Element Magic Trinity
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
火竜と空と猿と牛
「でね!あたし今度ミラさんの家に遊びに行く事になったの~♪」
「下着とか盗んじゃダメだよ」
「盗むかー!」
「てかさー、何でキャバ嬢がいるの?」
「アンタいい加減学習しなさいよ・・・あたしはキャバ嬢じゃないっての!」
「てへっ」
仕事から1週間帰ってこないマカオを探しにハコベ山に来たナツ、ハッピー、ルー。
で、なぜかそこにルーシィがいるのだ。
「何よ。なんか文句でもあるの?」
「そりゃあもういろいろと・・・あい」
「あっ、ダメだよハッピー!思ってもそういう事言っちゃ!そーゆーの失礼っていうんだよっ!」
「アンタも十分失礼な事言ってるからっ!」
まぁそうだ。
「だってせっかくだから何か妖精の尻尾の役に立つ事したいなぁ~なんて」
(株を上げたいんだ!絶対そうだ!)
(妙に輝いてるなぁ)
そしてルーシィの視線がナツに向けられる。
さっきから一言も喋っていない・・・いや、喋れないのだ。
「それにしても、アンタ本当に乗り物ダメなのね。何か・・・色々可哀想・・・」
「は?」
「まぁいいんじゃない?放っとけば」
「酷いわね」
乗り物に弱すぎるナツに同情するルーシィと、半ば他人事のように受け流すルー。
「マカオさん探すの終わったら、住む所見つけないとなぁ」
「オイラとナツん家住んでもいいよ」
「本気で言ってたらヒゲ抜くわよ猫ちゃん」
「僕達の家でもいいよ」
「僕達?アンタ、1人暮らしじゃないの?」
「アルカと一緒に住んでるんだ」
「ティアさんは?」
「ティアにそんな事言ったら殺されちゃうよ」
「殺!?」
そんな会話をしていると、突然馬車が止まる。
「止まった!」
「着いたの?」
その瞬間元気になるナツ。
だが外から聴こえてきた声はヤケに震えていた。
「す・・・すんません・・・これ以上は馬車じゃ進めませんわ」
それもそのはず。
馬車から見えるのは白、白、白。
辺り一面雪だらけ、しかも猛吹雪が吹き荒れている最悪の状態である。
「何コレ!?いくら山の方とはいえ今は夏季でしょ!?こんな吹雪おかしいわ!さ、寒っ!」
こんな雪山でノースリーブ、ミニスカート、サンダルというミスマッチすぎる格好のルーシィは慌てて自分の身を抱く。
「そんな薄着してっからだよ」
「そうだよ。ハコベ山って言ったら年がら年中こうでしょ?知らないでついてきたの?」
「知らないし、アンタ達も似たようなモンじゃない!」
ナツは上半身ベストのみ、首にマフラーは巻いているが、足元はサンダル、ズボンもどこにでも売っていそうな特に特徴のない白ズボン。
ルーはどこかの高校の制服のようなノースリーブのセーターに半袖シャツ、黒いズボンという特に暖かくなさそうな格好である。
「そんじゃオラは街に戻りますよ」
「ちょっとォ!帰りはどうすんのよ!キィーッ!」
「あいつ・・・本当にうるさいな」
「あい」
「賑やかでいいんじゃない?」
一刻も早くこの寒さから逃げ出そうと街に戻る馬車にルーシィが叫ぶ。
そんなルーシィを見て、3人は口々にそう言った。
そして叫びたいだけ叫び終えたルーシィも含め、4人でマカオを探す。
「その毛布貸して・・・」
「ぬお」
「僕マント持ってるよ。さっきアルカにボロボロに燃やされちゃったけど貸してあげようか?」
「いらないわよ・・・」
そりゃボロボロになったマントはいらないだろう。
ナツから借りた毛布に身を包み、銀色の鍵を取り出す。
「ひひ・・・ひ・・・開け・・・ととと・・・時計座の扉、ホロロギウム!」
魔法陣から出てきたのは、置時計だった。
