やはり俺達の青春ラブコメは間違っている。
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第四章
やはり彼らの青春は歪み始める。
前書き
感想ください。お願いします。
『………う――』
これは――光?瞼の隙間から入り込む自然の光。
風が吹いたのだろう。サァー、っと衣擦れの音がする。
ここは何処だ?……眩しい。辺り一面真っ白だ。
「う、ん……ぐ」
視界が眩むので、目を手の甲でごしごしと擦ってみる。
しばらく擦っていると、段々と視界の靄が晴れていく。何だ、これ……。寝起き?俺寝てたの?
しかし想定とは裏腹に、外は明るい。――っ!?
頭を思い切りぶっ叩かれたかのような強烈な違和感……!
ようやく完全に回復した視界。恐る恐る、自分の手元を見る。
膝の上には歯形のついた布切れ。
椅子に継ぎ接ぎ足された木製の肘掛けには、固定された革製の手錠。
腹部にはベルトがもたれ掛かっていた。
そして、強烈な違和感の正体は頭部の爽快感……。
その為か、何だか酷く落ち着かないので、俺はそわそわとした様子で自分のポケットの中などを探ってみる。
刃渡り拾伍センチほどのナイフが制服の内ポケットに一本と、投げナイフが三本。投げナイフは片手の指に挟める分だけ制服の右側のポケットにあった。制服の内側全体一面に仕込まれているのはガムテープ、カッター、バール(のようなもの)、何かを砕くのに役立ちそうな装置、終いにはピッチリと肌に張り付くハンドグローブまで――その他もろもろ含め二十点、あわせて零円ナリ。
これでMk.IIlとC3爆薬を支給されていたら俺は、自分は以前何らかの形で某国から情報収集および兵器の破壊のため派遣されてきた工作員なんだと勘違いしてしまっていた所だ。って言うか勘違いであってほしい。切望。
とりあえず、頭を垂れ、脚を締め付ける二本のベルトを外す。金具を少し弄るだけで、バラン、と音を発てると、ベルトは弾けたように取れた。
「――っ!体が……身体中が、痛い」
特に胸部には焦げ跡すら痛々しく残っていた。
恐ろしい……。いったいどうしてこんな状態にあるのだろう。……俺は拷問でも受けてたのかよ(笑)。
俺はキョロキョロと教室を見渡す。……特に異常は無し――。
――ガラッ。
「……何奴っ!」
何者かが教室に入って来た。
今の自身の状態から推測しうるに、俺は何らかの拉致事件に巻き込まれた可能性が高い。
すかさずボタンを半分ほど開け放した制服の内ポケットからナイフを取りだし、構える。その間、二秒。
素人であれば充分すぎるスピードだったろう。
これも事前に装備を確認しておいたが為に、なせる技だ。ニヤリ。……って何それプロっぽいじゃねえか。
俺はナイフを握り直し、構える形はそのままに、そおっと手を傷付けないよう慎重に、左手を使い右ポケットから投げナイフを抜き出す。――先ずは投げナイフを使用し、先手を射つ。その跡は走り込みながら、残りの投げナイフを首に、そして丁度、相手が首を抑えたところで殺傷能力の高い拾伍センチナイフで腹部に一突き。
……トドメを刺す。
だから何なのこの完璧なまでのイメージ。――よーし、それで行こうじゃないか!
そうさな……。先ずは脚部!
……って、待てよおい。
俺は相手の顔を確認し、呆気にとられる。
「何者かと思えば雪ノ下さんじゃないか」
「ごきげんよう、桐山くん。いい髪型だと思うわよ。ええ本当に……」
「………」
ちょっと頭の中を整理してみよう。
教室→雪ノ下雪乃→奉仕部――→監禁。
……oh……!
――すべて謎は解けたッ!
「ああ、ああ、畜生なんてことしやがった!出てこいてめえら!一人ずつ一列に並べて捩って壊して切り揃えてやる!」
俺口悪ッ!……まあでもしょうがないよね!
俺が呼び出すとわあ、出てきた出てきた。すげえ嫌そうな顔しやがって。
俺の方が百倍嫌な思いしてるっての。
つーか、こいつら全っぜん悪びれねえのな。超不満げ。ちょっとー平塚先生、ここ教育行き通ってないデスよー。いつもの鉄拳制裁お願いしますよー。ねー。
「うわっ、桐山くんマジギれ?」
「その髪型じゃあ迫力もないだろ……」
うるせえよ。ってか柄悪ッ!
由比ヶ浜ちゃん。以後ちゃん付け無し!さん付け無し!
比企谷はヒッキーに格下げ、っておいおいソレ親しげじゃねえか。それじゃあ以後『ソコの』で。
それにしてもさっきから髪型だの何だの言ってクスクス笑っていやがる。
「俺の頭がどうかした……の、へ?」
俺の髪が――ナイ?
