「シグナム、幾ら和室や言うても正座はきつない?」
「いえ、むしろこの方が姿勢が正されるように気がして心地よいです」
「あ、そういえば最近のお坊さんって正座しないらしいよ?」
「ホンマ?なんやイメージ崩れるなぁ・・・」
「お茶が入りましたよ、さぁどうぞ?」
「ありがとうお母さん」
「「「「ありがとうございます」」」」
「わう!」(訳:かたじけない)
「なーお」
正座はキツイ。血流も悪くなるしお年寄りが無理して正座し続けた結果立ち上がれなくなったりしたらお坊さん側としても心苦しい。よって「無理に正座をしなくてもいいのだ」と思わせるためにあえて進んで椅子に座るお坊さんもいるとか、そういう話だった。日本の文化もちょっとずつ変わっているわけだ。
文化と言えば、人を家に招くときに日本人はやたら気を使い過ぎで疎外感を感じる、とアメリカ人は思うらしい。アメリカのアットホームな文化に日本のわびさびだの気遣いだのが馴染まないのだろう。私は文化についてそんなに学があるわけではないのでその辺は分からないが、今私の両親が凄まじく気を遣っているのは分かる。
まぁそれはそうか。娘が半ば押しかけで寝泊まりしている一家が自分の家に遊びに来れば・・・それもその半分以上が外国人で、そのうえついこの間まで要介護者だった女の子まで来ているのだから気を遣わない訳がない。そう、今日は久しぶり我が家に帰って来たついでに皆も遊びに来ているのである。
「苗ちゃんの家、結構でかいなぁ。うちの家よりでかいんちゃう?」
「ああ、ここは元々2軒の家だったのをリフォームでくっつけたんだ。なんかおじいちゃんの我儘で元々ここに建ってた建物の横に和風の家を建ててたらしいよ?」
改めて考えるとうちの敷地は都会にしては結構広い。今になって思えばおじいちゃんは結構金持ちだったんだろう。もうだいぶ前に亡くなっているけど。前世では私が12歳の頃に死んじゃったからひょっとしてまだ生きてるかな、って思ったけど既に死んじゃってた。四宝剣を使えばまだ生きている事にはできるけど、その使い方は私の命の価値観が駄目だと警鐘を鳴らすのでやっていない。
リターン・トゥ・グレイブ。お墓に入っている人を起こしてはいけないのだ。
それはそうと、魔法についてどうなったか伝えておこう。どんな魔法を覚えるかで揉めたヴォルケンリッターの皆だったが、その段階に来てようやく分身の使い道が判明した。要は分身を使って全員の魔法を習えばいいのだ、と。幸い分身は私の魂の一部なので私の下に帰ってきさえすれば経験を全て本体が吸収できる。それを利用して1号が剣、2号が魔法の遠隔操作とハンマー、3号が格闘術と障壁、4号が結界・回復魔法と座学、そしてオリジナル私ははやてちゃんと一緒にベルカ・ミッド両方に通ずる魔力運用を教わっている。
剣では力任せに竹刀を振りすぎて壊してしまい、格闘術では力が有り余ってワンパン即死の威力。他の奴はそれなりなのだが特に格闘はザフィーラちゃんに「お前はもう適当に暴れてればええんとちゃうか?」と遠回しにジト目で言われた。リアルに力がありすぎて教えようがないそうだ。急遽もう一人分身5号を出して自分同士で組み手をしてそれをザフィーラちゃんが指導する形に落ち着いた。
自分を鍛えるのは自分自身。名付けて、最終鬼畜全部苗!!・・・かっこ悪いからやめよう。とにかく魔法については
恙なく進んでいます。いい加減なのはちゃんに「実は私、魔法少女だったのです!」などとほざく日も近い。
「まぁお父さんやお母さんには当分保留かな」
「何がだよ?」
「魔法の事」
「そうですね、急にそんな事を言われても困ってしまうでしょうし・・・」
というか私達、時空管理局とやらには気付かれていないのだろうか?気付かれてないんならそのまま知らんぷりして過ごしたくはあるんだが。
「管理局かどうかは断定しかねるが、何者かに数日前から気付かれているぞ」
「え。」
「そうだな、この家に召喚されたその日から既に監視の目があるようだ」
「え。え。」
