ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
七十五話:レヌール城のカップル
さすがに耐性が付いてきたのか、服装が女物じゃないからか、意外と早く赤面状態から立ち直ったヘンリーと、いつも可愛いスラリンと一緒に、レヌール城の空中庭園で、景色を楽しみながら昼食を取り。
いよいよ、本格的に城内に入ります。
「十年前は時間を気にしてたから、銀のティーセットが揃ってないんだよね。トレイしか持ってないから、あとはポットと、カップだっけ」
「そうだな。場所は、覚えてないが」
「床の穴から飛び降りるところと、城の外から地下に入るところだったと思うけど。適当に、探せば見つかるよね」
「そうだな」
目的も無く歩き回るのもなんなので、なんとなく銀のティーセットを目標にして、探索を始めます。
「ところで、ここって。身分違いの駆け落ちカップルがいたよね。確か」
「そうだな。玉座だったか、いたのは」
「行ってみよう!」
「……いいけどよ。一応聞くが、なんでだ」
「顔が見たい!折角の、現実なんだから!」
「……いいけどよ。妙な色気、振り撒くなよ」
「善処します!」
駆け落ちした挙げ句に他の女にしろ男にしろ、気を引かれて喧嘩別れとか最悪だよね!
本当に、全てを失う!
そんな二人の人間を不幸のどん底に落とすような、悪趣味なマネはしません!
魔界のゴーストとやらの妨害が無い以上、玉座の間にたどり着くのに障害らしい障害は無く。
すぐにたどり着いて、人影(ていうか私たち)に気付いたカップルが手に手を取り合って慌ただしくバルコニーに駆け出し、身を潜めます。
……なんで、そんな袋のネズミのようなマネを。
逃げる気、あるのか。
まあ私たちで無く普通の追っ手だったら、意外と気付かない、のか?
と無理矢理な理解をしつつ、追いかけて声をかけます。
余計なところでびっくりさせると悪いので、スラリンは廊下に待機させて。
「あのー」
「頼む!見逃してくれ!」
すっかり警戒されてしまった。
うーんと。
警戒を解くにはやっぱり、まずは笑顔だよね!
という至極常識的な思考により、ニッコリと微笑み、優しく話しかけます。
「私たちは、怪しい者ではありません。どうか、安心してください」
お互いを庇い合うように身を寄せ合っていたカップルが、私の柔らかい声に少し警戒を解き、そろそろと顔を上げ。
そして揃って、「ぽっ……」と顔が赤く。
……ダブルだ!
しまった!!
えーと!えーと!
挽回、挽回……!!
私に呆れたような視線を向けていたヘンリーの腕を、咄嗟に掴みます。
「私たち、このお城にデートに来たんです!このお城にはその昔、すごく愛し合って結ばれた、王様と王妃様が住んでいたんですって!とってもロマンチックですよね!ね、ヘンリー?」
腕に絡み付き、甘えるように上目遣いで見上げます。
「……!!」
色々な驚愕で目を見開き、言葉にならないようです。
毎回言葉を添えるのももう飽きてきましたが、やはり顔はどんどん赤くなっていきます。
うん、すまん。
どんなキャラだよって話よね、唐突に。
駆け落ちカップルもまた赤くなってますが、さっきとはたぶん意味が違うので!
オーケー、挽回した!
「そ、……そうなんですね!だからなんですね、このお城が、優しく迎えてくれた感じがしたのは!」
赤い顔で微笑むカップルの女性は、なんというか素朴な感じで。
正に、野に咲く可憐な一輪の花といった風情ですね!
心根の美しさと健気さに、近くにいたらうっかり絆されちゃうような!
「まあ!不思議なこともあるものですね!でも、迎えられたって?まるで、ここに住んでるみたい」
可愛らしく小首を傾げ、すっとぼける私。
照れてでもいるのか、さらに赤くなって俯く女性。
まあ、愛らしい。
「それは……」
「僕たちは、……身分違いの恋に落ちてしまい、駆け落ちしたんです」
そんな彼女を庇い、労るように口を開く男性。
若干私から目を背け気味ですが、賢明な判断と言えるでしょう!