え?
ない、ってアレだ?『内』とか『廼』とか『綯い』とかの『ない』じゃなくて、まあさっきの流れから言っても『無い』ですよね?え、『亡い』でもなくて、
――『無い』の方だ?いや『亡い』でも困るけれども。
つまるところ俺の頭、――この場合、一般的には頭髪を指す――が、ナッシングの方の『無い』ってことだ?
え?ちょっと突然の別れで受け入れられないんですけど……。
俺は自分の頭を撫でくり回してみる。
ただ、何度触ってみても、本来そこにあるべきである毛髪は存在していなかった。
ただ、硬い皮膚だけが俺の指を圧迫――いやアぁぁぁーっ!
「嘘だ嘘だと言ってくれえ!」
涙を流す俺。
しかし、いや、やはり彼女は無情である。
雪ノ下雪乃はにっこりと嫌な笑みを浮かべ、あるものを取り出した。
――スタンガン。?と、一瞬考え、身構えたが、現実はもっと容赦なかった。
それは同じく長方形ではあったが敵を行動不能にはとても出来そうにない。
しかし、俺の意識……いや、 髪 を刈り取るには充分すぎるモノだったろう。
ソイツが発する振動音が、俺の動悸を狂わせる。
(ウィーンウィンーウィーン……)
――バリカン……!
俺はまたもや気を失ってしまった。
× × ×
「まさかパーティーで使う出し物用のプラスチック製のカツラであんなに効果があるとは思わなかったよ……」
由比ヶ浜はしょげていた。何だか申し訳なさげに俯いてるようにも見える。
でも、騙されない。知ってるぞ、俺。その実、楽しげにクスクス笑ってんのをよ。
「二度目以降は亡いぞ?」
「――~っ!」
俺は脅すが、これ様にならねえよな……。
おいコラあからさまに吹き出すんじゃねえ。
由比ヶ浜結衣。面倒なイレギュラーだ。
俺は少し視線を外し、彼女の足下に転がるカツラに目をやってから、この奉仕部全体の連中を睨む。
「比企――おい、ソコの。どうして止めなかったんだよ」
「……ワリィ。だが、アレだぞ。ほら、なあ。平塚先生がさあ――」
嘘くせえなぁ、オイ。……まあ、良いや。どうでも。先生マジ外道だわー……。
どうにしたって元凶はコイツだ。――雪ノ下雪乃。
由比ヶ浜に換価、いや管下、それも違くて、看過、いや全部あってる、――ナンカされて血迷ったんかね。
あるある、よくある。らしいねそう言うこと。
僕もちょっとあった。そう言うの。――それは勿論。
……『調子が狂うってことだ』。
どうしてか変な行動とっちゃうんだよね。
つまり、あれだ。由比ヶ浜結衣は形は違えど『無為式』ってな訳だ。ナンチャッテ無為式。
一緒にいると、調子が狂う。
その結果どうなるかは分かったもんじゃあ無いけれど。
悪意のない、かと言って意識された無意識でもない、『無為式』。
……けど関係ないや。僕は決して『壊されない』。
「よくわからないが雪ノ下、こう言うのはもうヤメロ。じゃなければ俺、奉仕部やんなっちゃうからさ」
「……けれど、いい髪型よ、それ。まあ、私が切ったのだから当然なのだけれど……」
俺が女だったらいい髪型と言えたのだろうが、ちょっと俺のカーストに合わないんだが?
鏡を見たときに、自分が自分の顔をめっきり忘れていたことに気づいたけれど、さすがにこれは違和感ありすぎだ。……マジ俺男の娘。これなら毎朝いけない妄想に浸れるね♪
それにしても髪が短いのは何だか落ち着かない。
あと、何かとポジティブシンキングに徹しているが、正直ショートカットなヘアースタイルは好みでも、ショートヘアーな俺は好みで無いのである。
しかし、自分の顔を忘れていたようなので、まあ持って二日だろう。いいや、待ちたまえ。全くの無意識ではあったが、いったい何が持つと言うのだろう。妄想期間?マジで妄想する気なのかよ俺……。無為式より無意識の方が俺的に怖え!
「髪型については今後触れないでくれ。と、言うけど、今後があるかはいつもいつの日も分からないけれどもね。……まあ、とにかくアレは精神的にキツイ。マジでやめろ。なんかアレだから。目を瞑らせたあと小さい傷をつけ、それから人肌の温度と同じ温度の水をかけて念殺する実験みたいだから。怖ええよバカ!想像で人は死んじゃうんだぞ!」
危うく恐怖で息を引き取るところであった。これ未遂じゃね?
