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番外 Vivid編 その2
前書き
今回からしばらく番外、リオ編になります。
「ディメンンションスポーツアクティビテイアソシエイション公式魔法戦競技会?」
「うん。わたしは参加しようと想っているんだけど、皆もどうかなって思って」
いつもの四人がそろった放課後に、ヴィヴィオがそんな事を提案してきた。
ディメンンションスポーツアクティビテイアソシエイション公式魔法戦競技会、通称DSAA公式魔法戦競技会は出場可能年齢10歳~19歳まで、個人計測ライフポイントを使っての実戦に限りなく近いスタイルで行われる魔法戦競技会だ。
「うー、どうしようかなぁ…」
あんまり乗り気ではないコロナ。
「私は…」
どうしようとアインハルトさんも思案している。
「出ましょうよ、アインハルトさん」
「…そう、ですね」
「やったー。ね、リオは?」
んー。あたしかー。
あたしは…
「DSAAって予選が七月で本戦は夏休みだよね?」
「え?そうだけど」
じゃあダメだ。
「じゃああたしはパスっ」
「「ええええええっ!?」」
ヴィヴィオとコロナが驚いている。
「どうして…ですか?」
アインハルトさんがあたしに問いかけた。
「だって、まかり間違えて本戦に進んじゃったらフロニャルドに行けなくなるもん」
「「あっ…」」
「言われてみれば…」
出てみたくないのかと言われれば、出てみたい。
しかし、あたしにとってはそっちの方が大事。
「それに、あたし、魔法戦のみってあんまり得意じゃないんだよね…」
魔法戦競技会だから念法なんてもっての他。
念にライフポイントの測定は判定出来ないと思うし、危ないからね。
「そ、そうなの?」
と、コロナ。
「いやー…どうしても練習比率が念方面に偏っちゃって…とは言えそこら辺のやつには負けない自信はあるけどね」
シューター、バスターなどの砲撃魔法や身体強化魔法、さらにはブレイカー級集束魔法は一通りは全部使えるし、バインドやバリアも問題ないけど。
「勝っても負けてもあたしの全力って訳じゃないから、相手にも失礼だろうしね」
あたしの答えに3人が黙り込む。
「まぁ、ヴィヴィオ達は楽しんできなよ。念さえ使わなければ全然大丈夫だし」
念と言ってもまだ纏と練と絶しか覚えてないからね。ほとんど戦闘技術として確立してるわけじゃないしね。
だから気にしないでとヴィヴィオ達を説得すると、どうやら三人はDSAAに参加する事に決めたらしい。
まぁ、奇跡的に本戦とかまで出場して夏休みがそっちでつぶれるとしても、あたしは応援には行けないから、そこは理解して欲しいかな。
次の日からヴィヴィオ達はノーヴェ師匠達の指導の下、個人練習に入ったようだ。
纏の練習なんかは授業中にやっている。
あたしはと言えば、DSAAに参加するつもりはないから、ヴィヴィオ達の練習にたまに混ぜてもらいながら日々を過ごしている。
今日はヴィヴィオの斬撃対策の練習のお手伝い中だ。
魔力による防御でダメージはさほど通らないからと、刃を潰した模造刀をノーヴェ師匠の付き添いのもとヴィヴィオ目掛けて振り下ろしているあたし。
「やっ!」
「ふっ!」
あたしが振り下ろした模造刀を魔力で覆った腕でガードするヴィヴィオ。
段々速度を上げていくあたしに、クリスの援護もありなんとか食らい付く。
しかし…
【ヴィヴィオっ!眼っ!】
あたしはノーヴェ師匠に気付かれないように注意すべく念話を飛ばす。
【え?】
ヴィヴィオの左目に三つ巴の勾玉模様が浮かび上がっている。
集中し、あたしの攻撃を見切ろうと集中したヴィヴィオは無意識に写輪眼を使ってしまったようだ。
【写輪眼、使っちゃってるっ!】
【ああ、どうりでよく見えると思ったよ】
【よく見えるじゃなーーーいっ!直ぐに使うのやめてっ!】
【う、うん…】
あたしの注意でどうにかヴィヴィオは写輪眼の使用を解除した。
「なんだ、お前ら、突然やめちまって。調子悪いのか?」
ノーヴェ師匠が心配そうに問いかけた。
「ううん…なんでも、ないよ、ノーヴェ」
そう言ってヴィヴィオははぐらかし、練習を再開。
しかし、その後も何度も写輪眼を発動し、念話で注意する事が続く。
ボロが出る前にと今日の練習は終わりにしてもらった。
まったく、ヴィヴィオ自身が制御が出来てないんじゃどうしようも無いよ。
自分で写輪眼のオン・オフの切りかえれるように特訓しなきゃかな?
