ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
七十四話:レヌール城にハイキング
アルカパの町のナンパ男に向き直り、返答します。
普段なら私が対応する前に、ヘンリーの妨害が入るところですが。
通常ならば私の腕を引っ張るなり手を割り込ませるなりして、まずは体で阻んでくるところですが。
今ヘンリーは、スラリンを抱いているので!
その一瞬の遅れを見逃さず、私が、自ら!
対応します!
「この町の?私の、ことですか?」
先程の一瞬の油断は既に消え失せ、イケメンモード復活です。
向き直ったナンパ男は、いかにも頭悪そうな。
たぶんこれ、ヘンリーが目に入ってなかったとか、なんも考えてなかったとかそんなんだな。
無いな、これは。
「え?……え?……女の子、だよね?」
「そう、見えますか?」
イケメンモードの私に正面から見据えられ、真っ赤になりながらも戸惑うナンパ男にニッコリと、イケメンスマイルの大サービス。
本来ならコイツにはこれすら勿体無いが、今は練習中なのでね。
運が良かったね!
折角なのでもうちょっと遊ぼうと思ってると、スラリンを下ろしたヘンリーが割り込んできました。
ちぇ、もうおしまいか。
「案内なら、必要無い。初めてでも無いんでな」
男と思えばそもそも案内はしてくれないと思いますが、事を荒立てずに相手に逃げてもらうには、上手い言い方ですね。
私が男とか、わざわざ嘘を吐く必要も無いし。
勝手に、勘違いしてもらったほうが。
「そ、そうか。なら、いいんだ」
ぼそぼそと答え、色々うやむやな感じで去っていく、ナンパ男。
その後ろ姿を忌々しそうに見送っていたヘンリーが、口を開きます。
「……ドーラ。やっぱり」
「大丈夫!一瞬油断しても、挽回できたじゃない!いけるよ!大丈夫!!」
ナンパ男との会話はともかく、手なんか繋いでイケメン修業まで妨害されるわけにはいきませんよ!!
「……そうか。……スラリンは、歩かせるぞ」
「了解」
私のイケメン的演出の上でも、スライムを抱いてるとかあんまり望ましくないのでね。
残念だが、ここは抱っこは諦めよう。
とは言ってもビアンカちゃん一家の不在を確認できた以上、ひとまず町に用は無いので。
お昼に食べる軽食を買ったらさっさと町を出て、レヌール城に向かいます。
スラリンは変わらず、馬車で待機です。
死なせはせん!死なせはせんよ!
順当に戦闘をこなし、間も無くレヌール城に到着します。
子供の足でも、一晩で行って帰ってこられたからね。
普通の大人と比べても強く逞しく成長した私たちなら、本当にすぐでした。
十年ぶりの、昼間のレヌール城は魔物の気配も無く。
雷鳴が轟くことも当然無く、穏やかに佇んでいました。
魔物は出ないので、スラリンも一緒に城に入ります。
「城の中はさすがに埃っぽいと思うから、空中庭園でお昼食べようよ。お墓はあるけど眺めがいいし、変わってなければ花畑もあるし」
「そうだな。じゃあ、裏から登るか」
「うん」
城の裏に回り、梯子を前にして、思い出したことが。
……そう言えば、対策をしてない。
迂闊だった。
男装だったら、ズボン状態で何も問題無かったのに。
まあ、ヘンリーに先に行ってもらえばいいだけか。
と、思ってヘンリーを見ると。
「……」
「……」
動かない。
「……先。行ってよ」
「……ちっ」
「舌打ちしない!」
そんな態度取って、実際に見たらどうせ真っ赤になるくせに!
なんだ、先刻のイケメンモードが悪い風に作用でもしたのか!
逆に、大丈夫な感じになってしまったのか!