「ええ、ごめんなさい。謝るわ」
「謝らなくていい。一人でウジウジしてろ。だいたいお前、雪ノ下。悪いとなんて思ってねーだろ?」
「ええ」
ええじゃねえよ。
イライラするなー糞。
俺は首に擦れるネームプレートのヒモをちょっとずらして、ナイフをそれぞれ、もとあったポケットに戻す。
それでもって散髪したての頭をくしゃくしゃして、近くの椅子に座った。ちなみに一番近かったのは拷問椅子だが、これは論外。優しい誰かに片付けて貰うとしよう。……いねえな。
俺が興味無さげに座るのを見て、他もガタガタと引きずってきた椅子に座った。
……何か、やるせねえ――っ。
落ち着かず、俺はまた頭をくしゃくしゃしてしまう。
「うわわわわ!ダメだよ桐山くん!あああー、せっかく可愛く纏まってたのに……ハッ、もしかして照れ隠し!?」
照れてねえよ。どういう思考回路だ!
デフォルトで逆転の発想してちゃ駄目だろ。
「ま、女装してる訳でもねえし、気にすんなよ。短いんだし、ボーイッシュだって」
「フォローしたつもりなのだろうが、ボーイッシュは男に遣う言葉ではないと思う。ボーイはボーイッシュでなく、単純にボーイだからな。『ボーイらしい』んじゃあねえんだよ!」
もしや、あなた方グルですか?実は仲良し何でしょう?
「とにかく、まだ部活は続いてんだ。いつ誰が依頼に来るか分からない。でも、だからこそいつ来ても良いように、こちらが準備を整える必要があると思わないかい?」
「……んぅ」
躊躇う三人。ようやく酔いから覚めたか?
ならば悔やみたまえ、恥じらいたまえ。
そして、もんのっすごい虚無感に襲われてろ。
俺は鞄から本を取りだし、黙って読み始める。
「いや、なら本を読み始めるのは不適切ではなくて?」
痛えとこを突きやがる……。
「とにかくはしゃぐのがダメなんだ。中学生のころ学ばなかったの?自習の時間でも本は読んでよかったけど、お喋りはダメって言われたで、しょ……ああ、お喋りなんか出来ねえか。――って俺もだ……」
相手がいないと言う悲しい理由だった。
「まあ、良いのだけれど……」
「………」
「………」
「………」
「……うぐっ」
「おいそこウッセー咳き込まないで」
沈黙にやられ、空気を変えようと咳き込んだ八幡を黙らせると静かになった……。
しかし、何なのであろう。この奉仕部とやらは。
人助けのボランティアする部活であるハズなのに、皆黙々と読書をしている。
することねえんだろうな、奉仕部……。
まあ、それでも良いんだけど――。
「………」
ただね。ほら。
せっかく皆集まってんのに俺が黙らせたみたいになってる状況は不味いんじゃねえかなと思うんだな。
まあ、確かに俺は静かなのが好きなんだよ。ちなみに先生は好きじゃない方の静な?
でもさ、ねえ……。
『一人の主張や価値観を他人に押し付ける』のって、俺の主義に反してると思うんだよ。
たった一人。それも俺みたいな奴の価値観だぜ。押し付けられた方は堪ったもんじゃない。
家族でも友達ですらねえんだから、それって御法度だよね。
それに『絆』を育む。その邪魔をするわけにも行かないし。
それが永久でない、ごくごく一時的な、脆くて淡くて、しょうもなくて、くだらない、マガイモノだったとしてもさ。
それを邪魔する理由も、権利も俺にはないのかも知れない。
それにコイツらいつの間にか仲良さげになってるし。ナチュラルに俺が除外されてるまである。
……まあ、普段から完全に世界規模で除外されてるんですけど。
俺は何気なく、バカみたいに将来のことも、また、身近な危険も忘れてはしゃぎ、お喋りなんかを始める彼女らを、頬杖をつきながら眺める。
「ねえねえ。いきなり何なの?」
「いや、ただの千葉県横断ウルトラクイズだ。具体的には松戸 ー 銚子間を横断する」
「距離みじかっ!」
「んだよ、じゃあ佐原 ー 館山間にすればいいのか?」
「縦断してるじゃない……」
『おーおー、楽しそうにしやがって……』
俺は、学校で親しくなったヤツと友達になること、それ自体は否定しない。
なぜなら人間関係を持つことも、学校の授業の一環なのだろうから……。
せいぜい価値のある人間関係を築けるとイイネ。
まあ、それでも俺はそんなん出来ないし、どう頑張ったって出来ないことをするのは、例え授業でも、不毛である。俺は女っぽさより、やっぱ除け者がよく似合う。
