ハイスクールD×D ~聖人少女と腐った蛇と一途な赤龍帝~
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第3章 さらば聖剣泥棒コカビエル
第53話 足りないもの
前書き
お待たせしました! 最新話です!
前回よりは更新間隔短かったですかね?
しかしながら今回の話、前回よりも更に長いです!
次回予告に書いたセリフを全て回収しようとしたらいつの間にかこんなことに。
っていうかちょうどいい切れ目がなかったんでこうなっちゃったんですけどね。
さて、実は前回の更新をもっていくつか新記録?を樹立しました。
まずアットノベルスの方ではアクセス数が600000突破、そして総ポイント数が10000突破!
次に暁の方では累計ポイントが5000を突破、お気に入り数が1000件を突破、感想数が100件突破しました!
いやはやすごいですね。
こんなに沢山の方々が読んでくださっていると考えると、加えて好評化を頂いているとなるとちょっとずつでも続けてきた甲斐があるというものです。
皆様本当にありがとうございます。
これからもよろしくお願い致します。
さて、加えてお知らせです。
現在ハーメルンにて宇佐木時麻様が連載しておられます「どうやら死亡フラグが立ったそうです。」とのコラボが決定いたしました!
これでこの作品、コラボは2回目ですね。
基本コラボはあちらで書かれる予定となっておりますが、もしかしたらこちらでも書くかもしれません。
皆様機会がありましたらぜひともあちらの作品も読んでみてください。
とっても面白くて、私も大ファンです。
メッセージでやりとりした際、お互いがお互いにファンであったと知ったときは笑ってしまいました。
ちなみにあちらに登場するオーフィスはこっちと違って腐ってないので可愛いですよ!
さて、ではそろそろ長いお知らせは終わりにして、本編をお楽しみください。
今回からはもう完全に原作の面影のないオリ展開です。
ではどうぞ。
「はぁぁああっ!!」
「どんな時でも頭は冷静にと言ったはずよ!」
その言葉とともに木場は火織の振る剣に弾き飛ばされた。火織がイリナ達との勝負に勝ってもう1週間、毎日早朝と放課後に木場は火織に挑み続けていた。こうして見ていると木場の剣は日に日に鋭くなってきているような気がする。けれど未だに火織には1太刀も入れることが出来ずにいた。
「がはぁっ!?」
するとこれで何度目になるか、木場の腹に火織の持つ天閃の聖剣の柄が深々と突き刺さり、そのまま龍巳の張っていた結界の外まで転がり出てきた。
「祐斗さん!!」
そこに慌てて駆け寄るアーシア。アーシアはしゃがみこむと木場のダメージを受けた腹に今日既に数度目となる癒やしのオーラを当てた。
「祐斗さん! 今治しますからね!」
「………………ぐぅっ」
苦しそうにうずくまる祐斗とそれを治療するアーシア。そんな2人の様子を確かめた火織は右手に持つ天閃の聖剣を頭の上まで振り上げ
ギャリンッ!!
「不意打ちなら当てられるとでも思った?」
「くっ!!」
背後から振り下ろされたゼノヴィアの破壊の聖剣をもはや見もせずに受け流した。そこからゼノヴィアは猛烈なラッシュを火織に見舞うんだけど、火織はそれを身を反らすだけでひょいひょいと避ける。そしてそんな様子をこれまたアーシアに治療を終えてもらったばかりのイリナが龍巳の張る結界の外で、まるで火織の動きを覚えようとしているかのように見ていた。
一週間前のあの夜、火織に負けた2人はまるで心がすっぽり抜け落ちたような状態となり、アーシアに治療された後もその場から動こうともせずうつろな目でただ一点を見続けていた。その日の木場の火織への挑戦が終わって帰る段になってもそのままだったので、見かねた部長が所有しているマンションの一室を提供し、火織と龍巳がその部屋まで肩を貸して運んだんだ。
その後も2人は部屋から出てくる様子はなく、火織が世話をするために放課後木場との稽古が終わると毎日通って面倒を見ていた。話を聞く所によると、2人はベッドからすらも起き上がらず、1日中うつろな目でブツブツと何かを考えながらつぶやいていたらしい。一応火織の作った食事だけは食べてたらしいんだけどさ。
そんなことが続いて4日後くらいかな? 放課後急に2人が聖剣を持って現れたんだよ。いきなりどうしたのかと思ったら、自分たちも木場のように火織に挑ませてほしいとの事だった。一体何を考えてそんな結論になったかは分からないんだけど、火織はあっさりそのことに了承して、今では木場、ゼノヴィア、イリナという順番で何回も何回も火織に挑戦し続けてる。しかしながら未だに彼らは一太刀どころか今火織が振っている天閃の聖剣とは別に右腰に吊っている透明の聖剣を抜かせることすら出来ずにいた。まずは私に2本目のエクスカリバーを抜かせてみなさい、とのことらしい。
「ぜぁぁぁああっ!!」
「連続で斬るにしても、ただ闇雲に振り回せばいいってもんじゃないわよ」
以前戦った時のようにゼノヴィアは地面にクレーターが出来るような大振りな一撃は出さないようになっていた。今回は前回と違い1対1。大振りの後の隙をカバーしてくれるパートナーがいないため、ゼノヴィアはぎこちない動きで隙の少なくなるような動きをしていた。しかしながらそんな、まるで付け焼き刃のような戦い方では火織に勝てるはずもなく、火織が防御から一転、攻撃を始めればたちまち防戦一方になっていた。
イリナの話によれば、ゼノヴィアはこれまでパワーに頼りっきりの戦い方をしていたらしい。イリナのようにカバーしてくれるパートナーがいる時ならともかく、1人で戦う時はそれで大丈夫なのかとも思ったけど、何でもゼノヴィアはこれまではそのパワーですべての敵を圧倒してきたんだと。だから火織のように、パワーを全て受け流してしまうような相手は初めてだそうだ。……まあ確かにあんな芸当ができるのなんてそうそういないよな。
剣道にも相手の振ってくる竹刀を受けると見せかけて受け流す型があるけど、あんな威力の一撃じゃ必死に回避しちまうよ。何せちょっとでもタイミングをミスればそのまま押し込まれて終わりだからな。とてもじゃないけど今の俺にはあんな芸当無理だよ。……まあそのこと火織に言ったら、実戦なら赤龍帝の籠手使ってるだろうから正面から受けてもパワー負けしないだろうし、受け流す必要ないんじゃない? とか言われたが。
「がぁっ!?!?」
そんなことを考えていると、しびれを切らしたかのようにさっきまでの戦法とは一転、でかいのを放とうとしたのか破壊の聖剣を一気に振り上げたゼノヴィアだけど、それをいち早く察知した火織はすぐさまその場で回し蹴りを放った。火織のかかとがゼノヴィアのみぞおちに深々と突き刺さり、ゼノヴィアは破壊の聖剣を振り下ろすことも出来ずにそのまま結界の外、ちょうど木場の治療をしているアーシアのそばまで転がり出た。
「ゼノヴィアさん!」
アーシアは片手で木場の治療を続けつつ、ゼノヴィアにも治療のオーラを送り始める。だいぶ治療スピードも落ちてきたな。今日もそろそろ限界か?
