう事か説明して欲しいんやけどっ!」

「そうだな、僕にくらいは説明があってもよかったんじゃないか?」

はやてとクロノは今、御神家のリビングで俺の前で鬼の剣幕で問い詰めている。

ちなみに、コレと言うのはリビングにある大型テレビで一世代前の体感ゲームをシリカとキャロと一緒に遊んでいるヴィヴィオの事だ。

「いや…実はね…」

あの時。管理局の戦艦で蒸発させられたヴィヴィオは実は影分身だったのだ。

これが俺達が考えたヴィヴィオ保護の手段。

フェイトの時よりも厄介ごとが纏わり突くであろうヴィヴィオ。

そんな彼女を確実に俺達が住む地球で保護するために、表面上はミッドチルダで死んでもらう必要があったのだ。

なのはがミッドチルダでヴィヴィオを保護できないとなると、最悪の最悪は人体実験の素体にされかねないと深板達が言ったからだ。

どうして深板はあそこまで管理局を黒く言うのだろうか。…まぁ、大きな組織に暗部はつき物だろうけれど。

その為にヴィヴィオの食事に神酒を混ぜ込み精孔を開き、影分身の術を教え込んだのだ。

確実に俺達が保護するために。

あの日。

六課が襲撃されたあの日。

シェルターに入る前にはすでにヴィヴィオとシリカは影分身と入れ替わり、二人は海鳴へと口寄せの応用で渡っていたのだ。

残された影分身はスカリエッティ一味へと捕まり、ゆりかごを飛ばさせた後はそのままゆりかごごと消失。

消し飛ばされたのは影分身なので、その時の記憶はヴィヴィオに戻ってくるが、融合させられたレリックはおそらく吹き飛ばされて消失。

問題ないだろうということで、実行に移したのだ。

影分身による記憶の引継ぎには神経を使ったが、シリカや母さん達がそばに付いていたために多少の混乱だけで済んだようだ。

結果、ヴィヴィオは死亡扱い。問題なく海鳴へとつれてくる事に成功したのだが、ここで問題になったのがはやてだ。

ヴィヴィオを救えなかった事による心の傷が人一倍強く、これはヤバイと海鳴へとはやてを招待。やはり自分の命令でヴィヴィオを殺してしまったと落ち込んでいたクロノも呼んでネタバラしとなったのだ。

機動六課に休みは基本的に無いために、ソラ、なのは、フェイトは六課食堂で今日も働いている。

ヴィヴィオに会いに行くと言ったらさんざん愚痴られたが、彼女達もそれだけヴィヴィオに会いたかったのだろう。

そんな話を所々ぼかしてはやてにすると、半分あきれた顔になり、

「まぁ、アオさん達ならそんな事も出来るか…」

「そうだな…君達の出鱈目さは今に始まった事じゃない」

と、何故か納得してしまった。

ヴィヴィオの事は黙っていて欲しいとはやてとクロノに念を押し、クロノは渋い顔で「自分は何も見ていない」と言い。はやては複雑そうな表情で「分かった」と答えたので一安心かな。

ヴィヴィオの元気な姿を確認するとはやてとクロノはミッドチルダに帰っていった。

「ヴィヴィオ、もうちょっとだけシリカやキャロ、母さんと待っててくれな。俺達はもう少しやる事が残っているから」

「んー?さみしいけれど、がまんする。ヴィヴィオいい子だもん。ちょっとがまんしたらずっといっしょにいてくれる?」

「ああ、約束する。ヴィヴィオが自分で離れていくまで一緒に居てあげるよ」

「パパのお話はよくわからないけど。わかった。まってるね。だからはやく帰ってきて」

六課が解散するまで、もうしばらくの辛抱だ。

そうしたら皆でこの海鳴で暮らそう。

きっと楽しいはずだ。

その後、ミッドチルダから戻ってきた俺達を、待ってましたとばかりにSOS団が襲来。

3年ぶりの映画撮影となるのだが、それはまた別の話だ。

 
 

 
後書き
スバルの中ではまさか自分を助けた人が食堂で働いてるとは思いもよらず、感動の再会とかは無かったのです。
アオも自ら打ち明けようとは思わないと思いますし。
なんでアオ達はゆりかご浮上まで放置したのか。それは原作通りに一応物語りを進め、差異を最小にするためですかね。ゆりかご浮上が無ければ、スカリエッティ一味は計画を遅延させるはずですし、捕まりませんよね。街への被害とスカさんの逮捕。逮捕されない事で起こるテロ被害。さて、どちらを優先すべきだったのか。答えが出ないので原作を真似たということです。
さて、次のクロスはどうしましょうね…とりあえず、番外編とかでお茶をにごしつつ、考えます。 
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