少し乱暴に、ネームプレートを机に叩きつける。
もう、調子は狂わない。例外などない。本当にいい夢であった。
世の中がどうでもよくなった。人がどうでもよくなった。
疲れるだけ。眠いだけ。寂しいだけ。哀しいだけ。
本当に自分はくだらないと、感情など取って付けただけのガラクタだと、
――灰色い世界でそう思った。
ってかそれより今日休日だぜ?みんなよく来たよな。
しかも由比ヶ浜は部員じゃねえしよ……。
それより休日に依頼なんて来るのかよ。
なんて……。まあ良いや。寝よ――。
× × ×
数十分後……。静寂は唐突にして破られた。
「剣豪将軍 材木座義輝ゥ……いざ尋常にィ、参るッ!」
バッシャーン!と、言うバカでかい音で目を覚ました。
どうやら何者かがドアを勢いよく開いたらしい。ドアから勢いよく白い紙がバサバサと飛んできて、ふわりと上がり、宙を舞った。
いきなり誰だよ、まったく。いや、名乗ってたけどさ……。
「フッフッフ。やはりここに居ったか比企谷八幡。……ふっ、実に奇遇だなあ」
おいおい、『やはり』って言ったのに奇遇ってどう言うことだよ。
絶対どっちかは嘘じゃねえかよ。
あとその笑い方ヤメロ。
「うおぉおぉ……」
「どうしたソコの」
比企谷が呻いていやがる。呻いて嫌がる。超苦しそうだ。何かもう『苦悩』って感じだ。
痛そうに、苦しそうに、いきなり現れた男の存在を認めたくないかのように。
……このウザいのがそんなに嫌なのかよ。――全く。ちゃんと俺で免疫付けとけよな。……ってあれ?これって自虐ネタじゃね?
「そう言えば昨日偶然うっかり教室であったよね?その日はソコの奴がいなくて帰っちゃったけれど」
「うっかりとか奇しくもみたいに言うなよ。ってか奇しくもじゃなくて『苦しくも』の方がこの場合的確だと思うんだが……。って苦しそうにしちゃダメだろ!可哀想じゃねえ……か。ねえな。――何だ俺も充分苦しいや」
比企谷も納得のようだ。
材木座義輝と名乗ったデブの癖に顔のパーツはキリリと整ったアンバランスな男は、いきなり顔を強張らせ、言い放つ。
「……?御主――何奴っ?」
ソッコーで忘れてんじゃねえよ。俺のことだから仕方ねえけれども。
ってか忘れられてんじゃねえか俺。これって比企谷に任せた方が良いフラグじゃね?
そうだよそう何だよ。こいつの相手は比企谷の特権。八幡の素敵なお仕事だから。
「つか、お前何でここにいんの?」
「ハーッハッハ。強がりは結構!御主の今の状況……我が手助けしなければ死んでしまうであろう。……それは、まだ、ちと早い。共に戦った戦友よ!戦場で芽生えたわずかばかりの、些細な絆ではあるが、剣豪将軍 材木座義輝が、――駆け付けたァ!」
「うおおぉぉぉおぉ……」
「ハチマン、気を確かに……!」
あまりのウザさに比企谷が拒絶反応示しちゃってるよ。
やべーよ。これやべーよ。材木座と言うたった一人のイレギュラーで人一人の精神が崩壊するまである。
まあ、それにしてもこの反応は過剰な気もするが……、もしかして過去に引っ掛かるトラウマとかあるんだろうか?まあ、例えばの話だけど、昔、中二病患ってたり……とか。流石にそれは無いか(笑)。
中二病、と言うワードで思い出したが、まだ、材木座についての説明をしていなかったみたいだ。
彼の名は材木座 義輝。体格はデブ。
顔はキリッとしているものの、デブ感は否めない。他のことについては特に知らん。見事に外見だけである。ちなみに完全なる憶測だが性格もきっとブス。言い過ぎかも知れないが、比企谷とはまた一風変わったベクトルで腐っている。
そして、何より彼は中二病だ。
さっきの説明が全て無意味とさえ思えるほど、ここまで彼を単純明快に表す言葉もないだろう。
例えば、自分のことを剣豪将軍と呼んだり、劇的な登場をしたがったり、――面倒くさいから要約すると、思うようにならない現実をフィクションで誤魔化すことで何とか精神の平衡を保っていて、でもまあウザさを取り除けばワリと良い奴なんじゃないかな?と、フォローになってないフォローを入れられるような人間だ。
精神の平衡。
それは俺も同じように『どうでもいい』と切り離すことで自分を誤魔化し、一応の精神を保っているのかも知れない。『どうでもよくない』と思って行動したが最期。死にたくなって終わりだ。