「たぁぁあああっ!!」
そして結界の方ではイリナが火織に斬りかかり、火織は正面からイリナの刀、擬態の聖剣を受け止めていた。その後イリナはゼノヴィアとは違い、隙も少なくコンパクトな太刀筋で火織に猛烈な剣撃のラッシュを見舞う。しかしながら火織もそれを余裕を持って全てを受け止めていた。
「イリナ、剣道を基礎においたその太刀筋は悪くないけど、擬態の聖剣の本領はそのどんな姿にも刀身の形を変えられる能力でしょ。なんで刀の形に固定してるの?」
「うっ……そ、それは……」
「……まさか戦闘に集中してる間はそっちにまで気が回せず姿を変えられない……なんてことはないでしょうね?」
「………………」
……え? マジで? それめちゃくちゃ勿体無くね? っていうか普段はひも状に出来てるんだし、別に姿を変えられるっていうのは刀剣類限定じゃないんだよな? だったらもっと色々出来るんじゃねぇか? 火織の魔剣創造みたいにいろんな形の聖剣にしたり、もしくはそれこそ聖剣でできた龍なんかも造ったりしてさ?
「私、火織ちゃんの強さに憧れてたから……」
「それでずっと剣術の修行ばっかだったの? ……これからは同時に聖剣の能力の使用も練習しなさい。それじゃあ宝の持ち腐れよ」
それを聞いたイリナは一旦火織から距離を取ると、じっと集中するかのように擬態の聖剣を正眼に構えた。すると擬態の聖剣の刀身が少しづつうねうねと動き出し……火織に向かって一気に伸びた!
「そうそう、その調子」
しかしながらそれを余裕を持って天閃の聖剣で横に弾く火織。よくすぐに対応できるな。
「おーおー、やってんな」
「匙? それに会長たちも?」
後ろから話しかけられ振り返ってみると、すぐ後ろに生徒会の匙が、そしてその後ろには会長たち生徒会の面々がいた。
「御機嫌よう兵藤くん、神裂さん。……仲がいいことはよろしいですが校内で不純異性交遊は厳禁です」
「あー、いやこれは別にそんなんじゃ……」
会長が地べたにあぐらをかいて座ってる俺と、俺のあぐらの上に座ってる白音ちゃんをジト目で見ながら言った。うん、実はずっと白音ちゃんをひざ上に乗せて、更に俺が後ろからぎゅって抱きしめながら火織たちを見てたんだよ。
「っていうかお前ら、一体何してんだ?」
「いや、木場達を見てたら俺も負けてられないなって思って、ここ最近白音ちゃんに組手の稽古してもらってたんだよ。で、今は休憩しつつ仙術で回復してもらってんだ」
「……何か文句でもあるんですか?」
ジト目で睨む白音ちゃんに対して匙は冷や汗を垂らしつつ
「滅相もありません」
と、目を逸らしながら言った。っていうか前回会った時よりなんというか、ちょっと雰囲気が違うな。俺にあまり牙を向いてこないっていうか。
「見たぜ、お前たちのフェニックスとの試合」
「あ、見たんだ……」
あー、もしかしてそのせいか? こいつが俺に対して態度がちょっと変わったのは。
その後匙は一言も発さず、じっと火織たちの戦いを見ていた。と、そこで
「いやー、すごかったよ兵藤くん!」
と言いながら巡が背中をビシバシ叩いてきた! って
「痛ぇ痛ぇ! おま、強く叩きすぎだ!」
容赦ねぇなおい! こういう時そんな本気で叩くか!?
「ごめんごめん。でもほんとすごかったよ! 最後のフェニックスへのトドメの一発なんて私なんかじゃ受けたら即リタイアだよ! ねぇ、会長!」
「えぇ、そうですね。その他にも神裂さんたちの力を借りず一度はライザー・フェニックスを追い込むなど、素晴らしい試合でした」
「あ、ありがとうございます」
おいおい、べた褒めだな。まあ確かにあの試合でグレモリー眷属は随分と評価が上がったとは聞いてるんだが。
「そうであるからこそ、あなた達を私の眷属にできなかったのは残念に思います。とは言ってもこちらが把握していたのは火織さんだけで、その上私の駒では転生できなかったでしょうが」
あー、確かに。火織は変異の駒使ってようやく転生できてたしな。会長の残りの駒を考えると、転生できたのは黒歌姉か白音ちゃんのどっちかだけか?
「諦めるのはまだ早いですよ会長! 火織ちゃんだけでもなんとかトレードでこちらに引き入れましょう!」
「いや渡さねぇよ!?」
こいつまだ諦めてなかったのか!? っていうか俺だって上級悪魔になったら火織に騎士になってほしいってのに!
「それにしても火織ちゃんやっぱりすごいね。すごいのは分かってたけどゲーム見たら思ってたより格段に上だったよ。それに今だって悪魔なのに聖剣振ってるし……」
「確かにな。おまけに手のひら焼かれながらだってんだから信じられねぇよ」
「で、そんな彼女たちに当てられて兵藤くんも組手してたんだ。でもなんで組手? 剣の修行じゃないの?」
「あぁ、いやそれは……ほら俺さ、自分の得物って持ってないんだよ。ゲームの時は火織に創ってもらった魔剣使ってたけど、いつでも借りられるってわけじゃないしさ。だからちゃんと素手でも戦えるようにしようと思って」
赤龍帝の籠手も形はちょっと変わった籠手だからな。拳でも戦えるようになった方がいいって火織たちにも言われたし。
「それで兵藤くん、彼女たちが戦っているのもあなたと同じ理由ですか?」
そう言った会長は火織とイリナが戦っている場所から少し離れたところを見ながら言った。そこでは
「にゃ~っはっはっはっは! そんな攻撃じゃいつまでたっても当たらないにゃ!」
「このっ!」
「雷よ!」
黒歌姉1人に対して部長と朱乃さんが2人がかりで挑んでいた。
「くっ! ちょこまかと! けど……朱乃!」
「はい部長!」
その瞬間黒歌姉の足元に魔法陣が浮かび上がった!
