ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
七十六話:ひとりでお買い物
アルカパの町に戻り、またイケメンモードで颯爽と町を突っ切って、ひとまず宿屋に向かいます。
「こんにちは!二人と一匹の計三名で一泊、お願いします!」
カウンターに立つ宿屋のご主人に、爽やかに申し出ます。
「ああ、さっきの!部屋なら準備できてるよ!一部屋で、いいんだね?」
え?
……ああ、そうか。
男同士の旅仲間なら、普通は同じ部屋に泊まるよね。
スライムも含めて。
しかし、村のみんなになんか言われてたヘンリー的に、どうなの?
と思ってヘンリーを見ると。
「ああ。頼む」
こちらを見ることも無く、また当然のように受けてました。
……まあ、今さらだし。
いいけど、別に。
と、微妙に納得したようなしてないような感じながらも、ご主人の前で問い詰めるわけにもいかないので、とりあえず部屋に入り。
「ヘンリー。いいの?同室で」
「いいだろ、別に」
「いいけど。村のみんなに、なんか言われたんじゃないの?」
若い男女で間違いがどうとか。
「大丈夫だ」
……まあ。
ヘンリーが何もしてこなければ何も無いだろうし、されても返り討ちにするし。
ここまで何も無かった以上、今さら何かが起こるわけも無いと言えば、そうなんですけど。
それでも村では、きっちり別室に分けられてたわけで。
一度そうされてみれば、平気な顔で男と同室なのもどうなのか、とか思ってもみるわけで。
……でもまあ、もう部屋に入ったし。
イケメンモードで毎回別室を申し出るのも不自然だし、あと少しのことだし。
実害があることでも無いんだから、いいか。
と、納得したところで。
「ヘンリー。ちょっと買い物に行ってくるね」
「そうか。なら、俺も」
「大丈夫!一人で、大丈夫だから!だいぶ慣れてきたし!ボロも、もう出ないから!」
強い調子で言い張る私に、ヘンリーが渋々折れます。
「……わかった。気を付けろよ」
「うん!行ってくるね!」
わーい!
十年ぶりの、単独行動だ!
完全なる、自由だ!!
と、浮かれたまま歩き回ってはあっという間にナンパされてしまうので気を引き締めて、きっちりイケメンモードに入った状態で町に出ます。
目指すは、手芸用品店!
と言っても、それだけ売ってる専門店は無いと思いますが。
そんなような物を扱ってる雑貨屋か何かを、探します!
それほど広くは無い町で十年前の記憶も辿りつつ、さほど時間もかけずに目当ての店を発見し、女性の店員さんやお客さんに「ぽっ……」とされながら、そう言えば男が来るような店では無いよな、通常は。と思いつつ、必要な物を買って。
店を出ると、声をかけられました。
「ねえ、君!今、その店から出てきたよね?オレのこと、覚えてる?」
最初に町に着いた時の、ナンパ男でした。
頭悪そうなヤツ。
「……さあ?失礼ですが、どちら様でしょう?」
覚えてますが、面倒なのですっとぼけます。
「やだなあ、とぼけちゃって。そんな、女の子が行く店から出てきたし。やっぱ女の子なんでしょ?」
本当に、面倒くさいことになった。
いいじゃん、別に。男でも女でも。
誤魔化そうとしてる時点で脈が無いくらい、わかろうよ。
「君ってちょっとさ……昔、好きだった娘に、似てるんだよね……」
なんだその、ベタな口説き文句。
似てるから、なんだと言うんだ。
そんなに好きなら、その娘を探せばいいじゃない。
「たったの二回しか会えなかったんだけど、すごく可愛い娘でさ。もう、十年前になるかな。君みたいな、本当に可愛い娘だった……」
遠い目で、自分に酔ったように語るナンパ男。
だからその娘を探せば、って、ん?
「昔のオレって、悪ガキでさ。猫を虐めてたのを見たその娘が、泣きそうになっててさ。やめてくれって瞳を潤ませて懇願してくるのが、本当に健気で……」
なんだか不穏な自分語りが始まりました。
よし、今のうちに逃げよう、そうしよう。
何処か遠くを、逝っちゃった感じでぼんやり見てるナンパ男の視界から逃れるように、そろりそろりと移動を開始します。
「……だから!あの娘を忘れられないオレの前に、君が現れた!これは、運命の出逢いだと思うんだ!」
ヒイッ!
振り向いた!
戻ってきた!
「あれ?なんで、そんな遠くに。とりあえず、お茶でも。お互いをよく知り合うところから、始めようよ!」
「結構です間に合ってますさようなら」
たぶん爽やかなつもりなんだろうニヤけた笑顔で歩み寄ってくるナンパ男に背を向け、脱兎の如く逃げ出します。
ヤバい、怖い。
戦ったら絶対に負けないけど、なんか怖い。
全く話を聞こうとしないところが、すごく怖い!