俺は辺りに舞う白い紙をナイフでスパスパ切り裂いて、憂鬱な気持ちで虚無感を圧し殺す。
何とない感情を圧殺するために、『材木座はもうすぐ初夏なのにコートなんか羽織って、おまけに指ぬきグローブなんてはめて暑くないのかな。汗かいてるし、絶対暑いよね?』なんて、他人を気遣うフリをしてみる。興味なんか微塵も無いくせに……滑稽だ。
「比企谷くん。この人は誰かしら?」
雪ノ下は比企谷に問う。
「いや、こんな奴は知ってても知らない」
比企谷。それは矛盾だ。
知っているのに知らないなんて事はありえない。ちゃんと「知らなかった事にしたい。ダメ?」ってお願いしとけ。その時は無囲色と言う無興味に免じて許してやる。
そして劇的を求めし哀れな生物は比企谷の見え透いた嘘にも騙される。
「まさか、この相棒の顔を忘れたか?……ふっ、見下げ果てたぞ、八幡」
「相棒って言ってるけど?」
由比ヶ浜が比企谷を『クズはもろとも死ね』と言う目をしている。可哀想に比企谷。材木座と同類と見なされているようだね。――そりゃあ厚手コートの指ぬきグローブ奴と『相棒』、だなんて呼び合う奴は普通じゃないよな。一方的に呼ばれるだけであって呼び合っては無いだろうけど……。
――と、俺がふわあ、と欠伸をしたところで馬鹿が馬鹿なこと吐かしやがる。
「だが、我のことを思い出す暇もあるまい。……我には分かる……。我と八幡。そして女子が三人!これが何を意味、するのか……。――助太刀するぞぉお!さて、ここは一旦逃げるぞ、八幡!」
助太刀するのに逃げるってどういうことだよ。お前不要じゃねーか。
「……いや、それよりちょっと待ってくれ。ここに女子は二人しか居ないんだが?」
――返答次第では訂正が必要なんだが……。
と、俺が前へ乗り出すと、奉仕部三人衆がこちらをじっと見てくる。――俺、迷わず目を逸らす。
何だよ。顔に何か付いてたか?
ま、そんなことは今、どうだっていい。今じゃなくてもどうだっていいけど。
「材木座くん。男子はここに何人いる?試しに指さしてみてよ」
材木座は調子を崩され「は、はぁ……?」と、戸惑いつつも、比企谷と自分を指さした。
「じゃあ女子は?」
「………。――痛いっ!」
「おぬし、なにゆえだ……」
材木座がこちらを指さしたので軽く捩ってみた。
……糞が。ふざけてやがる。
「昨日ここであったはずだ、が……って忘れてたか。端的に言う。俺は当然のように男だ」
「むぅ?男が何故……カ、カチュ……髪留めなどをしているのだ?」
「――は?」
クスクスと笑う周りの連中。……まさかと思い、頭を擦ってみる。
……HQ、HQ!こちらKIRIYA。頭部にカチューシャを発見した!直ちに、破壊する。
「――教えろやっ!」
勢いよく、とっても可愛くて女の子らしい、花飾りが付いたカチューシャを地面に叩きつけ、地団駄を踏み、それを砕いた。――俺より。オマエらに殺意を込めて★つーかいじめじゃね、これ?
「滑稽だな。……で、何の用だったんだよ、材木座?」
まだ終わってねーよヒキガヤ。勝手に話変えるなよ。
あと、滑稽じゃなくてこんなの酷刑だ。公開処刑だよバカ。
お前ら俺の頭で遊び過ぎだと思う。お父さん禿げさせんなよ……?
「お、我が魂に刻まれし名を口にしたか。我が剣豪将軍・材木座義輝の名をっ!」
名乗るの何度目だ。
俺はコートを強く靡かせ、ぽっちゃりした顔をやたら男前にきりりっとさせる材木座のわざとらしさの滲む仕草を冷ややかな目でみる。
しかし、ずっと妨害されてきちんと言えなかった自分の名を名乗れ、材木座は満足そうだった。
「それにしても最近の男児は女々しいのが多いな。この三人など完全に見た目はおなごではないか」
「いや、こいつが例外的に男子で、あとは普通に女子だからな?」
「………」
「例外言うな!例外だけれども!」
俺帰ろうかな……。もう昼になっちゃうし。
「ねえ、盛り上がってるところ悪いんだけど……剣豪将軍って……なに?』
……。
………?
…………――っ!
何か唐突に病んでらっしゃるー!?
まるで『この髪の毛……なに?』で、お馴染みの、夫の浮気を探る妻ばりの冷めた声で比企谷を問い詰めたよ!?怖いよ?目の色もカッコも俺そっくりだよ?
つまり、こいつとヒッキーが友達だったらどうしてしまおうか、と言う魂胆だね!分かります!なので帰らせて下さい!