こ、これは緊急事態で仕方ないし…アオお兄ちゃんに怒られないよね?
さて、数日ヴィヴィオの写輪眼制御に付き合ってたんだけど。
「だめじゃん」
「うー」
もはや無意識に予想以上の速度で迫る攻撃に反射するように開眼してしまっている状態だ。
今までは精孔が開いてなかったから体内のオーラがうまく回らずに使えなかったようだが、念を覚えた今、どうやら写輪眼へのパスが簡単に繋がってしまうようだ。
予想内の攻撃には何とか使わずに居られるようだけれど、DSAAの舞台でどうなるか、激しく不安です。
「これはもう、方向性を変えるしかないんじゃないかな」
「方向性?」
「要はバレなきゃいいんだから、クリスに手伝ってもらって眼を覆うような何かを着けるとか?」
「アオお兄ちゃんみたいに?」
「そう。アオお兄ちゃんみたいに」
アオお兄ちゃんのバリアジャケットには目元を覆うバイザーが着いている。
何のための物なのか。それは今のあたし達を見れば一目瞭然。
写輪眼を隠すためだろう。
「クリス、お願いできる?」
ピッと敬礼したクリスはヴィヴィオの左目を覆うようにバラを象ったかの様な造形のアイパッチが現れた。
「ヴィヴィオ、それって見えてるの?」
「見えてるけど、どんな感じ?」
あたしはカバンからコンパクトを取り出すとヴィヴィオに渡した。
「こ、これは…」
「くくくっ…似合ってるよ…ヴィヴィオ」
「ほ、ほんとに?」
「う、うんー」
あたしはあわてて目をそらした。
だって…ねぇ?
うーうー唸っていたヴィヴィオだが、仕方ないかと諦めたようだ。
「ただ、早く写輪眼にも慣れないと、いつまでもその眼帯が付きまとう事に…明日からの練習中にもそれをつける言い訳も考えなきゃね」
「そ、そんなー」
だって、仕方ないじゃない。
いつもあたしが練習相手が出来るわけじゃないんだし。
「そ、そう言えばさ」
「何?」
「実は聞きそびれてたんだけど」
「うん」
「写輪眼の能力って何?」
………え?
「言ってなかったっけ?」
「聞いてないよー。能力は置いといてってリオが言って、そのまま置いておかれたんだよ」
そうだったっけ?
「写輪眼の能力はその鋭い洞察力でのあらゆる技の看破とその模倣だよ」
「えっと?」
「簡単に言えば、相手の動きがどんなにすばやかろうが見失うことはないし、相手の技を見破り、そして真似出来るの」
あたしの言った言葉に信じられないと言った感じのヴィヴィオ。
「え、何?そのチート能力…」
「チートって」
「だってそうでしょう?じゃ、じゃあリオは一度見た技は直ぐに真似できるって事?」
「資質や自身の技量の問題も有るから魔法系や忍術系は全部が全部模倣出来る訳じゃないけど、体術系はだいたいね」
得意不得意や自分じゃ資質的に無理な事は多々あるしね。
「とは言っても、ヴィヴィオも持ってるじゃない」
「あ、そっか…」
「ヴィヴィオ、今からあたしがやる事を左目を閉じて見てて」
「う、うん」
あたしは素早く火遁豪火球の術の印だけを組む。
「今の覚えられた?」
「何をしているのか分からないんだもの、覚えられるわけないよ」
「じゃあ今度は左目も開けて、写輪眼を使って見てみて」
「うん…」
もう一度、火遁豪火球の術の印を組む。
「今度は出来るよね?」
「え?あっ………うん」
そう言ってゆっくりだけど印を組んで見せたヴィヴィオ。
「こんな感じで相手の技を覚えてしまうんだよ、その眼はね」
「ち、チートじゃ…」
「だねー。写輪眼を使って技の型を覚えると、あたし的には上達が早かったかな」
「そうなんだ…」
「とは言え魔法じゃないから、DSAAじゃ極力使わないようにね」
「が、がんばる…」
写輪眼の制御が予選までに間に合えばいいんだけどねぇ。
◇
あたしは今、なのはさんに連絡を取って外のカフェで待ち合わせをしている。
待ち合わせ時間よりも少し早くなのはさんは到着し、先に入っていたあたしの席まで店員に案内されてくると向かい側に着席した。
