私立アインクラッド学園
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
文化祭
第37話*新たな想い
俺は、本当に子供だな。
甘酒なんかで酔うわけないし、なによりアスナが泣きながら違う、違うと否定していた。なのに、俺は。
「バカだよな……」
「ええ、ほんっとバカね」
声のした方を振り返ると、リズベットが仁王立ちしていた。
「リズ……お前まさか、さっきの見」
「なくてもわかるって言ってんでしょ? あんた達って、ほんとにわかりやすいんだから」
リズベットが溜め息混じりに言う。
「せっかくこのあたしが背中を押してあげったっていうのに、あんたほんと……なにしてんのよ」
「……」
ほんと、なにをしているんだろう。
「……アスナのこと、忘れたいの?」
「……」
「じゃあさ」
リズベットが俺の前に回り込む。そして言った。
「あたしと付き合ってみる?」
一瞬、思考回路がフリーズする。
「つ、付き合うって、どこに」
「違うわよ。あたしと交際してみないかって訊いてるの……ああもう、言わせないでよ恥ずかしい!」
リズベットがこちらに背を向け、自分の髪をかきむしる。そして少し振り返る。
「……一応本気、なんだけど」
上目遣いで言うリズベットは、いつもよりも女の子らしく見えた。
「……ど、どうしたのよ」
照れたように首を竦める。
「いや……リズも女の子なんだなと」
「どういう意味よ!」
少しばかり怒りっぽいところも、今どきの女の子って感じがする。
「あーあ、あたし、お腹空いちゃったわ! キリト、なんか奢ってよ」
「はあ!?」
「今財布ピンチなのよ」
「嘘つけ、リズベット武具店は大繁盛してるだろ」
当の鍛冶屋リズベット様はぷくぅっと片頬を膨らませた。
「いいからなんか奢ってよ!」
「理不尽です!」
「あたしねー、ずーっと欲しかったお高いケーキがあるのよぅ」
「今お高いって言った!? 言ったよな!? ……俺は絶対に買わないからな」
すると、リズベットが俺の手をぐいっと引っ張り、走り出した。
「ど、どこ行くんだよ」
「イミテーション・シティの有名ケーキ屋«sweet sweet»」
「奢らせる気か! あそこのケーキ超高いんだぞ! くそッ、却下だ!」
俺の言葉に、リズベットはにっこりと微笑みを浮かべて振り返った。
「いいじゃない、後であたしの手作りケーキあげるから!」
「それとこれとは」
「ふーん、キリトはあたしのケーキに高級ケーキ相当の価値はないって言うのね?」
「……それとこれとは」
「もー、ほら早く!」
*
──結局連れてこられてしまった。
「ん~、おいひい!」
リズベット、食べながら喋るなよ。
「きりとょもてゃべう?」
訳:『キリトも食べる?』──といったところだろう。
「買えるわけないだろ……」
ケーキ屋でリズベットが頼んだケーキの数はすざましく、俺の分まで買うお金なんてない。
「そうじゃなくて、あたしのこのケーキを食べるかって訊いてんのよ」
そう言ってリズベットが差し出してきた皿に乗っているのは、食べかけのケーキ。
「いや、でもそれは」
「な、なに照れてんのよ! く、口に入っちゃえば同じよ、こんなの!」
「いや、でもそれは」
「同じことばっか言ってないで、は、早く口開けて!」
「えっ、そ、それは」
「もーっ!!」
***
キリトが同じような言葉ばかり紡ぐ。
「もーっ!!」
あたしはついに大声で言った。
「な、なんだよいきなり」
開いたキリトの口に、すかさずケーキを放り込む。
「……1人で食べてたって、つまんないわよ。一緒に食べよ」
あたしの言葉に、キリトはこくこく頷いた。激しい同意、ではなく、思考回路がショートしてしまっているのだろう。
当然だ。あたしもショート寸前なのだ──どこかのアニメの主題歌ではないけれど。
あたしは赤くなっているであろう顔をふいっと反らして言った。
「明日、家庭科の調理実習でケーキ作るの。約束通りご馳走してあげるから、昼休みはちゃんと来なさいよね」
「ど、どこに?」
「うーん……あ、屋上。高等部校舎の屋上で待ってるわ」
「そ、そうか……」
キリトはにっと笑みを浮かべる。
「じゃ、楽しみにしているよリズベット君」
あたしがキリトに振り向いて貰うつもりだったのだが、あたしのキリトへの想いが深まるばかりであった。
ページ上へ戻る