「管理局製と思われるサーチャーも何度か来ていました。こちらの様子は恐らく筒抜けです。ほら、あそこに思わせぶりなサーチャーが」
「え。え。え。」
「ちょお待ってや!それって・・・私達もう目ぇつけられとる?」
「そういうことだぜはやて。今のうちに魔法覚えておかねえと後で何されるか分かったもんじゃねえ」
アイスを掬う使い捨てスプーンを加えてプラプラさせながらぼやくヴィータに私は一言言いたかった。
―――そういう大切なことはもっと早く言ってください。
さらば穏やかな
平穏。御免なさいお父さんお母さん。あなたの娘は狙われています。
= = =
とは言っても向こうが接触してこない限り騒ぎは起きない訳で。
「今日も今日とてやる気は起きず、明日も明日とてやる気は出ぬ・・・」
「ちょっとはやる気だそうよ苗ちゃん・・・」
既に受けたことのある勉強を延々と聞かされても退屈でしかない私はノートにパラパラ漫画を描きながらダラダラとしていた。朝学習という訳のわからない行事に付き合って先生の配ったプリントの問題を解くだけの時間。暇を持て余せばこんなこともするさ。
この時間は先生がプリントを配り、学習時間の15分を職員室でコーヒー一杯煽って過ごし、終了時間にプリントを集めてから朝のホームルームと言う流れになっている。よってプリントが終わったらおしゃべりし放題なのだ。
「そういえば知ってる?今日、ここに転入生が来るんだって」
「え?そうなの?」
「何で苗がそんなこと知ってる訳?」
「転校生本人に聞いたから。どやー!」
ふふふ、呆れて物も言えないようだなアリサちゃんよ。露骨に面倒くさい人を見る顔でこちらを見られた。すずかちゃんは朝が弱いのか珍しく寝ている。・・・本当に珍しい事もあったもんだ。なのはちゃんは純粋にこれから来る人物がどんな子なのかわくわくしているようだ。
と、そんななのはちゃんがふと思い出したようにこちらを向いた。
「・・・ねぇ、苗ちゃん」
「んー何かなー?」
「無いならいいんだけど―――町でフェレット見かけたことある?」
脈絡のない質問に果てと思った私の頭にはとある記憶が思い出された。だいぶ前、町を散歩中にそんなことが確かにあったような気がする、っていうかあった。
「ああ、あの外来種のブサイクフェレット♂の事?」
「ぶ、ブサ・・・その言い方はいくら何でもひどいよ!」
「えーだってー・・・せっかく人が親切で去勢手術のために捕まえようとしたのに逃げ回るし」
「きょせー・・・・・・よ、良く分からないけど駄目だよ苗ちゃん!その子私の家のペットなの!!」
「・・・・・・アーユーリアリー?」
「リアリーリアリー」
まじか。放し飼いは保健所の人とかに捕まりかねないからやめた方がいいよ。唯でさえ最近の自治体は外来生物に煩いからね。飼うのが面倒になった?知るかボケナスそんなもんは最初に飼い始めた自分が悪いんじゃ。
(苗ちゃん、ひょっとしてユーノ君に恨みでもあるんじゃないの?)
《えええええええええ!?いやいやいや僕は何もしてないよ!?》
(本当?実はスカートの中覗いちゃったとかしてない?)
《聖王に誓ってしてません!!》
(じゃあ私のスカートの中は?)
《・・・・・・・・・・・・・・・不可抗力》
ゆーぎるてぃー。その後、
淫獣がディバインシューターとアクセルシューターの的にされたことは言うまでも無いだろう。だが忘れてはいけない・・・淫獣とは浪漫であったことを、ペロリストや盗撮者には神と崇められても頷ける偉業を成し遂げたことを。さらばユーノ、さらば淫獣。安らかな眠りをフォーエバー。ノータッチの原則は神の理。
「なぁ、苗ちゃん。その・・・なのはちゃんやっけ?何でそんな怖い微笑浮かべとるん?」
「気にしなくていいよ。ちょっと魔王モードに入ってるだけだから」
こうしてなのはは見事にはやてから「怖い子」認定を受け、距離を縮めるのに四苦八苦する羽目になった。
また、実はあのフェレットが野生ではなかったことを知った苗は、なのはの怒りの矛が自分の方を向いていると勘違いして「やっちまった・・・」と内心焦りまくっていたとか。