顔があり、妙に長い手がある。
「おおっ!」
「時計だぁ!」
「なんかイメージ通り過ぎて言葉が見つからないよ」
ナツとハッピーは感嘆の声を上げ、ルーは若干冷めた事を呟く。
「『あたしここにいる』と申しております」
「何しに来たんだよ」
「良かったねキャバ嬢。ここにティアがいたら完全に殺されてたよ」
「『キャバ嬢じゃないわよ!』と申しております」
どうやら中に入っている間、ホロロギウムが中にいる人の言葉を代弁してくれるようだ。
「『何しに来たと言えば、マカオさんはこんな場所に何の仕事をしに来たのよ!?』と申しております」
「知らねぇでついてきたのか?」
「凶悪モンスター『バルカン』の討伐だよ」
それを聞いたルーシィは驚愕で目を見開き・・・。
「『あたし帰りたい』と申しております」
「はいどうぞと申しております」
「この雪山の猛吹雪の中女の子1人で歩くのは危ないだろうけど、僕は助けないよと申しております」
「あい」
そんなルーシィを気にもかけず、3人はさっさと足を進める。
「マカオー!いるかー!」
「聞こえても聞こえなくても返事して~!あ、聞こえないのに返事は出来ないか」
「バルカンにやられちまったのかー!」
「ロメオが待ってるよー!」
「マカオー!」
ナツとルー、ハッピーはマカオの名を叫びながら彼を探す。
すると、近くの岩山からガサガサと音がした。
大きめの雪の欠片が落ちてくる。
ばっと大きなゴリラともサルともとれる影が飛んだ。
そのまま攻撃を仕掛けてきた影に対し、ナツはバック転、ルーは高く跳躍して攻撃をかわす。
「バルカンだー!」
そう。このゴリラともサルともとれるコイツこそ、マカオが討伐しようとしていた『バルカン』。
それを見たナツとルーは当然臨戦体制をとる、が。
「ウホッ」
「ぬおっ」
「え?」
バルカンはルーを片手にナツを飛び越えた。
その先にいたのは。
「人間の女だ。それも2人!」
ホロロギウムの中のルーシィがいた。
「ウホホー!」
そしてホロロギウムに入ったままのルーシィとルーを連れ去る。
「おお、喋れんのか」
「ちょっと待って!僕、男なんだけど!?え?え!?」
慌てた様子もなく、ナツは掌に拳を打ちつけて気合を入れる。
女と勘違いされたルーはとにかく叫ぶ。
「『てか助けなさいよォオオオオ!』・・・と申しております」
ルーシィの叫びをホロロギウムが代弁した。
その後、ルーシィとルーはバルカンの家らしき洞窟にいた。
「『なんでこんな事に・・・なってる訳~!?』と申されましても・・・」
「ねぇキャバ嬢。僕ってそんなに女の子に見えるの?」
「『空気読め!』と申しております」
「ウッホウホホ、ウホホホ~」
「なんかあの猿、テンション高いし!」
「ねー、僕ってどこからどう見ても男だよね?」
「『だから空気読め!』と申しております」
ホロロギウムの中で叫ぶルーシィとそんなルーシィに全く空気を読まずに話しかけるルーの周りを、バルカンが嬉しそうに踊り狂っていた。
「ここってあの猿の住処かしら。てか、ナツはどうしちゃったのよ~・・・」
「女♪」
「!」
ホロロギウムのガラス板を挟んで、バルカンの顔がルーシィの眼前に迫る。
そしてしばらく見つめ合っていると・・・ホロロギウムが煙のように消えた。
「ちょ・・・ちょっとォ!ホロロギウム、消えないでよ!」
「時間です。ごきげんよう」
「延長よ!延長!ねぇっ!」
必死に叫ぶが、ホロロギウムからの返事はない。
目の前には興奮して鼻息を荒くしたバルカン、横にいるのは・・・。
「・・・って、あれ?」
横にいたはずのルーが忽然と消えていた。
そういえばさっきから少し静かだな、とは思っていたのだが・・・。
(まさかアイツ、逃げたの!?)
