Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-
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A's編
第七十八話 夢幻の終わりと深淵の誘い
空に桃色と闇が交じった紫色の閃光が光る。
「はああっ!」
「うくっ……きゃああっ!!」
闇の書が振り下ろした拳をシールドで防ぐも完全には防ぎきれずに吹き飛ばされるなのは。
だが吹き飛ばされた状態から体勢を立て直しながら
「シュート!!」
バスターを撃つ。
しかしそれをかわし、拳で叩き落とし、なのはとの間合いを詰めて再び振り下ろされんとする闇の書の拳。
その拳をかわし、距離を取りながらバスターを放つ。
フェイトと士郎が闇の書に吸収されてから何度となく繰り返されてきた戦いの展開であった。
そして、この戦いの展開は明らかになのはが不利でもあった。
なのはの防御力の高さゆえに辛うじて耐えてはいるが、徐々に傷は増えていっている。
攻めに関しても、なのはが得意とする砲撃だが本領を発揮出来ていない。
なのはのスタイルは遠距離で魔力をチャージして大きな一撃を叩きこむという固定砲台。
対する闇の書はなのはが遠距離タイプという事を感じてか接近戦、間合いを詰めて魔力を込めた拳を叩きこむという戦い方をしている。
さらに一対一という状況で、闇の書の拳はなのはのバリアでも全て完全に防げない威力。
間合いをあけ、十分なチャージをして撃ちたいなのはだが、闇の書が接近してくるため足を止めチャージに集中する事も出来ず、連射速度を重視した砲撃になってしまっている。
だがその砲撃では闇の書の防御は抜く事が出来ない。
もし接近戦をこなせる誰かがいれば、なのははチャージする時間をつくり、固定砲台としての本領を発揮出来る。
だけど「もし」の話を考えても状況は変わらないと一対一でどう戦うか、なのはは懸命に考えていた。
(このままだといつか押し負けちゃう。
どうにかチャージする隙を作らないと)
すでに全力に近い戦闘を行っているなのはには手札はあと一枚。
それでも瞳は死んでおらず、諦めもしていなかった。
その中で再び拳をかわしきれずシールドで拳を受けるも、シールドは砕かれ
「Schwarze Wirkung.」
「きゃあああっ!!」
魔力を纏った拳をレイジングハートで受け止めるも耐えられずに海に叩きつけられる。
それでも息を荒くしながら海中から飛び出して、闇の書と対峙するなのは。
その中でわずかに街との距離を確認する。
(リンディさん、エイミィさん、戦闘位置を海の方に移しました。
市街地の火災をお願いします)
士郎とフェイトがいなくなった時、リンディさん達からなのはに依頼があった事がある。
その一つが戦闘位置の移動。
現状の火災のままで結界を解いてしまえば、そこに居る人達は火災の中に放り出される事になる。
そのためにも消火活動は絶対に必要な事だった。
(大丈夫。今、災害担当の局員が向かっているわ)
(それから闇の書さんは駄々っ子ですが、話は通じそうです。
もう少しやらせて下さい)
まだ諦めないと絶対に止めてみせると呼吸を整えながら、空になったマガジンを捨て、新しいマガジンを再装填する。
「マガジン残り三本。
カートリッジ残り十八発
スターライトブレイカー、撃てるチャンスあるかな」
なのはとて、このまま同じ戦い方をしていては墜とされる事はわかっている。
必要なのは高い防御力を誇る闇の書の防御を撃ち抜く事が出来る一撃。
それゆえに
「I have a method.(手段はあります)」
Call me "Exelion mode."」
最後の手札を使う事をレイジングハートは主に進言する
「駄目だよ。アレは本体を補強するまで使っちゃだめだって。
私がコントロールに失敗したら、レイジングハート壊れちゃうんだよ」
自身の相棒を失う恐れ。
魔法に出会ってまだ一年も経っていないが、その中でずっと一緒にやってきた大切な愛機。
それゆえに最後の手札を使う事は出来なかった。
だが
「Call me.
Call me, my master.」
勝つために手札を使ってほしいと、自身を信じて、私も信じてほしいと思いを込め、言葉を繰り返すレイジングハート。
レイジングハートを思い信じているなのは
なのはを信じ限界までそのスペックを使う事を躊躇わないレイジングハート。
ゆえになのはも覚悟を決めた。
「お前ももう眠れ」
「いつかは眠るよ。 でもそれは今じゃない。
今は、フェイトちゃんとはやてちゃんを、士郎君を助ける。
それから貴方も。
レイジングハート、エクセリオンモード―――ドライブ!!」
「Ignition.」
カートリッジがロードされ、レイジングハートの最後のモードが展開される。
「繰り返される悲しみも、悪い夢もきっと終わらせられる」
再び構えをとるなのは。
それを墜とすべく
「Photon lancer, genocide shift.」
膨大な魔力弾が展開された。
side フェイト
夢とわかっていても幸せで穏やかな夢。
手に入らないと思っていた母さんとの生活が手に入った。
だけどそこにはリニスとアリシアはいなかった。
でもここには二人がいる。
もう会う事も一緒に過ごす事も出来ないと思っていたリニスとアリシアがいる。
それなら私が生活してきた世界はどうするのだろう。
大切な友達がいる世界を捨てて、ただここで穏やかな生活を過ごすんだろうか。
そんな事を考えながらアリシアに誘われて時の庭園の草原に向かう。
その時
「フェイト、アリシア」
「士郎、どうしたの?」
士郎に呼び止められた。
その手にはバスケットが握られていた。
「間に合ってよかった。
おやつと飲み物用意したから、草原で食べてくれ」
「ありがとう、士郎
くんくん、これってもしかしてスコーン」
「ああ、朝にアリシアのリクエストを作るって言ったろ。
ちゃんとクロテッドクリームとジャムも入れてるから」
「やったぁ!
