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IS インフィニット・ストラトス~普通と平和を目指した果てに…………~

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number-2




結局IS学園近辺についたのは午後1時だった。高速道路で時速150kmまで飛ばしたのは良かったが、やはり悪いことをすると捕まるのは本当らしく、高速警邏隊に普通に捕まってしまった。
しかし、やはりその警邏隊の人も女性がほとんどで篠ノ之束の名前と顔を知らないものはいなかった。いかにも不機嫌ですと言った雰囲気を纏って、むくれている束を見た警邏隊の人たちの顔の変わりようといったら、1時間は笑えると思う。
――――訂正、やっぱりそんなに笑えない。しゃっくりを100回すると呼吸困難で死ぬ可能性があるかもしれないため、笑いも過呼吸になってしまうのではないのかと、不安でもある。


蓮は予め貰っていた予定表を開いた。入学式が終わるのは12時30分。各教室で自己紹介やらが始まるのは、午後1時。ということは、もうすでに始まっているのだが、昼食をとっていないのだ。それは後ろに座っていた束も一緒で、お腹を空かせている。その証拠に頭のうさ耳が力なく垂れ下がっている。


どうせ今行っても遅刻は確定なのだから、早く行くか遅く行くかの違いは、二人にとっては些細な問題でしかない。
IS学園に向けて走らせていた途中で、丁度よく定食屋を見つけたので、一刻も早く昼ご飯を食べたかった束の提案でそこの定食屋『五反田食堂』にて昼食をとることに決めた。


蓮は食堂の隣にある駐車場にそこら辺の大型バイクよりも一回りは大きいバイクを止めると、ヘルメットを取って一々しまうのが面倒だからハンドルのところにかけてキーを取った。実はこのバイクにもちゃんとした名称があったのだが、そんなに拘らない蓮は忘れてしまった。まあ、少し考えればすぐに浮かぶと思うが。


――ガララァッ
「いらっしゃいませー!」


戸を開けた瞬間に店員の挨拶が聞こえた。やはり、チェーン店のファミレスとかと違って個人で営んでいる店は客が命だから。蓮個人としてはこちらの方が好きである。
少しそんなことを思っていると束がもうあいている二人席に座っていたので、その対面に座る。そしてすぐに、壁に掛けてあるメニューから自分の分を選んだ。


「束はどうする?」
「れんくんと同じのー」


束は基本食べられればいいという感覚の持ち主だ。酷い時は、人間の体調だけを維持できればいいと思ったのか、必要摂取カロリーを無視してサプリメントだけで済ませていた。ちなみにこの行為はかなり危ないことだったので、蓮はやめさせた。


それでようやく朝昼晩と一日三食食べるようになって安心したのが同居してから1年たった日のこと。逆に言えば、1年かかったということだ。
蓮にとって束は大切な人である。生涯付き添いたいかはまた別にして、一人の人として大切な人なのだ。


そこから少しすると赤髪の少女が慣れた動作でお盆に水を注いだコップを二つ置いて蓮たちが座っているところに来る。
一つ断りを入れてから静かにコップを置く。店内は、もう山を過ぎたのかお客さんは蓮と束だけだった。だからか、コップの置く音がやけに響いて聞こえた。


「ご注文はお決まりでしょうか?」
「業火炒め定食二つ」
「かしこまりました――――業火炒め定食二つ入りましたー!」


厨房に下がる少女を見送ってから蓮は、コップを手に取り、口に水を含ませる。
そして音を立てないように静かにテーブルにコップを置くと、壁にかかっているメニューをなんとなく見始めた。


束とは会話を交わさない。いや、話しかけてくれれば答えるが、こういう時は束からは話しかけない。今蓮が正面を向けば、束がテーブルに肘をついて手に顎をのせながらにっこにこして蓮を見ている。嘗てもそうだった。そして今も変わらない。


束はこの時間が好きだ。蓮はもどかしく感じるがこれといってもない。好きにさせている。


「お待たせいたしました。業火炒め定食二つです」


流石定食屋、客をほとんど待たせることなくすぐに品物を出してくれる。これはファミレスではほとんどない光景である。
すぐに二人は割り箸を取って割り、食べ始める。


業火炒め定食はうまい。料理を作る側でもある連からしても、とてもおいしく感じた。それに、束が文句言わずにただひたすらに食べているのも珍しい。おいしーと目に見えて機嫌がよくなり、これからも贔屓にしそうな勢いだ。