俺が又もや心にもない事を嘯くと、比企谷は頭を――よりも心を痛めたのか、苦しげな表情を見せた。だが、彼にとって一番痛いのは由比ヶ浜と雪ノ下の冷たい視線なのだろうが……。
「材木座くんは比企谷と体育でペアを組む仲なのさ」
女子二人に怪訝な目で睨まれて怖じ気づく比企谷の代わりに俺は答えた。
「――そうなんだぁ……へぇ」
なぜ俺を睨むデスカ?
俺は凸を出しながら思った。何だっけアレ?ミョルニルハンマーだっけ?それともミョルンニュルンハンマーだっけ?超どうでもいい。ちょっと中二病繋がりで思い出しちまった。
それにしても、ぼっち――すなわち交遊関係が零で友達がいない者にとって、体育のペアと言うのは地獄すら生ぬるい物であろう。それを共に乗り切る関係は確かに『相棒』と、言えなくもないかもしれない。
俺はそれが他人で有る限りペアは組めないので理解はし難いが……。
だが普段の比企谷の行動を見る限り、材木座と他の誰かをトレードできないかと考えているようではあった。まあ結局、相手が材木座を嫌がるのでそのトレードは成立するはず毛頭ないけど。
一方で自分がFA宣言し、他のペアに移動することも考えたようだ、が……比企谷クラスほどにもなると契約金の桁が違うのでうまくいかないらしい。
俺も同じような理由で、こちらの方はあまりの技術、また、能力ゆえ、その存在すら知られず、未だに実力を世に知らしめる事もなく、今に至っている。違うか違いますか違いますね俺もあいつらも友達がいないだけなのと存在が薄いだけでした。
「類は友を呼ぶ……と、言うやつね」
雪ノ下。こいつ比企谷に最悪の結論を出しやがった。
「比企谷。弁明を頼む」
「そうだな、材木座も別に友達じゃねーし」
「ふっ、友……か。懐かしい響きぞ。――そんなのは既に最高の者を喪っているわ。あの、奴と暫しを共にした戦場でのあの日々が……全く、懐かしいものよ。しかし、友と言うのはもう懲り懲りだ。……其れにしても、今となっては清浄なる室町が懐かしい――そうは思わぬか、八幡」
「思わねえよ。あともう死ねよ」
「ククク、死など恐ろしくはない。あの世で国とりするだけよ!」
「死ね、と言う言葉への耐性だけは強いんだよね。こう言う人間は……」
さて、俺もそうだけどさ。
俺なら死ねと言ってきた奴に『じゃあ、替わり番こにお互いナイフで肉を削ぎつつ死んで遊ぼうぜ』と、提案するところだ。
まあ、こうして口先だけなのも俺が真に「無敵」だからである。ちなみに味方もいない。
……なにそれ寂し過ぎる。
「うわぁ……」
由比ヶ浜さんがあからさまに引く。
何か顔が青ざめているようにも思える。……もう、病んではいない。良かった。
ヤンデレもたまには良いけど、ほどほどにね?ヤンデレとメンヘラの境界線だけは守りましょう。
あとヤンデレ特有のスマイルがない、ただ病みまくってるだけの美少女にヤンデレの価値ってあるんだろうか?僕はないと思う。しかしヤンデレとメンヘラの違いってあったっけ?最近よくわからないし、現実と萌えを重ねてみても得るものは無し。
俺は考えるのをやめた。
「それよりも、材木座くん。君はどうして奉仕部に来たのかな?」
「ぬ……。やはり平塚教諭に教わった通り、ここが奉仕部であったか」
つまり依頼があるんだね、と俺は察す。
「依頼内容は何だい。そろそろお昼だし、手っ取り早く済ませてくれないか?」
「……あ、う、もはん!実はだなあ……」
そうおかしな吃り方をした材木座は膝をゆっくり曲げ、しゃがみ、散乱した紙の中から一枚、拾い上げた。
……字がびっしりと詰められた原稿用紙。作文……異、――これは、
「……小説?」
半信半疑、と言うよりは二信二疑六面倒な感じだが俺は材木座からその紙を受けとる。
どうやら当て付けなアテは当たっていたらしく、それは小説の原稿だった。
しかし、チラと目配せ程度で二、三行読んでみたが呆れるほどに駄作臭が漂っていた。うん、とても香ばしい。
夜ナントカ暗黒なんちゃら紅カントカ、とかいう単語に『ダーククリムゾン、なんたら』とかいうルビを振ってる時点でお察しなレベル。まさしく『ぼくのかんがえたとてもおもしろいらいとのべる』みたいな黒歴史になり得る代物だ。
「ほお、ジャンルはライトノベルか……」
興味を持つなよ比企谷。こいつはつまらない。