もうどうすればいいのか解らない。
目の前には人間の女を目の前にし興奮して鼻息の荒いバルカン、先ほどまでいた戦力になるであろうルーもいない、ナツもいない。
もうダメだとルーシィが震えはじめたその時、「カチャッ」と何かをセットするような音が響いた。
「それ以上ルーシィに近づくな。近づけば貴様の命は無いぞ。死にたくなければ離れろ」
地の底から響くような低い声。
バルカンが首を回して後ろを見たため、ルーシィもつられる様に後ろを見る。
そこにいたのは黒い瞳を鈍く光らせた・・・
「・・・ルー?」
そう。ルーレギオス・シュトラスキーだった。
先ほどまでの呑気さはどこへやら。いつもなら『キャバ嬢』呼びなのに『ルーシィ』と普通に名を呼んでいる。
さっきまでとのギャップや、よく見れば整った顔立ちにルーシィの心が高鳴った。
「聞こえなかったか?離れろ、と言ったんだ」
もう1度呟く。
そう呟くルーの手には先ほどまで持っていなかった魔導銃が握られていて、その先はバルカンのちょうど脳天に当てられていた。
離れなければ撃つ、という事だろう。
ルーの持つ魔導銃の名は「タスラム」。敵を撃つと奇声を上げると言われる銃だ。
形は銃というより大砲に似ていて、赤いボーダーのような模様が特徴的である。
「お前、男か?」
「さっきからそうだと言っているはずだが?」
「オデ、男嫌い。お前に用、ない!」
「うおおおっ!やっと追いついたー!」
ルーがカッコよく決めていたところにナツ乱入。
そしてナツの目がルーに向けられ、ナツは少し体を震わせた。
「やっべぇ・・・ルーのもう1つの人格降臨中じゃねぇか・・・」
「もう1つの人格?」
「あい。ルーは二重人格なんだ。普段は呑気でギルドでは『子犬系』って言われてるけど、銃を持つと一気に人格が変わっちゃうんだよ。で、よくこっちの人格のルーに惚れる女の子が多くてルーが迷惑してるから、よっぽどの事が無い限り、ルーは銃を持たないんだ。今ルーが銃を持ってるって事はルーシィを想ってやった事なんだろうね」
「え?」
ハッピーからの言葉に、またルーシィの胸が高鳴る。
「おい、サル!マカオはどこだ!」
「ウホ?」
いつの間にかルーの銃から解放されていたバルカンが首を傾げる。
「言葉解るんだろ?マカオだよ!人間の男だ」
「男?」
「そーだ!どこに隠した!?」
「今言えばそこの穴から落とすだけで許してあげるよ!よかったね、これがティアだったら完全に殺されてたよ」
「うわー!隠したって決めつけてるし!それに今ティアさん関係ないじゃん!」
ルーシィの御尤も過ぎる言葉はさておき。
その言葉にバルカンは意地悪そうな笑みを浮かべた。
「ウホホ」
「おおっ!通じた!」
「わーい!」
くいくいっと手招きするバルカンに、何の疑いも抱かず2人はついて行く。
「どこだ!?」
そしてバルカンが指さした穴から外を見るナツとルー。
だがその時、2人の体をバルカンが強く押した。
「あ?・・・ああああああぁぁぁぁぁっ!」
「嘘つきィィィィィッ!」
ナツの叫びとルーの罵りとも取れる言葉が遠のいていく。
「ナツー!ルー!」
慌てて穴に駆け寄るルーシィ。
「やだっ!ちょっと・・・死んでないわよね!あの2人、ああ見えて凄い魔導士だもんね・・・!きっと大丈・・・」
自分を安心させるようにルーシィが言うが、その下は断崖絶壁。
そこが見えないほど穴は深く、少なくともルーシィのような普通の人間が落ちたら、まず助からないだろう。
「男いらん、男いらん、女顔の男もいらん、女~、女~!ウッホホホー!」
「女女!ってこのエロザル!2人が無事じゃなかったらどーしてくれるのよっ!」
そう言いながら、腰の鍵の束から金色の鍵を取り出す。
「開け・・・金牛宮の扉・・・タウロス!」
「MOーーーっ!」