簡単にコーヒーを二人分頼むと、品物が出てくる前に本題に入った。
「あの、なのはさん」
「なぁに?ノーヴェ。ヴィヴィオに何か問題でもあった?」
ヴィヴィオについて聞きたいことがあるとなのはさんを呼び出したのだ。
当然の推察だろう。
「はい…最近、練習中に時折ヴィヴィオの集中が切れるみたいで…いや、違うかな…何かを隠そうとあわてていると言った方が正しいですね」
「隠し事?ヴィヴィオが?」
「はい、それで気になって注意深く見てたんです」
「それで?」
「ヴィヴィオが何か焦った様にそわそわした時、ヴィヴィオの左目の虹彩が歪むんです」
「左目…」
「おかしいなと思ってジェットに記録させていたんですけど…」
そう言ってあたしは空中にウィンドウにヴィヴィオの静止映像をジェットに出してもらう。
「これは…」
息を呑むなのはさん。
元々ヴィヴィオの左目は赤い色合いだが、それが発現したときはさらに赤くそまり、変な模様が浮かび上がっていた。
「たぶんこれを隠そうとしてるんだと思いますが、ついには練習中に眼帯まで着けちゃって…これが何か、なのはさんは分かりますか?」
「……知ってる…でも何で?封印したはず…」
封印ってなんだろう。
と、その時店員がコーヒーを持ってきて直ぐに下がった。
コーヒーを一口すすり、そう言えばと切り出す。
「リオの方も何かを知っている感じでした。ヴィヴィオに変化が起こると、それを念話で注意していたように感じましたし」
「リオちゃんも?」
「はい」
何かを考えるなのはさん。
しばらくしてようやく結論がでたようだ。
「すぐにリオちゃんを呼んで私の方で話を聞いてみるよ」
どうやらあたしには話せない類の話らしい。
「…お願いします。なのはさん」
あたしには解決できない問題に、口にしたコーヒーがいつもより苦く感じた。
「それともう一つお願いがあります…」
◇
夜、大事な話があると、高町家に呼ばれたあたし。
パパやママには話せない内容なのか、なのはさんが送り届けると言ってパパ達には帰ってもらった。
リビングのソファにヴィヴィオと横並びに座り、正面にはなのはさんが座る。
大事な話っていったい何でしょう?
「今日、ノーヴェに会ったんだけど、その時ヴィヴィオの様子がおかしいって聞いたの。ヴィヴィオ、ママに何か隠してるよね?」
ちょ、直球ですね、なのはさん。
「うっ…なんにもないよ?隠し事なんてしてないよ、なのはママ」
ヴィヴィオーっ!もう態度で何か隠している事バレバレだからっ!
なのはさんはふーっと一息ついてから話を続けた。
「ノーヴェからこんな画像も貰ってるんだけど」
そう言って見せられたのはヴィヴィオの顔のアップ。
その左目には三つ巴の勾玉模様。
ばっ!バレてるーっ!
「っあ…」
動揺するヴィヴィオ。
かく言うあたしも動揺しているけどね。
「これが何だかヴィヴィオは知ってるの?」
問い詰められたヴィヴィオは少しの沈黙の後、意を決して答える。
「りゅ…竜王の特殊能力…です」
その答えになのはさんは苦い顔をした。
「…その眼は写輪眼って言うの。能力は全ての術の「ちょっと待ってくださいっ!」かっ…なに?リオちゃん」
あたしはなのはさんの発言に驚き、大声でなのはさんの会話を切ってしまった。
だって、なのはさんがその名前を知っていた事が意外すぎてびっくりしちゃったんだもの。
「なんでなのはさんが写輪眼の事を知っているんですか?」
「リオちゃんも知っているんだね。写輪眼の事…」
「はい…」
「そっか。ねえ、二人とも。二人は念法って知ってる?」
ビクっ
なのはさんの口から出たさらに予想外な言葉に体を強張らせたあたしとヴィヴィオ。
「そっちも知ってるんだ?と言う事は、二人は念を使えるのかな?」
その問いにあたし達は沈黙で答える。
「まあ、リオちゃんは使えるのは当然として、ヴィヴィオはどうして?」
あれ?どうしてなのはさんはあたしが念を使える事を当然だって言ったのだろうか?