恐怖のあまりやり過ぎて殺してしまいそうな自分が、とても怖い!!
「待って!!大丈夫だよ、怖がらなくって!!手順は、守るから!!」
進める前提で話すな!!
宿屋に向かって疾走する私の前方から、何故かヘンリーが走ってきます。
え?何で、いるの?
ここは、頼っていいの?
一人で出てきた手前、やっぱり一人でなんとかするべき?
と思いながらスルーして走り抜けようとした私の腕を捕まえ、背後に庇ってくれるヘンリー。
ああ、助かった。
人を、殺めなくて済んだ。
「ハア、ハア……ああ、やっと追い付いた、って……なんだ、お前!」
息を切らしてハアハアしてるのが別の意味に思えてとても気持ち悪いナンパ男改め変態が、ヘンリーに向かって声を荒げます。
「コイツの連れだ。何のつもりか知らないが、コイツにちょっかいかけるのは止めて貰おうか」
ああ、なんという、圧倒的安心感……!!
ヘンリーひとり挟んだだけなのに、もう何も怖くない的な。
ヘンリーの宣言に、変態が激昂します。
「お前にそんな指図をされる筋合いは無い!その娘は、オレが十年前にドーラちゃんに感じた以来の、運命を感じた娘なんだ!邪魔するな!」
ああ、名前も覚えてやがりましたか。
「……ドーラ?……知り合いか?」
「モモを、虐めてた。悪ガキの片割れ」
ヒソヒソと聞いてくるヘンリーに、私もヒソヒソと返します。
「……名前は、伏せたほうがいいな」
「うん。ここはリュカで」
「恋人のフリでいくか」
「それで」
顔を寄せ合い、ヒソヒソと作戦会議をする私たちに、変態が苛立った様子で歩み寄ってきます。
「おい!彼女から離れろ!」
近付く変態に怯えた風を装い、これみよがしにヘンリーに抱き付きます。
「やだ、怖い!ヘンリー、助けて!」
「大丈夫だ、リュカ。俺が付いてる」
震えながら縋り付く私を熱っぽくも優しい眼差しで見詰め、抱き締めるヘンリー。
全く、赤くもなってませんね。
ここに来て、耐性を獲得したのか。
演技力でカバーでもされてるのか。
仲睦まじい私たちの様子を目の当たりにして、変態が衝撃を受けたように立ち竦みます。
「そんな……オレの……運命の、娘が……他の、男となんて……」
下手に声をかけるといいように勘違いされかねないので、あくまでヘンリーだけを見詰めて演技を続けます。
「ヘンリー……ホント?ホントに、付いててくれる?」
不安と期待で揺れる眼差しで、ヘンリーを見詰めます。
「ああ、当たり前だろ」
力強く包み込むような眼差しで、ヘンリーが応えます。
「嬉しい!ヘンリー!ずっと、離さないでね?」
今にも涙が溢れそうに潤んだ瞳で、輝く笑顔を見せます。
「ああ!絶対に、離さない!愛してる!」
強い熱情を含むヘンリーの答えを受けて、感極まったようにひしと抱き合います。
しかし私もだが、ヘンリーの演技力も大概高いなあ。
一連の流れを呆然と見ていた変態がわなわなと震え、叫び出します。
「う……うわああああーー!!嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だーー!!」
絶叫の後、走り去る変態。
はあ、やっと片付いた。
溜め息を吐き、脱力してへたり込もうとしたのをヘンリーがきっちり支えてくれて、胸にもたれかかって頭を預ける形になります。
「……ありがと、ヘンリー。助かった」
「……次から、やっぱり着いてくぞ」
「……お願いします」
ゆくゆくは、騎士をゲットする予定なので。
そこからは、ヘンリーに頼らなくても良くなるはずだけど。
一人で動いた結果、余計に迷惑かけちゃったし、同じようなこと繰り返すのも悪いし。
それまでは、申し訳無いが頼らせてもらおう。
「……もう、いいよ。離して」
「嫌だ。離さない」
「……なんで」
「またあんなことになったら、嫌だ」
「……無いよ、あんなの。そうそう」
「アレだって、無いと思ってたんだろ」
まあ、そうですけど。
「帰るぞ、このまま」
ええー?
男設定で入った宿に?
抱き合ったまま、入るの?
「いいだろ、別に。どう思われても」
まあ、そういう目で見られるのは、ある意味慣れてますけど。
普通はそういうの、男のほうが嫌がるのでは。
「歩けないなら、抱いてってやるけど?」
「大丈夫歩けるさあ行こう!」
男同士設定でお姫様抱っこで宿に連れ込まれるって、どんな羞恥プレイだ!
ていうか、何で急に耐性獲得してるの?
ある意味やりやすいけど、別の意味でやりにくくなったなあ。
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