魔法陣から出てきたのは、巨大な斧を背負った牛だった。
人間のような体格、指も人間同様5本ある。
「牛!?」
「あたしが契約している星霊の中で1番パワーのあるタウロスが相手よ!エロザル!」
バルカンに向かってそう言い放つルーシィ。
だが・・・。
「ルーシィさん!相変わらずいい乳してますなぁ。MO、素敵です」
「そうだ・・・コイツもエロかった・・・」
根の部分は同じ様なものだった。
ただ見た目が違うだけ、と言ったところだろうか。
「ウホッ、オデの女とるなっ!」
「オレの女?」
バルカンの言葉にタウロスがぴくっと反応する。
「それはMO、聞き捨てなりませんなぁ」
「そうよタウロス!あいつをやっちゃって!」
「『オレの女』ではなく『オレの乳』と言ってもらいたい」
「もらいたくないわよっ!」
的外れすぎるタウロスの言葉にツッコむルーシィ。
だがそれで時間をくってる場合ではない。
「タウロス!」
「MO準備OK!」
「ウホォ!」
こうして牛と猿が激突する。
・・・と、思われたその時。
「よ~く~も落としてくれたなァ・・・」
「危なかったよ・・・」
聞き覚えありまくる声が2つ。
「ナツ!ルー!よかった!」
ルーシィはナツとルーの無事を喜ぶ。
ナツは目線を上げ・・・。
「なんか怪物増えてるじゃねーか!」
「ウホ」
「きゃあああああああっ!」
「猿の次は牛っ!?じゃあ次はライオン!?」
タウロスを蹴っ飛ばした。
そして妙なところにツッコむルー。
「MO・・・ダメっぽいですな・・・」
「弱ーっ!人がせっかく心配してあげたっていうのに何すんのよー!てゆーかどうやって助かったの!?」
ルーシィの問いに、ナツはニッと微笑む。
「ハッピーのお蔭さ。ありがとな」
「どーいたしまして」
「そっか・・・ハッピー、羽があったわね。そーいえば」
「あい。能力系魔法の1つ、翼です」
「じゃあルーは?確かハッピーは2人も運べないって・・・」
その問いにルーはきょとん、とした表情を浮かべた。
「どうって・・・自力で飛んだんだよ」
「へ?」
「だから、自力で飛んだんだってば」
「よく解らないけど、まぁいいわ・・・にしてもナツ、アンタ乗り物ダメなのにハッピー平気なのね」
「何言ってんだオマエ」
「ハッピーは乗り物じゃなくて『仲間』だよ?」
「「ひくわー」」
「そ、そうね。ごめんなさい」
ナツとルーがドン引きする。
そのナツとルーの後ろから、痺れを切らしたであろうバルカンが襲い掛かってきた。
「いいか?妖精の尻尾のメンバーは全員仲間だ」
しかしナツとルーはルーシィに言葉を続けている。
「じっちゃんもミラも」
「カナもロキも」
「来たわよ!」
ルーシィの叫びも気にせず、2人は続ける。
「うぜェ奴だがグレイやエルフマンも」
「アルカもティアも」
「解ったわよ!解ったから!後ろ!ナツ!ルー!」
2人の真後ろにバルカンはいる。
振り返ればすぐに戦闘となるのは目に見えているというのに、この2人は何事も無いかのようにしていた。
「ハッピーもルーもルーシィも、みんな仲間だ」
「もちろん、ナツもね」
その言葉に、ルーシィは何も言えなくなる。
「だから・・・」
「僕達は・・・」
そう言いながら2人はタイミングを計ったように同時に振り返る。
「「マカオを連れて帰るんだ!」」
バルカンの突進を避けながらナツは顎に炎を纏った蹴りを、ルーは風を纏った拳を叩き込んだ。
その衝撃でバルカンは吹っ飛ぶ。
「早くマカオの居場所言わねぇと黒焦げになるぞ」
「場合によってはその体を切り刻むよ」
ナツとルーの挑発に似た言葉に、バルカンはムキーッと鼻息を荒くする。
そして洞窟の天井に生えた氷柱を抜くと、2人に向かって投げつけた。
「ウホホッ!」
「火にはそんなモン効かーん!」