フェイト、早く行こう」
士郎から受け取ったバスケットを持ってうれしそうに歩き始めるアリシア。
それを穏やかな顔で見送っている士郎。
「あの、士郎」
「どうした、フェイト」
士郎の見た事が無い表情。
笑っている時、怒っている時、戦っている時、いろんな表情を知っているけど始めてみる士郎の顔。
「士郎はこの世界をどう思う?」
「世界をどう思うか、難しい質問だな。
だけどフェイトとアリシアが、プレシア、リニス、アルフが穏やかに暮らせるなら俺は十分だけどな」
私達が穏やかに暮らせればいい。
士郎は戦いなんかを望んでいない。
この戦いが終わったら、私の世界でもこの表情を見せてくれるかな。
「士郎、もし私が戦いに行くって言ったら止める?」
「何のために戦いに望む?」
「友達を、大切な友達を助けるために
私が後悔しないために」
真っ直ぐに士郎を見つめる。
「本音で言えば戦いには行ってほしくないけどな。
それがフェイトの選択なら俺は協力するよ」
あの時と同じ。
時の庭園での母さんとの戦いに行く時と同じ。
私の答えを応援してくれる。
私の覚悟も決まった。
士郎が背中を押してくれた。
その時、士郎と話していて追いかけてこなかった私をアリシアが呼ぶ。
「フェイト、早く!!」
「すぐ行くから。
ありがとう、士郎」
士郎のお礼を言ってアリシアを追いかける。
その後ろで私達を見送る士郎が軽く手を振っていた。
side 士郎
ゆっくりと歩いて来るイリヤ。
「自分が何を忘れて、なんで違和感を覚えているかわからないなんて。
死徒にもなって対魔力がここまで低いのシロウぐらいだよ」
まあ、確かに俺ぐらいだろうけど。
「シロウの力ならわかるはずだよ。
鍵もシロウの中にあるんだから」
イリヤが優しく俺の心臓の上を撫でる。
鍵は俺の中にある?
イリヤの触れた所にある俺のナニカ。
そのナニカが胎動を始める。
魔術回路じゃない。
これは
「リンカーコア」
「うん。もう大丈夫だね」
イリヤに改めて視線を向けた時、視線の位置が下がっていた。
いや、この場合元に戻ったというべきか。
「それにしてもこの士郎と一緒に居たかったな」
「さすがにそれはな」
こんな子供の姿でいれば、色々と面倒事が起きそうだし。
「さて、私の役目もここまでかな。
シロウ、向こうの世界でも頑張ってね。
お姉ちゃんはシロウの味方だからね」
踊るように俺から離れる。
「じゃあね。
バイバイ、シロウ」
一陣の風が庭園に吹き、一瞬イリヤから視線を外す。
次に視線を戻すとイリヤはそこに居なかった。
ただ風に乗って白い花弁が空に舞い上がって消えていった。
「本当にイリヤには敵わないな」
妹のようであり、たまに姉らしく振る舞う姉さん。
そしていつの間にか、庭園から玉座に続く扉が開いていた。
「行くか」
俺が向かう先は思いだした。
この夢のような世界を終わらせるために歩き始めよう。
side out
暗闇の中で、はやては起きているような、眠っているような、まどろみの中にいた。
(私は……何を望んでたんやっけ)
(夢を見る事。
悲しい現実は全て夢となる。
安らかな眠りを)
(そうなんか)
知っているけど思い出せない誰かの心地よい言葉。
だがそれが本当にそうなのかわずかに疑問が浮かぶが
(あかん、眠い)
深い眠りの中にはやての意識はゆっくりと落ちていく。
そのはやての傍には涙を流し、静かにはやてに手に自身の手を重ねる一人の女性がいた。
後書き
というわけで二週間ぶりでございます。
てか夢の中編。
二話で纏めるつもりが纏まってない。
やばいな。A's編もラストまで一気に行こうと思いながら行けやしない。
それと更新ペースについてですが、最近うまくまとめれない&ストックが完全に無いので二週間に一度におとします。
一週間で纏める事が出来れば、更新はするつもりですが。
というわけで次回は再来週にお会いしましょう。
ではでは
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