「にゃ!?」
「かかったわね! 魔力を打ち込みながらこっそりトラップを仕掛けさせてもらったわ!」
「うふふ、もう逃げられませんわよ?」
そして部長は両手にとてつもない大きさの滅びの魔力、朱乃さんは雷の魔力をまとわせ、同時に黒歌姉に向けて放つ! その2つの魔力は空中で混ざり合い黒歌姉に直撃した! ……と思ったら黒歌姉の体が霧のように霧散した!?
「なっ!?」
「えっ!?」
驚く部長と朱乃さん。更にそんな彼女たちに向けて
「いやはや、少しはやるようににゃったわね」
という声とともに部長と朱乃さんの周りにそれぞれ3人ずつ、合計6人の黒歌姉が現れた!?
「これは……幻術!?」
「もしかしてさっきまで戦っていたのもですの!?」
「さ~て、本物の私はどれかにゃ?」
と言いながら部長と朱乃さんに向けて魔力弾を雨あられと降らせる6人の黒歌姉。そしてそれを必死に避けたり迎撃したりする部長と朱乃さん。っていうかほんとにどれが本物の黒歌姉だ? 長年一緒にいる俺でも見分けが……黒歌姉の性格考えるとあの6人の中にも本物がいない気がしてきた。
「後輩たちが頑張っているのに先輩である私達が見ているだけなんて許されない、だそうです」
「そうですか。リアスらしいですね。……さて、それでは私は生徒会室に戻って残りの仕事を片付けてきます。皆はここでもう少し彼女たちの戦いを見ていきなさい。得られるものがあるはずです。椿、あとは頼みましたよ?」
「はい会長」
そう言って会長だけは校舎に向けて戻っていった。
「なあ巡、こんな遅い時間なのにまだ仕事があるって、生徒会ってそんなに忙しいのか?」
「そりゃもうすっごい忙しいわよ。ほんとはもうちょっと早く皆の様子見に来たかったのに忙しくてついに一週間も遅れちゃったんだから!」
「そ、そうか。そりゃまたご苦労さんだな」
俺部長の眷属でよかったぜ。とてもじゃないがこんな仕事漬けは耐えられそうにねぇ。
「ん~、でも兵藤くんやリアスさんたちの気持ちがなんだか分かるな。私もなんだかウズウズしてきちゃった」
そう言ってまるで竹刀を握るかのように両手をニギニギさせ始めた巡。と、その時
「きゃあっ!?」
火織の掌底がイリナの胸に突き刺さり、結界の外まで転がり出てきた。
「イリナさん!」
そこでちょうど木場の治療が終わったアーシアが今度はゼノヴィアと同時にイリナの治療を始めた。そして木場は火織に向けて駆け出そうとしてるんだけど
「ぐっ、足が……」
「祐斗さん! まだ体力まで回復できていません! もう少し休んで下さい!」
「でも、僕には時間が……」
と、苦しそうにしつつ足を引きずってでも火織の元へ向かおうとする木場の横を一つの影が通り過ぎた! そして
「せぇいっ!!」
「巴柄?」
いつの間にかその手に掴んだ一振りの刀で火織に斬りかかっている巡がいた!
「火織ちゃんの一番弟子として私も黙って見ているなんて出来ないわ!」
「ふふ、いいよ。そういえば真剣でやるのは初めてね」
「うん! 今日こそ1本取ってみせるんだから!」
そう言って激しく剣を斬り結び始める両者! っていうか!
「おい巡! 誰が火織の一番弟子だ! 一番弟子は俺だろうが!」
「って突っ込む所そこかよ!? もっと注目すべきところがあるだろ!」
と匙が俺に言ってくる。くそ、分かってるよそんなこと。2人の戦いは今までで一番動きが激しかった。火織に一太刀もあびせられないのは今までと一緒なんだけど、今まで殆どその場から動かなかった火織が激しく動き回り、更に今まで最初は守り主体だったのに今回は最初っから巡に対して攻めまくってる。それに巡の方もそれにしっかりついていっている。つまり今までの稽古のような戦いではなく、しっかりとした対戦になっていた。
それに対して今までの戦いを見てきた俺達、特に対戦者だった木場やイリナ、ゼノヴィアなんかは呆然としてその戦いを見ていた。
「彼女は一体何者だ?」
呆然とそう口走るゼノヴィア。それに答えたのは副会長だった。
「彼女は我らシトリー眷属の騎士、巡巴柄です」
「ねぇ、あの娘さっき火織ちゃんの一番弟子って……」
「一番弟子かどうかはともかく、彼女は駒王学園に入学してからの一年半の間、剣道部にて神裂さんの指導を受け続けてきました。また神裂さんが課した自己鍛錬も毎日かかさずこなしており、今では純粋な戦闘力ではシトリー眷属一の使い手です」
その言葉にイリナたちは驚いていた。っていうか俺も驚いてるよ! 俺、あいつの部活中の姿しか知らないし、何度も試合をしたからどのくらいの強さかってのはなんとなく知ってるつもりでいたし、俺ももう少しで追いつけるんじゃないかと思えるくらいの強さだと思ってた。でもあいつ実はあんなに強かったのか!? っていうか眷属一って上級悪魔の会長より強いのかよ!