……よし!なら、試しに
「……もう……ばか」
頬を少し染めつつ、俯きがちに言ってみます。
「なっ……!き、急に、なんだよ」
途端に赤くなり、吃り出すヘンリー。
うん、こういう感じ。
「……先。行って?」
さらにそこから上目遣いで、言ってみます。
「……!!……わかった……」
瞠目した後に慌てて目を逸らし、猛烈な勢いで梯子を登り出すヘンリー。
よし、よし。
「さて、スラリン。私たちは、ゆっくり行こうねー?梯子、登れる?」
『だいじょぶ!のぼる!』
「じゃあ、先に行ってくれる?」
『さき、いく!』
素直で良い子のスラリンは、すぐに梯子を登り始めます。
体を伸ばしてふたつ上の踏み桟をくわえ、縮めてひとつ上の踏み桟に体を持ち上げ。
尺取り虫のような動きで、器用に登っていきます。
全く危なげないのを確認して私も登り始め、間も無く屋上にたどり着くと。
ヘンリーがとてもポピュラーなAAのような状態で、床に膝と手を突いて、顔をがっくりと落としてました。
「ヘンリー?どうしたの?早く行こうよ」
私の呼びかけに、ヘンリーがノロノロと顔を上げます。
「……どうしたって…………お前な…………」
なんだか恨めしげですが、そんなことよりも。
「お腹すいちゃった。先、行ってるね。スラリン、行こう!」
「ピキー!」
がっくり状態から立ち直れないヘンリーをその場に放置し、荷物を奪って先に進みます。
うん、これは自業自得と言っていいと思うんだ。
セクハラ的行動に対する、制裁的な。
効果のほどを見るにたぶん可愛かったんだろうし、そう悪いことばかりでも無いだろう!
目の保養的な意味で!
とは言え先に食べるというのも人としてあまりにアレなので、適当な場所にお弁当を広げて準備した後は、景色を眺めつつスラリンとお話ししながらヘンリーを待ちます。
「スラリン。昨日は、お酒飲んだの?」
『のんだ!おいしい、おさけ!』
「スラリンは、飲めるんだ。そっかー。いいなー」
『ドーラ。のまない?』
「うん。私は、飲めないの」
『ドーラ。かなしい?』
「ううん。好きなわけじゃないから、いいんだけど。雰囲気に混ざれないのが、ちょっと残念なだけ」
『スラリン。のまない』
「いいんだよ、スラリンは。飲めるときは、飲んでも。お金がかかるから、いつもは無理だけどね」
『スラリン。のむとき、のむ』
本当に、素直な良い子だ。
そして、可愛い。
「スラリン。昨日ヘンリーと一緒で、どうだった?優しくしてもらった?」
『ヘンリー。やさしい』
「そっか、良かった。……ヘンリーのこと、好き?」
『ヘンリー。すき!』
……くっ!
それは、良かった!
「……私よりも、……好き?」
肯定されたら、割とガチで泣きますが。
でも、聞かずにはいられない。
『ドーラ!すき!』
「そっかー!私も、大好きだよー!」
思わずスラリンを抱き上げ、思いっ切り抱き締めます。
抱き潰さない程度に。
『スラリン。ドーラ、すき。ヘンリー、ドーラ、すき』
「え?」
……今のは?
というところでヘンリーが走ってきて、スラリンを奪い取ります。
「あ。お帰り」
正しくは、いらっしゃいかもしれないが。
ある意味、帰ってきたで合ってる。
「……今!……何、話してた!」
「え?スラリンはお酒が好きで、私とヘンリーが好きだって」
「……それだけか?」
「うん。あ、あと」
「なんだ!」
「ヘンリーが、優しいって」
「……そうか」
ヘンリーがスラリンを抱えたまま、私から離れて行きます。
なに?
なんか、内緒話?
ヘンリーが何言ってるかは全く聞こえませんが、
『わかった!スラリン、いわない!』
という、スラリンのいい返事が。
なんだ、なんだ。
口止めなら、昨日のうちにしておけばいいのに。
まあ、その場の流れとかあるし、仕方ないけど。
そんなことよりも。
「ねえ、早く食べようよ」
秘密のひとつやふたつや沢山、別にあってもいいけど。
とりあえず、お腹がすきました。
「おう。今、行く」
『スラリン!たべる!』
しかしヘンリーはスラリンの言うことがわからないはずなのに、たった一晩で随分と通じ合ったものだ。
意外とモンスター使いの才能、あるんじゃね?
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