「…あ、あの…」
どうしようかと戸惑って、結局話す事にしたヴィヴィオ。
「ちょっと前にアオお兄ちゃんに教えてもらいました…」
「アオお兄ちゃん?…アオお兄ちゃんってあの?」
「はい…」
「でも、アオくんは自分達の世界に帰ったからもう会えないはずでしょ?…うん?…もしかしてジェラートさんってあの時のわたしなのかな?そう言えば映画の最後にアオくんに手伝ってもらってるって言ってた気が…」
なにやら自己完結しているけど、自己完結されたのでこっちは意味不明です。
「アオくんに会ったの?なのはちゃんやフェイトちゃん、ソラちゃんとも?」
「うん」
「はい」
もう確信されちゃってるから嘘を言ってもしょうがないと肯定する。
「なるほど…どうしてアオくん達がそんな所に居るのかは聞きたい所だけど、今は置いておいて。
その時にヴィヴィオは写輪眼がどう言う物かアオくんから聞いたの?」
「んー、聞いてないよ」
「あれ?アオくん、ヴィヴィオが写輪眼を持ってる事を忘れちゃってるのかな?それとも単純に伝え忘れちゃったとか?」
と言うか、なんでアオお兄ちゃんはヴィヴィオが写輪眼を持っている事を知っているのだろうか。
「なのはさんはどうして写輪眼の事を知っているんですか?」
「…ヴィヴィオがね、写輪眼を使える事は分かってたんだ。だから、アオくん達が帰る前にわたしが彼らにお願いして教えてもらっての」
「そうなんですか」
さて、となのはさんは真剣にヴィヴィオに向き直る。
「ヴィヴィオ、その写輪眼はとても危険なものなんだ。使い続けると体に異常をきたすかもしれない」
「そ、そうなの?」
そう言ったヴィヴィオはあたしの方を向いた。
「あれ?なんでヴィヴィオはリオちゃんに聞くの?」
「だって、リオも使えるし…」
ヴィヴィオーっ!?
「え?リオちゃんも写輪眼が使えるの?何で?」
写輪眼の事を知っているようだからと心の中でアオお兄ちゃんに言い訳をしてからあたしは観念して話し出す。
「あたしは竜王の子孫ですから」
「竜王の…本当に?」
「物的証拠があるわけじゃありませんが、アオお兄ちゃんが言うのでたぶん間違いないかと」
「そっか…アオくんがねぇ。なるほど、リオちゃんの事もあるからアオくんはわたしに全てを教えてくれたのかもしれないね」
そっか、そう言えばなのはさんは機動六課のメンバーだったんだ。
だから、きっと六課に厄介になったあたしとの繋がりも出来るかもしれないとアオお兄ちゃんは思ったんじゃないかな。
「その時にね、ヴィヴィオは使うと危ないかもって言われたんだけど…ヴィヴィオ、体は大丈夫なの?」
「うーん…使うと少し疲れるけど、特に問題はないよ」
「そう…どういう事なんだろう?」
「それは多分ヴィヴィオが念を覚えたからだと思います」
「念を?」
「はい。今までは写輪眼に使うエネルギーを生み出せなかっただけじゃないかと」
「なるほどね、確かにそうかも知れないね。今度アオくんと会うことが有ったら聞いておかないと」
「はい。夏休みに会えると思うので、その時にあたしが聞いておきます」
そう答えたあたしになのはさんは、お願いねと返した。
「ねえ、二人とも一度写輪眼を使ってみてくれないかな?」
「え?」
「良いですけど…」
あたしとヴィヴィオは戸惑いながらも写輪眼を開眼する。
「わ、リオちゃんは両目なんだね」
むしろあたしは片目だけの発現のヴィヴィオの方が珍しいと思うのだけど。
「写輪眼の能力は知っているよね、言ってみてくれる?」
なのはさんの問いに先日ヴィヴィオに説明したように返す。
「そっか…うん、それなら大丈夫そう。ノーヴェが心配してたんだよ」
何が大丈夫なのでしょうか?