そしてそんな中……
「くそ……くそっ!!」
いつもの口調とはかけ離れた悪態をつきつつ、膝から崩れ落ちた木場が地面を殴っていた。
「なんで……なんで僕はあの場に立てない! 同志たちの無念を晴らさないといけないのに……なのになんでこんな所で膝を折っているんだ! 僕に、僕に一体何が足りないんだ!」
それはまるで血を吐くような魂の慟哭だった。俺達はそんな木場に何も言葉をかけてあげることができなかった。……ただ1人を除いて。
「木場くん。少しでいいので巴柄の表情を見てあげてくれませんか?」
そう木場に声をかけたのは副会長だった。
「?」
木場は疑問に思いつつ顔を上げ、戦っている巡の方に目を向けた。一体何があるのかと俺も目を向けてみると……巡は笑っていた。戦っているとは思えないほど巡は心底楽しそうに笑っていた。
「巴柄はいつも剣の鍛錬をするときはあのように笑っています。どんなに辛くとも、それでも強くなっていくのが楽しいと。神裂さんとの実力差が埋まったと実感できればできるほど、もっと強くなりたいと思えると、そう言っていました。木場くん、あなたの過去は会長に伺っています。ですからあなたがこのことに関してそう思えるような状況でないことも分かっています。しかしながら、ほんの少しだけでも視野を広くとってみるのもいいのではないでしょうか? そうすれば見えなかったものも見えてくるかもしれません」
それを聞いた木場は……何かを考えるかのように俯いた。と、そこでフッと副会長は微笑んだ。
「とは言え、偉そうなことを言いましたが私もまだまだ修行中の身です。言葉で伝えきれないところもあるでしょうし、納得のいかないこともあるでしょう。ですから私も巴柄と同じように言葉ではなく、その行動でそのことを示そうと思います」
そう言った副会長は手元に魔法陣を出現させるとそこから1本の薙刀を取り出した。ってまさか……。
俺の懸念は正解だったようで副会長は薙刀を携え結界の方へ歩み寄る。一方その結界の方では……
「くぅっ!」
「強くなったわね巴柄。追いつかれる日も近いかも。まあでも今日は……ここまで!」
その言葉とともに火織は天閃の聖剣を大きく横薙ぎに振るう! 巡はそれを刀で受けるけど、勢いまでは殺しきれずそのまま結界の外まで吹き飛ばされた。
「痛たたた…………あぁんもう! また負けたぁ!」
と言いながらすぐに立ち上がる巡。っていうか火織と戦ったってのに、擦り傷なんかはあっても木場たちみたいな大きな怪我はなしかよ。こいつめちゃくちゃ強えぇじゃねぇか。
「さて……次はあなたですか? 真羅副会長?」
「えぇ、いい機会ですのであなたの強さを直に感じてみたいと思いまして。……それに後輩のために少しでも力になろうとするのは先輩として当然のことです」
「そうですか……ではっ!」
「勝負!」
そう言って両者は激突した! さっきまでの余韻が残っているためか、今度は最初から激しく攻める火織。それに対して副会長は1つ1つ確実に避け、いなし、時には隙を突いて反撃していた! すげぇ! 巡に比べたら押され気味ではあるけど、それでも火織に渡り合ってやがる。
副会長の動きはどこまでも基本の型に忠実で、堅実だった。そのため若干動きが硬いような気がするけど、それでも未だに1太刀も浴びていない。それにあの目、火織の動きを一つ一つ確実に見て動いているように思える。副会長もかなりの使い手だな。
「すごい……」
そんな姿に木場は素直に感心したように見入っていた。先ほどまでの負の感情が全面に出たような表情は和らいでいる。
「視野を……広く…………」
そう言いながら木場は火織と副会長の試合をじっと眺めていた。そんな木場に匙が
「なぁ、今更なんだけどさ……木場とエクスカリバーにはどういう関係があるんだ?」
「あ! それ私も知りたいかも!」
そう言って巡も話に加わってくる。さらに他の生徒会の面々やイリナ、ゼノヴィアまで知りたそうに木場に耳を傾けていた。
「……そうだね、少し話そうか」
そうして木場は過去について語った。教会が裏で計画した聖剣計画。そのために集められた木場を含む被験者たちと連日繰り返される非人道的な実験の数々。それでも主のためと過酷な実験に耐え、その結果待っていたのが失敗作という烙印と処分という最悪の結末。
「……皆殺されたよ。聖剣に適応できなかったというただそれだけの理由で、神に仕える者達に毒ガスを撒かれてね。床でもがき苦しみ、血反吐を吐きながらも僕らは神に救いを求めた……けど僕達に救いの手は差し伸べられなかった。そんな中比較的吸った量の少なかった僕だけが生き残った。『せめてあなただけでも』と言って抵抗して逃してくれた同志たちのおかげでね。……それでも時間が経つと共に毒は体の中を回って雪の中に倒れたよ。そして死ぬ寸前、偶然イタリアに視察に訪れていた部長に拾われたんだ」
そこまで言った木場は自分の手に握る魔剣に目を落とした。
「僕は証明しなければならない。同志たちの無念を晴らすためにも、僕がエクスカリバーよりも強いということを」
と、そこまで木場から語られたところで……
「「「うぅぅぅ……」」」
「「……ひっく」」
初めて聞いた生徒会の皆さんがすすり泣いていらっしゃる! さらにイリナやゼノヴィアまで顔を背けて涙ぐんでるよ!
「お前、そんなつらい過去があったんだな! そりゃエクスカリバーに恨みを持って当然だぜ」
「木場くん、かわいそう……」
「こんなのって、こんなのってないですよぅ……」
すすり泣くどころか涙ポロポロ落として大泣きしてやがる!
「俺は正直イケメンのお前がいけ好かなかったが……そういうことなら話は別だ! 木場! 俺はお前を応援するぞ! 助けが必要な時はいつでも呼んでくれ! 俺達に出来ることならなんだって協力するからよ! な! みんな!」
「はい!」
「私もお手伝いします!」
「木場くん! お互い頑張って火織ちゃんに勝とうね!」
……若干巡の言っていることはズレているような気がするが……それでもこいつらいいやつだな!
「よし! いい機会だ! ちょっとだけ俺の話も聞いてくれ! 協力するなら俺のことも知っておいて欲しいからな!」
そう言って匙は拳をぐっと握ると力強くその言葉を口にした!
「俺の夢は会長とできちゃった結婚をすることだ!」
………………
………………………………
………………………………………………
まるで空気が凍りついたかのように皆口を閉じ、聞こえる音は火織と副会長の試合の音のみとなった。っていうか、この場でそのカミングアウトはどうなんだ? 俺も夢は火織と……だがさすがにこの場でそんなことを言うのはどうかと思うくらいの良識はあるぞ?
「あ、あれ?」
そこでようやく周りの反応がおかしいことに気付いた匙。
「元ちゃん、空気読もう?」
「元士郎、言ってて恥ずかしくないか?」
「匙先輩、私も今のはどうかと思います」
辛口な評価の生徒会の面々! そんな皆の視線に耐えられなくなったのか縋るように木場に視線を向けたけど……
「あ、あはははは……」
引きつったように笑いつつ木場は視線を逸らした。そしてトドメとばかりに白音ちゃんが
「……最低です」
と言うと
「う、うぁぁぁぁあああ!」
ついにあまりのいたたまれなさに耐えられなくなったか、匙は叫びながらどこへともなく走り去った。
「あれさえなければ……」
「ほんとよねぇ……」
うん、今の一幕で匙が生徒会でどんな立ち位置にいるのかわかった気がする。こりゃ夢の実現も遠そうだな。……まあ俺も人のことは言えないが。
と、そこで意外にもゼノヴィアが木場へと話しかけた。
「木場祐斗。君がなぜ教会を、エクスカリバーを恨んでいるのかは分かった。だが勘違いしないでほしい。その事件については決して教会の総意ではない」
それに続くようにしてイリナも言葉を発した。
「その事件は私達の間でも最大に嫌悪されたものなの。処分を決定した当時の責任者は信仰に問題があるとされて異端の烙印を押されたわ。彼は教会から追放されたあと、墮天使側の人間となったの」
「墮天使側の? その者の名は?」
「『皆殺しの大司教』バルパー・ガリレイだ」
「そうか……悪魔である僕が君たちにこんなことを言うのもあれだけど、その情報には感謝するよ。墮天使を追えばその者にたどり着けるかもしれない。僕の……僕達の、真の敵に……!」
それを聞いたイリナとゼノヴィアは……何だ? ダラダラと汗をかき始めたぞ? どうしたんだ?
