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22部分:第二十二章


第二十二章

「何か全然何もしていないんですけれど」
「そういえばそうだな」
 役もそのことに気付いた。本郷の今の言葉でだ。
「今回は戦いもないしな」
「ですよね。俺って戦いがメインですから」
「まあそういう時もある」
 慰めはしないがそう言うのだった。
「いいか悪いかは別にしてだ」
「別ですか」
「それに休めていいだろう?」
 こうも彼に対して言った。
「それに旅行なのだしな」
「役さんだけ負担かかっているような」
「何、大した負担ではない」
 だからいいというのだ。
「この程度はな」
「そうですか」
「そうだ。それでだ」
「ええ」
 話は続く。
「君にも頼みたいことがある」
「表のことに関してですね」
「そうだ。リンデンバウム家とこの大学のことだが」
「はっきりした関係を調べておいてくれってことですね」
「裏は私がやる」
 ここで役割分担がはっきりと決まった。
「それでいいな」
「ええ。さもないと暇で暇で」
 笑ってこう答えるのであった。
「困りますから」
「そんなに暇か?」
「そりゃ旅ですからね」
 また笑って答える。
「楽できるにこしたことじゃないですけれど」
「それはそうだがな」
「けれど。それでも刺激は欲しいんですよ」
「刺激か」
「そうでしょ?退屈するよりはずっといいです」
「しかしそれだと」
 本郷のその言葉を聞いて思うことは。
「何故こんな場所に来たのだ」
「ここですか」
「そうだ。刺激はないと思うが」
「まあ気の赴くままってことで」
 また随分と言えば随分な返答であった。
「そういうことで」
「そうか。まあいい」
「いいんですか」
「とりあえず役割分担といこう」
「役割分担ですか」
「違うのか?」
「いえ、確かにその通りですけれどね」
 こう答えるしかなかった。他に言葉もなかった。
「じゃあそっちは御願いしますね」
「うむ。じゃあそういうことでな」
「ええ、そういうことで」
 二人は一旦別れてそれぞれの調べものに入った。その日は一日調べた。昼食もそれぞれ別に採り集まったのは夕刻になってからだった。キャンバスの中のあるベンチに並んで座りながら話をしていた。
「そちらは何かわかったか」
「予想通りですね」
 本郷はこう答えた。
「予想通りか」
「ええ。リンデンバウム家のことですけれど」
「うむ」
 それに応えて本郷の言葉を聞くのであった。
「どうだった?」
「予想通りって言ったらわかると思いますけれどね」
「それもそうだな。ではやはり」
「ええ。この大学の理事の一人です」
 そうした意味で予想通りであった。しかもまだあった。
「先祖代々」
「そうか。縁は深いのだな」
「この大学の創設者の一人でもあります」
 リンデンバウム家の祖先がという意味だ。それを考えるとリンデンバウム家とこの大学の関わりの深さがわかる。それはかなりのものである。
「それであの博士も」
「この大学に通っていたか」
「医学部だけじゃないですね」
 医者であるのはわかっている。しかしそれだけではないというのだ。
「工学と生物学でも天才的だったようで」
「博士号でも持っているのか」
「そうです。三つ共です」
 それだけでかなりのものであるとわかる。やはりハインリヒは相当な天才なのであった。
「三つの博士号を持っていますね」
「重なったな」
「重なった!?」
 今の役の言葉に顔を向けた。
「どういうことですか、それは」
「いや。私の方の調べものだが」
「ではそちらは」
「そうだ。地下に面白いものがあった」
 静かに語る。そのことを。
「それが何かというとだ」
「ええ」
「生命を蘇らせる方法だ」
「生命を、ですか」
 それを聞くと本郷の目も自然と鋭いものになった。彼等にとってはそうした話は非常に身近にあるものである。何故ならそうした話を解き明かし解決することもまた彼等が依頼される仕事の多くだからだ。だからこそ警戒もしていた。
「そうだ。生命をな」
「何か話が怪しい方向に向かってきましたね」
 その鋭くなった目で語る。自然と顔も鋭いものになっていく。
「じゃあひょっとしたら今回も」
「いや」
 しかしそれは役によって否定された。
「おそらくそれはないな」
「ないですかね」
「では聞くがあの博士から邪なものを感じるか」
 彼が聞くのはそこであった。
「どうだ、そこは」
「はっきり言ってないですね」
 本郷はすぐに答えた。それはもうはっきりしていた。
「あのフロイラインからは」
「お嬢さんからもないですね。そうしたことは全く」
「狂気は」
「それもないです」
 そうしたものは一切感じられない。二人は何も感じ取ってはいなかったのだ。
「といっても妖かしの気配も感じませんし。じゃあやっぱり」
「そうだ。あの二人には決して邪なものはない。狂気も魔性もな」
「けれど人を生き返らせたんですよね」
「そのことだが」
 話の核心について言及する。
「来てみるか」
 本郷に顔を向けて問うてきた。
「どうだ?」
「そこにですか」
「そうだ。無理強いはしないがな」
 一応はこう前置きする。
「どうだ」
「そうですね。興味はあります」
 本郷もそれは否定しない。しかしその顔は真顔であった。
「それもかなり」
「かなりか。では話は決まりだな」
 役は本郷のその言葉を聞いて納得した顔で頷いた。
「行くか」
「ええ。それじゃあ」
 本郷が先に立ち上がった。それに役が続いて立ち上がる。
 
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