身体から熱を発するナツには氷柱が当たる前に溶けてしまう。
「大空領域!」
ルーが地面に手を置くと緑色の魔法陣が展開し、氷柱が吹き飛んで壁に刺さった。
「ウホッ!?」
「凄い!」
「大空領域は風の加護。いかなる攻撃も跳ね返し、無力化させる」
そんな2人に対しバルカンは・・・。
「ウホ」
「それは痛そうだ」
「斧?」
先ほどナツの蹴りで伸びてしまったタウロスの斧を拾った。
そしてバルカンは何か考えているのかいないのか、2人に向かって斧を振り回す。
「キェエエエエエエエッ!」
「わっ!」
「たとえ斧でも、風の加護には通用しない」
ナツは何とかその攻撃をかわし、ルーは避ける事もしない。
ぶあっと空を切る音が響くが、どうやら風の加護は消えていないようだ。
「うぉっ!危・・・なっ」
上手くかわしていたナツだが、つるん、と氷の床で滑ってしまった。
どしん、と重いモノが落ちる音がする。
それを好機と見たバルカンは、一直線に斧を振り下ろした。
振り下ろした・・・のだが。
「大空暴拳!」
「ウホォッ!」
ルーの手から放たれた風の拳がバルカンに直撃した。
「ナツ!」
「いくぞぉ・・・」
ルーの言葉にナツは頷き、右手に炎を纏う。
「火竜の・・・」
そしてその拳を・・・。
「鉄拳!」
思いっきりバルカンに叩きつけた。
ナツより何倍も大きいバルカンが吹き飛ばされ、挟まれる。
「挟まったよ!」
「あーあ・・・この猿にマカオさんの居場所聞くんじゃなかったの?」
「あ!そうだった」
「え~、そうだったの?なら僕、手加減したのになぁ」
「完全に気絶しちゃってるわよ」
完全に当初の目的を忘れていたナツと、聞いていたはずなのにすっかり忘れているルーに呆れたように言うルーシィ。
すると、突然バルカンが光り出した。
「な、何だ何だ!?」
当然ナツとルーは身構える。
そしてボウゥン・・・と音を立てて、バルカンは中年男性の姿になった。
「サルがマカオになった-!」
「マカオってサルだったんだー!」
「それは違うと思う」
「え!?」
その男性こそ、ナツ達が探していた男性『マカオ』。
「バルカンに接収されてたんだ!」
「接収!?」
「体を乗っ取る魔法だよ」
とにかくマカオが見つかった事に安堵する4人。
だがマカオの後ろにはナツの攻撃で開いた穴、でもってマカオは気を失っている。
・・・となれば。
「「あーーーーーーーーーーっ!」」
マカオは穴から落ちる訳で。
それを見たナツ、ルー、ハッピーは慌てて駆ける。
マカオの足をナツが、ナツの足をルーが、ルーの足をハッピーが掴む。
「3人は無理だよっ!羽も消えそう!」
「くっそぉおおおっ!」
ゆっくりと落ちかける4人。
「んっ!」
「ルーシィ!」
「重い・・・」
そんな状態の4人を助ける為に、ハッピーの尻尾をルーシィが掴む。
だがルーシィにそこまでの筋力があるわけではない。
中年男性に青年2人、ネコを引っ張れるほどルーシィは力持ちではなかった。
しかもホロロギウムとタウロスを召喚した事で魔力も減っている。
と、その時、そんなルーシィの腕をがっしりと黒と白の腕が掴んだ。
「MO大丈夫ですぞ」
「タウロス!」
それは復活したルーシィと契約する金牛宮のタウロスだった。
「牛ー!いい奴だったのかぁ~!」
「敵だと思ってゴメンね~!」
ナツは自分が気絶させてしまったタウロスに涙を流しながら感謝し、ルーは敵だと思った事に謝罪した。
その後タウロスの馬鹿力によって引っ張られた5人は、マカオの治療を行っていた。
「接収される前に、相当激しく戦ったみたいだね」
「酷い傷だわ」
「マカオ!しっかりしろよ!」
「バルカンは人間を接収する事で生きつなぐ魔物だったのか・・・」
「脇腹の傷が深すぎる・・・持ってきた応急セットじゃどうにもならないわ」