そんな疑問を受け付けないと言うようにノーヴェ師匠が心配していたと続けたなのはさん。
「ノーヴェが?」
「うん、何かヴィヴィオが隠し事しているようだって」
「ノーヴェ…」
心配してくれていたノーヴェ師匠に感謝しているヴィヴィオ。
「わたしからノーヴェにはうまく伝えておくから。ヴィヴィオは出来るだけ写輪眼を使わないようにね」
「はーい」
「それからリオにもお話があったんだ」
「あたし?」
いったい何でしょう?
「四人の内1人だけDSAAに出ないみたいだからって、ノーヴェが気にしていたの。戦う事が嫌いならば気にしないんだろうけれど、リオは違うようだから」
確かに、戦うのが嫌いと言う事は無いかな。…だけど。
表情を曇らせたあたしからなのはさんは何かを感じ取ったようだ。
「そっか、リオちゃんの目標はアオくん達なんだね。もしかしてアオくんからいろいろ教わったのかな?」
「はい」
「なるほど、魔法だけじゃ、リオちゃんの実力の半分って訳だ。だから、DSAAには出ないと」
「そうなりますね。全力で参加している他の参加者に失礼ですし…そして多分、あたしの全てで相手をするならば一対一の魔導師戦には9割負けないってアオお兄ちゃんが言ってました」
幻術系の忍術で終了するだろうってアオお兄ちゃんは言っていた。
「…残りの一割は?」
そう、ヴィヴィオが問いかけた。
「弾幕で距離を取られて魔力量で押されると勝てないかもって」
もしくは五感を感じない人間とかかな。
幻術は感覚器官に訴えるものだから、それが鈍い相手には通用しないかも。
とは言え、それは結局個人の戦闘に置いてだ。
一対多で囲まれれば負けるし、戦艦に個人で立ち向かえるほど強くは無い。
物量には勝てないよ。
「つまり、天敵はわたしみたいなタイプなんだ」
と、なのはさん。
「そうなりますね」
ある意味なのはさんは大艦巨砲主義を地で行っているので、相性的には良くないのは確か。
話がそれたので元に戻す。
「まあ、そんな感じなので、ノーヴェ師匠には悪いんですがDSAAには出る気は無いです。それにあたしの夏休みは予定がいっぱい詰まってますし」
「予定?」
「はい。アオお兄ちゃんに会いに行ってきます」
「そっかー、もしかしてヴィヴィオも?」
「行けたら良いなって思ってるけど…なのはママ、行ってきてもいい?」
その言葉に少し考えてから答えたなのはさん。
「まあ、地球のことわざに『かわいい子には旅をさせろ』って言うのもあるし、行っておいで、ヴィヴィオ」
「ありがとう、なのはママ」
「でもその前にDSAAがあるよね。結果次第では行けないかもよ?」
「うぐぅ…行けなくなる事を喜べば良いのか、悲しめば良いのか…」
喜べば良いんじゃないかな?
そんな感じで何とかヴィヴィオの問題は解決…してないよね?
写輪眼の制御にもう少し時間をとらないとと言う事でその日の用件は終了。
なのはさんに送ってもらって家に帰った。
数日たって、あたしは今、なのはさんの頼みでヴィータさんのお弟子さんの模擬戦に付き合うべく、練習場に来ています。
練習場と言っても、都市部のスポーツジムのようなところではなくて、海岸の閑散とした砂浜ですが。
そこに付き添いもかねてなのはさんに送られて来たあたし。
いつものメンバーは居ません。
目の前の簡素なリングの上にヴィータさんとザフィーラさん。そして同じ年くらいの女の子が居ました。
薄茶色のショートヘアで練習着に身を包んだ女の子があたしに向かって自己紹介と挨拶をしてくれた。
「あ、あのっ!ミウラ・リナルディです。今日はよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げたその子にあたしも急いで自己紹介を返す。
「リオ・ウェズリーです。こちらこそよろしくお願いしますね」
「はいっ」
「おーう、お前ら。自己紹介も済んだ所でルールを説明すっぞ」
そう言って間に入ってルールの説明をし始めたヴィータさん。
どうやらDSAAルール準拠で模擬試合を行うらしい。
「わりぃな、つき合わせちまって。DSAAも近いからな、ミウラに年回りの近い相手の練習相手が欲しかったんだ。そんな話をなのはが家に来たときにこぼしたらお前が空いてるって紹介してくれたんだ」
引き受けてくれてありがとうとヴィータさん。
「いえ、別に構わないのですが…あたしなんかで良かったんですか?」