「あー、それについてなんだがな……」
なんかゼノヴィアが歯切れが悪そうに話しだした。しかもなぜかこっちには目を向けてくれないときた。
「? どうしたんだい?」
「……覚えているかい? 神裂火織が倒したコカビエルたちの封印されていた氷塊を」
「うん、確かコカビエルとフリードを含めた聖剣使いが3人、そして彼らに聖剣を使えるようにした神父が………………まさか」
「……ああ、あれがバルパー・ガリレイだ」
ピシッ……と空気が凍りつく音が確かに聞こえた。つまり……木場の敵を火織が横取りしちまった?
「あ、あは……あははハはハはは」
き、木場が壊れた!?
「お、落ち着け! 落ち着くんだ木場祐斗!!」
「心をしっかり持って!」
その有り様に本来敵であるイリナやゼノヴィアまで心配しちまう始末だよ! っていうか火織! お前なんでこういつもいつも大事なときにやらかしちまうんだ!?
「あはは…………いや、大丈夫、大丈夫だよ」
自分の肩を掴んで揺すっていたゼノヴィアに笑って返事をし、離してもらう木場。ほ、本当に大丈夫か?
「ちょっと取り乱しちゃったけど、おかげでやることが1つに絞れたからね。後はもう火織さんを倒せれば同志たちの無念を晴らせるんだ。ここまで来て取り乱したりなんかしないよ」
いや今お前めいいっぱい取り乱してたからな?
「それに……彼女にも発破をかけられたしね」
そうして今尚火織の剣撃に喰らいついていっている副会長に目を向けた。っていうかスゲーな。副会長もうかなりボロボロだけど、それでもまだ戦えてるよ。それでももうさすがに限界だったのか、火織の剣を弾いた瞬間力尽きたかのようにその場に倒れこんだ。
「お見事です」
「いえ、副会長こそ素晴らしい薙刀捌きでした。私が勝てたのは一日の長があったからに過ぎませんよ」
「神裂さんはいつから剣道を?」
「幼稚園の頃からですね。加えて小学校に上がってからは龍巳とも稽古を始めました」
「そうでしたか。それだけ長い間剣を握っているのであればその強さにも納得です。……あの、よろしければ今後もこのような手合わせをお願いしても?」
「えぇ、ぜひとも。私も副会長の動きは勉強になりますから。立てます?」
そう言って火織は副会長に手を差し出し、副会長も少しふらつきつつもその手を掴んで立ち上がった。そしてお互いに一礼すると副会長はこちらまで歩いてくる。
「お疲れ様でした! 真羅副会長!」
「お見事でした!」
生徒会の皆が一斉に駆け寄る。更にそこに木場も歩み寄る。
「ありがとうございました、真羅副会長」
「木場くん、なにか得られるものはありましたか?」
「……正直なところ、まだ分かりません。でもあなたの戦いを見ていて感じるものはありました。……ですからあなたに言われたことを胸にもう一度頑張ってみようと思います」
そう言って最近では見なかった、いつもの木場らしい笑顔を浮かべた。ったく、やっといつもの調子に戻りやがったな。
「……っ」
ってなんだ? なんか副会長の頬が若干赤く………………まさか、そういうことか? おいおいまじかよ。木場のやつ、戻った途端そういうところまでいつも通りですか? ったく、羨ましいぜこんちくしょう! ……まあもし俺が同じこと出来ても火織にはどうせ通用しないから意味ないけど。
「あれ~? 副会長もしかして?」
「な、なんでもありません! アーシアさん! 怪我の治療お願いしていいですか!?」
「え!? あ、は、はい!」
「あ~、露骨に話逸らした!」
「怪しぃ~」
「?」
木場、あいつこの状況分かってねぇな。
「それじゃあ僕も行ってくるよ。アーシアさん、治療ありがとう。次はもう少し治療が少なくて済むように頑張るよ」
「はい! 頑張ってください!」
そうして再び火織に挑んでいく木場。そんな木場を見て火織もニヤリと笑った。
「祐斗、なにか良いことでもあった?」
「そうだね。あったんだと思う」
「そう……で? 今度こそまともな勝負になりそうなの?」
「それは見てのお楽しみか……なっ!」
その瞬間、木場は見えないほどの速度で火織の背後に回りこみつつ斬りかかった!
「おっと」
しかし火織も即座に反応、振り返りつつ天閃の聖剣を横薙ぎに振るい、木場の創った魔剣を粉々にした! と思いきや
「あれ?」
そこには砕けた魔剣のみで、木場の姿がない! そしてそのまま火織は天閃の聖剣を振り上げ……
ギィィィイイイン!!
「今の動きは良かったわよ」
「そりゃどうも!!」
振り下ろされてきた木場の魔剣を受け止めた。と思ったら魔剣を残して木場がまた消えた!? と思った次の瞬間には木場は火織の足元に現れ新たな魔剣を振るい、火織も反応してまたしても魔剣を粉々に砕く。しかしまた次の瞬間には……
「おいおいマジかよ!? さっきまでのあいつと全然動きが違うじゃねぇか!? 一言アドバイス貰っただけであんなに強くなるもんなのか!?」
「それは違います、お兄ちゃん」
「白音ちゃん?」
膝上から発せられた白音ちゃんの言葉に俺は疑問を覚え、戦いに目を向けつつも聞き返した。雰囲気からして他の皆も白音ちゃんの言葉に耳を傾けてるな。
「あれが祐斗先輩の本来の強さです」
「本来の?」
「はい。祐斗先輩も万全であればあの位の動きは出来たはずです。でもさっきまではエクスカリバーを目の前にして副会長の言う通り視野が狭くなっていましたし、焦りもあったんだと思います。だから本来の半分も実力を発揮できていなかったんでしょうけど……先ほどの会話で少しだけですけど肩の荷が下りたんでしょうね。動きが格段に良くなりました。あれが祐斗先輩の本来とるべき戦い方なんです。速度で翻弄して多彩な魔剣で次々とその手数で攻める戦法。火織姉様と同じ戦法です」
「そうか、これがあいつの……でも待てよ白音ちゃん。速度は分かるとして、多彩な魔剣による手数の多さってのは火織の戦い方とは違くねぇか? 火織今まで複数の魔剣を次から次に使うなんてことしたことねぇぞ?」
「……それは今までその必要がないくらい戦った相手との力量に差があったからです。龍巳姉様と稽古をする時は次々に壊されるんで火織姉様もあのように次々と魔剣を創っては戦ってますよ?」
「そ、そうだったのか……」
おいおいマジかよ? それってつまり今まで俺達の前では本気を出したことがなかったってことか? あのライザーの前でも? 火織ってそこまで強かったのか。もうここまで来るとあいつの本気がどのくらいなのかまったく見当がつかねぇ。
「どうやら調子が出てきたみたいね、祐斗!」
「まだまだこれからさ!」
今ではもう火織も積極的に木場を攻め、木場のそれを凌ぎつつ反撃に転じている。つまり今までとはまったく違い、しっかりとした対戦になっていた。木場が攻めれば火織が魔剣を砕き、火織が攻めればうまくこれを木場が避ける。押されてはいるけど、それでも木場は火織と戦えていた。
「炎よ!!」
さらに木場は魔剣の能力まで使い始めた! 炎が、氷が、雷が、風が吹き荒れ、全方位から火織を襲う! しかしながら火織も
「はぁぁぁあああっ!!」
ものすごいスピードで動きまわり全ての能力による攻撃を斬り裂いていく! と、そこで
「ここだ!!」
炎を目眩ましに一気に間合いを詰めた木場の魔剣が火織に迫る! しかしながら火織もそれにしっかり反応し、その魔剣を弾いた。しかしそこで木場の攻めは止まらず、もう片方の手に握った……あれは透明な魔剣!? 剣の柄まではあるけど刀身は見えねぇ! でも火織はそれにも難なく反応し、天閃の聖剣でその剣も弾いた!