よく食が進み、束がほとんど食べ終わり、蓮がもうすでに食べ終わってコップを手に取り、水を飲んで一息ついているときだった。
テーブル席の前に先ほどの赤髪少女が立っていて、束のことを何やら尊敬するような目で見ていた。
やはり束も人に見られては、食べづらいものがある。尊敬やら羨望やらそんな思いがこもった瞳で見られ続けている。思わず、束が口を開こうとした時だった。


「あの……! ISの発明者で稀代の天才の篠ノ之束博士ですよね!?」
「ん? そうだけど?」
「うわぁ、ファンなんです! サインくださいっ」


いつの間にか持ってきていたのか、赤髪少女の手には一本のペンと一枚の色紙が握られていた。束がサインを書いてくれるかもわからないのに準備のいいことだ。
先ほど店内を見渡して思ったが、都内に近いこともあってかこの店にも何枚か有名人の色紙が飾られていた。それでいつ来てもいい様にと、常備してあるのだろう。


「うーん、どーしよ」


束は負の感情のこもった視線は何度も向けられている。こんな世界を作ってしまったし、ISなんてものを作ってしまった。いや、ISはむしろ認められるものである。現に、当初の束の願いとは別の用途で使われてしまっているが、それでも世界規模で使われている。先進国は必ず持っている。


そして、篠ノ之束が望んだ使われ方。ISによる宇宙空間での活動。これは、蓮が束を一緒に宇宙空間へ行き、月の全容調査でもう果たしてしまった。その時の束の表情は蓮にとって、とても衝撃のあるもので。生涯忘れることが出来ないくらいのもので。
嬉しさと、悲しさと、悔しさと、苦しさと、愛しさと、寂しさがごっちゃごちゃになった。そんな良く分からない入り混じった感情。


「よし、決めたっ。君に次会えた時にあげるとしよう。一回だけだとそこら辺の赤の他人と何も変わらないからね。それでいいかな?」
「……ッ、ハアッ。分かりました、次に会えた時にします」
「うん、えらいえらい。よく引き下がったね。そんな君にご褒美を上げよう」


そう言うと束はポケットの中から何かを取り出した。ポケットから取り出したものを赤髪少女の目の前に指でぶら下げるようにして、見せる。


束がポケットから取り出したものは、綺麗な赤い石がつけられたネックレス。何の変哲もない、アクセサリーショップに行けば普通にありそうなごくごく普通の石。


「これは今は普通の石かもしれない。でも、次に会った時にこの何の変哲もない石が、君のISになるかもしれない。私なりの再会の証」


赤髪少女は成されるがままに束から赤い石のネックレスを受け取った。
――――それにしても珍しい。ここまで束に言わせるとは。この赤髪少女の潜在能力はそこまで凄いのか。


束が人嫌いなのにはわけがある。
普通の人には興味がない。はっきり言ってしまえば、特に何の取り柄のない人などそういう人がISに乗るのは、束にとってあまりうれしくないことなのだ。それでも、IS学園なんてものをそのままにしているのは、篠ノ之束の親友である織斑千冬がいるからにすぎない。


特殊な人、例えば男性でありながらISを動かせる人とか、人間でありながら人間ではないとか、そういう人に限って束は、まともに会話をする。
ちなみに蓮も男性でありながらISを動かせる人に入るのだが、束にとって蓮はそれ以前に大切な人で。自分の存在理由を作ってくれた人。自分が帰るところを作ってくれた人。心から君に捧げたいと思う人なのだ。


そして赤髪少女は束の言っている意味を理解したのか、とても驚いていた。そして、目に涙を溜め始めた。よっぽど嬉しかったのだろう。
女性が泣いているときは放っておいてほしい時と構ってほしい時の二つのパターンが存在する。それは蓮が今は亡き両親から学んだこと。今はそんなことどうでもいいか。
蓮はハンカチを取り出して赤髪少女の目を少し拭いてやり、そのままハンカチを渡す。そして、丁度業火炒め定食二つ分のお金をテーブルに置いて、食堂を後にする。
束も蓮の後を追って食堂を後にした。


二人はそのままバイクに乗り込み、ヘルメットをかぶり、走らせた。
時間は午後2時。もうそろそろ向こうにつかないと学園側が心配を始めるだろうか。もう行く。


そして、定食屋の娘が渡されたハンカチを手に青年に気をつられたか、上の空になってしまったこと。ある人と比べてしまって悶々とするのも別の話。





 
 

 
後書き


そろそろ、小説を書き始めて一年がたつなぁ…… 
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