そんな会話をする間にも脇腹からは血が流れ、マカオは苦しそうに息をする。
すると、引っ張られてからずっと黙っていたルーが口を開いた。
「・・・ナツ、どいて」
「何言ってんだよルー!マカオを置いていこうってか!?」
「違うよっ!こーゆーのは僕の専門だからどいてって言ったの!」
その言葉に黙ってナツはそこを退く。
さっきまでナツが座っていた位置にルーは立ち、魔法陣を展開させた。
「風よ、癒しの風を運べ・・・大空治癒!」
ぽわぁ・・・と緑色の光がマカオを包む。
脇腹の傷が見る見るうちに塞がり、数秒経ったときには傷の跡さえ消えていた。
「おぉっ!」
「何、今の・・・」
「僕の魔法、大空は攻撃も出来るけどどちらかといえば治癒や補助が得意なんだ。だからこーゆーのは僕の専門だって言ったんだよ」
「聞いた事もない魔法・・・」
「そりゃそうだよ。この魔法界をいくら探したって、使えるのは僕だけだからね」
「え?」
「はぁはぁ・・・クソッ・・・情けねぇ・・・」
聞き返したルーシィだったが、丁度軽く意識を取り戻したマカオの声によって、それは遮られた。
「19匹は・・・倒し・・・たん・・・だ」
「え?」
「20匹目に・・・接収・・・され・・・」
「解ったからもう喋んなっ!」
「僕の魔法で傷は閉じたけど、無理するとまた傷が開いちゃうから!」
ナツとルーの言葉にも構わず、マカオはしゃべり続ける。
(うそ・・・!?あの猿、1匹じゃなかったの・・・!?そんな仕事を1人で・・・)
「ムカつくぜ・・・ちくしょオ・・・これ・・・じゃ・・・ロメオに・・・会わす・・・顔が・・・ね・・・クソッ」
「黙れっての!殴るぞ!」
「マカオが何体怪物倒そうが関係ない!ロメオはお父さんが帰ってくるのを待ってるんだよ!」
(凄いなぁ、やっぱり・・・敵わないなぁ・・・)
傷の痛みに耐えながら、己の不甲斐なさを嘆くマカオ。
一方ルーシィは改めて、妖精の尻尾の凄さを実感したのだった。
夕日が沈みかけているマグノリアの街。
そこにはロメオが本を手に、マカオの帰りを待っていた。
そんなロメオの脳裏に、ある日の少年たちの言葉が浮かんでいた。
「酒臭い」「腰抜け」・・・魔導士である父親をバカにされ悔しかったロメオは、マカオに頼んだのだ。
悔しいから、凄い仕事に行ってきてほしいと。
しかしそれがまさかこんな事になってしまうとは・・・ロメオは罪悪感を感じていた。
「・・・!」
ふと顔を上げる。
そこにはナツに肩を借り、包帯やら湿布やらを体に張って申し訳なさそうにしている父親・・・マカオの姿があった。
その姿を見て、ロメオは自然と笑顔になる。
でもすぐに少年たちの言葉が蘇り、涙がこみ上げてきた。
「父ちゃん、ゴメン・・・俺・・・」
「心配かけたな。スマネェ」
そう言ってぎゅっとロメオを抱きしめるマカオ。
「いいんだ・・・俺は魔導士の息子だから・・・」
「今度クソガキ共に絡まれたら言ってやれ」
そう言ってマカオはロメオの顔を正面から見つめる。
「テメェのオヤジは怪物19匹倒せんのか!?ってよ」
それを聞いたロメオは涙を流しながら満面の笑みを浮かべる。
そして帰ろうとしているナツ達に視線を向けた。
「ナツ兄ー!ハッピー!ルー兄ー!ありがとぉー!」
「おー」
「あい」
「うん!」
そして最後に・・・。
「それと・・・ルーシィ姉もありがとぉっ!」
7月4日。
晴れ→吹雪→晴れ。
妖精の尻尾はめちゃくちゃでぶっとんだギルドだけど
楽しくて、あたたかくて、優しくて・・・
あたしはまだまだ新人の魔導士だけど
このギルドが大好きになれそうです。
後書き
こんにちは、緋色の空です。
ルーやアルカ、ティアのキャラ説はララバイ編が終わったら載せます。
感想・批評、お待ちしてます。
ページ上へ戻る