「まだ!」
しかしそこで攻めは止まらず、木場はさらに口元に魔剣を創りだし、口で咥えて火織に斬りかかった!
「それも予測済み!」
って火織これにも反応するのかよ!? 口に咥えた魔剣が上空に弾き飛ばされた!
「くっ!?」
そこで木場は悔しそうに顔を歪め、苦し紛れかそこでさらに蹴りを放った。火織もそれに難なく反応し、上体をそらすようにしてやり過ごそうとした……その時!
「えっ!?」
なっ!? 木場の足の先から魔剣が生えた!? 見れば木場の表情もしてやったりといった表情をしてる! さっきの悔しそうな表情はブラフか!
これには火織も虚を突かれたのか驚いた表情をした。そしてそんな火織に木場の魔剣は止まることなく吸い込まれ……
ギィィィイイインっ!!
木場の魔剣が……透明の聖剣に受け止められていた!!
「あいつ……ついに抜かせやがった!!」
「まさか……」
「すご~いっ!!」
俺に続いて皆も驚きの声を上げる!
「ついに抜かせたよ、火織さん」
「えぇ、今のは私も驚いたわ。まさかいきなりここまで動きが良くなるなんて思わなかった。しかも愚直に真っ直ぐな剣筋を使ってた祐斗がいきなりこんなトリッキーな動きまで混ぜてくるなんてね」
「今までのままじゃいつまで経っても勝てそうになかったからね」
「そう……まあここまで来たことは褒めてあげる。でも……ここからが本番よ!!」
そう言うと火織は猛烈な勢いで木場を攻めだした! 今まで使っていた天閃の聖剣に加え、左手にはさらに透明の聖剣を携えて、二刀で猛烈に攻め立てる!
「僕だって……負けない!」
木場はそんな火織の攻めにも必死に耐え抜き、今までよりもさらに多くの魔剣でもって一歩も引くことなく火織に喰らいついていった。そしてそんな木場の表情は……どこか活き活きとしていた。それを見た俺は
「よし! 俺も負けてらんねぇっ!!」
ひざ上の白音ちゃんを抱き上げつつ勢い良く立ち上がる!
「白音ちゃん! 組手の続きを頼む!」
「はい!」
俺だって負けてらんねぇ! 夢のためにも立ち止まる訳にはいかねぇんだ!! ……白音ちゃんを抱き上げてるこの格好で言っても絞まらないとは思うけど。
「うぁ~~~~……疲れた~~~」
あの後俺は白音ちゃんにボコボコに、部長と朱乃さんは黒歌姉にボコボコに、そして木場も最終的にはボコボコにという、もう神裂姉妹強すぎじゃね? と思わずにはいられない結果を叩き出した後、アーシアの回復も今日はもう限界ということでお開きになり、今は木場や朱乃さんたちと別れて帰宅途中。っていうか俺やアーシア、部長はもうかなりヘロヘロなのになんで俺の幼馴染たちはこんなに元気ハツラツなんだよ。
「あぁ、さっさと飯食って風呂入ってぐっすり寝てぇ……」
この歳でくたびれたリーマンのような台詞が出てくるとは思いもよらなかったぜ。
「イッセー、お風呂で背中流した後マッサージする」
「おう、よろしく~」
「ん」
嬉しそうに頷く龍巳。まあ表情は殆ど動いてないけど。それにしてももう龍巳との風呂も完全に習慣化しちまったな。っていうかおじさんとおばさんが出張から帰ってきたらなんて言われるかそれが怖い。
「じゃあ私と白音はお風呂上がったら仙術で回復してあげるにゃ」
「私と黒歌姉様でお兄ちゃんをサンドイッチにしてあげます」
「あぁ、頼むわ~」
これはここ最近たまにやるようになったんだが、ソファーやベッドで俺が黒歌姉の膝の上に乗って、さらに俺の膝に白音ちゃんが座るというまさにサンドイッチの状態での回復術だったりする。もう上も下も柔らかくて色々と困るんだけど、それでも回復量が半端無いからついつい受け入れちまうんだよ。まあこれしてもらうのは本当に疲れてる時だからそこまでモンモンとするわけでもないし、ぽかぽかして気持ちいいから俺も好きなんだけど。
「なんだかあなた達ばっかりいい思いしていない?」
「私もイッセーさんと色々したいです……」
そこで部長とアーシアが黒歌姉たちに向けて文句を言ってきた。
「これも幼馴染の特権にゃ。それに……2人はイッセーの疲れを癒す方法が何かあるのかにゃ?」
「「う……」」
そう言われて押し黙る部長とアーシア。アーシアの聖母の微笑も体力までは回復しないしな。それに黒歌姉たち以外に体を預けちまうってのは実はちょっと怖い。俺の幼馴染たちは俺がほんとに嫌がることは絶対にしないからな。だから俺から行かない限り一線は絶対超えないし、そこは信頼してる。でも、アーシアなんかはともかく部長や朱乃さんなんかは動けない体を前にしたら何してくるか分からねぇし。
「今度疲れを癒やすマッサージとか教えましょうか?」
「本当ですか!?」
「ぜひともお願いするわ火織!!」
「火織姉様、余計なことしなくていいです」
「そうそう、イッセーの体調管理は私達がいれば充分にゃんだから」
「ふふ、まあ少しくらいはいいじゃない。さて、もうすぐ家に着くし………………イッセー。あんたは龍巳と先にお風呂入っちゃいなさい。その間に夕飯の準備終わらせちゃうから。黒姉、今日っておばさんが作ってくれてるのよね?」
「ええ、あと先に帰ってるレイナーレが手伝ってくれてるはずにゃ」
「じゃああと私と黒姉がいれば充分ね。白音もうちの方でお風呂入っちゃいなさい」
「はい姉様」
あぁ、ようやく家か。学校から帰って来るだけでも一苦労だぜ。
「ただいまぁ!」
そう言って元気よく扉を開け放つ火織。
「あらおかえりなさい。今日も遅かったわねぇ」
「すみません。部活が長引いちゃいまして……」
「いいのよそれくらい。……イッセー、あんた一段と疲れてるわね」
「あぁ、まあいろいろあったんだよ母さん」
「ふふ、そう。……じゃあこれ見て元気出しなさいイッセー」
ん? これってどれだ?