「お前ぇはあの御神アオの弟子なんだろう?…あいつはすげー強かったぞ」
そう言えばヴィータさんも機動六課の…
「…そうですね。ミッドチルダであの人達の技術を受け継いでいるのは自分だけだって言う自負はありますっ!」
「そうか…
それじゃ、始めるぞ」
「「はいっ!」」
試合開始の宣言にあたしとミウラさんの声が重なった。
「行くよっ!ソル」
「スターセイバーっ!」
『『セットアップ』』
お互いにデバイスを起動し、LIFEはお互いに15000。
レフェリーはザフィーラさん。
「始めっ!」
ヴィータさんのその声を合図にあたしは地面を踏み込んだ。
それじゃまずはあたしの十八番。
「木の葉旋風っ!」
「はっ、速いっ!」
ミウラさんが上げたガードよりも速く、空中回し蹴りがミウラさんの体に突き刺さる。
「がはっ…」
「…からのぉっ!リオスペシャル2!」
そのまま蹴りの連撃。
最後はかかと落としでミウラさんを地面に沈める。
ダメージは5450。
うーん、もうちょっと行けると思ったんだけどねぇ。
ミウラさんがダウン判定であたしの追撃は許されないので彼女から距離を取る。
「カウントっ!…1、2、3…」
「ミウラーっ!起きろっ!まだ何もして無いだろうが馬鹿ーーっ!」
ヴィータさんの激が飛ぶ。
「うっ…くっ…」
辛そうに吐息を漏らしながらも、立ち上がったミウラさん。
ミウラさんが構えたのを確認して試合再開。
「行きますっ!」
勢い良く踏み込んでそのコブシを繰り出す。
二撃、三撃とコブシを繰り出したミウラさん。
「わっはやいっ!」
バックステップでかわすと、今度はそのまま軸足で飛び上がり、蹴りが飛んでくる。
「空牙っ!」
ちょっ!
体勢が悪く、ちょっとかわすのは難しいかな…
あたしは右ひじを立てて、ミウラさんの左足での攻撃をガードする。
「くっ…」
ガードした上からでも伝わる強烈な威力にあたしのLIFEが削られる。
ガードはしたもののその威力で吹き飛ばされるあたし。
ながれに逆らわず、受け入れる事によりそのダメージを軽減する事に成功した。
ダメージは1340。
危なかった。
威力を殺さなければ右ひじの骨折エミュレートくらい貰ってもおかしくない威力だったし。
すばやくダメージを確認して身構えるとミウラさんは着地して身構え、魔法行使に移ろうとしている。
「いくよっ!スターセイバーっ!!」
『ソード・オン』
あたりの魔力がミウラさんの両足に食われるように集まっていく。
集束攻撃!?
直感でそう感じ取ったあたしは身構える所か地面を蹴ってミウラさんに向かって距離を詰める。
「え?ええ!?」
まさか集束中に攻撃を仕掛けてくるとは思わなかったのだろうミウラさんがあわてて迎撃しようとするが、ちょっと遅いよ。
技の発動初期で行動が束縛されていた一瞬でミウラさんの懐に入り込み、あごを蹴り上げ、彼女の体を宙に飛ばす。
今のでクラッシュエミュレーションで脳震盪あたりを引いてくれるとさらにありがたいが、今はあたしも追うように地面を蹴ってさらに彼女を蹴り上げる。
「かっ…はっ…」
そのまま空中で背後にポジショニングして拘束する。
「なっ!?バインド!?」
そしてあたしはミウラさんを引っつかみ、諸共地面にまっ逆さまに落下する。
『表蓮華』
あたしのリオスペシャル1はこの技の劣化だ。
ドドーーーンッ
砂埃が宙を舞う。
立ち上がったあたしだが、少しよろけてしまいそうになる。
ぐっ…魔法で身体強化してあるけれど、この技は負担が大きい。
「勝者、リオ・ウェズリー」
ザフィーラさんの声でヴィータさんがリングインしてミウラさんに近づいていきます。
「おい、ミウラ、大丈夫か?しっかりしろ」
へろへろになりながら立ち上がるミウラさん。
「だ、だいじょうぶれふ…あ、その…試合は?」
「お前ぇの負けだよ。今回の試合はミウラにいい所は無かったな。しかし、課題が浮き彫りにされた感じだ。分かるか?」
「あ、はい…抜剣の集束時間を待ってくれる敵が居る訳ないって事ですね…」
「ああ、そうだ。お前ぇの抜剣はその威力は申し分無いが、集束魔法だから、1プロセス置く事になっからな。今回はそこを突かれた感じだ…だが、大会上位者でもなけりゃ普通はそんな事できはしねぇんだが…」
そう言ってあたしの方に向いたヴィータさん。
「あの御神アオの弟子だ…普通なわきゃねえか…」
え?その納得の仕方ってどうなの?