何がつまらないかって、もうタイトルからしてつまらない。
『双刀は交錯し 反転世界は流転する』――略称・《はしはる》。
……なんじゃこりゃ。まあ、内容をタイトルで判断するなとは言うけれど、それでも渋っちゃうくらい何やらアレな感じだ。あと、略称とか自分で考えるってあなたバカなの?そんなにトラウマさんつくりたいの?一応言っとくけど、トラウマさんってトラさんとウマさんでもなければシマウマさんのご親戚ですらねえぜ?精神的外傷の方だぜ?略称は公式の広報に任せとけよ。
さて、とにかくこれは酷い――、
『実は……お主らに、その……この小説のか、感想が、欲しいのだ……!』
何が酷いかって、これを俺らはともかく後ろの女子二人にまで読ませようって魂胆がもう酷い。
「分かったが、別に俺たちに頼まなくても良いんじゃないか?あらだ、ほら、小説投稿サイト……とか、あるだろ?暁とかなら登録もわりとすぐできるし良いと思うぞ」
最もだ、比企谷。
今はいろんなツールがあるんですし、わざわざ学校の同級生に頼む必要もないと思うのですよ。いや決してめんどくさいとか面倒だとか興味がないとか無関心とかではなくて。うん、純粋に頼む必要がない。
マジめんどくさい――あっ……。
俺が「察し」ていると、雪ノ下が静かに決断を下した。
「まあ、それはともかくとして、今日はいったん各自帰宅ね。他の部活とは違って私たちは昼食を用意してはいないのだから。その小説は……自宅で拝見するわ」
「……そうだね!お母さん絶対心配するし!」
雪ノ下の提案に由比ヶ浜が納得する。比企谷は黙って頷いていたが、表情には疲れが滲んでいた。絶対ちょっと読んじゃっただろ。……だからつまんねーぞって忠告したのに……アレ?結局なにも言わなかったんだっけ?
そう言えば心の声だった。
「そう言うことだから、今日はいったん……あ、違う。全員分ちょっと職員室で印刷してくる。……小説の原稿渡してくれ」
俺は材木座から原稿を受け取り、歩き出す。
……そう、これが奉仕部の活動である。やっぱめんどくさい。
平塚先生はこれで俺は変えるつもり何だろうか。正直なところ良くわかってない。
実際、精々おまけってトコなんだろう。俺は付属品かよ。
そのまたおまけに致命的な欠陥付きでもある。……やだ、惨めすぎて死んでしまいそう。
とか何とか考えると体がふわついて平行感が保てない。何だか酷く無気力だ。
「今日って吹奏楽部の練習はないのかなぁ……って言うかこの学校に吹奏楽部ってあるんかな?」なんて的外れなことを嘯きつつ、一際シンと静まった廊下を歩いていた。――無音。意味もなく無惨でもなく、ただ在るだけの無音。
足音すら、廊下の先に吸い込まれていく感じで、僕は自分の存在について疑問を抱く。
自分がいなくなって行く感覚がした……。決して、比喩でなく。
しばらくもたもた進んで行くと、ようやく《職員室》と書かれたプレートが視界に入った。……やっと自分が生きてる心地がした。まあ、心地だけで何だか酷く寂しかったけれど。
うわぁあん!三十路ひらつか先生可愛いよお!婚期逃して涙ながらに駆け出していく静たん可愛すぎてなのかそうでは無いのか分からないけど生きるのがつらい。大人になったら先生を僕が迎えに行くからね!?僕も寂しかったんだよう!……って俺はウサギさんかよ。――否。こんな気持ちの悪いウサギを認めてたまるか。人参で窒息しろ。
それにしても残り物同士のカップリングとか案外アリだと思います。世間体的にナシなだけで。
でも平塚先生は可愛いお人ですし、僕なんかじゃ釣り合いませんよね。わかってます。
本当に、《手なんか届かねえよ》。
……嫌だ。惨めすぎる、死んでしまえばいい。
「失礼します」
「……桐山?か?今日はどうしたのかね?桐山?」
忙しないクエスチョンだなー。小説での乱用は控えましょう。
でもそんな平塚先生らぶー。ホントに好き好き大好き養って!……それにしても俺はさっきからどうかしちまったのかよ。
別に好きじゃないだろ。
「あの、ですね。コピー機なんかを御借りしたいのですがね、経費って部費か何かで落とせますか?て言うか奉仕部って部費あるんですかね?」
「あるには、まあ、ある?」
……嘘だろ。こんな奇妙な部活に部費が出るんですか?日本大丈夫ですか?