そんな疑問をよそに母さんは一度キッチンに戻ると、レイナーレを引き連れて戻ってきた……って!?
「裸エプロン………………だと!?」
「う、うぅぅ……」
そこには真っ赤になって恥ずかしそうに悶える裸エプロンのレイナーレが!?
「き、桐生に聞いて……その、日本のキッチンに立つのなら裸エプロンであるべきだって……」
き、桐生ぅぅぅううう! ブルマに引き続きまたしてもあいつかぁぁぁあああっ!! 相変わらずいい仕事してるなこんちきしょうめ!!
「はぅぅぅぅ、イッセーさんの目が夕麻さんに釘付けです!」
「なんてこと! またしてもこの私が遅れを取るなんて!」
ぐっ、やべぇ、周りがなんか言ってるけど真っ赤になってるレイナーレが可愛すぎて全然耳に入ってこねぇ。普段高圧的でツンツンしてるレイナーレがこんな弱り切った顔で悶えてたら破壊力がハンパねぇ! これがギャップ萌えか!
「うふふ、可愛いでしょ夕麻ちゃん。私も若い頃はこうして仕事帰りの父さんを元気付けてたわ」
マジで!? っていうか親のそういう話は聞きたくなかったよ母さん! っていうか俺がエロいのは完全に遺伝だな!
「う~ん、まさか今更その手を使ってくるとは……」
「黒歌姉様、こうなったら私達も……」
「ん、久しぶりにやるべき」
「えっ!? ってまさか……!」
俺は背後からの不穏な会話を聞き、まさかと思って振り返ると……
「どうイッセー、我ら、久々の裸エプロン」
「イッセーは前や後ろより横からの見えるか見えないかが好きなんにゃよねぇ」
「お兄ちゃん、昔みたいにまたこの格好で毎日料理して欲しいですか?」
黒歌姉に龍巳、白音ちゃんまでもがまさかの裸エプロンに!? 一体いつの間に着替えたんだ!? 早着替えってのにも限度ってもんが!
「っていうかそのエプロンどっから出したんだ!?」
「「「こんな事もあろうかと!!」」」
「まさか携帯してたってのかよ!? っていうか外! まだ玄関開けっ放しだから外から丸見えじゃねぇか! さっさと閉めろ!」
俺は慌てて玄関の戸を閉める。近所の人に見られたらどうするんだ!
「へぇ~、何、イッセー? 私達の裸エプロンは誰にも見せたくないってことかにゃ?」
「独占欲ですか? お兄ちゃん」
「イッセー、素直はいいこと」
「ばっ!? ちがっ!? っていうかその格好でくっついてくんな!!」
っていうかそんなにくっついてきたら見える! 隙間から大事なところが見えちまうって!!
「くっ、こうなったら私達も裸エプロンよアーシア!」
「はい部長さん! は、恥ずかしいですけど私も裸エプロンになりますぅ!」
「うふふ、そう言うと思って私が使ってたエプロンを用意してあるわよ。着いてらっしゃい?」
「「はい! お願いしますお母様!」」
って母さんもちょっと待て! ってあぁ、行っちまった。この上部長やアーシアまで裸エプロンになる気かよ!? あぁ、部長はともかくアーシアはこういうエロいこととは無縁の娘だったのに、一体何でこんなことに……いや、まあ俺がエロいからなんだけど。
「で、イッセー。我らの中、誰が一番似合う?」
「昔よりスタイル良くにゃったから、今の方が似合ってにゃいかにゃ?」
「うぅ、私は前とほとんど体型が変わってません……」
「ちょっ!? だ、だからそんなに詰め寄るな!」
っていうかそんなに詰め寄られるとエプロンが殆ど見えねぇからもう全裸にしか見えない!
とそこで背中の制服の布地がくいくいっと引かれた。なにかと思い振り返ってみると
「イッセー……」
レ、レイナーレがまさかの涙目上目遣いだと!? どうしちまったんだレイナーレ! 裸エプロンってのはそこまで人を変えるのか!? などと思っていると
「い、イッセーさん……」
蚊の泣くような、ほんとに小さな声が聞こえた。っていうか今の声ってアーシアか? 俺はそう思い、声がした方に向いてみるとそこには……
そこには……
そこには!!
「「「「「「まさかのスケスケ裸エプロン!?」」」」」」
そこには完全スケルトン仕様のエプロンのみを着用したアーシアが! っていうかそれじゃあもう裸と変わんねぇじゃねぇか! いやむしろビニール素材のエプロンにおっぱいが潰れているのがこれみよがしに丸見えなせいでむしろ裸より卑猥なことになってるぞ! これにはさっきからニヤニヤ見てるだけだった火織まで声を合わせて驚いちまった! っていうかそんなエプロンあるのかよ!? しかも母さんが昔使ってたって……いったい母さんはこれで父さんに何やったんだ!? っていうか……あ……やば……
「ブフォア!?」
「「「「イッセー!?」」」」「イッセーさん!?」「お兄ちゃん!?」
度重なる裸エプロンの波状攻撃に加え、最後のアーシアの衝撃的アクロバティック裸エプロンのせいでついに鼻のダムが決壊、鼻血がとめどなく流れ始めた。しかもその勢いのまま最も大変なことになってるアーシアの胸の中に倒れこむことに……あぁ、ダメだこれ……もう意識が………………
「どうイッセー! 私も着てみた、ってイッセー!? ちょっと! 私のを見る前に気絶なんて許さないわよ!?」
意識を失う直前俺の目に飛び込んできたのは半泣きになってる部長の可愛い顔だった。
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……なぜだろう?
リアスが最近ヒロインというよりはオチ担当みたいになってきてしまいました。
いや、別に嫌いというわけではないんですよ!?
どちらかと言うとかなり好きです!
