| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?

作者:あさつき
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

二部:絶世傾世イケメン美女青年期
  七十五話:レヌール城のカップル

 さすがに耐性が付いてきたのか、服装が女物じゃないからか、意外と早く赤面状態から立ち直ったヘンリーと、いつも可愛いスラリンと一緒に、レヌール城の空中庭園で、景色を楽しみながら昼食を取り。

 いよいよ、本格的に城内に入ります。

「十年前は時間を気にしてたから、銀のティーセットが揃ってないんだよね。トレイしか持ってないから、あとはポットと、カップだっけ」
「そうだな。場所は、覚えてないが」
「床の穴から飛び降りるところと、城の外から地下に入るところだったと思うけど。適当に、探せば見つかるよね」
「そうだな」

 目的も無く歩き回るのもなんなので、なんとなく銀のティーセットを目標にして、探索を始めます。

「ところで、ここって。身分違いの駆け落ちカップルがいたよね。確か」
「そうだな。玉座だったか、いたのは」
「行ってみよう!」
「……いいけどよ。一応聞くが、なんでだ」
「顔が見たい!折角の、現実なんだから!」
「……いいけどよ。妙な色気、振り撒くなよ」
「善処します!」

 駆け落ちした挙げ句に他の女にしろ男にしろ、気を引かれて喧嘩別れとか最悪だよね!
 本当に、全てを失う!
 そんな二人の人間を不幸のどん底に落とすような、悪趣味なマネはしません!


 魔界のゴーストとやらの妨害が無い以上、玉座の間にたどり着くのに障害らしい障害は無く。
 すぐにたどり着いて、人影(ていうか私たち)に気付いたカップルが手に手を取り合って慌ただしくバルコニーに駆け出し、身を潜めます。

 ……なんで、そんな袋のネズミのようなマネを。
 逃げる気、あるのか。

 まあ私たちで無く普通の追っ手だったら、意外と気付かない、のか?
 と無理矢理な理解をしつつ、追いかけて声をかけます。
 余計なところでびっくりさせると悪いので、スラリンは廊下に待機させて。

「あのー」
「頼む!見逃してくれ!」

 すっかり警戒されてしまった。
 うーんと。
 警戒を解くにはやっぱり、まずは笑顔だよね!

 という至極常識的な思考により、ニッコリと微笑み、優しく話しかけます。

「私たちは、怪しい者ではありません。どうか、安心してください」

 お互いを庇い合うように身を寄せ合っていたカップルが、私の柔らかい声に少し警戒を解き、そろそろと顔を上げ。

 そして揃って、「ぽっ……」と顔が赤く。

 ……ダブルだ!
 しまった!!

 えーと!えーと!
 挽回、挽回……!!


 私に呆れたような視線を向けていたヘンリーの腕を、咄嗟に掴みます。

「私たち、このお城にデートに来たんです!このお城にはその昔、すごく愛し合って結ばれた、王様と王妃様が住んでいたんですって!とってもロマンチックですよね!ね、ヘンリー?」

 腕に絡み付き、甘えるように上目遣いで見上げます。

「……!!」

 色々な驚愕で目を見開き、言葉にならないようです。
 毎回言葉を添えるのももう飽きてきましたが、やはり顔はどんどん赤くなっていきます。

 うん、すまん。
 どんなキャラだよって話よね、唐突に。

 駆け落ちカップルもまた赤くなってますが、さっきとはたぶん意味が違うので!
 オーケー、挽回した!

「そ、……そうなんですね!だからなんですね、このお城が、優しく迎えてくれた感じがしたのは!」

 赤い顔で微笑むカップルの女性は、なんというか素朴な感じで。
 正に、野に咲く可憐な一輪の花といった風情ですね!
 心根の美しさと健気さに、近くにいたらうっかり絆されちゃうような!

「まあ!不思議なこともあるものですね!でも、迎えられたって?まるで、ここに住んでるみたい」

 可愛らしく小首を傾げ、すっとぼける私。
 照れてでもいるのか、さらに赤くなって俯く女性。
 まあ、愛らしい。

「それは……」
「僕たちは、……身分違いの恋に落ちてしまい、駆け落ちしたんです」

 そんな彼女を庇い、労るように口を開く男性。
 若干私から目を背け気味ですが、賢明な判断と言えるでしょう!
 ちょっと線が細いというか頼りない感はありますが、話しぶりもしっかりしてるし、なかなかのいい男ですね!