思えば「隣○部」やら「S○S団」やらって部費とか出てるのかしら。
そもそもS○S団、部活だったっけ?同好会的なアレじゃあないんですか?……なんか記憶が曖昧である。
隣人部についても記憶が曖昧だが、とりあえず部費はともかくブヒが出るという下らん駄洒落でご勘弁いただこう。……あれ?何か思い出してきた。部員に金持ちがいるから部費は要らんよってスタンスでしたっけ?
「それなら、まあ、コピーさせてください」
「……!お、おう。今日はやけに素直じゃないか」
「そうですかね」
特に意識はしてないけど。つーか、そもそも全然意識とか無いけど。……俺は寝たきりかよ。
俺はそんな風なことを考えながら、コピー機で三人分の小説の原稿を刷る。
取り敢えず暇なのでコピー機から流れ出る原稿を眺めることにした。
一枚。……二枚。………三枚。で、四……と――おおー、どんどん出てくんだなー。人間の技術力ヤバいな。速い速い。これならあっという間だぜ。
ウィンウィンウィンと音がするので軽く耳を澄ませてみたりする。
「桐山。ちょっと話でもしようか」
「……突然なんです?」
せっかく落ち着いた気になれたのに。
いや、何を怒っているんだろうか、俺。そんなにコピー機の音に執着する理由なんて無いだろうに。
或いは熱い説教のお時間の始まりを予感し、それを本能的に拒否しているのだろうか。
感覚的には前者だが、状況的には後者だろうと思う。……どっちでも良いが俺を帰らせろ。
「話というのはだな?無論君に関してなんだ」
「僕に……関して?」
「そうだ。字の如く、お前に関わったことで話そうと言っている」
……どうやらこの人、俺と真っ向勝負する気みたいだ。
《果たして、僕は何とも関わらずに人生を全うできるのか!?否か!?》みたいな。……なにそのフレーズ。聞こえは少年誌の次回予告のコメントみたい。中身はひでえもんだけど、それっぽい。
よし、頑張ろう。……頑張るって何だっけか。こんなに下向きなことだったかな?
とにかく言いたいことは、
「俺の戦いは、まだ始まったばかりだ!――完!」
「さっそく終わらせようとするんじゃない!始まったんじゃないのか!?」
そんなこと言ったら打ち切られた漫画家さんに酷だろ……。
仕方ないんだよ、ああ言う《いつ追いやられるか分からない人達》には……いや、彼らだって美しく、有終の美を飾りたい。納得のできる結末を描きたいのだ。
しかし、時により作品は思うように完結しない。
最高を夢見たものが途中に失せることもある。
それは他人に評価されるものの宿命だろう。評価が下がれば、いずれ評価に値しなくなり、消え失せる。評価されないから消えていく。それは、まるで僕のようだ。
評価を望まなかったから、消えて行く。作品は、作品の求める結末なるままに……。
物語は途中で打ち切られる。
それは、時に誰かの都合で。或いは私の不都合で。
……僕は俯く。
この物語は一体何処へ、どんな結末へ進むのだろうか。僕には想像できない。
将来はおろか、この高校を卒業する姿が想像できない。それは決して、友達のいない生活が考えられない云々でなく、ただ単純明快に、もう無いようなものであるから。
嗚呼、考えれば考えるほど俺、高校卒業できずに死ぬんじゃないかしら。やっぱり、今までは夢なんじゃないか?と、さえ思えてくる。いつ終わりになっても構わない物語をだらだらと続けるほど、価値の無いものもあるまい。延々と後日談をやってたら、流石に飽きるってもんだ。もしくはずっと戦闘シーン。或いはずっとラスボスとの会合。いつになったらバトルんだよバカ!……みたいな。それで結局戦闘は無し、とかだったら正しく戯れ言だ。て言うかシリーズだ。俺はバトルよりミステリが好きなんだけどね。――ミステリやってよバカ!
そして、それは日常だ。ずーっと一人称。お前はそんな一つの考え方しか出来ないのかよ馬鹿、って感じだ。
いつ終わっても良い物語。明日辺り車に引かれて終いそうな物語。バッドもハッピーもない物語。
ひたすらに報われない、報おうとしない世界観ではあるけれど……。
――どうして終わらないのだろう。何故続くのだろう。
結末は用意されているのだろうか?
俺は、僕は、幸せになれるのだろうか?真っ当に人で在れるのだろうか?
価値観は?心は?性格は?そして何より俺の《病》は?その歪みは治るんですか?
それすら、定かではないのに。
この物語は続いていた。――その理由は、きっと……。
《 》。
「何を思い詰めた顔をしているんだ、桐山。……ふふっ、やはりお前は――ロマンチストだな」
「……はっ。何ですか、ソレ。笑わせる――」
後書き
karasunokatteです。
感想ください。お願いします。
段々書きたいものが見えてきた気がします。
それでは次回!
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