八条学園怪異譚
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第四十一話 百物語と茶室その十二
まずは茉莉也が靴を脱ぎ本当に這う様にして中に入った、続いて二人も。
そうして中に入った場所はというと。
三畳程の小さな茶室だ、部屋の中央に茶を淹れる場所がある。
壁も麩も侘び寂しを感じさせる質素だが趣きのあるものだ、書が書かれた掛け軸もまた。
しかしそこは茶室だった、茉莉也はそこまで見て部屋の中に来た二人に告げた。
「じゃあ百物語をね」
「はい、明日からですね」
「読んでいくんですね」
「三人で黙読すれば一日かしら」
それ位で終わるだろうというのだ。
「まあじっくり読んで二日ね」
「それで、ですね」
「次ですね」
「そう、ここは泉じゃなかったから」
普通の茶室だった、小さいにしても。
「それをしましょう」
「じゃあ今はですね」
「日下部さん達に挨拶をしてから」
二人も応える。
「それで先輩の神社にお邪魔して」
「お茶を」
「本当にお酒もあるわよ」
茉莉也はまだ酒にこだわりを見せる。
「和菓子と一緒にね」
「ですから和菓子にはお茶です」
「私達はそちらですから」
「まあその辺りは飲まないのならね」
それならという茉莉也だった。
「いいけれどね」
「お茶も私達で淹れますし」
「お気遣いはいいですから」
「ううん、何かそう言うのならね」
茉莉也は二人の言葉を聞いて腕を組んで考える顔になった、そのうえでこう二人に言った。
「麦茶ど?まだ暑いし」
「お抹茶じゃなくて麦茶ですか」
「そっちですか」
「そう、まだ麦茶いけるでしょ」
暑さを考えればというのだ、まだ九月のはじめだ。夜にしてもまだまだ暑く三人共汗をかいている。だから茉莉也も麦茶を提案したのだ。
「だからどう?」
「そうですね、それじゃあ」
「麦茶を御願いします」
「私はお酒でね。よく冷えたお酒よ」
茉莉也はこちらの方をより上機嫌で話した。
「もうね、ごくごくってね」
「飲むんですね」
「一升は」
「三升ね、今の調子だと」
一升で済まないのが茉莉也だ、相変わらずの酒豪である。
「それ位は飲めるわ」
「冷えた日本酒を三升ですか」
「それだけ飲まれるんですね」
「先輩本当にお酒好きですね」
「甘いものもですけれど」
「ひょっとしたら前世はうわばみかもね」
八条学園にもいるこの妖怪ではないかというのだ。
「親戚に蛇神様祀ってる神社の人もいるし」
「蛇神様ですか」
「そう、水の神様でね」
聖花の問いにも答える、こうした話をしながら小さな茶室を出て庭を経由して大きな茶室に向かう廊下に玄関から入る、そうして日下部達に挨拶をしに向かっていた。
その中でだ、茉莉也は二人にその蛇神様について話しているのだ。
「湖の守護神だったらしいのよ」
「何か龍神様みたいですね」
「そっちに似てますよね」
「そうね、似てるわね」
実際にそうだとだ、茉莉也も二人に応える。
「というか龍は元々蛇からはじまってるから」
「あっ、そうでしたね」
「龍は蛇から出たんですよね」
「神様だったりモンスターだったりするけれど」
この辺りはそれぞれの龍の性質による、いい龍や蛇もいれば悪いものもいる。こうしたところは人間と同じであろう。
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