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21部分:第二十一章


第二十一章

「そしてそれを知っているのはおそらく」
「博士ですか」
「あの博士は間違いなく何かを知っている」
 話がハインリヒに対しても及んだ。
「いや、彼だけが知っているな」
「あの博士だけが」
「医学の権威か」
「ええ」
 まずはそこであった。
「それだけかな」
「まだ色々と調べる必要があるみたいですね」
「そうだな。次は何処に行くか」
「といってもあれですよ」
 だがここで本郷は言うのであった。
「どうした?」
「もう時間ですよ」
「時間か」
「ええ、残念ですけれど」
 見れば公園には時計台もあった。ドイツ風の古い木造の時計台だ。時計の数字はローマ数字でありそこに二本の針があった。本郷はそれを見て役に言うのであった。
「四時前ですよ」
「今日は時間が経つのが早いな」
「かなり歩きましたしね。それに」
「レストランか」
「それですね」
 かなり飲み食いした。それだけの時間がかかっていたのだ。
「間違いなく」
「失敗したかな。それは」
「まあ仕方ないですよ」
 本郷はそれを仕方ないと言った。
「正直こんなふうになるとは思いませんでしたしね」
「そうだな。では一旦彼等のところに帰るか」
「そうですね。そこでも何かわかればいいですけれど」
「いや、今度はわからないだろうな」
 役はそれに関してはあまり期待していないようであった。緩やかに首を横に振るだけであった。
「残念だがな」
「そうですか」
「そうだ。だから今度はあっさりと帰ろう」
 そうして本郷に告げた。
「城の中でも。特に動かずにな」
「そうするのが一番ですね」
 こう結論を出してその日は静かに夕食を採り休みに入った。リンデンバウムの兄妹とも当たり障りのない世間話をしただけだ。そうして何事もなく一日を終えたのであった。
 次の日は図書館に向かった。それも大学の図書館である。
 大学の校内はかなり広かった。まるで大学の中のように森があるようであった。その学校の中を歩きながら本郷は役に対して言ってきた。
「でかいってものじゃないですね」
「日本にここまで大きな大学はそうはないな」
「そうですね」
 そもそも土地がないから仕方がない。
「森があるみたいです」
「建物も。凄いな」
 二人は大学の建物も見ていた。ゴシックやロマネスクを思わせる古い建築方式でありそれを見ているだけで飽きない。かなりのものであった。
「これがドイツの大学か」
「実際に見るとここまでとはってやつですね」
「京都にも大学は多いがな」
 二人が日本で拠点にしているのは京都だ。言わずと知れた大学の街である。学生と老人と美女には全く困っていない街である。
「それでもここまでの大学はない」
「建物にも歴史がありますね」
「しかもだ」
 整っているのは建物だけではなかった。
「学部もかなりあるな」
「ええ。あっちは」
 ここで本郷が左側を指差して言った。
「医学部ですよ」
「医学部か」
「それに工学部ですね」
 他には文学部や法学部、神学部等の行き先を指し示したものもある。学部もかなり充実していると言えた。少なくとも十学部はあった。
「医学部と工学部か」
「そっちに行かれますか?」
「そうだな」
 役は暫し目にだけ考える色を見せてから本郷に答えた。
「そうしよう。特に医学部はな」
「ですね。リンデンバウム博士の専門分野ですし」
「それにだ」
 ここで役はさらに言う。
「この大学は博士の出身大学ではないのか」
「博士のですか?」
「あくまでひょっとしたらだが」
 役は直感で言ったのであった。
「あの城からこの大学への通学は楽だな」
「ですね」
 歩くのは辛くとも馬や車ならば楽だ。その程度しか離れていないのである。それを考えればここに通っていることは充分に考えられた。
「それはまだ確証はないが。とりあえず調べるだけ調べてみるか」
「ですが役さん」
 本郷はここで役に対して言ってきた。
「どうした?」
「だからといってそう簡単にはわかりませんよ」
「少なくとも表にはない」
 それは役もわかっているようであった。目だけで頷いてきたのがその証拠であった。
「表にはな」
「見えないところですか」
「まずはまたこれを使うか」
 またここで数枚の札を懐から出してきたのであった。
「これで。中を調べてみるか」
「ですね。それにしても」
「どうした?」
「いえ、俺なんですけれど」
 苦笑いを浮かべながら自分のことを指差しながら言ってきた。
 
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