確かに、相手の技は出される前に潰せば安全とか、予備動作を待ってあげる必要性はないよ、とかそんな事を言ってる人たちだったけど。
だから、今回も集束魔法だと思った瞬間潰しにかかったんだけどね。
「えと、御神さんって?」
「昔、少しの間だけあたしらと一緒にいた奴だ。恐ろしく強ぇ奴だった」
「そんな方の弟子なんですか…今度のDSAAには参加なされるんですか?」
こちらを向いたミウラさんがあたしに問いかける。
「んー?友達は出るけど、あたしは出ないよ」
「どうしてですか?そんなにお強いのに…」
「いろいろ事情があるんだよ、あたしにも」
「そうなのですか…」
さて、回復も済んだので二戦目に突入する。
突入する前にヴィータさんからミウラさんの抜剣を使わせて欲しいと言われました。
なのでなのはさんにコソっと耳打ちします。
「なのはさん」
「なぁに?」
「写輪眼使ってもいいですか?もちろん、バイザーで隠しますから」
「え?なんで?」
「せっかく大技を見せてくれるようですので、コピーしちゃおうかと。練習に付き合っているんだから、そのくらいの役得はいいですよね?」
「う…うーん…。まぁ、いいのかな?」
うん、なんとかなのはさんからの了承も取れたし、ソルに頼んでバイザーを装備する。
「バイザーですか?」
「はい」
それ以上は互いに語らず。
「スターセイバーっ!」
『ソード・オン』
どうやらはじめから本気の大技のようである。
おそらくヴィータさんからの指示であるだろう。
恐ろしいくらいの魔力がその四肢に集束して行っているのが分かる。
「行きますっ!」
そう言って地面を蹴った瞬間ミウラさんの体がブレたように感じた。
はっ…速いっ!先ほどよりも、ずっとっ!
写輪眼じゃなければ追えないかもっ!
「飛燕っ!」
集束した魔力を上乗せしての空中回し蹴り。
集束打撃。
その攻撃の威力は半端な防御なんてたやすく打ち破るだろう。
あたしは身をかがめ、前に出る事でその攻撃を回避する。
「わっとと…」
空振りの後、すぐに振り返り、再び集束を開始するミウラさん。
『ソード・ドライブ』
構えるミウラさんがさらに集束率を上げていくのが分かる。
「四天星煌…天破の型」
踏みしめた右足から魔力が迸り、空気を揺らす。
「抜剣…飛龍っ!」
蹴り上げた足から魔力砲もかくやと言った魔力の塊が打ち出される。
横に避けるともう一発と撃ち出されたそれを今度は高くジャンプして避ける。
しかし、それを見て強化された脚力で地面を蹴ると、追撃せんとあたしに空中で肉薄するミウラさん。
「はあああああっ!」
連打の応酬。
あたしは写輪眼で見切り、何とか正確にすべての攻撃をガードするが…
「う…くっ…」
伊達に集束打撃ではないらしい。
ガードをしてもその威力を殺しきる事は出来なかった。
最後は先ほどあたしがしたように空中でさらに蹴り上げられ、あたしを追い越し、フィニッシュ技を放つ構えのようだ。
「一撃必堕ッ……天衝星煌刃っ!」
集束魔力の全てを込めて打ち下ろされた蹴り。
「ソルっ!」
『チェーンバインド』
ジャラジャラと伸びる鎖のような拘束魔法。
「なっ!?バインドッ!」
蜘蛛の巣のように張り巡らされたそれで蹴り出された足を拘束するが、その威力はすさまじく、拮抗するも数秒が限度だろう。
が、しかし。その数秒で直線打撃軌道からははずす事は出来るはずだ。
ガチガチと今にも引きちぎられようとしているバインド。
「はああああああっ!」
裂帛の気合で引きちぎろうと力を込めた彼女はついにその拘束を打ち破る。
「やあぁーっ!」
しかし、次の瞬間、あたしは彼女の攻撃をひらひらと舞う木の葉のようにすり抜けた。
ドドーンっ…
目標を失ったミウラさんの攻撃は地面をえぐり終息した。
真下を見れば軽くクレーターが出来ている。
「いっ…威力高すぎでしょう…」