どのくらい好きかと言われると、先日の富士見ファンタジア25年祭で販売されていた等身大タペストリーを買ってしまうくらい好きです。
……こういう時東京在住はいいですね。
頑張って東京の研究所に就職できてよかったです。
勤続5年目にある2年間の出向を除けば基本ここから移動はないですからね。
今後もこういったイベント事には逃さず行けそうです。
しかし等身大タペストリー、思ったよりかなりでかいですね。
設定では身長は170弱だった思いますが、飾った位置の問題か、身長180の自分がリアスの顔を若干見上げてしまっています。
……もうちょっと飾る位置考えようかな?
さて話は変わりまして前回のアンケートですが、たくさんの方に感想で、更に多くの方にメッセージの方でお返事を頂きました。
皆様、ありがとうございます。
そして結果なのですが………………皆さんエヴァンジェリン大好きですね!
「ハイスクールD×D ~赤龍帝と闇の福音~」が圧倒的大差で1番人気でしたよ!
いやまあ私も好きなんですけどね!
またそれと離されてそこそこの票数が「ハイスクールD×D ~赤龍帝の兄は白龍皇!?~」、「IS ~MFS-3~」、「ソードアート・オンライン ~黒のビーターと赤のビーター~」、「緋弾のアリア ~再び動き出す不吉な黒猫~」にだいたい同じくらい入りました。
……何故か「真剣で私に恋しなさい! ~出会ったあいつは神鳴流~」には一票たりとも入りませんでしたね。
まあ原作の知名度は他に比べたら低い……のかな?
さて、このアンケートにおいて1つの意見といいますか、抗議をメッセージで受けました。
それは題名だけではどんな内容か分からないので答えようがないというものです。
……至極もっともですね!
すみません、私の不注意でした。
ということで、今回はそれぞれの簡単な紹介をネタバレにならない程度にしようと思います。
・ハイスクールD×D ~赤龍帝と闇の福音~
闇の福音の容姿や能力などを貰った転生者とかではなく、「ネギま!」の世界のエヴァンジェリンが「ハイスクールD×D」の世界にやってきます。どの頃のエヴァが、どの時間軸にやってくるかはまだ内緒です。第1話は原作3巻から開始予定。後から回想という形で過去の話をちょっとする予定です。「ネギま!」キャラはエヴァの他はとある2人?だけ登場予定です。
・ハイスクールD×D ~赤龍帝の兄は白龍皇!?~
まず最初に1つ、この話にはオリキャラは出ません。大事なことなので2回言います。この話にはオリキャラは出ません。原作に登場するキャラのみによる原作改変物です。つまり白龍皇の兄とは……? ある日仲良く出かけていた兵藤親子がぼろぼろになり倒れていた銀髪の男の子に出会うことで運命が変わり始めます。第1話は原作1巻冒頭を予定。本来まったく違う性格の持ち主が共に育つとどうなってしまうのか!? 合言葉は混ぜるな危険!
・IS ~MFS-3~
今更感のある神様転生のテンプレもの。ただし転生特典は拒否した模様。とある巨大ロボットに魅せられた少年は必死の努力の末、一流大学卒業後念願の一流企業へ就職、巨大ロボの夢へ向け邁進していた所実験中の事故で死亡。転生の際特典の代わりに自分の夢を叶えられる技術力のある世界への転生、そして夢を叶える環境を希望。その結果ISの世界に一夏と箒の幼馴染として転生した。……ただし女として。篠ノ之束を師事しつつ夢を叶えようと邁進する少女。そんな彼女の背を見た一夏は……? 第1話は幼少期すっ飛ばして原作1巻からの予定。幼少期及び原作前のことは回想という形で間々に挟んでいきます。主人公はロボットが好きなため「フルメタル・パニック!」などは知っていましたが、パワードスーツである「IS」は読んでいなかった模様。原作知識なしです。主人公の魅せられ、そしてこの世界でISを使って実現させようとしている巨大ロボットは、題名を見れば分かる人には分かるはずです。と言ってもほとんどいないと思いますが。第二の第二世代ISによる蹂躙が今始まる!
・ソードアート・オンライン ~黒のビーターと赤のビーター~
題名のまんま、本来1人のはずの有名なピーターが2人に増えます。黒のビーターにはβテスト時代に知り合った相棒がいた。後に赤の剣士と呼ばれる長刀使いである。第1話は原作同様走っているキリトがクラインに話しかけられるところから始まります。ただしキリトが走っていたのは待ち合わせのため。コミュ症とは思えないリア充っぷりです。自分に振り向かせようとするアスナ、アスナの想い人だけど振り向く気配ないし、なら自分も頑張ってみてもいいよねと張り切るリズ、特定の相手がいないなら自分にもチャンスはあると若干腹黒のシリカ、そしてそのどれにもなびかず1人を想い続けるキリト、そしてキリトをそういう対象にまったく見ていない主人公という凄まじい片恋の嵐です。
・緋弾のアリア ~再び動き出す不吉な黒猫~
「緋弾のアリア」ととある原作の微クロス物。とある原作がなんなのかはまだ内緒。主人公の名前は水無月・H・美琴。……この時点でとある原作の誰と誰の子供なのかは分かる人多いかも。彼女はキンジと白雪の幼馴染として武偵高に在籍中。武偵殺しに兄を殺されたにもかかわらず武偵になることをやめようとしないキンジ。それはそんな危ない世界に美琴を残せない、美琴は俺が守る! という決意のため。しかしそんな美琴は白雪の応援をしていて……。微クロス先のとある原作のキャラは基本出てきません。名前くらいならちょっと出すかもしれませんが……。盛大な泥沼恋模様になる予感。
・真剣で私に恋しなさい! ~出会ったあいつは神鳴流~
……これはいいか。人気無いし。
とまあこんな感じですかね?
引き続きご意見の方をお待ちしていますのでよろしくお願い致します。
それから同時に連載するかですが、これは意見が真っ二つに別れましたね。
書くことにした場合、どのような形で連載していくかはもう少し考えてみたいと思います。
最後にもう一つ、今回次回予告がいつも楽しみですと初めて言われました!
苦労して考えた甲斐があった!
いつも予告で誰がしゃべっているのか考えるのが面白いと言われました。
そしてそれがいい方向に裏切られるとも。
そういう部分も狙っているので狙い通りになっているのが嬉しいです!
皆さんも良かったら誰の発言か考えてみて下さい。
正解者には……ごめんなさい。なんにもないです。
では次回予告をどうぞ。
後書き
次回予告
「今日で最後か……」
「火織ちゃんに勝つためにも!」
「プライドなど! とうの昔に捨てている!!」
「同志たちの無念を晴らすためにも……!!」
「がんばれぇっ!!」
次回、第54話 覚醒の時
「胸が……光ってる!?」
※今回いつも以上に頑張って考えてみたけど予想以上につまらん次回予告だ。申し訳ない。
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