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23部分:第二十三章


第二十三章

「行くぞ」
「はい。それで場所は何処ですか?」
「ついて来るのだ」
 本郷より先に出た。そのうえで彼に顔を向けて述べるのだった。
「いいな」
「ええ」
 こうして二人は役が案内してまた大学の中へ入って行く。そこはゴシック様式の建物であり地下に進むような階段なぞ何処にもないように見えた。上へ向かう階段があるだけであった。
「一見するとないですね」
「あくまで見た目だけだ」
 役は本郷を連れて建物の中を進む。建物の中はゴシック様式ではなくロココの趣きがあった。それが微妙な違和感を醸し出していたが二人は今はそれには構わなかった。役はそのまま建物の中を進むのであった。
「あくまでな」
「では隠しですか」
「そういうことだ。ここだ」
 ある部屋の中に入る。そこはただの物置であった。
「ここは普段は鍵がかけられているようだ」
「鍵ですか。それじゃあ」
「怪しいな」
「如何にもってやつですね」
 本郷はそれを聞いて頷く。
「それは」
「そうだな。では中に入るか」
「中にですか」
「無論用心は必要だ」
 役の言葉も剣呑なものになった。
「しかしだ。こう言うな」
「虎穴に入らずば虎子を得ず」
 本郷も役に合わせて言葉を出してみせてきた。
「古い言葉ですけれどこれですか?」
「それだ。覚悟はいいな」
「何分いつもの仕事が仕事ですからね」
 今の問いに対する本郷の返事は実にいつもながらの軽いものであった。
「いいですよ、いつものことですから」
「よし。それではだ」
「中にですね」
「ああ、行こう」
「了解」
 こうして二人はその物置に入った。物置の中はまずはがらんとしてその端にそれぞれダンボールの箱が幾つも置かれていた。さし当たっては普通の物置だった。
「おかしなところはないようですね」
「一目見ただけではな」
 役は部屋の中を見回しつつ本郷に応える。本郷もまた彼と同じように部屋の中を見回しテいる。だが目ではおかしなところは見当たらないようである。
「別に何も」
「目ではわからないか」
「ええ。何もないようですね」
 役に対して答えた。
「あくまで目、ではですが」
「よし。それなら」
 ここで役は懐から何かを取り出してきた。
「これの出番だな」
 取り出してきたのは数枚の札だった。薄い黄色い色をした札であった。それぞれの札に手書きで黒い墨で行書で漢字で何やら書かれているのが見える。
「早速使うとするか」
「それですか」
「使い時だと思うが?」
「まあそうですね」
 本郷もその札を見て否定はしなかった。
「わからないのなら使うべきですよ」
「思いきりよくな」
「どうせあれですよね」
 本郷は笑いつつ役に対して述べる。
「札はまだ幾らでもあるんですよね」
「そうそう簡単に尽きるものではない」
 役もまたそれを肯定してみせる返事を述べた。
「数は幾つでもある」
「じゃあ迷うことはなく」
「使うとする」
 こう言って札を投げた。するとその黄色い札は全て小さな鬼になった。黄色い色をして頭に一本の角を持つ小さな鬼達であった。彼等はそれぞれ部屋を調べだした。本郷はその鬼達を見つつ役に声をかけてきた。
「今回は使わないと思っていたんですがね」
「それは私も同じだ」
 役は本郷にこう言葉を返した。
「ただの旅行だったしな」
「予想外ではありますね」
「しかし別にどうとも思わないな」
「思いませんか」
「アクシデントは付き物だ」
 平然として出した言葉だった。
「何事にもな。だから驚かない」
「そういうことですか」
「そうだ。さて」
 ここまで話したところでちらりと鬼達を見るのだった。
「そろそろだな」
「何かあれば見つける頃ですね」
「人の目は案外未熟なものだ」
 役は静かに言う。
「見えないものが実に多い」
「確かに」
 本郷もそれを否定しない。
「俺もそうですしね。どうにもこの目は見えているようで見えていません」
「君の目は千里眼だと思うが」
「それでもですよ」
 苦笑いで役に言葉を返すのだった。
「案外近くのものが見えなかったりしますし」
「老眼ではないのか?」
「二十代で老眼ですか?」
 役の言葉に思わず苦笑してみせての言葉だった。
「そんなの有り得ますかね」
「ないか。流石に」
「ですね。ないですよ」
 また笑っての言葉だった。
「要するに戦いの為以外の術も身に着けておくべきかって考えてるんですよ」
「そういえば君の術はそれ以外にないな」
「そうなんですよね。そっちの術は全部役さんですね」
「式神は色々使える」
 役もこう答える。
「こうした用途にもな」
「そうですよね。さて」
 本郷はあらためて式神達の動きを見る。部屋のあちこちだけでなくダンボールまで見回っている。見ている場所が実に細かい。
「何かあればもうすぐ見つかりますね」
「そうだな。むっ」
 役はここでその中の一つが部屋の中央で立ち止まったのを見た。
「どうやら本当に何かあったようだな」
「みたいですね。さて、何でしょうね」
「それが今からわかるな」
 他の式神達もそこに集まる。そうしてその部屋の中央の場所をその小さな手で叩いていく。役はそれを見て部屋の中央に移動したのだった。
 そのうえでまずは式神達に一瞥した。するとそれだけで彼等は元の紙に戻った。それを拾って懐に収めてから。その中央に自らの手をやったのだった。
「どうなっていますか?」
「隠し扉だな」
 役は本郷に対して答えた。
「これはな」
「隠し扉ですか。増々怪しいですね」
「怪しいなどというものではないな」
 言いつつ今度は自分で調べている。そして何かを見つけた。
「ここだな」
「今度は何が見つかりました?」
「これだ」
 掴む場所だった。そこに手をやると上に開いた。すると中から下りの階段が出て来た。本郷はそれを見てまた言うのだった。
「さらに怪しいですね」
「先に何かあると思うか?」
「間違いなくあるでしょ」
 本郷の言葉はここでは少し醒めていた。
「そうじゃなきゃこんな所に階段なんてありませんよ」
「そうだな。さて」
 本郷の言葉を聞きながらここで立ち上がってきた。
「中に入るか」
「そうですね。ただ」
「ただ?」
「その前に物置の扉は閉めておきましょう」
 本郷は今気付いたのだった。まだ物置の扉は閉めていなかった。半分開いたままだったのだ。役も言われてそれに気付いたのだった。
「忘れていたな」
「ええ。流石に今からの行動は見つかるわけにはいきませんから」
「そうだな。それではな」
 本郷の言葉に応えて左手を一閃させた。するとその服の袖から白い小さな札が出てすぐに白い式神となった。それが扉をロックしたのだった。
「これでよし」
「今度は扉をですか」
「式神にはこうした使い道もある」
 クールに本郷に述べる。実に落ち着いた感じだ。
 
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