しかし、大技は消費も激しいようで、ミウラさんも肩で息をしていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「大技の連発…流石にやべぇか?」
ヴィータさんがこれ以上の試合は止めようと思案している感じだ。
「まだ…まだもう少しだけやらせてくださいっ!まだ…もう少しだけ、お願いしますっ!」
「…これ以上はダメだってあたしが思ったら直ぐに止めるからなっ!」
「はいっ!」
「リオさんももう少しお付き合いお願いしますっ!」
「はっ、はい…!」
真剣なまなざしで懇願されてあたしはつい了承してしまった。
互いに地面に足を着き、構える。
『ソード・オン』
またしても集束を開始するミウラさん。
「専用デバイスが無いから劣るだろうけれど…」
そう言ってあたしは魔法を行使する。
「あいつ、まさかっ!?」
「集束打撃?」
驚きの声を上げるヴィータさんとミウラさん。
今までずっとミウラさんの攻撃をこの写輪眼で見てきた。
集束方法にその使い方…
魔力を四肢に集束する。
「くっ…負けませんっ!」
「あたしだってっ!」
互いに魔力を集束し、強攻撃の一撃を繰り出すべく互いに駆け出した。
…
…
…
何回、何十回となく打ち合ったあたし達も、ついには魔力と体力の限界が近づいた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「はぁ…うくっ…はぁ…」
互いに息が上がる。
集束攻撃同士の打ち合いは消耗も激しく、お互いの体力を奪った。
「きゅーっ…」
「ミウラっ!」
駆け寄るヴィータさんが倒れこむミウラさんを抱きとめる。
集束攻撃をあたしよりも多く使用した分だけ、ミウラさんの消耗の方が多かったらしく、気絶したようだ。
「悪かったな、今日は付き合ってもらって。お礼はまた今度ケーキでも持って伺わせて貰うから、今日はここまでにしてくれねぇか?」
ヴィータさんの表情は優しいもので、よく頑張ったなと心の中で褒めているのではないだろうか。
「あ、はい」
「なのはも悪かったな。悪いついでにリオの事を送ってくれると助かる」
「あ、うん」
「今日の事でこいつはもっと強くなれる。本当にありがとう」
「協力、感謝する」
そう感謝の言葉を述べたヴィータさんとザフィーラさんは大事そうにミウラさんを抱えると、家路を急いだ。
「帰ろっか」
「はい」
なのはさんに送ってもらって帰路に着いたあたし。
「ねぇ、どうだった?今日の試合」
帰り道でなのはさんい問いかけられた。
「そうですね。ミウラさん、すごく強かったですね。それにすごく勉強になりました。魔法にはまだまだあんな使い方があったんですね」
「うん。そうだね。集束打撃なんて、わたしでもあんなにうまくは出来ないよ」
へぇ。集束魔法の使い手のなのはさんを持ってしてもなんだ。
「どう?DSAAに出てみたくなった?結構良い経験になると思うんだけどな」
あ、そっちに話を持っていくんだ。
「…少しだけ考えて見ます」
「うんうん。それが良いと思うよ」
その後は他愛の無い話をしている内に家へとたどり着いたのだった。
なのはさんに言われ、考えてみたけれど、答えは出せず。そのままずるずると月日は過ぎて、結局不参加でDSAAの地区予選が始まる事になった。
ヴィヴィオ達はいい所までは皆勝ち上がったけれど、結局地区予選を突破できずに敗退してしまったのだが、それでもその経験はヴィヴィオ達の中で大きなものとなったのだろう。
後書き
本当は、リオINフロニャルド その3 なのですが、番外編なのに結構長くなり、分割したらフロニャルドまで行けなかったので、Vivid編 その2 と言う事でお願いします。
次回はINフロニャルド編になると思います。
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