ちょっと線が細いというか頼りない感はありますが、話しぶりもしっかりしてるし、なかなかのいい男ですね!
そんな彼の努力を無に帰してはいけないと、敢えて彼ではなく、彼女に向けて思いやる言葉をかけてみます。
「まあ。それは。そんなに想い合ってるだなんて、素敵ですけど。……大変、ですね」
「はい……。私のために、彼には家を、捨てさせてしまいました……」
また俯く、彼女。
やはり彼氏のほうが、いいとこの坊っちゃんですか。
「君だって!大事な家族を捨ててまで、着いてきてくれたじゃないか!」
彼女の肩を掴み、真剣に訴える彼氏。
あれ。なんかそろそろ、お邪魔な感じ?
……うん、まあ、良かったよ。
二人の仲に、ヒビを入れずに済んで。
顔も確認したことだし、そろそろ退散するか。
「では。私たちは、そろそろ」
「待ってください!」
ああ、引き留められてしまった。
「僕たちには、僕の家から追っ手がかかっているかもしれないんです!どうか、このことは」
「もちろん、誰にも言いません。愛し合う二人の気持ちは、……よく、わかるから」
駆け落ちするほどの気持ちって正直、実感としてはわからないのですが。
パパンとママンのことを思い出して感傷的な気分を引き出し、俯いてみます。
あの二人も、駆け落ちカップルだったなあ……。
駆け落ちってか、パパンが攫った形だけど。
早く、会いたいなあ……。
というテンションで、改めて別れを切り出します。
「どうか、お幸せに。私たち、本当にもう行きますね」
「……ありがとうございます。あなたたちも、お幸せに」
ああ、そういう設定だった。
真摯な祝福に適当な嘘で返すのも気が引けるので無言で微笑み、踵を返そうと、したところで。
ヘンリーの腕が私の手から逃れて、腰を抱き寄せます。
……まだ諦めてなかったのか、コイツ!
このタイミングでやられたら、振り払えないじゃないか!
策士めが!!
などという内心はおくびにも出さず、苛立ちを恥じらいに変えて誤魔化しながら、今度こそ踵を返して立ち去ります。
急ぎ足で進もうとする私と、腰をガッチリ捕まえてゆっくり歩くヘンリーとで、水面下の戦いを繰り広げながら。
玉座の間からもバルコニーからも十分に離れたところで、もういいだろうと腰の手を振り払います。
「……ヘンリー!落ち着かないから、やめてって言ったのに!」
「……お前な……。散々、あんな……」
「あんな?」
「いや、いい。なんでも無い。悪かったよ。けど、そんなに嫌か?」
「嫌、か……?……は、わかんないけど。むずむずする」
「……思い出すから?」
……思い出した!
今、まさに!
「……顔、赤いな」
「え!?ホント!?」
そんな、「ぽっ……」な状態に、私も!?
「……お前でも、なるんだな」
「……そりゃ、なるよ」
だって、人間だもの。
「……もう、しないでね」
「……当分はな」
当分ってなんだよ!
けど突っ込んでも解決しなそうだから、ひとまずいいことにしよう!
どうせ、ラインハットまでのことだし!
と、問題を先送りした先で消し去ろうと目論みながら、手近にあった床の穴に飛び降り。
ヘンリーが先に降りようとするのを肩を掴んで引き留めて、私が先に飛び降り。
銀のティーポットを回収してる間に、ヘンリーが更に下の階に、先に飛び降りてしまい。
ヘンリーの顔をめがけてスラリンを着地させながら私も飛び降りて、事なきを得て。
うん、やっぱり早急に対策が必要だ。
お風呂を覗きはしないのに、なんでそこは見たいんだ。
男のロマンなのか?わからん。
正面玄関から外に出て、地下道を通って地下室に入り、銀のティーカップも回収します。
「これで用は済んだね。城の中も、大体見たし。帰ろっか?」
「ああ。帰ろう」
レヌール城を出て、アルカパの町に戻ります。
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