 そんな彼の努力を無に帰してはいけないと、敢えて彼ではなく、彼女に向けて思いやる言葉をかけてみます。

「まあ。それは。そんなに想い合ってるだなんて、素敵ですけど。……大変、ですね」
「はい……。私のために、彼には家を、捨てさせてしまいました……」

 また俯く、彼女。
 やはり彼氏のほうが、いいとこの坊っちゃんですか。

「君だって!大事な家族を捨ててまで、着いてきてくれたじゃないか!」

 彼女の肩を掴み、真剣に訴える彼氏。
 あれ。なんかそろそろ、お邪魔な感じ?

 ……うん、まあ、良かったよ。
 二人の仲に、ヒビを入れずに済んで。
 顔も確認したことだし、そろそろ退散するか。

「では。私たちは、そろそろ」
「待ってください!」

 ああ、引き留められてしまった。

「僕たちには、僕の家から追っ手がかかっているかもしれないんです!どうか、このことは」
「もちろん、誰にも言いません。愛し合う二人の気持ちは、……よく、わかるから」

 駆け落ちするほどの気持ちって正直、実感としてはわからないのですが。
 パパンとママンのことを思い出して感傷的な気分を引き出し、俯いてみます。
 あの二人も、駆け落ちカップルだったなあ……。
 駆け落ちってか、パパンが攫った形だけど。
 早く、会いたいなあ……。

 というテンションで、改めて別れを切り出します。

「どうか、お幸せに。私たち、本当にもう行きますね」
「……ありがとうございます。あなたたちも、お幸せに」

 ああ、そういう設定だった。

 真摯な祝福に適当な嘘で返すのも気が引けるので無言で微笑み、踵を返そうと、したところで。

 ヘンリーの腕が私の手から逃れて、腰を抱き寄せます。

 ……まだ諦めてなかったのか、コイツ!
 このタイミングでやられたら、振り払えないじゃないか!
 策士めが!!

 などという内心はおくびにも出さず、苛立ちを恥じらいに変えて誤魔化しながら、今度こそ踵を返して立ち去ります。

 急ぎ足で進もうとする私と、腰をガッチリ捕まえてゆっくり歩くヘンリーとで、水面下の戦いを繰り広げながら。


 玉座の間からもバルコニーからも十分に離れたところで、もういいだろうと腰の手を振り払います。

「……ヘンリー!落ち着かないから、やめてって言ったのに!」
「……お前な……。散々、あんな……」
「あんな?」
「いや、いい。なんでも無い。悪かったよ。けど、そんなに嫌か?」
「嫌、か……?……は、わかんないけど。むずむずする」
「……思い出すから?」

 ……思い出した!
 今、まさに!

「……顔、赤いな」
「え!?ホント!?」

 そんな、「ぽっ……」な状態に、私も!?

「……お前でも、なるんだな」
「……そりゃ、なるよ」

 だって、人間だもの。

「……もう、しないでね」
「……当分はな」

 当分ってなんだよ!
 けど突っ込んでも解決しなそうだから、ひとまずいいことにしよう!
 どうせ、ラインハットまでのことだし!


 と、問題を先送りした先で消し去ろうと目論みながら、手近にあった床の穴に飛び降り。
 ヘンリーが先に降りようとするのを肩を掴んで引き留めて、私が先に飛び降り。
 銀のティーポットを回収してる間に、ヘンリーが更に下の階に、先に飛び降りてしまい。
 ヘンリーの顔をめがけてスラリンを着地させながら私も飛び降りて、事なきを得て。

 うん、やっぱり早急に対策が必要だ。
 お風呂を覗きはしないのに、なんでそこは見たいんだ。
 男のロマンなのか?わからん。

 正面玄関から外に出て、地下道を通って地下室に入り、銀のティーカップも回収します。

「これで用は済んだね。城の中も、大体見たし。帰ろっか?」
「ああ。帰ろう」

 レヌール城を出て、アルカパの町に戻ります。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